平成 26 年 7 月 18 日(金) お泊り 1 日目 この日がやってきた 「おはよう~」お泊り保育をどんな気持ちで迎えたのかそれぞれの表情、言葉から伝わっ てきた。 初めての TA は、いつもと変わらない様子で登園。MI は、口元をゆるませニコニコ顔。 EI は TH に何やらヒソヒソ話。TH は「…そうだね~♪」と、EI の話に体を上下に動かしな がら答える。何を話しているのか分からなかったが、もちろん今日の話だろう。顔を見合 わせ、二人ともとても楽しそうだ。 部屋に入ってきた KR は、自分の家から持ってきた人形を背中に隠しながら。 「ねぇ、KR くんのお人形はなんでしょうか?」と、友だちが自分の人形を紹介している姿を見つけ仲 間に入っていく。「クマ?、分からな~い」 KR の背中に回りのぞきこむ子どもたち。すると、手と背中の隙間から緑の物が見えた ( 「あっ!」 ) 、間髪入れず「KR くんのはこれでした~」と、答えを言われる前にと、手の ひらサイズのカエルを友だちの前に差し出した。 「ちっちゃいでしょ~♡」と嬉しそう。人 形を通じた友だちとの関わりが、KR の緊張をほぐしてくれた。 スタッフの足にペタリとくっついて浮かない表情をしていたのは、RN。毎朝、元気で部 屋中を走り回るいつもの様子とは全く違う。にぎやかしい周囲を横目に、朝の時間ずっと スタッフから離れなかった。 サークルタイムが終わって、森に出発。その時だった。RN がスタッフの手を引いてトイ レの前へ連れて行く。そして「ねぇ…おかあちゃんと離れるの、さびしい(目を潤ませな がら) 」 。みんなに見えないところで話し始めた RN。楽しみだし、頑張りたい。でも、やっ ぱり不安で、寂しい。 「今日から明日のお迎えまで、スタッフが RN のおかあちゃん。お友 だちが家族だよ。だから、大丈夫。RN に何かあった時、おかあちゃんやおねえちゃんだっ たら、何してくれる?」 (RN) 「助けてくれる。」(スタッフ)「そうだね、今日もみんながい て、助けてくれるから大丈夫。でも、RN が自分でも頑張ろうとする気持ちも大事だよ。 」 と、話をした。 (RN) 「うん。うん。 」自分自身に言い聞かせるように、何度もうなずいてい た。そして、最後にギュッと RN を抱きしめた。 抱えていた思い、葛藤していた気持ち。それを吐くことでスッキリしたのか。その後、 いつものように身支度を整えて、バディを探しにテラスへ出ていった。 お泊りを経験している子。初めて経験する子。去年の思い出がよみがえり、緊張しなが らも大丈夫と自分に言い聞かせている子。表情はそれぞれ。いろんな気持ちが見えないと ころで揺れ動いていた。 1 1 学期のおわり いつものように森でたくさん遊んだ後、ひだまり広場でサークルタイム。今日で 1 学期 も終わり、年少々とはこれでしばらくお別れだ。 木陰に輪になってすわり、1 学期を振り返る。お友だちと笑ったり、ケンカしたり、歌 ったり、泣いたりしたこと。雨の日も暑い日も森で過ごしたこと。お母さんやお父さん、 梅北かあさんや山ちゃん、たくさんの人たちや森のおかげで、みんな一つずつお姉ちゃん・ お兄ちゃんになったこと。最後に年少々さんのことを話す。 「今日はこれで MS ちゃんと TK くんはおうちに帰ります。」 「え~?!」 一緒にお泊りできないことを、全員が大合唱で残念そうに嘆く。 「二人とも、大丈夫じゃない?みんないるし、ご飯も着替えも自分でも頑張れるじゃん!」 (うんうん、と皆でうなずく) 「ん~、でもまだ小さいから、お母さんが一緒のほうがいいかもねえ。」 (それも然り…) 年少々さんの力を十分に分かったうえで、楽しみは来年にとっておくことにした。 森の出口。1学期みんなで楽しく過ごすことができた森へ感謝の気持ちを込めて最後の ご挨拶をした。 ランチの時間も 12:00、ピンクハウスに到着後、MS と TK を送り出して、おにぎりと味噌汁を頂く。食べな がらも、話題はやっぱりお泊まり!弾む気持ちを 隠し切れない。 RU と MI が「ナイトハイク、行くんだよね!」。と ても待ち遠しい。「AO ちゃんね、年少さんの時の ナイトハイクね、ほんとはちょっと怖かったんだ けど…」と、本音をポツリ。 「でもね、YU くんが いたから怖くなくなったんだぁ!」ニコニコしながら話した。それを聞いた YU は、 ( 『そう だったんだあ!』 )と嬉しそう。そんな他愛もない会話を、全員が心に刻むように聞いてい る。そう、 『みんなが一緒にいるから、大丈夫!』…誰もが AO の気持ちに共感している。 それを実感できるのは、今夜、もうすぐだ。 「前、ローソク持って行ったよね!また作るの?」と、TH。EI は「何時にでかけるの?」。 HA も「ねえ、ねえ、バディはどうするの?」…みんなのワクワクとドキドキが途切れるこ とはない。 2 大切にしたいこと 13:30、会話が弾んだランチタイムを終え、いよいよ今年のお泊まりの幕開けだ。 元気な声がこだまするオリエンテーションには、不安な顔がひとつもない。笑顔があふ れ、声が弾む。手を高く上へのばし、意味もなくキャハハと大きく背伸びする。お隣同士 で肩が触れ合い、見つめ合い、笑いあう。こんな子どもたちの姿、笑顔…みんなが兄弟み たいで、家族みたいで、お互いを受け入れ、その存在を認め合う。誰一人否定されず、欠 けることなどありえず、だれもが心地よい居場所、みんなが幸せを感じる空間。とはいっ ても、子どもたちの心には、こんな場面は「思い出の1ページ」としては記憶されないだ ろう。しかし、この他愛もない時間の中にこそ、本当の幸福がある。そしてその積み重ね が、よくわからないが「なんだかとても楽しかった」幼児期の思い出になり、一生の心の 糧になる。それこそが“森のようちえん”で、森のお泊りの醍醐味…。 「〇〇工作」でもな く「××づくり」や「△△ハイク」をすることが目的ではない。この 2 日間、こういう時 間こそ一番大切にしたい。 「いらっしゃいませ♪」かき氷屋さんごっこ お泊りのおやつといえば、「ふだんのそれとは格段に違う、何しろ特別♡で、スペシャル ☆」…子どもたちの頭の中には、どのくらい前からかそうインプットされている。そのプ レッシャーに、スタッフは1年前からおやつの構想を始めている。 今年はかき氷。保護者のご協力で電動かき氷器を手に入れることができ、長年スタッフ らも夢だったかき氷屋を開店することとなった。大き な専用氷をたくさん買い込み、事前に何度も練習して シミュレーションを重ねる。「13 人分を、氷がとけな いように提供するには、どんな手順がいいか」 「手伝い を楽しみにしている年中には、どんな作業をしてもら うか」 「全員がワクワクする演出は」など。きっと食べ てしまえば 10 分程度の短い時間だが、二度とない夢の ような一瞬だからこそ、失敗は許されない。そこには 膨大な時間と発想力、入念な下準備が求められるのだ。 3 14:30。存在感のある業務用かき氷器にクリスタルのように輝く大きな氷がセット された。空色の生地に赤字でくっきり“ 氷”の暖簾がテラスにはためく。年中の 5 人は 自分の手ぬぐいをねじり鉢巻きにして気合いを入れる。 いよいよ、森のかき氷屋の開店。ワクワクする KR に、 ちょっぴり照れくさい KC。 “お手伝い”を心待ちにし ていた YU はすでに数週間前からやる気満々!「お泊り の時、おやつのお手伝いあるんだよね?何するの?」 と、何度もスタッフに尋ねてくるくらい。YU は、シロ ップをザルにのせ「イチゴ、レモン、メロン。どれが いいですか?」と、注文を聞いて配りまわった。KR と KC は、 “誰が” “何味を”注文した かをしっかり覚え、キッチンで作った氷に注文のシロップをセッティングして持っていく。 積極的に注文をとってはお客さんの待つテラスまでせっせと運んでいく AO と HA。 RN は「い らっしゃーい、いらっしゃーい!」と自分の掛け声に大興奮。あまりに楽しくて、目の前 にいる担当のお客様の姿も目に入らず、しばらく探し続けていた (笑) 。 かき氷が届くと、 『はやく食べたい!』の気持ちが否応にも高 まる。とけないうちに「いっただっきま~す!」。ところがシロッ プのフタが開かない(!) 、焦る TO。すると、「あけてあげる!」 素早い反応の AO。なかなか手ごわい相手だったが、手で開かなけ れば歯で開けちゃえ!たくましい!さすが森っ子(笑)。隣で、開 けられずにいた KR も AO に開けてもらい、無事かき氷にありつけ た。氷を溶かしてジュースにする子、「おいしー!」 、目を細めて 「つめた~い!」。 「お泊りは最高だねっ!」顔を見合わせ、みな ニッコニコだ。 その後、全員がおかわりのリクエスト。2杯目は、それぞれ自 分の分は自分で作ってもらうことにした。かき氷器のスイッチを いれると、細かい淡雪のようなふわふわの氷がシャッシャ、シャ ッシャとリズミカルに降ってくる。子供用の小さな器でキャッチ しようと必死になるが、気づけばそれを持つ子どもたちの手の上にも降り注ぐ。ふわふわ の淡雪が子どもたちの手の上に積みあがっていく様子は、まるで、今年大流行した「アナ 雪」の主人公エルサが、手の平を空にむけて雪の結晶を作り上げていく、あの魔法のシー ンと同じ。子どもたちは「ありの~♪ままの~♪…」とつい口ずさむ。子どもたちにとっ て、こんなにも雪や氷がステキなものなのか。冷たくて、触りたくて、ワクワクドキドキ するものなのか。目をキラキラさせながら氷を触る楽しそうな姿を隣でみていて、こちら が夢をみさせてもらったようなひと時。今年の「特別な♡お泊り用おやつ」も大成功。かき 氷屋のテラスには、ちょっと涼しくなった午後の夏風に“氷”の暖簾が揺らめいていた。 4 「涼」をよぶ手作りうちわ ランチの時間、クラフトの話で盛り上がった子どもたち。何を作るのか期待が膨らむ。 15:00。広げられたシート上には、新聞紙、江戸千代紙、障子紙、のり、筆、刷毛、 そして、見たことのない竹の骨組。今年のクラフトは、江戸千代紙と和製竹ひごでつくる “うちわ”作りだ。スタッフが見本をみせながら、作り方を説明する。 まず障子紙の裏面を上にうちわの骨組を置き、その上から大きな刷毛でのりを塗る。慎 重に少しずつのりをつけている IO。だんだんとコツをつかんでくると、たっぷりつけての ばしていく。細かいところも丁寧だ。一方 YU は、始めからダイナミックに塗っていく。こ んなしぐさが年中らしい、何も恐れてはいない(笑)。TA は、 そんなお兄ちゃんたちの様子を見て、見よう見まねで一生懸命 のりと刷毛と格闘している。TA にとっては、刷毛に均等にのり を付けることも難しいだろう。 意外とのりは固く伸びないので、 障子紙にのりを落としたあとも、広げ ようと懸命だ。それでも一言も弱音を はかなかった KC は、まるで職人のよう に片足を立てて、竹ひご一本一本に丁 寧にのりをつけていく。作業が終わるまで頭をあげず、おしゃ べりもしない集中したその姿は、まるで職人を思わせる。AO は、 柔らかい股関節を生かし両足を立ててカエルさんのように!不 思議と安定している(笑)。塗り方一つでも、個性豊かな森っ子 たちだ。 骨組の表にのりを塗ったら、次は障子紙から剥がして 裏返し、またのりを塗る。TH は慎重に、器用に剥がして いく。 「どうやるの?」と、のりがベタベタするのとで、 ちょっと戸惑っていた TO の分も剥がしてあげる。自分の 思うようにできなくて、 イライラし始めている TO に対し、 「TO、手で塗ってもいいんだよ~ほら~♪」と、以前作 ったことのある RU が教える。両手をベッタベタにして鼻 歌まじりに作っている RU、その楽しそうな表情に刺激を受けて、TO は大胆に手で塗り始め る。TH もそのあとを追った。 (『そういえば…』)と、入園して間もない年少の TH を思い出 す。汚れることを気にしてか、水たまりではほとんど遊ぼうとしなかった TH。今では、そ んなことお構いなしで、HA や KR と水たまりへ飛び込んでいく。今やそのジャンプ力を生 かし、だれよりも泥を飛ばすほどだ。躊躇せず手でのりを塗っていく姿、年下の子の手伝 いをする姿に、しみじみと成長を感じた。 その HA は手際がよく、丁寧でスタッフを驚かせた。製作作業一つとっても、昨年とはそ のスピードも質もまったく違う。 あの小さかった HA もこんなにもお兄ちゃんになったのか と感無量。MI は自分の柄がとても気に入ったようで、作業を一つ一つ丁寧にこなしている。 5 話をしっかりと聞き作業している姿は、一年生のように落ち着いている。いや、実際はそ れ以上かもしれない。EI も同じだ。普段の工作や折り紙の時間の積み重ねが、EI の作品の 完成度を押し上げる。見ているこちらも出来上がりが楽しみになる。はさみや刷毛といっ た道具の扱いがうまく、のりなどがついている道具もちゃんと指示どおり使い、周りを汚 すこともない。IO も年長らしく起用に刷毛をぬっている。IO のすごいところは、道具や材 料をやさしく丁寧に扱うところだ。日頃、スタッフ自身が反省させられるほど(笑)。 そうこうしているうちに、うちわ作りは次の段階へ。障子紙の端を織り込み、表紙の作 業へ!好きな絵柄の千代紙を選ぶ。江戸千代紙は、関東大震災でそのほとんどの版を消失 してしまい、東京に残る一社(いせ辰)が、焼け残った貴重な版を保存・復活し、現在、 手刷りや機械刷りで千代紙として再生している。今回はその店から直接注文して取り寄せ た本家本元の江戸千代紙を採用した。普段森で愛用している手ぬぐいにもよくみられる伝 統柄を中心に、 “季節感”や“洒落”が表現されている。今回はすべて違う柄。子どもたち は、直感で好きな絵柄を選んでいく。その千代紙を骨組の上にのせて貼る。余った端をハ サミで切り、折り込んでいく。最後に補強のための“耳” (右図○の部分)をつける。 “耳” は全く違う色や絵柄を選ぶもよし。表の千代紙と同じ色合いや 絵柄を選ぶもよし。年長たちは、スタッフが促さずとも「それ 貸して」 「これちょうだい」 「あれ使ってもいいかな」お互いの みみ 端切れを交換して、更に作品に個性がでてきた。RN と KC は、 お友だちが切り取った余りの千代紙を貼って切り抜きも!それ ぞれ、味のあるうちわのでき上がり!お泊まりはもちろん、お祭りやお家での夕涼みなど など、この夏の思い出のワンシーンのおともになってくれるといいなあ…。 ゆっくりひと休み 15:30。ここまでずっと楽しくノンストップできた子 どもたち。夜に向けて、ちょっとひと休み…。布団を大きな 袋からとりだす。森の子どもたちは、こういう作業の労力を 惜しまない。どんな場面でも、全員がすすんで準備や片づけ を行う。年上の子どもたちがやっていることを、自然と年下 の子どもたちが引き継いで、そして森の雰囲気やルールを作 っていく。まさに縦割りのすばらしいところだ。 力なく途中で困り果てる年少がいれば、まかせて!と言わ んばかりに、ちゃんと年中が手伝いにやってくる。それでも どうしようもないときは、出番とばかりに年長がどこからと もなく飛んできて、場を収めてくれる。こういう時、大人は 必要ない。子ども達は互いにフォローし解決していく。ここ を見守れるかがスタッフにも求められる。森の子どもたちの 能力は、大人の想像をはるかに超えているのだから。 6 自分たちで敷いた布団へごろん♪横になっている TA のところに誰かがゴロゴロゴロと やって来て、ぎゅっと抱き付いてきた。RN だ!「アハハ~!」思わず笑顔がこぼれる。そ こへ TO も転がり込み、3 人で「アハハハハ~!」そんなこんなで、、みんな布団へ寝転が る。もちろん、眠れるはずもなく…と、思いきや???そんな中でもちゃんと目をつむっ ている RU。とりあえず、静かに横になって休む…しっかり心も体も充電して、これから待 ってる<夜>の楽しみに備えないと!じっと目を閉じているものの、周囲に態度でその意 思をビンビンに伝えている(笑) 。同調する AO。同じようにギュッとつむる目の周囲のし わに、その強い気持ちが表れている(笑)。その隣で、YU は決して目をつむらないし、眠ろ うとしない(笑)。YU なりの理由があり、それをブツブツまわりに話しかけては、RU や AO に「もうどうでもいいから、早く寝なさい!」と叱られる。「嫌だ、ぼくは眠ない」 「寝な さい!」 「嫌だ!」 「寝なさい!」 。両者の強い執念に、スタッフは思わず吹き出した(大笑)。 甘い甘いシャボン玉 夕食までの時間、駐車場を散策することにした。しかし(TH) 「ちょっと年長さんは用 事かあるから、いっしょにいけないんだ~。」 (RU) 「そうそう!!そうなんだよね~」2 人で顔を見合いながら(笑)。 『残念』という表情でもなく、なんとなく申し訳なさそうな表情をあえて作っている? というか…どこか嬉しそうな表情をして年中に話す。そしてなんだかとても嬉しそうに 「いってらっしゃ~い♪」と、5人並んで手を大きく左右に振りながら見送った。 駐車場へ向かう年中と年少。日が少し傾き始め、いつもと違う色や風を楽しんでいた。 そんな中、YU が何度も後ろを振り返り「年長さん、かわいそうだね。一緒に行けばいい のにね~。 」と、ポツリ。夕方のしっとりした空気がそう感じさせたのか、YU の年長を思 う優しさが垣間見えた。YU は入園当初からそうだった。後続でだれかが遅れをとってい れば「あの子、大丈夫?」 、大きな絆創膏を張った子がいれば、必ず「どうしたの?」と 声をかける。スタッフがよろければ杖を探してきてくれ、何しろ周囲にやさしい目をい つも向けてくれている。 先頭では、すっかり元気になった RN が「なにする?かくれんぼ?虫捕り?」。初めての お泊りにようやくワクワクのスイッチが入った。そのスイッチは、周囲の友だちにも伝播 する。みんな話が止まらない(笑)「そうだね~。かくれんぼにしようよっ!」と答えるカ KR。疲れを全く感じさせないのは二人だけではない。 「いいね、いいね」と TA。もっと大 きな声で「やろう!やろう!」と HA。スキップでバンビのように飛び跳ねている AO と KR。 楽しい気持ちが全員の表情から伝わってくる。 駐車場についた途端、みんな一斉に走り出した。その姿を横目に、KC だけはニコニコし ながらみんなの様子を見ている。はしゃいでる友だちを、まるでスタッフの一員ように観 察しているとでもいおうか。ごそごそと準備を始めたスタッフの不穏な動きに、 「何してる の?」と KC。その様子に他の子どもたちも集まってくる。 7 「今日はシャボン液を作るよ!手作りのシャボン玉」 。 「えっ?作れるの~?」、AO と KR が不思議そうな顔を浮か べる。水の入ったペットボトル。そこへ茶色のものを取り出 した。 「これを入れると、 きれいなシャボン玉になるんだよ。」 みんなでちょっとずつなめてみた。 「あっ。甘い。砂糖だ!!」 HA が気づく。次に「そして、これを入れると、割れにくいシ ャボン玉に」と、出されたのは白い粉。 「小麦粉だ!」RN が 答える。 「おしい!」というスタッフに「じゃあ、片栗粉?」と、RN が再び返す。 「正解!」 そして、最後にハチミツ。すべて食べ物でつくるシャボン液。材料を少しずつ味見してい ると、TA は「もう一回食べたいな~」 「もう一回だけ~♥」と、何度も味見をせがんできた。 途中、YU が(こんな楽しいことやろうとしてるのに)「どうして、年長さん来なかった のかな?」と、残してきた年長を再び思いだす。 「そうだ!年長さんにシャボン玉のお土産 持って帰ろうよ!」その優しさに周りの子が共感する。 「そうだね、喜ぶね!」と TO。 「いいねいいね♪」と KR。 離れていても、お互いを思いあえる気持ちがそこにある ことに嬉しくなった。 出来上がったシャボン液。いざ遊ぼうとすると、吹く 道具がない。そこで「どうしたら、シャボン玉ってとば せる?」 。(TO)「棒につける?」 。(KC)「葉っぱを使う?」 KC の言葉にはっとする AO。 「前やったことがある。葉っぱを丸 めたらいいんだよ」 。その言葉に RN が動き出す。葉を取ってき て、ごそごそ…「できた!!」 。筒状に丸めた葉が出てくる! と思っていたら、葉の真ん中に丸い穴が開いている!そして、 丸い部分に液をつけて「ふう~~っ」。 「!!!!!」 小さいが、しっかりしたシャボン玉が一つ、子どもたちの目の 前を飛んでいった。思いもよらない発想。 RN のアイデアから、それぞれが、いろんな方法でシャボン玉 遊びに挑戦する。しかし、なかなか思うようにシャボン玉がで きない。すると HA が「シャボン玉用のストロー、そういえば リュックに入っていたよ!?」 。さすが HA。よく観察している。 リュックに潜めていたシャボン玉ストローを使うと、あんな に難しかったシャボン玉が、いとも簡単に膨らむ。TA は自分の 顔と同じ大きさのシャボン玉を吹いて見せた。瞬きもせず、目 を鼻の上に寄せながら、いい顔をしている。 全員で吹くシャボン玉。甘い香りのするたくさんのシャボン玉は、みんなの笑顔を七色 に映しながら、ふわりふわりと夕焼け空に上がっていった。 8 秘密の夕食づくり その頃、年長 5 人組はエプロンをし、頭に手ぬぐいをまいて、ピンクハウスのキッチン に立っていた。この日のために 5 人だけで楽しみにしてきたこと…それは年中・年少のた めの秘密の夕食づくりだった。 計画は2週間ほど前にさかのぼる。 「年長さん、ちょっと来てくれる?」小声でスタッフ が声をかける。何か秘密めいたことを感じとり、年長5人がこそこそと集まってきた。シ ャワールームの片隅、肘と肘がぶつかる。顔と顔が近い。年長5人とスタッフ、小さな輪 ができる。何の話をされるのか不安げながら、いつもと違う雰囲気にみんなワクワクして いる。 (スタッフ) 「今月はお泊りがあるよね。 」(年長)「うんうん」「たのしみ~♪」 (スタッ フ) 「年長さんだけで、秘密の夕ご飯作りをしてみないかな?と思って」 (EI) 「えっ!年長 さんだけで?」とちょっとびっくりした表情。その言葉に、(RU)「私達、お米とげる~! できるよねっ、MI!!」MI を見つめる。 (MI) 「そうだよ!!!!わたしたち野菜の皮をピ ーラーでむけるし、大丈夫!!」 年長の女の子 2 人は、2 か月間、給食の手伝いを続けてきた。その経験が二人に自信を 与えている。2 人の様子に、男の子たちも「できるかも」という自信がわいてくる。さっ そく、キッチンにいるスタッフに相談することにした。 ダイニングに丸く椅子を並べ、ミーティングが始まる。 「お泊りでお料理をつくりたいん だけど」と、RU が口火を切った。 (スタッフ)「どんなものが作りたいの?」。口々に「ハ ンバーグ!」 「カレーライス!」 「…ステーキ?」 「…スパゲッティ?」 「…。」意気込んで梅 北かあさんのもとに飛び込んでいったものの、自分たちで何が作れるのか、いまいちイメ ージがわかない。あーでもない、こーでもないと話し合い、結局、季節の野菜を使った“夏 野菜バーベキューとスープカレー“に決まった。 お泊り前日、MI と RU がスタッフに再び相談に来た。 「明日のごはんづくり、もう一度話 がしたいんだけど」 。 (スタッフ) 「RU ちゃんと、MI ちゃんの2人だけ?」 。(RU・MI) 「(そ うだった!)年長みんなでやらないと~!」。 急遽開かれたミーティング。段取りや作業内容の確認、役割分担。 「私は野菜を切るね♪」 「僕も野菜洗うよ」 「お米も忘れないように」何しろ、絶対に年中さんたちにバレないよう に、秘密を厳守することを互いに誓う。 「本番は明日、最後のお泊り、成功させるぞ~エイ エイオー!」5 人が一つになった瞬間だ。 さて、シャボン玉遊びに出かける年中と年少を見送った年長5 人。姿が完全に見えなくなったのを確認すると、「キャキャキャ 💛」と声をあげて、身支度を整える。まずは、野菜の水洗い。テ ラスの水道にわっしょい!わっしょい!と大ザルにのせた野菜を 運びだし、一つずつ丁寧に洗う。大人の分も入れると 20 人分の大 量の野菜。洗うそばからお腹がすきそうな仕事量だ。 キッチンでの作業はジャガイモ切りから始まった。ワクワクす 9 る気持ちが会話をはずませる。IO は、切りながら「ジャガイモの芽には毒があって、体に 悪いんだよ」と話し出す。それを聞いた TH と EI が「へ~そうなんだぁ。 」と、IO を尊敬 のまなざしで見ながら、真剣に IO の話を聞く。自分の話を聞いて“すごいね”と言ってく れるみんなにとても嬉しそうな表情を見せる IO。 次はニンジン。ピーラーを使って皮をむいていると「痛いっ!」。楽しい会話に夢中にな ってしまったのか、思わず指を切ってしまった MI。一瞬ドキッとして、痛くて、ピーラー を使うことが怖くなった。その気持ちを察してか、IO が「ニンジンを下に置いたら切りや すいよ♪」と言った。さっきのジャガイモに続き、今度は IO のやさしい気持ちが MI に安 心感を与えた。そして、実際にやってみる。「ほんとうだ!」MI は、IO と目を合わせ、二 人でニコっと笑った。 キャベツは、バーベキュー用に手で一枚ずつはがす。器用な EI が早々にコツをつかむ。 「こうすればいいよ」 「そこ持つと簡単だよ」。IO と MI のやり取りの後で、自然と友だち のアイデアにみんなが耳を傾ける。 「ほんとだ、やり易い!」 「すごいね、EI」 。相手を尊敬 したり、尊重する空気が自然と流れる。互いに刺激をうけ、学び合い、伸びる、年長同士 ならではの光景だ。気が付けば、キャベツの山がみんなの前につみあがった。 おにぎりも作らねばならない。12合分の炊きたてご飯が運ばれてきた。RU と MI が午 前中に準備しておいたものだ。2 か月間、給食の度に米をといできた 2 人。途中、休みた いと思った日もあったけれど、がんばって乗り越えてきて今日がある。もうスタッフのア ドバイスはいらない。2 人で段取りよく、一粒も流さず、教えて もらったとおり準備した。おいしそうに湯気をあげる、弟子丸さ んのお米。つまみ食いも我慢して、5 人でにぎり始めた。 全部で40個弱。年長の子どもたちにとっては、膨大な数だ。 それでも誰一人弱音を吐くことなく、むしろ食べる友だちの顔を 想像しながら、楽しそうに作ってくれた。小さいの、大きいの、 胡麻が多かったり、塩が少なくなったり、それでも「ま、いっか! どれもきっとおいしいよ」RU は笑いながら言った。 「一生懸命つ くっているから、大丈夫」TH は RU に相槌を打ちながら言った。 「そ うだね、おいしいに決まってる!」MI も自信満々に言った。「早 く食べてほしいなあ」IO が年中たちを思い出しながら言った。 「みんなでつくると楽しい ねえ♪」EI がこの仲間とのかけがえのない時間を愛おしそうに言った。 すべての食材とおにぎりがそろい、TH はカレーを、EI と IO は、バーベキュー、MI と RU は配膳を始める。 MI が、おにぎりに名前入りの旗を立てていた。その表情は、とても 真剣だ。というのも、MI はこの 2 か月間、何度も気持ちに折り合いを つけながら給食の手伝いを続けてきた。それがお泊りという大舞台で 発揮できるとわかった時、とても嬉しかったのだろう。この旗は、お 泊り前日の最終ミーティングで 「お子様ランチみたいな旗を立てたら、 みんな喜ぶかも♪」と MI が思いついたアイディアだった。丁寧に、最 10 後の一本まで気を抜くことなく飾る。 カレーの野菜を煮て、最後の仕上げをする TH。蓋をあけるとものすごい湯気があがり、 メガネがくもる。それでも、 「仕上げは TH くんにやってほしい」という声に、カレー粉を 一つずつ丁寧に入れてはかき混ぜ、また入れてはかき混ぜる。熱かったろう、怖かったろ う、でも僕が引き受けたこと、最後まで責任をもってやり遂げてみせる。TH の強い意志が みえた。 IO と EI は、テラスでプレートを使い、すべての野菜を焼きあげていく。子どもの数 13 人分を全種類数えながら、焼き色をみてひっくり返したり、皿に取り分けていった。二人 のカウントは正確で、すべてのセッティングを任せた。後半は RU も加わり、「これはコー ンがたりないから足して!」 「このピーマンは大きさがそろっていないから替えよう」「こ の皿は年少さんだから小さなおにぎりにしたら?」。三人で相談しながら、トングを使いこ なしてきれいに盛り付けていった。 17:00。夕食を作ってくれていることなどつゆ知らない年中 たちが、楽しそうに帰ってきた。それに気付いた EI。「あ~あ~あ ~!ちょっと、お待ちくださ~い。もう少しで準備ができるので。」 と、慌てふためく。プレートで焼かれていた野菜や肉の香ばしい香 りが、年中たちの鼻に届き、EI の隙間から必死にその正体を覗き込 もうとする。ちらっと見えたおいしそうな料理に、年中たちも大興奮。AO と YU が声をそ ろえて「そういうことだったのか~」。 (TH と EI) 「そうだよ、僕たち年長で秘密の夕食作 りしたんだよ」 。 (TO) 「うまそう!」 。 (KR) 「早く食べたい~っ!」。 (TA) 「僕も早く食べた い~!」 全員がテーブルにつき、スタッフの「今日のご挨拶は年長さんに」という声に、ちょっ と照れくさそうにしながらも、それは当然、と年長さんが勢いよくその場で立ちあがる。5 人はそれぞれと目配せしながら、全員で息をあわせ挨拶の合図をし た。 食べ始めてしばらくした頃、AO が「お皿にコーンがのってなかっ た」と言い出した。 (スタッフ) 「そうだったんだ。これ、あげるよ」 とコーンを AO のお皿にのせる。その話を近くで聞いていた MI。 「ご めんね、AO ちゃん。わたしたちがのせるの忘れちゃったみたい。」 と、申し訳なさそうに言う。 (AO) 「大丈夫だよ。のせたと思ってい たけど忘れちゃったんだよね」と、 (そいうこともあるよ)と、年長 を責めるわけでもない。年長の思いを、年中や年少もしっかり感じ 受け止めていた。 おにぎりにある旗をみて、 (TO) 「これも、年長さんが作ってくれたんだ よね」 。(TA・KC)「ありがとうね」という声が聞こえてきた。すると MI が 「旗はスタッフが作ってくれたんだよ♪」 。RU も「おにぎりも手伝っても らったんだ」 。周囲の大人たちにに力を借りたことも忘れてはいない。 5 人の年長それぞれが、経験の差や、技術の差があったとしても、同じ 11 方向を見ながら一つの物を作り上げていく楽しさを共有した時、そこに集う仲間たちはか けがえのない存在となり、その時間は心に深く刻まれ、忘れ得ぬ思い出となる。森には、 普通の幼稚園にある運動会やおゆうぎ会はないけれど、日々積み重ねてきた時間と今日 5 人が感じた一体感や達成感は、たぶんそれ以上に味わい深いものになったに違いない。 ひとりじゃない 夕食後、テラスから空を見上げると、きれいな夕焼け雲が浮かんでいた。さあ、そろそ ろナイトハイクに出かけよう! 靴箱の前で、 (TH) 「やった~!ナイトハイクだ。 」と、すでに経験済みの子どもたちは何 だか楽しそうに話をしている。しかし、初めての RN と TO は、当然ながら表情がこわばる。 「怖いよ…」TO が涙目になる。 スタッフが TO に「IO くんがバディだからね」と告げると、「(うん。うん。)」と、涙を 必死にこらえ首を縦に振った。TO が IO の手を握りにいく。スタッフ、今度は IO に「TO のこと、お願いしていい?」そっと耳打ちした。スタッフの目を見て「(大丈夫)!」と、 力強くうなずく IO。それぞれが、何かを心に決めて出発した。 18:30、川沿いルートのフェンス入口に到着。全員で森の奥を見る。まだ多少の明 るさは感じられる。ただ、そこから見る森は、いつもとは全く違う景色に見える。川沿い を吹き抜ける風も何か違うものを感じさせる。 フェンス入口から青空広場までバディと歩くことを伝えると、KR が慌ててバディの EI に近づき、手を握った。EI は KR の慌てた動作に、一瞬戸惑う。まだ、自分の心の準備が できていない。でも、年長としてのプライドからか、怖さを打ち消すように笑顔で応じる。 それぞれがバディとしっかり手をつなぐ。離さない、離れない…バディ同士の心の結束。 距離は 200mほど。スタートとゴールにスタッフがつく。万一の時に備えて、中間地点 の茂みの中にも隠れる。万事スタンバイ OK だ。 一番目は HA と KC。たまたまピンクハウスを出る時に一番前に並んでいた二人。一番目 のスタートにちょっと困惑。でも、仕方ないと、心を決めて歩き出す。しばらく歩くとカ ーブに差し掛かった。そこを曲がるとスタート地点にいるみんなの姿が見えなくなる。思 わず後ろを振り返り、立ち止まった。一度止まる と、どうしても前に進めない。 「大丈夫だよ~。そ のまま進んでいいよ。 」 スタート地点のスタッフの 声に、一歩足をだそうと試みている。何度か繰り 返し、 とうとう HA が意を決して歩み出た。すると、 何かが吹っ切れたのか、ドキドキした気持ちがワ クワクに変わり、 (HA) 「なんだか楽しいね」(KC) 「そうだね~。 」と、顔を見合わせた 2 人。2人し かいない空間をようやく楽しみ始めた。 12 二番目は、KR と EI。EI を頼るように、KR が力 いっぱい手を握る。そこから伝わってくる KR の不安な気持ち。EI は年長として、弱音を吐く わけにいかない。KR が自分を頼りにしているこ とが KR の表情と手の力から伝わってくる。カイ リの手をぎゅっと握り返し、前へ前へと進む。 でも、EI だって怖い。徐々に歩くスピードが早 まる。その気持ちを悟られないようにスキップ を始めた。「何か虫がいるかな~?」と、KR に 話しかける。KR も同じように EI の歩幅に合わせる。不安な気持ちが前へ前へと更に急が せる。 「あっ!HA だ~!!」前を行く友だちの後ろ姿を見つけるとホッとしたのか、二人 で一緒に一目散に走り始めた。 三番目は TH と TA。TA は、これから何が始まるのかあま り分かっていなかったのか。怯えもせず、はしゃぎもしな い。TH は、年長としての責任感と緊張感を全身で感じ、プ レッシャーに押しつぶさせそうになる。互いに無言の 2 人。 TH は後ろを何度も振り返る。つられて TA も振り返る。バ ディを組む時、危険な側を年長の子が歩くというルールを、 常に意識しながら歩くことができる TH だが、この時は逆に なっていることに気付いていないほど。それほど、緊張感 とプレッシャーの中で戦っていたのだろう。一生懸命 TA の 手をひいて歩く TH が印象的だった。 MI、AO、YU は四番目。隠れているスタッフ の耳に楽しそうな歌声が聞こえてきた。 「たの しいね~♪ったら、たのしいね~♪」ワイワ イと、楽しそうな声が聞こえてくる。手を繋 ぎ歩き、自作の歌を歌いながらこちらにやっ てくる。この三人、自分の意見をしっかり持 っていて、時々ぶつかることがある。しかし、 この時は三人だけしかいない。顔を合わせ、 お互いがお互いを頼りにしてる。その気持ち が、自然と歌の歌詞に表れていた。多少緊張 していただろう、3人で歌うことで気持ちを 共有する。少しずつその歌が緊張を紛らわし、次第に3人しかいない空間を楽しめるよう になっていた。 13 五番目は、IO と TO。先をいく仲間たちの背 中を一人一人見届けてきた TO。いよいよ自分 の番だと、意を決しスタート。一方、いつも のように優しく一歩前を歩く IO。 TO は何か言 葉を漏らしてしまったら、感情があふれだし てしまいそうな表情をしている。そのピンと 張りつめた、今にも切れてしまいそうな緊張 の糸を、IO の落ち着いた雰囲気で包み込む。 2 人でゆっくりと歩きながら、さらに気持 ちが落ち着き、TO の表情が和らぐ。TO は IO を見つめ「ドキドキするね」と、ためていた 気持ちを話した。 「そうだね。 」と、IO。その瞬間、隠れていたスタッフと目があった。 「あ れ?なんでそこにいるの?」と、IO。驚いてはいたものの、動じない。 「なんでいたんだろ うね~((笑)」と、言いながら青空広場を目指し、ゆっくり前へ進んで行った。 六番目は RU と RN。 浮かない表情をしている RN は、 再び朝の不安げな表情に戻っていた。 そんな RN の気持ちを察するかのように、いつも以上に楽しそうな表情で、しっかり RN の 手を握る RU。自分たちの番がやってきた。意気揚々と進む RU に RN が励まされる。頼りに なるお姉ちゃんが一緒だから大丈夫…そう言い聞かせながら。 しばらくすると、2人の楽しそうな会話。 笑い声までも。遠くに見えるスタッフの姿 を見つけても足を速めることなく、自分た ちのペースで歩く。 「キキキ~」竹林の中か ら聞きなれない声が聞こえてくる。 「なんだ ろうね」「初めて聞いたね」。不思議な声の 正体はヒグラシだった。日の出と日の入り によく鳴く虫。普段森にいる時にはあまり 聞くことのできない虫の声に気付き、耳を 傾けることまでできた二人だった。 14 少しずつ暗くなっていく森、自然と目が慣れていく。 先ほどの、緊張感を青空広場で過ごすことで和らげる。 そして…。懐中電灯の明かりが必要なほどに日が落ちた。 19:30。いよいよ本格的なナイトハイクが始まる。今年は、学年により別々のルー トを歩くことにした。 年中・年少は、今度は一人で歩く。少し前にバディと一緒に歩いてきた道を引き返すの だ。年長は、西本願寺までの縦走ルートを5人で行く。懐中電灯は持たず、月明かりだけ を頼りに。子ども達は、そのプランにびっくりするも、 「大丈夫!!やる!!」と全員が声 をそろえた。年中の HA は直前まで「こわい。こわい」と言っていたが、年長のルートを聞 いて、 「年長さんがすごい挑戦をするし、年長さんが応援してくれるからがんばる」と決心 した。EI が「ねぇ、年長さんは年長さんで、年中・少さんは年中・少さんでエイエイオー! しない?」。 (年長全員) 「いいね~」と、年長はさっそく輪になり掛け声を始めようとする が、その様子をみて年中・年少は、ポカンと立ち尽くす。その様子に(EI)「やっぱり、み んなでしたほうがいいね。 」と、再び声をかけてくれた。みんなで輪になって 「エイエイオー!!!!」元気のいい声が青空広場に響く。 緊張と不安で重たくなっていた空気が一気に変わった。 見上げる星空~届け!想い! 年長の 5 人がいよいよ森の中へ。青空広場から見る森の中は更に暗く、川沿いの道では 感じられないような怖さが子どもたちを襲う。それでも、懐中電灯をつけようとするスタ ッフに、 (TH) 「大丈夫だから、電気つけないで!」と余裕の表情。先頭を行く EI も、先ほ どの川沿いでは見られなかった自信に満ちた横顔。仲間が一緒にいることの安心感と年長 同士の見えない絆が、EI の背中を後押ししている。 だんだん暗くなる森、足元はほとんど見えない。歩きなれた道もやや長く感じる。前に いる仲間に安心感をもらい、後ろを歩く仲間に勇気を与える。 しばらく行くと、すり鉢階段。階段ルートと斜面ルートに分かれるポイントに着いた。 「どうする?」と、スタッフが尋ねる。TH がそこから両方のルートをじっくり見比べてい る。すでに森の中は真っ暗闇で何も見えない。懐中電灯をぽつんとつける。その光をあて て見る森は、すべを吸い込むブラックホールのようにすら見えてくる。 15 「こっちが良いと思う。 」落ち着いた声で指さしたのは、斜面ルート。「どう して?」と聞くと、 「階段の方は木が少なくて明るいけど、転んだら手すりがな いところもあるし、一度転ぶと転げ落ちて危ない。だけど、斜面のほうは根っ ことか持つところがいっぱいあって、気をつけながらゆっくり行けば大丈夫だ から。」と答える。その説得力のある説明に、みんな「そうだね。それが いいね」と納得。 日頃、年長の男の子達には先頭リーダーをやってもらっている。ハチ・ 倒木いろんな場面で考えてもらい、ルートを探していく。時には、ハチ が道をふさいでいて通れない時がある。 そんな時に思いついたのが合図。 手や森にある道具を使って遠くにいる友だちに“止まれ”や“進め”の 合図を送る方法を考えてくれたこともあった。先頭に立ち、責任感を持 って判断し道を決めていく。その経験がまさに生かされた場面だった。 斜面ルートを選ぶことにした 5 人。TH に先頭をお願いした。「えっ!?」一瞬表情がこ わばった TH だったが、 「わかった。 」と言って先頭についた。道はさらに暗くなっていく。 そして、ひだまり広場の一段上についた時。(RU)「ねぇ、懐中電灯、消して。」と言ってき た。ここで消すと、本当に真っ暗になることが想像できるほどの暗さだった。しっかり、 その場に足を固めて、海中電灯を消すことにした。スタッフが気を利かして小さな明かり をつける。しかし「大丈夫。全部消していいよ。」と、5人が口をそろえて言った。 「パチッ」その場でじっと立ちどまる。 ・・・・・・・・・。 真っ暗な森。静かな森。 ・・・・・・・・・。 「パチッ」 。再び懐中電灯の明かりがつき、その光をまぶしく感じながら、ひだまり広場 に到着。 空が良く見えるところに MI がゴロンと寝ころぶ。続いてみんなが寝ころんだ。そして、再 び懐中電灯を消した。みんなで、夜空を見上げる。IO が「たのしいね」と言った。「そう だね」と、みんなが応えた。 星空を見上げていると、次第に緊張感が和 らいできた。そして「年中たち、大丈夫かな …。」仲間のことを思い出した。 自分たちも暗い森を歩きながら、頑張って ここまで来た。年中たちにも頑張ってほしい …そんな想いをこめて、懐中電灯で青空広場 に向かって光を送る。RU が「年中さんたち、 この光をみて頑張ろうって思ってくれていた らいいね!」と言った。青空広場はそんなに 離れてはいないが、見えない姿と暗い森が、いつもの距離を遠く感じさせているようだっ た。でも、そこから見える空はつながっている。もしかしたら見えるかもしれない、想い 16 が届くかもしれない…そんな気持ちを、 やはり暗い森が気付かせてくれた。 ふと RU が「私たちも一人で歩いてみたい!」と言い出した。ひだまりか らのルートは、狭く真っ暗だ。仲間たちは一瞬ひるんだが、急遽ルートを 設定し、一人ずつナイトハイクをすることになった。光を消すとそこは思 った以上に暗い。一瞬、その暗さに不安になる。言いだしっぺで先頭を任 せられた RU。スタッフが待つ 50m 先 まで歩き始める。闇に消えた RU を追 う EI は二番目。ゴールに近づくと笑 顔もこぼれた。本当に一人でいくの?と始まる前に 不安げだった MI。そんな MI を RU はゴールで心配し ながら待っている。バクバクする気持ちをぎゅっと 収め、MI も到着。その姿に、「がんばったね」と声 を掛け、MI もいつもの表情に戻る。その後方から、 TH がやってきた。暗闇で一人、やはり不安だったの だろう。ゴールした時の表情は満面の笑み、大きな 達成感であふれていた。最後にゆっくりと、淡々と した足取りで IO がやってきた。そして、みんなで声 を掛ける。 「がんばったね」と。 5 人の間で交わされる「がんばったね」。お互いを励ます「がんばったね」には、今まで とは違った深い想いのようなものが重なり合う。共に感じ、相手を想い、認め合い、受け 入れ、同じ方向を見てそれぞれが同じ境遇で一人一人乗り越えた、 この 5 人にしかわからない、こころの共鳴のようなもの。 森の入口から西本願寺まで、再び一人ずつで歩き出す。MI が RU に「先に行ってくれない?」と切り出す。RU は MI の気持ちを察 して、先に歩く。 RU の背中を追いかける MI。先に着いた RU の姿が見えると、RU に駆け寄る。町の電燈にたどりついた。長い長い道のりだった。5 人だけの、6 歳の夏の大冒険。 「明かりが見えてよかったね」「う ん」一緒に感じたドキドキ・ワクワクは、絆とともに、しっかり と5人の胸に刻まれた。 西本願寺からスタッフの車に乗って、年中たちが待つピンクハ ウスへ。後部座席に5人がギュッと乗り込む。歩いて帰るスタッフに「ばいば~い。あり がとう!」と、声を掛ける。何故か、すれ違う車にも「ばいば~い。ありがとう!」と、 手を振る 5 人。笑顔。なんともいえない清々しい気持ちが、すべての人に「ありがとう」 という、感謝の言葉に変わった。 17 年中と年少のナイトハイク 一方、年長 5 人が森の闇に消えていった後、年中と年少の 8 人はみんなでぎゅっと丸く なっていた。 「怖い」という子、表情がこわばっている子。 「どうする?やめる?」と、スタッフが一 人一人に聞いていく。そんな中、HA は「年長さんが応援してくれているから頑張る」と、 意気込む。不思議と「やらない」という子は一人もいない。怖さを十分に感じていて、 「や めてもいいんだよ」とまで言っているのに。 そんなみんなの気持ちに寄り添うかのように、スタッフが魔法のおまじない話を始める。 「どうしても頑張る力が足りなくなったら、ギュギュギュっとハグして、力のでる魔法の おまじないをかけてあげるからね。 」その言葉に、みんな勇気がわいてきた。 「最初に行ける人いる?」と聞く。すると、AO が「ハイ」と手を挙げた。唯一の女の子が 最初に行くという。森での経験値の違いを、堂々としたその凛々しい姿で見せつける。ス タッフのギュの魔法の力をもらって、スタート地点に立つ。川沿いにランプが6つポツン ポツンと一定の間隔で並んでいる。ゴール地点のランプは赤。それを目指して歩く。AO は 潔く前だけを見つめ歩き始めた。頼もしい表情とともに。 KC は、そんな AO の姿に力をもらい、2番目に続くと言いだした。KC にとって初めての ナイトハイク。スタート地点、そこに立ってみて初めて気付く暗さと怖さ。でも、さっき の AO の姿をみて引き下がれない KC は、ゆっくりとゆっくりと前へ進む。時々振り返りな がらも、一歩ずつ確かめるように歩く。口数も決して多いわけではなく、表情もほとんど 変えなかったけれど、暗闇での行動や友だちへの掛け声がとても冷静で適切なのには、ス タッフも驚いた。 仲間たちがゴールした時を見つめる静かな笑顔も、とても印象的だった。 「年長さんが、年長さんが」と呪文のように繰り返しながら、スタート地点に向かった HA。「 『森や森の生きものが、僕たちを守ってくれているんだよ』と去年話したんだよ」と 説明してくれた。敏感なほど、頭が冴えている(笑) 。そんな中、いざその行く先をみると、 やはりぞーっと怖くなる。小さな羽音や風でゆれる葉…感度のアンテナもビンビンだ。い つもの明るい表情ではあるものの、やはり緊張は隠せない。それを悟られまいとしている のか、いやみんなの緊張をほぐそうとしているのか、明るく大きな声で話をしていた。HA の明るい声に助けられた子どももいただろう。 「魔法のお茶をのむ?勇気がでるよ」とスタ ッフが水筒から麦茶を注ぐ。うん!と一気に飲み干すと、魔法がちゃんと効いたようで、 一度も振り返ることもなく、颯爽と暗がりへ進んでいった。 RN は、手に魔法の石を握っていた。フェンスの入口で RU とみつけたという。これを握 っていれば勇気がでる、こうして今まで暗がりを乗り越えてきた、と言った。でもやっぱ り RN も魔法のお茶が飲みたいという。ゴクンっと飲んだらゲップと笑顔がでた(笑)。 「楽 しんでおいで」と促すと、 「うんっ!」といつもの RN に。軽やかに暗がりへ消えていった。 ゴールに近づき友だちが見えた。その時の喜びようといったら…全身全霊でうれしさを表 現していた。 TO にとっても初めてのナイトハイク。まさかこんなようちえんだとは、入園時は考えて 18 もみなかっただろう。暗闇?もちろん好きではない。でも TO には男としてのプライドがあ る。AO も行った、RN も行った…今にも涙がでそうだが、泣いてひるむわけにはいかない… そんな強い気持ちが手に取るように伝わってくる。魔法のお茶は効き目抜群で、TO も一気 に飲み干すと急に力がわいてくる。いつもとは違った状況に、男 TO がどうなってしまうの か、スタッフも読めなかった。いつもより当然口数は少なく、怖がっているようにもみえ る一方で、友だちを気遣う表情は豊か。両方の感情が入り乱れる中で、最後までしっかり と目を見開いて踏ん張っている姿が心に響く。「大丈夫そう?」ときくと、「うんっ大丈 夫!!!!」もうスタッフと目を合わせる暇もない。しっかりした足取りで一目散!ゴー ルをめざして速足で行った。 TA は全く怖がる様子をみせない。淡々とというより飄々としている。 「行けそう?」 「う ん♪」 「お茶のむ?」 「うん♪」 「楽しい?」「うん♪」(笑)。「TA、かっこいいねえ」「うん ♪」最後には TA から質問を繰り出す。 「行っていい?」 「いいよ(笑)」。まさに鼻歌まじり で歩きだす夜のお散歩だ。後ろ姿は、小さいけれど頼もしく、心から夜の森を楽しんでい る感じが、スキップする足元からも伝わってくる。こちらがホッとさせられた。 KR。最初は意気揚々とスタート地点についた。先に見える光を見ながら「あの光のとこ ろまで行くんだよ」と、ルートの説明をする。KR にももちろん、その光ははっきりと見え るはずなのに「僕には、見えない」という。スタッフの手を握る手に力が入る。数歩前に 進んでは振り返り戻る。大丈夫と思っていたことが、意外に勇気がいった。途中まで夜の 森の楽しみ方をスタッフが話しながら寄り添う。耳を使い、肌で感じる。たくさんの生き ものが、守ってくれている。目が暗闇になれてきたら、KR もようやく足取りが軽くなった。 YU は、最初みんなが行く様子を悠々とした様子でみていた。次第に、一人…一人と減っ ていく。そこでふと気づく。あと 2 人しか残っていない。このままでは、最後になってし まう。YU に焦りの表情が浮かぶ。そして「YU くんは最後は嫌だ」と言いだした。緊張感あ る場所であろうと、瞬時に状況を把握して、自分の考えをはっきり発言できるのが YU だ。 スタッフが「私が最後だから大丈夫だよ」と言葉を返す。その言葉に安心した様子を見せ た。結局は、子どもの中では最後になったが、スタッフの言葉に何かを疑うこともなく、 淡々とゴールを目指した。 今年のナイトハイクは、暑さもさほどでなかったこともあり、蚊が少なかったせいかか ゆみや疲れに気を取られることなく、全員が達成感でワイワイしながらの帰り道だった。 TA と KR は自慢気に「ナイトハイクさいごまで歩けたよ~」と合流した仲間に話している。 RN はみんなと再会できて嬉しそう。HA も TO もようやくいつもの表情に戻って「全然こわ くなかったよ、あ~楽しかった」 (笑) 。 本当なら二人組のバディで帰るところだが、子どもたちから「全員でバディしたい!」 と提案があがる。気が付くと全員で手をつなぎ、横にならんでニコニコ歩いている。仲間 たちの存在に安心し勇気をもらい、ほっとしている。いつもはケンカしたり、手をつなぎ たくないなんて勝手を言うのに、今夜は全員で帰りたい、と(笑)。「どうぞ!どうぞ!」 とスタッフが少し呆れ顔で返事をすると、まるで兄弟姉妹のように見つめ合い笑いあって、 つないだ手を前後に振りながら、鼻歌まじりでピンクハウスへ向かった。 19 ♪ねんころば~い♪ シャワーの後歯を磨き、髪を乾かして、布団へごろりん♪部屋の明かりが消えて、2 1時ジャスト。すぐに TH と HA が寝に落ちた。 子守歌が始まる。 「♪おやすみ ぼくの おてて いっぱい遊んで リーム 疲れたね ~ ド ドリーム ねんころばい」 “おてて”の歌詞の部分が、耳や目、足などに変わり、 エンドレスで続く。21:15、IO が早々にねんころばい。さっきまでゴロゴロしなが らお互い乗っかたり、寄りかかったりしていた RN と TA は21:20、眠りの世界へ。 同じくして TO と YU も。3 分後には MI が、21:25には KR と RU も。21:27、時 折ごそごそ寝返りをうっていた KC と EI も眠りへ。寝つけはせずとも、静かに横になっ ていた AO。頑張って目を閉じている。そんな AO も21:37。やっと眠りの世界へ。 みんなどんなステキな夢をみているのかしら?そんなことを思いながら、13 人のかわい い寝顔に安堵して、いつまでも傍らで子ども達の寝顔を見つめるスタッフたちだった。 20 平成 26 年 7 月 19 日(土) お泊り 2 日目 朝の目覚め 窓から差し込む光がだんだん明るくなってきた。子ども達 の表情がはっきりと見えるようになってきたころ、一人、ま た一人と目を覚まし始めた。 今年の子ども達は寝起きが良い。次々に目を覚ます。TA は 周囲を見渡す。いつもと違う景色にキョロキョロしながら誰 かを探し始めた。その視線の 先には、もちろん RN がいた。 RN に抱き着く TA、RN の存在に朝から一気にテンションが あがる。 すぐ横で、KR が何やらモゾモゾし布団に顔を埋めている。 いつもなら、RN 達の輪に入っていくはずだが、今日はうつ ぶせのまま動かない。様子がおかしい。スタッフが声を掛 ける。朝になり、周りの様子がいつもと違うことに気づいて、ちょっと寂しくなったよう だ。ただ、そんな KR の様子に気遣うこともなく、TA は KR に抱き着く。KR は一瞬、戸惑う ものの、お構いなしにからんでくる TA。次第にその TA の行動が KR の不安な心を和らげるきっかけとなり、KR に笑顔がこぼれ始めた。 7:00。布団をあげる。しかし、それぞれが思うように動かす ものだから上手にたためない。すると、TH が「三つ折りはこうする んだよ!」知っていたのか、見て覚えたのか、一枚の大きな布団を 腕、腰、足などうまく体を使ってたたんでいく。大きな袋に入れて わっしょい、わっしょい!部屋いっぱいに敷かれていた布団がどん どん手際よく片づけられていった。 腹が減っては森には行けぬ 朝のひと仕事を終えたら、お楽しみの“あ・さ・ご・は・ん”。テ ラスに出した机の上に、ジャガイモと玉ねぎをバターでいためて煮 込んだ本物ポタージュスープ、 コアラパン、ハムステーキを並べて。 自分のボックスの上に座って「いただきます!」 。昨夜の睡眠も全員 しっかりとれて、朝からモリモリ食べるみんな。おかわりも続出! スゴイ食欲!『腹が減っては、森には行けぬ』といわんばかり(笑)。みんなといっしょに 迎えた朝の空気がより一層、朝食をおいしくさせてくれたのかも! 21 探検にでかけよう! 朝ごはんを食べ終わったころ、雨が上がり晴れ間が見えてきた。よし、森へ行こう! 本当は、 早朝の森を見てほしかった。 特別な日の特別な出来事をたくさん楽しんで欲しい。 そして、毎日見ている森の色んな表情を見て、色んなことを感じてほしかったが、にわか 雨のため断念した。 年長が昨晩ナイトハイクで歩いた道を歩きながら、昨日のことを思い出していた。 「本当 に、本当に真っ暗だったんだよ。 」ひだまり広場に着いた時には「年中さんたちに懐中電灯 で光を送ったんだよ!見えた?」と、昨日の記憶が蘇ってきてるようで、一生懸命話をし ていた。 ひだまり広場にてサークルタイム。今日の森の探検についてみんなで話をすることにし た。 「森と違うところに行って、森とは違う虫を探してみたい。」 「いつも曲がる、橋の先に いってみたい。 」それぞれがしたい活動を選ぶ。<虫捕りチーム>は青空をめざし、もう一 方の<探検チーム>は来た道を逆の方向をめざし、 「ばいば~い」と手を振って別れた。 ●<虫捕りチーム>RU、EI、MI、TH、HA、RN、KR、TA の 8 人。 8 人で話し合い、いつもと違う道を通って行こう、探検し ながら行こう、ということになった。数年前に行ったことの ある原っぱを目指して。 「私、行ったことある!」と RU。 「え? どこだっけ?」と MI。 「ほら、バッタとかがいてさ、お花が 咲いてた所」 「あぁ!」と、思い出した MI。そばにいた TH も 「あぁ!わかった!」と声をあげる。 「え?ぼく行ったことな いよ」と EI。 「そうだね。EI くんが入園する前に何度か行っ たことがあったところだよ」とスタッフ。 「どうやって行くんだっけ?」と MI。 「フェンス 側からヤギ小屋の方へ行かないで、もう一つの道に行くんだよ。 」とスタッフ。「あぁ!あ っちね」と TH。だけど、みんなよく分からない。そこで EI がひらめいた!「じゃあ、地 図書こうよ!」紙とペンで地図を書く。そんな年長の姿を『なになに?』 『おもしろそう!』 っと、輪のなかに入ってくる年中と年少。 フェンス入口までそれぞれ自由に進んでいく。もちろん、 川に落ちないよう気をつけながら。TA は、RN や KR、HA と 楽しげに並んで歩いていた。RU と MI はおしゃべりしなが ら。TH と EI は「早く行こう!」と、わくわくの気持ちが 足取りを早くさせていた。フェンス到着。ここからは道路 に出る。さて、さっき決めたバディーで行こう。ところが TA は、これまで一緒にきた RN と手をつなぎ、離そうとし ない。スタッフは、年少は年長と組むことを想定していた。しかし、TA は『ぼくは、RN と歩く』という。力強い目の輝き。 『いやだ』 『こうしたいんだ』という思い。TA の気持ち は決して“わがまま”の類ではない。TA が自分の意志をはっきり示してくれたことが何よ 22 りうれしかった。友だちの存在が彼のなかで大きくなってきていること、自分自身を出し ても良い場所、安心できる場所になっているのだろうと思えたから。 そして、もう一つうれしかったエピソード。それは、TA とバディを組むはずだった MI のひと言。TA が自分ではなく RI と組みたいという姿を見て、 「そっか。私が先に行っちゃ ったからなぁ。もっと、お世話してあげたらよかっ たのかな」と。自分自身の行動を振り返り、 “もしか したら” “もっとこうすれば…”と、相手を思いやっ て考える。そんな思いがこもったひと言に心が震え た。子どもたちは時に、大人の思いを軽く超えてい く。そして、大事なことに気づかせてくれる。 そんな出来事を経て向かった原っぱ。 「こっちだよ ね!」 「なんか、覚えてる!」などと話しながら。階 段を上りきると、広々とした原っぱが広がっていた。TH と RN が駆け出す。それに続けと KR が追いかける。虫はいるかな?とさっそく探し始める HA と EI。何があるのかな?と見 に行ってみる RU と MI。そんな草原でおやつタイム。冷えたリンゴジュース。一口、二口 飲んだ後、 「あれ?出ない!」…まだ凍っていたのだ。ハサミで切ってみると、中身はシャ ーベット状に!「ヤッタ~!」 「冷た~い!」おいしい!最高だね!冷たいおやつを頂いた 後は、原っぱ探検。どこまで続いているのか奥まで見に行ってみる。この広場に名前をつ けようということになった。 「う~ん…。前、お花咲いてたから、“お花畑”にする?」で も、みんなしっくりこない様子。なかなかいいネーミングが思いつかない。 「次来る時まで に考えよう!」次は、彼岸花が咲く頃、もう一方のチームの子もたちも一緒に、みんなで いってみようね!そう決めて、原っぱをあとにした。 ●<探検チーム> IO、KC、AO、YU、TO の 5 人。 ひだまり広場で虫取りチームと別れると、川沿いの橋に向か った。橋は真ん中まで行ったことがある。でも、渡りきったこ とがない。橋の上に立った時「あっちに行ってみたいなぁ~」 とずっと思ってきた。今日はその橋を渡るのだ!いつもなら U ターンする場所に立ち、そして、そこからの景色を改めて眺め る。 「ねぇ、この先には何があると思う?」と聞いてみた。 「どう する~!?タケノコたっくさんあって、遊園地みたいになって いたら。 (にやにや) 」さすが YU。想像力豊かだ。 「犬公園と、 豆公園があるって言ってたよ。 」IO が話す。KC が「ねぇ、犬公 園てどんな風になっているのかな?」。TO も加わり「豆公園っ て?」 。(AO) 「ねぇ!!とりあえず行こうよ!」と、はやる気持ちからみんなをせかす。 「よし、渡ろう!シュッパーツ!!」 23 橋を渡った。その先には、思ったよりも急な登り坂があった。坂道を登 りきったところに、森の竹林に似たような場所を発見。 「ここが、竹の子遊 園地だよ。 」と、YU。 「あれ?もう見つかっちゃたね。 」と、言いながら先へ。 自然と足早になる。 そこへ、どこかで見たことがある人がこちらに向かってやってくる。 「こ んにちは~。…あっ!!」森の入口で、よく会うおばちゃんだった。まさ か、こんなところで会えるなんて。いつもとは違う場所で偶然にもばった り。さらに特別な気持ちになる。 「どこへいくの?」と聞かれ「犬公園と、豆公園」と、KC。すると、お ばちゃんが「この近くに公園はあるけど…そこかな?そこだったらこっち の道を行った方がいいよ」と、途中まで案内してくれた。おばちゃんの後 をついて行く子ども達。そこが犬公園か豆公園じゃなくてもいい。とりあ えずついて行ってみよう。だって行ってみないとわからないね~。なんて 声が聞こえてきそう。 “冒険” “探検”という言葉が、心に余裕を持たせる。途中まで道案 内して下さったおばちゃんと別れ、教えてもらった道を進んでいく。 しばらく進むと 「あった~。 」 公園を見つけた!!リュックを置き、 一目散にブランコにのる AO と KC と YU。IO と TO は滑り台で遊ぶ。 しばらく遊んでいると、 滑り台を降りた先にある砂場で遊び始めた。 その砂場の砂は大きな山のようになっていた。そこを、 “桜島山”と 名付けた。IO が滑り台に立ち入り禁止の看板を作る。KC は桜島山に大きな枝を拾い集めて のせていく。その枝が、山の表情を面白くしていた。KC、IO、TO が 夢中になって次々と考えを出し合い、桜島山を完成さえていく。そ の楽しそうな様子をみていた AO と YU。最初は遊具に乗って遊んで いたけれど、やっぱりお友だちと、何かいろんなことを考え出して いくことの面白さを知っているから、桜島山作りの仲間に入れても らい一緒に遊んでいた。帰り前、またここに来れるように。この公 園を忘れないようにと絵を描いた。 「たのしかったね~」 「またこうよ。」「でも、 豆公園行ってないよ。 」と、話をしている。(ど うやらここは、子どもたちにとって犬公園のようだ。どうしてここが 犬公園というのだろうか…。)そこで聞いてみた。 「どうして、ここが 犬公園なの?」すると、 「だってほら~」と、指さした先にはイヌの看 板があった。しかし、その絵にはイヌの上に×が書かれていた。それ に気付いた子ども達。じゃあ、ここは「猫公園かな?」って(笑)。 「そ したら、どこかに犬公園もあるかもね。」 「次は、犬公園をさがしにい こうよ」 「地図を作っていかない?」そんな会話をしながらピンクハウ スへ向かった。 24 特別な時間。次への期待。自分達で遊びを見つける。子ど もたちが、自分達でこんなことをやってみたい。次はこんな ことをやってみようよ!と、主体的に遊べる力と、充実感を 感じることのできる時間。こんな機会や体験をもっともっと 提供していきたいと、思った瞬間。 最後のランチ たっぷり遊んで、 歩いてきたら、 もうお腹がすいちゃった! お泊まりで食べるご飯もこれが最後。メニューは?って、待 ちきれない。ゴマ塩おにぎり、さつま揚げ、トマトのいり卵、 ブルーベリー。 「う~ん!おいしそう!」と KC の声。全員で 「いっただっきま~す!」のごあいさつの後、さっそくさつ ま揚げにかぶりついた KR。満面の笑みを浮かべている。指に ついたおにぎりのご飯粒も残さずしっかり食べる EI。身振り手振り を交えて AO とのおしゃべりを楽しみながら食べる IO。お泊まり保 育最後の食事もペロリ!と完食。 スペシャルマジックショー いよいよ最後の時間、そして最後のお楽しみ♪ そ・れ・は、 『スタッフのスペシャルマジックショ ー』 。 「マジックショーが始まるよ!」と、声をかけ るや否や、テーブルを囲むように座るみんな。そ の素早さ、勢いのよさといったら!それだけ、ス タッフのマジックが大好きで楽しみだということ ♪『何が始まるんだろう…!』その表情からも楽 しみにしている気持ちを隠し切れない様子。HA は 隣りに座っている TH と肩を組み、EI は胸に手を 当て“ドキドキ・ワクワク”ニッコニコ。TA に至 っては口が半開き!(笑)かわいすぎる!!何かが 飛び出したり、消えたり、変化したりする度、み んなの歓声が部屋に響わたる。笑顔がはじける。 本当に魔法使いのように。 25 心を支えてくれたもの 12:30。楽しかったお泊りも終わりに近づく。最後まで、 「自分のことは自分で」と、 身の回りの物を片づけ、帰りの準備をする。 楽しかった時間からふと現実に戻り、帰る時間が迫ってきていることを感じるちょっぴり 寂しいけれど、大好きなママやパパに再会できるうれしい時間。 最後のサークルタイムでは、二日間を振り返る。 「何が楽しかった?」 「ナイトハイク~!」 「探検」 「ごはんつくり~」それぞれがいろんな思い出を口にする。顔を見合わせて笑い合 う。楽しかったということが子ども達の様子から伝わってくる。 一生懸命作った夕食も、怖いと思ったナイトハイクの時も、ある存在があったから。一 緒に乗り越えて、一緒に寝て、一緒に考えて、一緒にたくさん笑って。そう、そばにいて くれたお友だちが、みんなの心をそっと支えてくれていたんだね。 そして、もちろん、時には自分で背中を押して、挑戦して乗り越えた。 長くて短かった 2 日間のお泊りが終わった。 13 人の少し日焼けして頼もしくなった笑顔。 元気にパパ・ママのもとに帰っていった。 それぞれが、とても大きなお兄ちゃんやお姉ちゃんになって。 完 26
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