スポーツ種目と筋の特徴 智 松永 トップアスリートの骨格筋を調べた研究による 逆に長距離選手は、長時間(マラソンではトッ と、競技種目によって筋線維の種類が異なること 時間以上継続します)にわたり プアスリートでも 2 が明らかとなってきました。 競技が行われ、ラストスバート以外で泣どちらか といえば瞬発的な大きな力を必要とはしません o 皆さんご存知の通り、陸上競技選手の短距離走 下図に示しました陸上競技短距離走者は、およ 者や投郷選手は、短時間で終了する競技であり、 そ7 0%もFT 線 維( 30%ST 線維)の占める割合があ かっ瞬発的な大きな力を必要とします。 り、投榔選手はおよそ 6 0%もFT線 維 ( 4 0 % S T線 球技選手はちょうど5 0%FT 線維辺りが成功しているヒ トが多いようです c 種目により、競技時間が異なりますし、力の入れ方に強 T線維・ S T線維どち 弱をつけないといけない場合は、 F らに偏っても困りますね。 一般の人もおよそ 5 0%FT 線維です亡 。 20 40 そ2 0%もFT 線維( 80%ST 線維)の占める割合しか ありません o [*短距離走者・投榔選手を調べた筋は、主働筋(競 技に直接関係して動かしている筋肉)ではないのが気に (%) %Ff線維 競技スポーツ 維)の占める割合がある一方、長距離選手はおよ 60 8 0 立なりますが…] ∞ 1 他の競技スポーツについては別図を用意しまし E 圭よ鎖 4 主短泥沼走者 。 、 た。下図をダブルクリックしてみてくださ L 役活】進手 この l : t のF T線維・ 自覧車線役者 J¥レーボール選手 ST 線維とはいったい何ナノ でしょうか? 重量讐げ還手 筋は一般的に筋細胞(筋線維)の集合体であり、 隠上積?主 800m選 手 レスリンタ鱒役者 骨格筋、心筋、平滑筋に分類することができます。 ラタピー選手 T線維と FT線 維 に 骨格筋では、この筋線維は S カヌー穏筏者 E 主上鏡筏鑓!t退手 大別することができます。 アイス本ッケ』選手 ヌピードスケート競銭者 筋 広筋筋 側腹角 外勝三 口圏・ スキー Ut 責者 オリエンテー υ ング吾妻役 競技種目開聞線維組成 嶋 0 2 0 4 0 6 0 & 0 陸上院銭極距緩走看 カヤ γク線設省 水泳特設選手 縫よ喜書ま宣 FT• • 設問選手 A箆 細 選 手 口外{航筋 長距讃選手 -f 主人 ∞ 1 8 0 60 40 %ST線 維 20 園 E腹 筋 0 一股人 0色 ) も ーs r s ・ 艦 ( ' 8 9著者:筑波大学体育研究科修士論文) 大阪市立大学保健体育科研究室 1 0 0 8 0 6 0 4 0 2 0 1 0 0 nhu (%8T線維) + (%FT線維) = 100% 牢 筋線維の特性 白筋 赤筋 F T C F a s tt w i t c h ) ST(Slowt V l i t c h ) Typell Type1 線 維 (81ow t witch f i b e r )と は 、 昔 は 遅 この 8T 筋線維などと呼ばれていましたが、現在では Type1線維あるいは 8T 線維と呼ばれています。 また FT 線維( Fasttwitch f i b e r )と は 、 昔 は 白 筋 線 維 な ど と 呼 ば れ て い ま し た が 、 現 在 で は Type E線維あるし、は FT線維と呼ばれています。 これらは、筋線維内の収縮タンパク(*1)の 1 つ であるミオシンタンパク内の頭昔日にあるミオシン 有酸素能力 無酸素性解糖 乳階蓄積(疲労性〉 0 2ミオグロビン ミ卜コンドリア グリコーゲン 脂肪貯備と利用率 大 大 大 多 少 少 軍 同じ 大 いとして定義されます c また、これらの中でもっ 収縮力 収縮速度 運動隊式 速い 動的(瞬発的) 静的(持続的) と細かく分類することができますが、それらにつ 神経支配 大型 小型 重鎖 (Heavyc h a i n )の ア イ ソ フ ォ ー ム ( *2 )の違 いての解説はまたの機会にしたいと思います。 筋細胞では現在「せんい」が、もっぱら「繊維」 大 毛細血管密度 大 有利なスポーツ 1 収縮タンパク・・・筋線維内にある筋原線維の主 要な成分で、ミオシンタンバクとアクチンタ 遅い 神経支配比 ではなくて「線維」として使われます口 キ 大 短距離走 跳躍など 長距離走 長距離泳など より詳細に表を作ってみました、上の表をダブ ルクリックしてみてくださし」 下図に示したとおり、 FT線 維 は 大 き な 力 を 短 ンバクから成り立つ O *2 7 イソフォーム…生体内の働きは同じだが、 分子構造が若干異なるタンバク質の一群 時間で出すことができますが、長くは続かず、 8T 線維は最高の力を出すまでの時間が多くかかり、 ちなみに しかもその力は FT 線維のそれよりはるかに低い *3 遅筋…主に ST( 遅筋〉線維から構成されている が、長時間その力を発揮しつづけることが可能で 筋のこと c す D これらが多くの筋の場合混在していますから、 速筋…主に FT( 速筋)線維から構成されている それらが能・神経細胞経由でコーディネー卜され 筋のこと c ることにより、スムーズな形で、筋力として発揮 *4 筋線維タイプによる特徴を以下の表にあらわし てみました。 筋線維の特性 白筋 赤筋 FT(Fastt w i t c h ) ST(Slowt w i t c h ) Typell Type1 ソ ' ' ポ 度式一ス カ速様一な 緒縮動一利 収収運一有 大 速い 動的(瞬発的) 静的(持続的) 短距離走 跳躍など 長距離走 長距離泳など 遅い 時間 Fo 宜 ,E .L .S p o r t sP h Y s i o l o g 1' 7 9 -66- されます。 実際筋肉を取り出して、横断面を特殊な技法を o s i n ATPase 用 い て 、 染 色 し て み ま し た (my H I 0 . 3 )。若き頃(およそ 1 0年前)の私 s t a i n i n g .p の右大腿部にある外側広筋から得られたものです。 もちろん「ヒト」の筋肉を取り出すには医師の免 許が必要になりますので、当時、院生当時の外科 医(教授)に研究のためにとってもらいました。 これは筋バイオプシ一法(筋生検)によりごく少 量を摘出してもらいました。 勝目茂, 1 9 8 7 黒く染まっているのが FT線維で、白く抜けて 筋バイオプシー用のニード jレ(針)です c 一番上部の針を二番目の針の中に入れます ο いるのが ST 線維です。この写真中で筋線維タイ それらを今度は一番下部のニードルの中に挿入します己 皮膚を切開して(皮膚部分だけ麻酔をします)、目標と プ別の構成比(筋線維組成)を計算してみましょう。 している筋内に挿入しますが、その際にはまだ c 上 部 1 8細胞中 FT線維が 1 0本、 ST線維が 8本見うけら 一・二番の針の先(ここが鋭利な刃物状になっている) は下部の針の窓の部分までは、挿入しません。下部の 、 5 5.6%という れますから、 FT線維が 10/18で 右部にある窓の部分に筋組織が入り込んだら、上部一・ 線維は 8/18ですから 4 4 . ことになります。一方 ST 二番の針を押し込みます=すると、窓の中に切断され 4%です c と言うことは筋の特徴上、 ST線維の占 n川V た筋組織があり、これらの針を取り出しますっ める比率が優位であれば成功する可能性が高い長 線維の占める比率が優位であれば 距離選手や FT 成功する可能性が高い短距離選手には適さないよ 川開げ うです。この結果を私は知りませんでしたが、選 んだ種目が球技(ハンドボール)でしたし、さして 成功した選手でも無かったです…。 ・ 2 m v h , . 、 u 3 ラ E事 =翠〉 t , ョ 人 20 数 1 0 1 00mm 20 筋バイオブシー用二一ドル 40 60 80 1 0 0% 遅首鼠息維の割合 勝田茂. 1 9 8 7 ヒ卜外側広筋の筋線維組成分布 Hen コ erg&J総 s s o n , 1 9 7 6modued -67ー 下記にヒトの大腿部にある外側広筋の筋線維組 ST線維)の割合を示しまし 成に占める遅筋線維 ( 負荷によっても少量ではあるが、筋線維間で移行 といわれるようになってきました。 が生じる J た。男性も女性も約 50%を平均とした、正規分布 筋線維の機能の面からトレーニング効果を見て みると、 のグラフが得られています。 下記の図はー卵性と二卵性双生児の筋線維組成 l : . i l cの「筋線維の特性」中に見られるも のには変化が見うけられます D たとえば筋に持久的トレーニングなどの持久的 の違いをみた有名な研究です。 これによると、回帰直線がほぼ iY=XJ状!こ 能力を必要とするようなトレーニングをほどこす 線維の有酸素的能力 と、そこに混在している FT のり、双生児問に違いはみられません o それで、この筋線維組成は遺伝子的に決定され、 は向上し、毛細血管密度も増加し、 ST 線維のそ れらに近づいていきます。 後天的には変化しないものとされてきました。 長い間、この筋線維は、 トレーニングなどの外 また、筋に筋力トレーニングのような爆発的な 的負荷により、 iFT 線維から ST 線維へ」、あるい 力を要求するトレーニングをほどこした場合、そ は íST線維から FT線維へ」は変化(移行)しな~ , も こに混在している ST 線維の無酸素性解糖能力や のとされてきました司 乳酸蓄積能力は向上し、 FT 線維のそれらに近づ 近年の研究で電気刺激やトレーニングなどでの いていきます。しかしこれらは可逆的なため、 ト 筋への負荷により、主に FT(速筋)線維タイプの レーニングを行わなくなったり、その量を減ずる 筋線維内で FT 線維から ST 線維へ移行するものが、 ことになれば(脱トレーニング)、元に戻ります。 スペースフライト(宇宙空間などの微重力環境下) 筋線維組成(筋線維構成比)を正確に調べるには、 やベッドレスト(病気などでベッド上の生活を余 全筋を摘出してそれらを数えるのが一番です。そ 儀なくされている状態)などにより、抗重力筋(重 れは生きている動物には不可能なことです。それ 力に耐えている筋:主に S T(遅筋)線維で構成さ で筋肉の一部を摘出してそれをその筋の代表とし 線維 れているタイプの筋)では、 ST線維から FT て考えているのが上記に示した筋バイオプシ一法 へ移行するもの出てきました。しかしそれらは から得られたものです c それも健常なヒ卜から取 大きくは筋線維の構成比を変化させるものではあ りだすことには問題が生じます、まして年少のヒ りませんでした。 トからはなおさら問題です。そこでこれらを非観 これらのことから、「筋線維構成比はほぼ先天 l 血的(血液を見ずに)・非侵襲的(皮庸を開かない 的に決定されるが、 トレーニングなどの後天的な で)、大まかにでも推定する方法があればいいも のです。ここに 1 つの方法を示しております。 一卵性と二卵性双生担問の筋線維組成 最後に主働筋の筋線維組成がその競技に適して %ST 梓維 いたからといって、競技者として成功するとは限 80 0- りません。これらの研究は、成功した選手を調べ 6 0 てみたら筋線維組成が以上のとおりであったに過 40 ぎないわけです。十分条件ではあるが、必要条件 2 0 。 ではないということになります。 2 0 40 6 0 80 %ST線維 また、これらの研究はトップアスリー卜を目指 す選手にとっては、十分知っておくことは必要で -68- 筋線維組成の推定法 50m走および 1 2分間走の速度比による筋線維組成の推定法 5 0 mを走る(例 1:8 . 0抄)。 1.全速力で' 2 . 1 2 分間で最大限走れる距離を計測する(例 2:2800m)~ 3 .それらを秒速に換算する(例 1:50m/8.0秒 =6.25m/秒)(例 2:2800m/720秒 ( 1 2分 )=3.89m/ 秒 ) ミ 4 .速度比を換算する(例:6.25/3.89=1 .6 1 ) 5 .下記の式に代入する c ( 6 9 . 8x1 .6 1・59.8=52.6%FT線維(外側広筋) 勝目茂他 1 9 8 9 I 50m走および 12分間走の速度比と筋線維組成の関係 100 。 80 。 • 。 • • 60 e提議 Rm矧 渓 ︿ 44 栴圏﹀h w高 崎 幸 司 。 Y=69_8X-59.8 r=0.876 Pく0.05 0 • 。 ム 。:陸上短距離選手 長距離選手 ム: ; ; 奪 実 手 • ・ . ム ム ム ム ム 1 _2 1 _6 1 . 4 1 -8 2 _ 0 2 . 2 50m走 速 度/12分 間 走 速 度 すが、そうでない一般競技者をその競技から追い し」も大きな問題になってくると思われます。 出すためのものではありません。あらゆるスポー ツ・競技はそれ自体楽しいものです。 これらの研究は、同ーのトレーニングを積んで も、同一の効果をもたらさないという結果を導く 筋の特性のみにより、スポーツにおけるパフォー マンス(好成績など)を発揮できる訳ではありませ ことなどに貢献しています。またそれらについて は別の機会に…。 んc もちろん心臓を中心とした心肺機能が大きく 貢献していることは周知の事実です。身長・体重 も競技によって「向き・不向き J がありますし、 その競技に向けられる精神的エネルギー(心理学 的側面)やトレーニングに割ける時間の「ある・な -69- 参考文献 Fox,E . ・図書 I S p o r t sPhysiologyJ Saunders ・勝目茂 「筋バイオプシーについて J 体育の科学 . • Roth.Me tal IMuscle b i o p s y and muscle h y p e r c o n t r a c r i o n : ab r i e fr e v i e w J ,-----. P h i l a d e l p h i a 1 9 8 i 8 3 7 1 9 8 7 3 7:邸0 . f i b e r E u r .J . Appl 8 3 : 2 3 9 2 4 5 Phvsiol . • Helberg, G I S k e l e t t m u s c l e f i b e r k o m p o s i t i o n J & Jansson, E Umea, Sweden Padagogiska 1 9 7 6 l n s t . P h y s i c a lp e r f o r m a n c e,s k e l e t a lm u s c l ee n z y m e Acta P • Komi, P .V. I . : " .~~--- l""-~ ~:,--------' . -. , . . h y s i c a l 4 6 2 : 1 2 8 a c t i v i t i e sa n df i b r et y p e si n monozygous a n d ~-_--&Karlsson.よ S c a n d . , . d i z y g o u s t w i n so fb o t hs e x e s J - 1 -松永智 - --J - - - - - 「ラット下肢筋の筋線維伝導速度と筋線維組成と 筑波大学大学院体 の関係」 育研究科修士論文 1 9 7 9 1 5 7 1 9 8 9 1 9 8 9 1 9 9 7 ・勝目茂他 150m走と 1 2分間走の成績による外側広筋」 体育学研究 3 4:1 4 1 1 4 9 ・勝田茂他 「入門運動生理学」 杏林書院 東京 -70- 2 0 0 0
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