4章 NEEDSモデルにおける予測

4章 NEEDSモデルにおける予測
4章
NEEDSモデルにおける予測
日本経済新聞デジタルメディア
NEEDS事業本部 情報開発部
NEEDS日本経済モデル担当
本章では、NEEDS日本経済モデル(以下、
「NEEDSモデル」
)を用いた予測手法につ
いて紹介する。まず4-Ⅰで、NEEDSモデルおよびモデルを用いた予測手法の概要につい
て簡単に触れた後、4-Ⅱでは予測の具体的な作業について説明する。
4-Ⅰ
「NEEDS日本経済モデルで予測する」ということ
NEEDS日本経済モデルの概要
NEEDSモデルは、向こう2~3年の景気動向の予測をねらいとした四半期ベースの計量
経済モデルだ。消費、投資などのGDP項目や生産、物価、企業収益、雇用、貿易、金融、為
替レートなどの相互依存関係を、約 250 本の方程式で表している。
日本経済新聞デジタルメディアでは、毎月、最新データを織り込んだ予測を作成・公開して
いる。この予測をベースに、公共投資やコールレートなど経済政策の変更や、円相場、原油価
格など外部環境の変化が日本経済にもたらす影響を定量的に試算することができる。
モデルの基本構造は、多くの計量経済モデルと同じく、消費、投資、政府支出、外需などを
合わせたものが総生産を決める、という需要サイド主導の「ケインズ型」だ。ただし、労働力
や企業設備といった供給サイドから推計した生産能力も「潜在GDP」としてモデルに組み入
れてあり、供給能力に需要水準が接近してくると、金利が上昇し、需要の増加に歯止めがかか
る仕組みになっている。
なお、NEEDSモデルでは、政府支出、
短期金利、円相場、原油価格、米国の株価
や長期金利などが外生変数になっており、
こうした財政金融政策や海外経済環境を
所与の条件として予測値(内生変数)を算
出する構造になっている1。また、株式や
土地などの資産価格や残高をモデルに織
り込み、資産価格の変動が実体経済やマネ
ーサプライにどのような影響を及ぼすか
が計測できるようになっている。
1
円相場については、内生変数として扱うことも可能である。
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4-1
4章 NEEDSモデルにおける予測
NEEDSモデルの方程式――推計式と定義式
日本経済新聞デジタルメディアでは、NEEDSモデルを定期的に見直している。その主な
目的は、新しく発表されたデータ、情報をモデルに反映することだ。最新の情報(実績値)を
式に取り込むことで、モデルを構成する各々の方程式がより「今」に即した説明力を持つよう
努めている。
モデル内の方程式には「推計式」と「定義式」があり、これら総計 250 本程度の式を組み合
わせた連立方程式を解くことで、およそ 400 ある変数のモデル内での整合性が保たれている。
「定義式」は「名目値=実質値×デフレーター」のように、文字通り定義関係を表す式。一
方「推計式」は、例えば「消費は可処分所得と家計資産残高、金利と前期の消費で説明できる」
といった一定の理論・考え方に基づく変数同士の相関関係を表す式だ。推計式は一般に
Y = C + αX + e
という形で表される。左辺のYは「被説明変数」
、この式で計算される変数だ。右辺のXは「説
明変数」で、この変数に値を投入することで被説明変数が求められる(説明変数は1つではな
く複数のことが多い)。モデルの性格は、各推計式の説明変数に何を選択するかによって決ま
る。Xの前のαは説明変数が動いたときに被説明変数がどれだけ動くかを表す係数(パラメー
ター)だ。パラメーターは説明変数から被説明変数への影響の大きさを表すもののため、式を
推計する際は、経済理論からみて妥当な数字になっているかどうかが重要となる。また、特に
正負が理論通りになっているかという「符号条件」はチェックする必要がある。Cもパラメー
ターの一つだが、こちらは変数を含まず「定数項」と呼ばれる。末尾のeは誤差項だ。誤差項
は、NEEDSモデルに組み込まれる際に、予測誤差を補正するための「アドファクター」と
呼ばれる調整項に置き換わる。予測では、アドファクターを方程式の単純な解と予測値との乖
離を表すものとして扱い2、この値の置き方が予測作業の一つの焦点となる。
なお、モデルの変数の中には、方程式(推計式・定義式)の左辺には現れず、右辺にのみ登
場する変数が存在する。そうした変数はモデルの外部で値が決定されるので、「外生変数
(exogenous variable)
」と呼ばれる。外生変数以外の変数は「内生変数(endogenous variable)
」
である。連立方程式というモデルの構造上、内生変数の数は方程式の数に等しくなる。
前提条件と推計式が映しだす未来図――計量経済モデルによる予測
外生変数はモデルのインプットとなる変数であり、予測作業でまず固めるべき前提条件であ
る。NEEDSモデルでは、為替レートや通関輸入原油価格、海外のGDPや名目ベースの公
共投資などが外生変数となっている。外生変数の中でも、特に為替や労働力人口、海外景気の
見込みなどは、足元の状況を常に確認しながら予測値を置いている。また、公共投資は、国や
地方の予算、および足元の状況を基に予測値を組み立てている。
2
実績期間でアドファクター=「残差(確率変数である誤差項の実現値)」とすれば、モデルで計
算した値と実績値が一致することになる。
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4章 NEEDSモデルにおける予測
一方、「内生変数」は先に決めた前提条件を連立方程式に代入して求める値だ。計量経済モ
デルを用いた予測では、原則、外生変数を固めて連立方程式(モデル)を解けば、全ての内生
変数について予測値が決まる。すなわち「全ての変数について、推計式で表現された過去の行
動パターンが完全に再現され、前提条件が想定通りだった場合」における未来が求まる。
しかし、毎月の予測作業を計量経済モデルだけで行おうとすると、どんなに予測精度が高い
モデルを使ったとしても、思うような答えに行き当たらないことが多い。そもそも「過去に実
際に起きた事(=実績値)」と「方程式から導き出される過去に起きるはずだった事(=全て
の説明変数に実績値を代入して求めた推計値)」を比較すると、そこには常に誤差が発生して
いる。方程式が前提とする理論だけでは、天候や流行、政策変更など個別一時的なイベントに
よって起きた「ぶれ」は追いきれない。また、足元で構造変化が起きていたとしても、もし、
それがまだ推計期間の関係などで式に十分取り込めていなければ、その部分もしばらくはモデ
ルでは説明しきれないものとなる。
段階的接近法も利用
過去がそうであるように、将来起きる事象も方程式だけでは説明しきれない可能性は高い。
単純に方程式の解を積み上げただけでは、より現実味のある予測にならないのは自然なことだ。
そこで、様々な情報を予測者自身が積み上げて行う予測手法である段階的接近法(Successive
Approximation 法=SA法)によるアプローチも必要になる。日本経済新聞デジタルメディア
では、方程式で使用している説明変数以外にも様々な指標、情報を集めながら予測作業を行い、
モデルによる整合性を重視しつつも、単純な方程式の解にとどまらない予測を目指している3。
たとえば実質民間消費の見通しは、内閣府が公表する消費総合指数を中心に月次ベースで作
っていくことが多い。この指標の動きの背景や先行きを考えるために、家計調査や家計消費状
況調査、乗用車販売台数や百貨店売上高などを確認するほか、新聞記事などの文字情報も参考
にする。また、家計調査における消費性向のトレンドや、景気ウオッチャー調査・消費者態度
指数といったマインドを表す指標の動きも意識するようにしている。
なお、NEEDS予測では、日本経済研究センターが集計している「ESPフォーキャスト」
をはじめとする他の予測機関の見通しも重要な参考情報としている。計量経済モデルの利用目
的の1つはシミュレーションを行うことであり、NEEDS予測はシミュレーションを行う際
の「標準予測(ベースライン)
」という性格を持つ。
「標準予測」はその時々の「平均的な見方」
であるべきで、あまり極端な予測値にはならないよう注意している。補正予算などの政策要因
は、基本的に閣議決定などを待って予測に乗せる。これにより他機関の予測と違いが生じるこ
ともあるが、確定していないイベントによる影響については、ユーザーの想定値を乗せられる
ことこそシミュレーションに適した予測だと考えている。
3
なお、2章で説明した元来の段階的接近法では、消費、投資など需要項目ごとに担当者が分かれ
て予測値を設定するが、NEEDS予測では基本的に、全ての需要項目についての予測を当月の予
測担当者が1人で実施している。
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アドファクター――計量経済モデルと段階的接近法の緩衝役
計量経済モデルによる予測と段階的接近法による予測にはそれぞれ一長一短がある。方程式
だけに頼っていては想定外のイベントなどに対応しきれない。しかし連立方程式で表される因
果関係を無視して予測者の判断だけに頼ろうとすると、全体像をきちんと描けない危険がある。
個別の変数をどんなに精査しても、変数間の整合性が取れていなければ最終的な予測の精度は
上がらない。そこで、NEEDS予測では、この2つのアプローチを使い分けて予測を作って
いる。それによって、アドファクターの設定方法も変わってくる。
GDPの構成項目などの主要な経済変数については、足元の見方を固めるため、まず段階的
接近法による予測を行う。その場合、内生変数のアドファクターには、計量経済モデルによる
見方と段階的接近法による見方のギャップを埋める役割が課せられる。具体的には、段階的接
近法によって予測値をある程度固め、方程式の解との差をアドファクターとする。
なお、モデルは連立方程式なので、Xという変数を変更すればYという変数が動き、さらに
Yを経由して別の変数にも波及していく……というように、いわばドミノ倒し式に変更の影響
が広がっていく構造になっている。そのため、ある変数の予測値を変更して、方程式の解との
差をアドファクターに設定した後に、単純にモデルを解くと、その変数の説明変数の値が動い
てしまうことがある。すると、方程式の解そのものが変化し、予測値が当初の想定からずれて
しまう。そのため、予測値を動かしたくない変数については、一時的に外生変数として扱う「外
生化」という処理を施し、モデルを解いても値が変わらないようにする。ドミノ倒しで言うな
らば、ストッパーを置く操作だ。モデルを解くと「外生化」された変数は、その変数の値では
なくアドファクターの値が変化することになる。
GDPの構成項目などの主要な経済変数の作業では、この「外生化」の処理をかけ、アドフ
ァクターの動きを見て予測の整合性を確認し、必要に応じ修正している。それ以外の変数も適
宜、外生化し、そのアドファクターの動きを見て、予測値同士の整合性に問題がないかをチェ
ックする。連立方程式で全体に整合性がとれた状態の予測で、ある変数のアドファクターだけ
が毎月極端に違う値に変わったり、不自然な動きをしたりすることは少ないからだ4。
一方、たとえば税収のように、モデル外で参考とする情報が少ない変数については、基本的
にモデルによる予測値をそのまま使う。その場合のアドファクターは、前年同期と同じ値にす
るなど、機械的に決めている。その上で、税制改正大綱で増減税が決まった、といった官公庁
などが公表する資料で加味すべき金額や期間が特定できるイベントについては、各種情報に基
づきアドファクターを操作する5。
4
2章で説明した元来の段階的接近法では、各需要担当者が予測値を引き継ぐ過程や最後のチェッ
ク過程で予測の整合性を確認しているが、ここではアドファクターによる確認がその役割を果たし
ていることになる。
5
「家計に対する所得・富税」については、アドファクターとは別に専用の調整項を設けている。
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4章 NEEDSモデルにおける予測
4-Ⅱ
予測作業の流れ
3つのステップ――足元から2年ほど先までを考える
それでは、NEEDS予測は実際にどのような流れで作られているのか。Ⅱ節ではその概要
を紹介する。毎月の予測作業は、大まかにまとめると次の3ステップとなる。
① 予測の土台となる過去(「実績期間」)のデータを揃える
② 足元の月次公表データや経済情勢を基に1~2四半期先までの予測を考える
③ 日本経済がこの先2年ほどの間にどのような道をたどるか、という「シナリオ」を考え、
その「シナリオ」と方程式を絡めながら予測値を置いていく
以下、このステップを、順を追って説明していく。
「実績期間」のデータを整備――実績値ファイル、初期値ファイルの作成
まずは予測の土台となる過去(「実績期間」)のデータを整備するため、「実績値(ACT)
ファイル」を作る。これは、文字通り、モデルで使用している経済指標の実績値を集めたファ
イルだ。指標の公表元は多岐にわたるため、データの取得には主にNEEDSのデータ検索サ
ービス「NEEDS-FinancialQUEST(FQ)」を使用、ダウンロードしたデ
ータは米IHS社の計量経済分析ソフト「EViews」に取り込んで加工する。
NEEDSモデルは四半期ベースのモデルなので、データが暦年ないし年度ベースでのみ公
表されている変数は適宜、四半期分割する。基準年改定などによりデータの期間が短くなった
変数については、接続係数などを用い、旧基準のデータと接続して遡及することも多い。FQ
では取得ができない変数については別途手入力などをしている。また、NEEDSモデル独自
の定義に基づく変数もこの加工過程で作成する。
注意すべきは、NEEDS予測において「実績期間」を「四半期別GDP速報(QE)が公
表されている最新の期まで」としている点だ。モデルで使用している指標は、必ずしもこの「実
績期間」末まで公表されているとは限らない。1次QEが出てから公表される法人企業統計の
ように、やや「足が遅い」指標もあれば、国民経済計算(SNA)関連の統計でもフロー編の
付表やストック編など年
<ACT、INITで、予測の土台となる「実績期間」を整備>
に1回、確報でしか公表
実績期間
予測期間
・・・
2011年 2012年
10~12月 1~3
されない変数もある。
ような変数は、データが
GDP05
GDP
PGDP05
EXCC10
IIP10P001
CPI10F0001
EXWLD05
ZBAS
SSCH
YDH
KHP05
11 年末もしくは 12 年1
・
・
・
2013 年 11 月には「実績
期間」が 13 年7~9月期
までなのに対し、後者の
~3月期までしかない。
4~6
7~9
2013年
10~12
1~3
公表値
4~6
7~9
2014年
10~12
1~3
4~6
予測値
7~9
10~12
・・・
未公表値
・
・
・
・
・
・
=ACTで整備されるデータ
=INITで補間すべきデータ
(注)2013年11月の予測作業におけるイメージ
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4章 NEEDSモデルにおける予測
そこでこの「実績期間」の未公表値は、何らか推計値で補間しなくてはならない。NEED
Sでは、INITモデルという「実績期間」の欠損値を埋めることに特化した計量経済モデル
を別途用意し、これを使って「実績期間」のデータを揃えている(この「実績期間」が全て埋
まった状態のファイルを「初期値(INIT)ファイル」と呼んでいる)。INITファイル
の完成で、いよいよ予測作業が始まる。
予測は足元から――月次データなどを参考に、1~2四半期先までを固める
予測作業は、予測開始期から1~2四半期先までの予測値を検討することから始める。開始
期近辺の予測は、その先の予測を作る上での「発射台」ともなるので、しっかりと固めておく
事が重要だ。
QEの作成方法は内閣府のサイトに公開されており、特に直近四半期については、月次で公
表される基礎統計だけを積み上げても、ある程度の精度の予測を作ることができる。また、政
治や国際情勢といったイベントも織り込みやすい。そこで、直近期の予測については、毎月更
新される情報を逐次確認しながら、各変数の予測をチューンアップしていく。これは、GDP
関連項目以外についても同様だ。
月次データを集計して四半期データを作成している変数については、既に発表されている月
次の値と予測値の整合性に注意する必要がある。例えば、ある四半期の有効求人倍率の見通し
を、1カ月目のデータが出た時点で(一定の改善を見込み)0.94 倍としていたとする。ところ
が新たに公表された2カ月目のデータは 0.92 倍で足踏みしていた。従来の見通しを維持する
としたら、それは最終月の倍率が 0.98 倍に跳ね上がると見ていることになる。もし、2カ月
目の有効求人倍率の足踏みが景気回復を背景とする求職者数の急増によるもので、当該月には
有効求人数だけでなく新規求人数(先行指標)もかなり増えている上、失業率は下がっていた
としたら、
(それでも少々無理はあるものの)予測を維持することも一案だ。この「0.98 倍」
という数字が妥当だと説明できるか、その場合、翌四半期の置き方はどうすべきか、といった
点にも気を配る必要がある。
向こう2年ほどの見通し――将来のストーリー(=「シナリオ」
)を中心に
予測開始期直後の予測が固まったら、いよいよその先の予測となる。ただ、1~2年先とも
なると、予測に影響するイベントを網羅することは難しい。税制改正や補正予算のようなイベ
ントであれば数字的な裏付けもある程度とれるが、シナリオ転換の契機となる可能性がある国
政選挙や日銀の金融政策決定会合のようなイベントは、時期は特定できても結果は読みづらい。
しかも、計量経済モデルにそれらのイベントを織り込むためには、各イベントの影響を定量的
に把握しなくてはならない。そこで、予測期が先になるほど、予測の数字は「経済・社会が今
後どのように変化していくと見るか」という「シナリオ」に負う部分が大きくなっていく。
最初に考えるのは外生変数の先行きだ。外生変数は、海外経済はどの程度の成長率となるか、
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4章 NEEDSモデルにおける予測
国内経済を考える際に欠かせない労働力人口はどう推移するのか、といった日本の将来像の背
骨となる前提条件である。先述のように「標準予測」を目指していることもあり、これらは、
国内外の公的機関の見通しや各種報道などを参考に考えることが多い。この作業で、徐々に「シ
ナリオ」の骨格が決まっていく。外生変数を全て固めたら、内生変数の確認に入る。
内生変数についても、物価など、相対的に前提条件としての意味合いが濃い変数から見通し
を固めていく。そして、それらの想定を積み上げながら、残りの変数を調整していく。構造変
化やシナリオ変更などの見込みがとりたててなければ、まずは前回予測の値や伸び率をそのま
ま使い、アドファクターを逆算する。この場合、アドファクターの動きから予測値が適切か考
え、必要に応じて修正をかけていくことになる。また、アドファクターを機械的に設定する変
数については、モデルの動きを素直に反映する形で予測値を設定していく。
方程式では説明のつかないイベントの影響を予測に反映する際には、そのイベントがなかっ
た場合の見通しをある程度固めてから、影響分を加味する。例えば、NEEDS予測では 2014
年4月の消費税率引き上げ(5%→8%)の影響を 2012 年7月の予測から織り込んでいる。
この際も、税率引き上げという特殊要因がなければ 13~14 年度の成長はどうなるかという見
通しをまずは固め、そこに税率引き上げの影響を以下のような2段階で加えた。
NEEDSモデルは外生変数として「消費税率(RVAT)」を持っており、これを動かすこと
で、税率引き上げに起因する物価上昇の程度や、その物価上昇にともなう実質所得の目減りで
個人消費がどの程度押し下げられるか、といった点はフォローできる。作業では、こういった
影響分はモデルに沿って織り込んだ。しかし、
<推計式外のイベントの考え方>
税率引き上げ前後に消費などに見込まれる
駆け込み増と反動減は、推計式では説明のつ
320
―消費税率引き上げ時の消費を例に―
(兆円)
消費税率
引き上げ
実質民間最終消費(季調値)
かない動きだ。このような推計式外の動きは、315
過去の類似のイベントを参考に可能な限り
定量化を試みた。この時は、消費税が導入さ 310
れた 1989 年や税率引き上げ(3%→5%)
①引き上げがない場合
②物価上昇による下押し
③駆け込み増と反動減
305
があった 97 年の動きから、税率引き上げ前
後に駆け込みと反動が生じたとみられる変 300
数を特定。それらの変数の動きが税率引き上
げ前後のトレンドからどの程度乖離したか
1
2
3
12
4
1
2
3
13
4
1
2
3
4
1
14
15
(四半期)
(注)式の構造上、物価上昇の影響は徐々に表われる
を計測し、想定される影響を定量化した。
このように毎月の予測は、足元の情報を整理した上で、シナリオに基づいて各変数の動きを
決め、さらにイベントを定量化して反映していく、という作業の繰り返しで作られている。足
元の状況をできるだけ反映し、かつモデルによって全体の整合性を保った予測を、他の調査機
関の標準的な予測も踏まえつつ提供することがNEEDSモデルのサービスの特長だと考え
ている。
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