2P127 密度汎関数法によるエクストラジオールジオキシゲナーゼの Fe(II) 活性 中心への酸素付加過程についての研究 (名工大院・工 、スタンフォード大・化 、岐阜大・地域科学 ) ○ 和佐田(筒井)祐子 1、Kyle David Sutherlin2、和佐田 裕昭 3、Edward I. Solomon2 1 2 3 Density Functional Study of O2-Binding to the Fe(II) Active Site of Extradiol-Cleaving Dioxygenase (Nagoya Inst. Tech.1, Stanford Univ.2, Gifu Univ.3) ○Yuko Wasada-Tsutsui1, Kyle David Sutherlin2, Hiroaki Wasada3, Edward I. Solomon2 【はじめに】エクストラジオールジオキシゲナーゼは土壌中での芳香族化合物の生分解過程で、ジヒ ドロキシベンゼンを二つの水酸基の外側に位置する C—C 結合で開環して直鎖カルボン酸を生成する 酵素である。活性中心にある Fe(II) は活性が高く、酸素の付加に続く酸素の活性化過程をスペクトル により確認することが難しい。従来、鉄は二価のまま全反応が進むとされていたが 、メスバウアー 1) スペクトルと DFT 計算 から活性中心で O2 が OH •– end-on 付 加 し、 基 質 カ テコールがカテコレー His214 His155 H2 O Fe(II) Glu267 ていると報告されてい R=CH2COO/NO2 His214 R H2O H2O His155 His200 トジアニオンとして Fe(III) イ オ ン に 配 位 し OH His214 radical recombination His155 スキーム 1 H+ O O Fe(II) O Glu267 H O R O Fe(II) Glu267 R O2 electron transfer His214 His155 O His214 HO O Fe(II) Glu267 O His155 O O R O Fe(II) O Glu267 H O R His200 –H+ His214 O Fe(II) His155 カテコール誘導体の酸化開環過程の推定反応機構 Glu267 O O O R 1) る 。一方、不活性基質を用いた結晶構造では、O2 が side-on 付加し、基質がセミキノンラジカルと 2) •– して Fe(II) イオンに配位した構造が報告されている 。このため、結晶構造の side-on 錯体が反応の中 3) 間体であるか否かが問題になっている。 本研究では、エクストラジオールジオキシゲナーゼの Fe(II) 活性中心への O2 付加過程における O2 付加エネルギーの意味を O2 の配位構造との関連から密度汎関数法を用いて解析する。さらに、アミ ノ酸残基の役割および side-on 構造の安定化要因を解析する。ここでは O2 付加過程の概略を述べる。 【方法】鉄イオンおよびカテコール基質として 4-nitrocatechol (4NC)、第一配位圏および第一配位圏と 水素結合したアミノ酸残基からなる酵素活性中心についてのクラスターモデルを用いる。電子状態計 算は BP86 汎関数に 10% の Hartree-Fock 交換積分を混合したハイブリッド関数を用いた。基底関数に は鉄および O2 に 6-311G(d)、基質およびアミノ酸残基に 6-31G(d) を用いた。タンパク質環境は誘電率 4.0 の PCM で近似した。電子状態計算には Gaussian09 rev. C.01 および D.01 を用いた。 また各種実験から酸素は基質付加後に結合し、水和状態には付加しないことが知られている。酸素 付加過程を (1) 水の解離および (2) 酸素付加の二段階に分けて酸素の結合の強さおよび反応全体の進み やすさについて考察した。さらに、基質から酸素への、プロトン化した His200 の水素結合移動におけ る電子状態変化についても考察した。 4NC 存在時 {FeII(H2O)3}+ + 4NC → {FeII(4NC)}+ + 3H2O(1-4NC) {FeII(4NC)}+ + O2 → {FeII(O2)(4NC)}+(2-4NC) 三水和休止状態 {FeII(H2O)3}+ → {FeII(H2O)2}+ + H2O(1-resting) {FeII(H2O)2}+ + O2 → {FeII(O2)(H2O)2}+(2-resting) II + II 【結果および考察】図 1 に 4NC 結合時の酸素未付加錯体 {Fe (4NC)} 、side-on 型酸素付加錯体 {Fe (O2) (4NC)}+ の S=2 構造を示した。基質の His200 が結 Asn157 Asn157 合した水酸基が、酸素付加に伴い Glu267 のシス位 に移動し、プロトン化した His200 は O2 に移動する。 His200 His214 1.429 His200 II + 基質のない二水和物 {Fe (H2O)2} では、4NC と異 なり His200 が水分子に水素結合したままでプロト His214 1.955 Tyr257 2.084 His155 ン化しないため、O2 の負電荷を水素結合により中 •– His155 Glu267 和できない。この結果表 2 に示すように、基質結 His248 Tyr257 Glu267 His248 酸素付加(side-on型) 酸素なし 合型の S = 3 の end-on 錯体は、休止状態の S = 3 の 図 14NC 錯体の酸素付加前後の最適化構造 (S=2) side-on 錯体よりも酸素との結合が安定となる。酸素付加段階は吸エルゴン反応であるが、表 1 に示す ように水解離段階のエントロピーの効果を加えると、基質結合型に対する酸素付加反応が水和休止状 態よりも起こりやすくなる。 表 1 水解離段階のエネルギー、エンタルピーおよび自由エネルギー 反応 {Fe(H2O)3}+ + 4NC → {Fe(4NC)}+ + 3H2O {Fe(H2O)3}+ → {Fe(H2O)2}+ + H2O a) ΔE (kcal/mol) +5.1 +8.0 表 2O2 付加段階のエネルギー、エンタルピーおよび自由エネルギー 反応 {Fe(4NC)}+ + O2 → {Fe(O2)(4NC)}+ {Fe(H2O)2}+ + H2O → {Fe(O2)(H2O)2}+ O2 結合 side-on end-on end-on side-on S b) 2 3 2 3 ΔH (kcal/mol) +0.9 +5.0 ΔG (kcal/mol) –17.7 –3.1 ΔH (kcal/mol) +1.4 –6.8 +0.2 –3.8 ΔG (kcal/mol) +11.4 +11.1 +8.3 +1.9 a) ΔE (kcal/mol) +0.8 –7.5 –2.1 –6.5 a) 298.15 K, 1 atm. b) 生成物の S 値。 side-on 錯体について、基質から O2 への His200 を伴うプロトン移動のエネルギーおよび電子配置の 変化を図 2 に示す。プロトン化した His200 の移動に伴い、基質 4NC の π 軌道から FeO2 面に垂直な π* 軌道へと α 電子が移動して 4NC がカテコレートジアニオンからセミキノンラジカルアニオンに、 O2 が超酸化物イオンから過酸化物イオンに変化する。一方 end-on 型ではこの電子移動が起こらない。 (eV) 基質の π 軌道 O2 の π* 軌道 0/95/ 2 –4.0 –5.0 –6.0 –7.0 1/ 7/89 1/ 1/94 6/79/ 2 7/ 5/83 8/28/29 15/65/ 9 10/73/ 6 2/ 4/84 2/80/ 3 0/82/ 2 (π:4NC)1(O2:π//)2(O2:πv)2 (π:4NC)2(O2:π//)2(O2:πv)1 ΔH = +2.7 kcal/mol + O2‒His200H+ 基質‒His200H 図 2 基質から O2 への His200 を伴うプロトン移動のエンタルピー変化と電子配置 (S=2) 軌道に占める百分率:3d/O2/4NC 【参考文献】 1) 2) 3) M. M. Mbughuni, et.al. Biochemistry 50, 10262-10274, 2011. G. J. Christian, S. Ye, F. Neese Chem. Sci. 3, 1600-1611, 2012. E. G. Kovaleva, J. D. Lipscomb Science 316, 453-457, 2007.
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