Science 2014 年 2 月 28 日号ハイライト

Embargoed Advance Information from Science
The Weekly Journal of the American Association for the Advancement of Science
http://www.aaas.org/
問合せ先:Natasha Pinol
+1-202-326-6440
[email protected]
Science 2014 年 2 月 28 日号ハイライト
まれな腫瘍に共通するキメラ
ブラックホールは予想以上に強い風を吹き出している
脆弱 X 症候群の解決に向けての一歩
標準化プロセスの新しい標準
まれな腫瘍に共通するキメラ
A Common Chimera in a Rare Tumor
青年と若齢者が罹患するまれな肝臓癌の分子的病態形成の理解に一歩近づいたかもしれない
ことが、新しく報告された。fibrolamellar 型肝細胞癌(FL-HCC)は悪性度の高い肝臓癌であ
り、外科手術以外に有効な治療法はない。その分子的特徴はほとんど理解されていない。そ
の理由の一部は、この腫瘍が非常にまれであり、十分な数の遺伝的解析用の腫瘍検体を収集
することが困難なことである。Joshua Honeyman らは、FL-HCC 患者 10 例の腫瘍 DNA と隣
接した正常な肝組織の DNA を検討し、キメラ RNA 転写物とタンパク質を産生する異常融
合遺伝子を探索した。このような融合遺伝子は他のタイプの癌にも認められており、2 つの
通常は別々の遺伝子に由来する配列を含み、制御できない活性を持つタンパク質産物を作り
出すことが多い。Honeyman らは、10 個の腫瘍検体すべてに、正常組織にはない 1 つの一貫
した異常、すなわち、DNAJBI 遺伝子の「頭部」と PRKACA と呼ばれる遺伝子の「体部」を
もつ新しい遺伝子を作り出す DNA 欠失を発見した。後者の遺伝子は、強力なシグナル伝達
分子であるプロテインキナーゼ A の触媒ドメインをコードするため、特に興味が持たれた。
Honeyman らは、キメラ DNAJBI-PRKACA 遺伝子がキメラ RNA に転写され、腫瘍で高レベル
で発現されているキメラタンパク質に翻訳されることを明らかにした。その後、追加の 5 つ
の FL-HCC 腫瘍検体の解析でも、同じキメラが存在することが明らかになった。すべての腫
瘍検体に同じ融合遺伝子/転写産物が存在することは、この遺伝子/転写産物が腫瘍増殖の誘
導に何らかの役割を果たしていることを強力に示唆している。しかし、本当にそうなのか、
そしてどのような方法で行っているのかを明らかにするには、さらに多くの研究を行う必要
がある。Honeyman らは現在、この遺伝的変化により活性化される細胞シグナル伝達経路
(将来 FL-HCC の新しい治療法につながる情報)を詳細に検討している。現在、この癌に関
する分子診断検査はない。しかし、今後の研究で FL-HCC 病態形成における DNAJB1PRKACA キメラの役割に関するエビデンスが強化されれば、このキメラが治療標的となるか
もしれない。(注:本論文の著者のうち 2 人は患者である)
Article #9: "Detection of a Recurrent DNAJB1-PRKACA Chimeric Transcript in Fibrolamellar
Hepatocellular Carcinoma," by J.N. Honeyman; E.P. Simon; R. Chiaroni-Clarke; D.G. Darcy; I.I.P.
Lim; C.E. Gleason; J.M. Murphy; B.R. Rosenberg; L. Teegan; C.N. Takacs; S. Botero; R. Belote; S.M.
Simon at Rockefeller University in New York, NY; J.N. Honeyman; D.G. Darcy; I.I.P. Lim; J.M.
Murphy; U. Bhanot; M.P. LaQuaglia at Memorial Sloan-Kettering Cancer Center in New York, NY;
E.P. Simon at The Dalton School in New York, NY; N. Robine; S. Germer; A.-K. Emde; V. Vacic at
New York Genome Center in New York, NY.
ブラックホールは予想以上に強い風を吹き出している
Black Holes Give off Stronger Winds Than We Thought
ブラックホールはこれまで考えられていた以上に多くのエネルギーをそのホスト銀河に放出
していることが、新たな研究で示唆された。本発見は、ブラックホールの経時的な進化をよ
り適切にモデル化するのに役立つとともに、この謎の領域がホスト銀河に及ぼす影響をより
深く理解するのにも役立つだろう。宇宙空間のガスはブラックホールに流入(つまり降着)
し、その結果ブラックホールは大きくなる。内部のガスは非常に高温になり、放射を放つ。
しかし、いわゆるエディントン限界によれば、流出する放射は(ブラックホールの質量に基
づく)一定の限界を超えることができない、さもなければ流入するガスは吹き飛ばされてし
まうだろう。ブラックホールの運動エネルギー(ジェットや風の形態をとる)が同様の限界
に制約されるかどうかは、これまで不明だった。この問題を解明するために、Roberto Soria
らは、ホスト銀河である M83 の中心から遠く離れた所にあるブラックホールについて、流
出を 1 年以上研究した。ブラックホールに降着するガスの分析により、このブラックホール
の重さは太陽の 100 倍弱だと推測された。彼らはこのブラックホールの質量を外向きの運動
の力 ―― (運動エネルギー放出の代わりに)赤外線放射の観察結果から見積もった量 ――
と比較した。すると、流出する運動の力はこの質量のブラックホールのエディントン限界よ
りも大きいことが判明した。本発見は、ブラックホールが非常に強力な運動の力(つまり力
学的な力)を長期間出して、エディントン限界に基づく予測よりも多くのエネルギーを周囲
に注げることを示唆している。
Article #14: "Super-Eddington Mechanical Power of an Accreting Black Hole in M83," by R. Soria at
ICRAR in Perth, WA, Australia; R. Soria at Curtin University in Perth, WA, Australia; K.S. Long;
W.P. Blair at Space Telescope Science Institute in Baltimore, MD; W.P. Blair; K.D. Kuntz at Johns
Hopkins University in Baltimore, MD; L. Godfrey at ASTRON in Dwingeloo, The Netherlands; K.D.
Kuntz at NASA Goddard Space Flight Center in Greenbelt, MD; E. Lenc at The University of Sydney
in Sydney, NSW, Australia; E. Lenc at ARC Centre of Excellence for All-sky Astrophysics
(CAASTRO) in Sydney, NSW, Australia; C. Stockdale at Marquette University in Milwaukee, WI;
P.F. Winkler at Middlebury College in Middlebury, VT.
脆弱 X 症候群の解決に向けての一歩
Study Steps Closer to Cracking Fragile X Syndrome
自閉症や精神発達遅滞の遺伝的原因として多くみられる脆弱 X 症候群の研究者らは、この
障害の発症においてメッセンジャーRNA(mRNA)が重要な役割を果たすことを発見した。
これまでの研究により、CGG トリヌクレオチドリピートと呼ばれる 3 組のヌクレオチドの
異常な伸張が遺伝子 fragile X mental retardation-1(FMR1)をサイレンシングすることができ、
その結果脆弱 X 症候群が発症する。しかしこれまで、CGG トリヌクレオチドリピートのこ
の伸張が、重要な遺伝子である FMR1 をサイレンシングするメカニズムは不明であった。
Dilek Colak らは、発達プロセスを追跡するためにヒト胚幹細胞を用いて、過剰なヌクレオチ
ドリピートが出現すると mRNA に転写され、この mRNA が、FMR1 遺伝子の対応する CGG
リピート部位と融合することを明らかにした。この RNA/DNA 複合体が FMR1 に対する遺伝
的阻害因子となり、その活性を混乱させるというのである。しかし、mRNA と FMR1 遺伝子
の CGG リピート部位との相互作用を阻害したところ、FMR1 遺伝子はサイレンシングされ
なかった。これらの結果を合わせると、CGG トリヌクレオチドリピートの伸張鎖が RNA に
影響を及ぼしてその近傍にある FMR1 遺伝子をサイレンシングし、脆弱 X 症候群を引き起
こすことが示唆される。
Article #8: "Promoter-Bound Trinucleotide Repeat mRNA Drives Epigenetic Silencing in Fragile X
Syndrome," by D. Colak; N. Zaninovic; M.S. Cohen; Z. Rosenwaks; S.R. Jaffrey at Weill Medical
College, Cornell University in New York, NY; W.-Y. Yang; M.D. Disney at The Scripps Research
Institute in Jupiter, FL; J. Gerhardt at Albert Einstein College of Medicine in Bronx, NY; M.S. Cohen
at Oregon Health Sciences University in Portland, OR.
標準化プロセスの新しい標準
A New Standard for the Standard-Setting Process
今回の Policy Forum では購入する技術が他の技術と調和して機能することを保証するプロセ
スの重要性を強調していると、その著者らが報告している。幸い彼らにはそのプロセスを一
新できると思われるアイディアがある。私たちが使用している電話は共通の電話網を通して
相互通信が可能になっているが、これはその開発初期に標準化団体(SSO)がこの新しい技
術の遵守すべきルールを規定したからである。実際、装置や道具、システムが新しく開発さ
れるたびに、SSO はそれらが既存の技術と併せて確実に機能するための基礎を築くという役
割を果たしてきた。しかしこの標準化プロセスで構築された標準に起因する問題が増加して
おり、なかには Apple、Google、Microsoft、Samsung のような企業を巻き込み、注目を集め
た法廷闘争につながった問題もある。今回の Policy Forum で Josh Lerner と Jean Tirole は標準
化プロセスの苦闘の理由を考察している。すなわち、特許権者の合意を得てその特許に対す
るライセンスに公平、合理的かつ非差別的(FRAND)な条件に基づいて値段を決める必要
があるが、Lerner と Tirole によると、FRAND 条件は曖昧なことが多いため、結果として今
まで、「公平かつ合理的」の意味を問う法廷闘争が多数起きたという。Lerner と Tirole は、
SSO が採用すべき標準化プロセス修正案を提案している。それは標準化の前に特許権者にプ
ライスキャップを誓約させるというものである。このような誓約は以前にも試されたことが
あったが、今回は政府がインセンティブを提供し、それらを遵守させることを提案している。
Lerner と Tirole が説明するように、彼らが提案する新しいシステムは技術革新(特許権者の
利権)と製品の普及(消費者の要望)の双方にとってインセンティブとなる。このシステム
は理論モデルでは機能するが、正しく検証するには実践でどう機能するかを見なければなら
ないと Lerner と Tirole は述べている。ただ、最悪のシナリオ(価格設定が高すぎる)でも現
在のようなプライスキャップのない方法ほど悪くはなさそうだという。
Article #1: "A Better Route to Tech Standards," by J. Lerner at Harvard Business School in Boston,
MA; J. Tirole at Toulouse School of Economics in Toulouse, France; J. Tirole at Institute for Advance
Study in Toulouse in Toulouse, France.