GaAs(110)表面の形成機構と緩和過程の動的モンテカル

GaAs(110)表面の形成機構と緩和過程
の動的モンテカルロシミュレーション
2006年2月17日
鳥取大学応用数理工学科
逢坂研究室
B02T8009B 小田泰丈
研究背景
• 近年半導体デバイスの微細化・高集積化を
求めるに当たって、トップダウン型であった
微細化も限界に近づいており、ボトムアップ
型を用いて半導体デバイスを作成すること
が求められている。
GaAs(110)
• 結晶成長が困難とされてきたGaAs(110)面は
近年の技術革新により成長メカニズムが明ら
かになりつつある。
• 東京大学物性研の秋山英文氏らの実験グ
ループによってGaAs(110)面上に他の面では
見られない、3つの奇妙なパターンを発見され
た[1]。
[1] Surface step-edge kinetics control for an atomically smooth quantum well Mashahiro Yosita,Hidefumi Akiyama,Loren
Pfeiffer,Ken W.West
3種類の奇妙なパターン
Fish
Boat
Arrowhead
魚の形をしている。
原子1層分だけ窪ん
でいる。
船の形をしている
島。原子1層分だ
け表面に突き出し
ている。
矢の先のような
形。Fishと逆向
きで原子2層分
窪んでいる。
量子ドットの形成メカニズム
• 実験では格子不整合が重要だといわれてい
た。それに対してシミュレーションによって表
面上での原子の動き方も重要であるというこ
とが報告されている。
研究目的
• 大規模系の計算が可能である動的モンテカ
ルロ法を用いてナノ構造形成におけるバリア
エネルギーの効果を調べる。
• 本研究では窪みのナノ構造形成に着目する。
理論的アプローチ
• 表面のバリアエネルギーについては、第一原
理計算によっていくつかの場面に対して明ら
かにされている[2][3]。
[2] 高橋秀昭 鳥取大学工学部応用数理工学科卒業論文 2003
[3] 小池規如 鳥取大学工学部応用数理工学科卒業論文 2004
第一原理計算の結果
それぞれのステップ付近の安定位置から,隣接する安定位
置へ移動する際に超えるべき壁の高さは次のようになる.
Ga
As
Ga終端
As終端
Ga終端
As終端
[(-1)10]
0.450
0.974
0.760
1.043
[00(-1)]
1.183
[001]
1.123
-
平坦面での数値は次のように求まっている.
Ga
As
[(-1)10]
0.57
0.57
[00(-1)]
0.86
0.67
動的モンテカルロ法
• 動的モンテカルロ法とは、
系で起こりうるすべての
プロセスに対して確率速
度を与え、乱数を用いて
プロセスを動かし、シミュ
レーションを進めていく
手法である。
原子の移動確率速度
E = n1
ED1
n1
ED2
n2
:
:
:
:
×
ED1 + n2 × ED2
第一近接原子との結合エネルギー
第一近接原子の数
第二近接原子との結合エネルギー
第二近接原子の数
モデル化
• ナノ構造形成とバリアエネルギーの関係に着
目しているので、GaとAsの原子を一成分とし
てシミュレーションを行った。
• 一成分で近似するにあたり、各局面で一番強
く効いていると思われるパラメータを用いた。
一成分化
バリアエネルギーの効果が知りたかったので
以下のような規格化を行った。
枠で囲まれた2つの原子を1
つの原子として扱う
Aサイトを基準として
Bサイトを第一近接
Cサイトを第二近接として扱っ
ている
[001]方向のステップでの処理
• バリアエネルギーが高す
ぎるため、ステップの上段
には移動できないとして
いる。
• バリアエネルギーが高す
ぎるため、ステップから離
れることができないとして
いる。
• ステップに沿う方向には
移動できる。
[001]方向のステップでの処理
• バリアエネルギーが高す
ぎるため、ステップの上段
には移動できないとして
いる。
• バリアエネルギーが高く
なっているが、低い確率
でステップから離れること
ができるとしている。
• ステップに沿う方向には
移動できる。
計算条件
• 平坦面での移動の異方性は第一原理計算に
よって求められたGa原子の値を用いる。
• [001][001]方向のステップのステップに沿う方
向の移動の異方性は、第一原理計算によっ
て求められた値を用いる。
• 残りのステップ近傍での動きは窪みを大きく
壊さない程度に設定している。
• 初期表面として正方形の窪みを与える。
計算条件
• 第一原理計算で求まっているパラメータで
Fishができるかを確認する。
• 第一原理計算で得られていない、バリアエネ
ルギー、結合エネルギーの値をFishができる
条件になるよう変えていく。
計算モデル1
第一原理計算で得られた
移動の異方性の効果についての検証
計算条件
初期表面:20×20の窪み
温度:873K
第一近接の結合エネル
ギー:0.45eV
第二近接の結合エネル
ギー:0.17eV
結果
Fish構造が形成されることが確認できた
計算モデル2
温度の効果
計算条件
初期表面:20×20の窪み
温度:923K
第一近接の結合エネル
ギー:0.45eV
第二近接の結合エネル
ギー:0.17eV
結果
考察
• 第一原理計算で求められたパラメータでFish
を再現することができた。
• 第一原理計算で得られていないパラメータも
決定することができた。
• 温度の違いによってFish構造は崩壊していな
いことが確認できた。
計算モデル3
平坦面での異方性の効果
• 第一原理計算で得られた平坦面でのバリア
エネルギーの値を変更して、バリアエネル
ギーの効果について検証した。
平坦面での異方性(1)
873K異方性逆
923K異方性逆
平坦面での異方性(2)
873K異方性無し
923K異方性なし
考察
• 異方性を用いなかったものと、異方性を逆に
したもの、共にFishを再現することができな
かった。
• Fish形成のために平坦面の異方性は重要
な役割を果たしていることがわかった。
計算モデル4
• [001]方向のステップ近傍の動きの違いとFish
形成の関係について調べた。
赤色の部分のステップから
平坦面へ出ていくためのバ
リアエネルギーの値を変え
て計算を行った。
[001]方向のステップから離れるための
バリアエネルギーが高すぎる例
溝になる理由
バリアが強すぎるため赤線の部分が外れず、
黄色の部分のみが崩壊してしまい最終的に
溝になってしまう。
まとめ
• 第一原理計算で求められたパラメータでFish
を再現することができた。
• 第一原理計算で得られていないパラメータも
決定することができた。
• 温度の違いによってFish構造は崩壊していな
いことが確認できた。
• Fish形成のためには平坦面での異方性、ス
テップ近傍での異方性共に重要である
今後の展望
• FishだけでなくBoatやArrowheadも再現できる
ようにする
以上です
バリアが弱すぎる例
原子の動きやすさ
GaAs(110)の模式図
GaAs(110)面の模式図.
2種類の原子が交互に,平坦に,ジグザグに並ぶ.
これまでの理論研究の成果(1)
• 同研究室の卒業生である高橋隆亮によって
平坦面でのGa,As原子のバリアエネルギーに
ついて求められている[2]。
• 同研究室の卒業生である小池規如によって
[00(-1)][001]方向のステップ近傍でのGa,As
原子バリアエネルギーについても求められて
いる[3]。