マントルかんらん岩と珪長質メルトの反応による 斜方輝石の多様な形成プロセス:北海道曲り沢かんらん岩体の例 山下 康平(北大・理), 前田 仁一郎(北大・理) 大陸地殻の平均化学組成は高 Mg# [ = Mg/(Mg + Fe) in atmic %] 安山岩質であり,現在の一般的な沈 み込み帯で出現する安山岩質火成活動では説明が出来ないとされている(例えば,Kelemen, 1995).高 Mg#安山岩質メルトを導くプロセスの一つとして,マントルかんらん岩と珪長質メルト間の反応があ る.もちろんこのプロセスでは,メルトだけでなくマントルかんらん岩も組成の改変を被ることにな る.したがって,マントルかんらん岩−メルト間の反応を記載・理解することは,メルトの組成改変プ ロセスを理解する上で重要である. マントルかんらん岩と珪長質メルトの反応についての研究は,実験的手法(例えば,Sen and Dunn, 1994), 天然のかんらん岩や珪長質岩を用いた岩石学的・地球化学的手法(例えば Kelemen et al., 1998) を中心に少なからず存在する.しかし,かんらん岩と珪長質メルト間の反応を直接的に観察できる天 然の試料は世界的に非常に少なく, 詳細な記載例は極めてわずかである(Kepezhinskas et al., 1996; Arai et al., 2003; Shimizu et al., 2004; Payot et al., 2011) . 北海道の日高山脈に露出する曲り沢かんらん岩体は主に斜長石レルゾライトからなり,稀に珪長質 脈を含むかんらん岩が存在する.脈の厚さは数 mm 以下から最大 50−60 cm と非常に多様で,様々な珪 長質メルト/かんらん岩比での反応が観察可能である.本発表では,主に曲り沢かんらん岩体中の珪長 質脈とかんらん岩の岩石記載,鉱物化学組成の検討結果に基づき,かんらん岩−珪長質メルト間での反 応プロセスを議論する. 珪長質脈近傍のかんらん岩(以下 host peridotite と呼ぶ)は,粗粒部 (かんらん石 + 斜方輝石 + 単斜 輝石 ± スピネル ± パーガサイト)と,細粒部(かんらん石 + 斜方輝石 + 単斜輝石 + 斜長石 + スピ ネル ± パーガサイト ± Ni-Fe sulfide?)から構成される.珪長質脈の構成鉱物は,斜長石 + 斜方輝石 ± フロゴパイト ± Ni-Fe sulfide? ±カリ長石 ± ジルコン ± アパタイトからなる.Host peridotite と 珪長質脈の間には,主にモザイク状の二次的斜方輝石結晶の集合体からなる厚さ約 1−1.5 mm 程度の反 応帯(”Opx-wall”)が必ず存在する. Opx-wall と珪長質脈の境界には,高い CaO 含有量を持つ斜長石の 中に斜方輝石が虫食い状に分布する組織と,少量ではあるもののフロゴパイトが一般的に見られる. 斜方輝石は,粒内あるいは粒間に細粒なスピネルを大量に包有している場合がある.珪長質脈近傍の host peridotite かんらん石の組成は非常に低い非常に低い Mg# (最小 86), 高い NiO 含有量(最大 0.45 wt%) を示し,メルトとの反応を経験したことを示している. Host peridotite 中の primary な斜方輝石は,比較的高い Mg# (89-86),Cr2O3 (最大 0.86 wt%), Al2O3 (1.89 3.70 wt%)を持つのに対し,メルトから晶出した脈中の自形性の強い斜方輝石は,低い Mg# (< 79), Cr2O3 (< 0.1 wt%), 幅広い Al2O3 (0.8 - 3.3 wt%) によって特徴付けられる.それに対し,Opx-wall 中の斜方輝石 は多様な化学組成(特に Mg#, Cr2O3, Al2O3 含有量), および形態,粒径をもつ. 珪長質脈とかんらん岩中の primary な鉱物が反応・分解し,二次的な斜方輝石を形成する組織を確認 した.珪長質脈と primary な斜方輝石が反応することにより,細粒で低い Cr2O3 含有量(ほぼ < 0.1 wt%) の斜方輝石と微細なスピネルが形成される.また,珪長質脈と primary な単斜輝石が反応することによ り,細粒で高い含有量 Cr2O3(0.2-0.4 wt%)の斜方輝石, クロムに富むスピネル, Ti に富む不透明鉱物が 形成される. かんらん岩と珪長質メルトの有名な反応として,かんらん石とシリカに過飽和なメルトとの反応に よる斜方輝石の形成が挙げられる(例えば,Arai et al., 2003) .曲り沢かんらん岩体のかんらん岩と珪 長質脈の境界においても明らかにこの反応が起こり,Opx-wall の形成に関与している.しかし,Opx-wall を構成する斜方輝石が多様な化学組成,形態,粒径を持つことは,斜方輝石の成因がこの反応だけで はだけでないことを示唆する. 上記の鉱物化学組成,反応組織などの特徴から,Opx-wall を形成する斜方輝石は複数の成因を持ち, 成因により異なる特徴を持つ可能性がある.すなわち, (1)host peridotite 中の primary な斜方輝石, (2) かんらん石と珪長質メルトの反応,(3)primary な斜方輝石の珪長質メルトとの反応による分解,(4) primary な単斜輝石の珪長質メルトとの反応による分解,(5)珪長質メルトから晶出した斜方輝石の Opx-wall への付加である.このことは,珪長質メルトとかんらん岩の反応により,複数のプロセスに よって二次的な斜方輝石が形成し,かんらん岩へ付加していることを示唆する. これらの二次的に形成された斜方輝石は,primary な斜方輝石に比べて明瞭に Mg#が低いため,反応 によって host peridotite はシリカに富み,Mg#が低くなっていくことを示す.逆に,マントルかんらん 岩と反応したメルトは,シリカが減少し,Mg#が高くなっていくことを示唆し,このプロセスによっ て高 Mg#安山岩質メルトが形成され得ることが結論された. 引用文献 Arai, S., Shimizu, Y. & Gervilla, F., 2003. P. Jpn. Acad. Series B., 79, pp.145–150. Kelemen, P.B., 1995. Contrib. Mineral. Petr., 120, pp.1–19. Kelemen, P.B., Hart, S.R. & Bernstein, S., 1998. Earth. Planet. Sc. Lett., 164(1-2), pp.387–406. Kepezhinskas, P.K., Defant, M.J. & Drummond, M.S., 1996. Geochim. Cosmochim. Ac., 60(7), pp.1217–1229. Payot, B.D., Arai, S. & Tamayo Jr, R.A., 2011. J. Miner. Petrol. Sci., 106, pp.175-180. Sen, C. & Dunn, T., 1994. Contrib. Mineral. Petr., 119, pp.422–432. Shimizu, Y., Arai, S., Morishita, T., Yurimoto, H., Gervilla, F., 2004. T. Roy. Soc. Edin-Earth., 95(1-2), pp.265–276.
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