上原記念生命科学財団研究報告集, 27 (2013) 109. ES 細胞における Lefty の役割 高岡 勝吉 大阪大学 大学院生命機能研究科 個体機能学講座 Key words:ES 細胞,位置情報,再生医療 緒 言 再生医療の夢である人工臓器の実現のためには,目的の臓器の細胞を誘導するだけではなく,細胞集団へ位置情報を 与えることも重要である.本研究では,位置情報獲得機構についての基礎的知見を蓄積し,組織や臓器に合わせた再生 医療の多様な方法を生み出すことを目的とする.具体的には,ヒトと同じ哺乳類であるマウスの ES 細胞がどのように 位置情報を獲得するのかを明らかにする.特に,均一な細胞群が,どのように位置情報を獲得した集団に移行する過程 に注目する. ES 細胞は,受精後3日の胚盤胞の内部細胞塊から樹立される.ES 細胞においても,Lefty1 と Lefty2 が発現してい ることがわかっている 1,2)が,その機能は不明である. 図 1. マウス胚盤胞期の Lefty1 の発現. 内部細胞塊の数細胞だけで Lefty1 は発現する. そこで,本研究では,ES 細胞における Lefty1, 2 の役割を明らかにする.特に,マウス胚発生では体軸形成等,胚の 位置情報獲得に重要な役割を果たすため,ES 細胞においても同様の機能を期待し,胚葉体形成やコロニー形成といっ た位置情報獲得機構における Lefty1, 2 の役割に着目した. 方法、結果および考察 1. Lefty1, 2 ダブルノックアウト ES 細胞の作製 前述した通り,Lefty1 と Lefty2 は共に ES 細胞の位置情報獲得機構に関わっている可能性がある.そこで現在, Lefty1, 2 二重変異マウスを作製した.Lefty1 と Lefty2 は染色体上で近い位置関係にあり,通常の交配では Lefty1,2 二 重変異胚が得られないため,新たに flox サイトを導入したターゲティングベクターを用いてターゲッティングし,ES 細胞を樹立した.そして,変異マウスを作製し,ES 細胞の作製を行った.樹立した ES 細胞,変異マウスの組織由来 1 の DNA を用いた,サザンブロッティング,PCR や,樹立 ES 細胞を用いた PCR の結果,②実験で用いる flox サイト をもった ES 細胞では Lefty1, 2 が発現していないことを確認できた. 2. ES 細胞の組織化における Lefty1, 2 の挙動 ES 細胞における Lefty1, 2 の発現細胞の位置関係を,蛍光レポーターを用いた遺伝子組み換え ES 細胞を用いて解析 した.具体的には,Lefty1 が発現細胞で黄緑色蛍光タンパク Venus が発現する Lefty1-mVenus トランスジーン (Tg) ES 細胞を樹立し,1 細胞からコロニー形成時において発現細胞の挙動をリアルタイムでイメージング観察した.これ により,ES 細胞集団がコロニーを形成する上での Lefty1, 2 が発現する細胞が組織全体でどのような位置的特徴を持っ ているかが明らかになると期待した. その結果,単一細胞の際には,Lefty1 の発現は見られなかったが,数細胞の集団になると 1 細胞で Lefty1 が発現を 開始し,コロニー形成時には,エッジ部の細胞にのみ発現するという特徴的な発現細胞の挙動を発見した.今後,Lefty2 においても同様の実験を行う. 図 2. ES 細胞のコロニーにおける Lefty1 の発現パターン. Lefty1 は ES 細胞のコロニー形成初期に数細胞で発現を開始し,コロニーの拡大と共に,コロニーのエッジ細胞 で発現する. 3. ES 細胞における Lefty1, 2 の役割 ES 細胞でも Lefty1, 2 が発現していることが明らかになっているが,機能は明らかになっていない.そこで, Tamoxifen 誘導型の CreERT2 と,1. で作製した flox サイトを導入した ES 細胞を用いてコンディショナル欠損 ES 細胞を樹立した.樹立後,Tamoxifen 処理し Lefty1, 2 欠損 ES 細胞を作製した.遺伝子判定には PCR 法を用いた. まず,コロニー形性能を調べたが,野生型の ES 細胞と同等のコロニー形性能を有することを明らかにした.今後, LIF 非存在下の中空の胚様体の形成や,網膜構造の形成 3) 実験を行い,野生型と Lefty1, 2 ノックアウト ES 細胞にお いてどのような表現型の違いが見られるか観察する予定である. 2 本稿を終えるにあたり,本研究を御支援いただきました上原記念生命科学財団に深く感謝申し上げます. 文 献 1) Takaoka, K., Yamamoto, M., Shiratori, H., Meno, C., Rossant, J., Saijoh, Y. & Hamada, H. : The mouse embryo autonomously acquires anterior-posterior polarity at implantation. Dev. Cell, 10 : 451-459, 2006. 2) Takaoka, K., Yamamoto, M. & Hamada, H. : Origin and role of distal visceral endoderm, a group of cells that determines anterior-posterior polarity of the mouse embryo. Nat. Cell Biol., 13 : 743-752, 2011. 3) Eiraku, M., Takata, N., Ishibashi, H., Kawada, M., Sakakura, E., Okuda, S., Sekiguchi, K., Adachi, T. & Sasai, Y. : Self-organizing optic-cup morphogenesis in three-dimensional culture. Nature, 472 : 51-56, 2011. 3
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