12 第 12 回 等価線形化手法による1質点1自由度系の非線形地震応答

構造振動特論-第 12 回資料
12 第 12 回
12.1
等価線形化手法による非線形地震応答の推定
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等価線形化手法による1質点1自由度系の非線形地震応答の推定
等価線形化手法の概略
ここでは,非線形領域で応答する1質点1自由度系モデルの最大応答を,線形弾性応答から類推
する方法について述べる.
非線形領域で応答する時の1質点1自由度系モデルの運動方程式は式(12.1)で表される.
my + f D ( t ) + f R ( t ) = −my0
(12.1)
ここで,式(12.1)で得られる非線形領域の応答を,系の塑性化の進展に伴う剛性の低下と減衰の増
大に着目して,これを等価な剛性と減衰を持つ線形弾性系の応答により近似する事を考える.等価
剛性を keq,等価粘性減衰定数を heq で表すと,等価な線形弾性系の運動方程式は式(12.2)で表される.
my + 2mheqωeq y + ωeq 2 y = −my0
(12.2)
ここで,ωeq は等価固有円振動数とし,式(12.3)で定義する.
ωeq = keq m
(12.3)
以下では,曲げ破壊する鉄筋コンクリート造構造物を想定して,図 12-1 に示す剛性低下型バイリ
ニアーモデルの復元力を想定する.議論の単純化のため,降伏後の耐力上昇の影響は無視する.図
12-1 において,等価剛性 keq を系の最大応答変位 ymax に対する割線剛性で定義する事とする.最大応
答変位 ymax における復元力を fRmax とすると,等価剛性 keq は式(12.4)で表される.
keq =
Qy
Qy
f R max
1
≈
=
= kE
ymax
ymax μδ y μ
(12.4)
ここで,δy(= Qy / kE)は降伏変位,μ(= ymax / δy)は塑性率である.等価剛性 keq を用いる事で等
fR
Qy
ymax
kE
y
keq
kR
ymax
y
kR = kE
y
μ
e
図 12-1
定常振動する場合の復元力特性(剛性低下型バイリニアーモデル)
12-1
y
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価周期 Teq が式(12.5)で定義できる.
Teq = 2π ωeq = 2π m keq
(12.5)
一方,等価粘性減衰 heq は,非線形応答における構造物を適切に評価して与える事とする.ここで,
heq を式に示すように非線形応答における復元力 fR の寄与分 heqR と減衰力 fD の寄与分 heqD とに分けて
考える事とする.
heq = heqR + heqD
(12.6)
系が円振動数ωeq で定常振動していると仮定すると,復元力 fR の寄与分 heqR は式(12.7)から求める
事ができる.
heqR =
1 ΔW
4π W
(12.7)
図 12-1 において,ポテンシャルエネルギーW は式(12.8)から得られる.
W=
1
1
f R max ymax ≈ Qy ymax
2
2
(12.8)
一方,1サイクルあたりの吸収エネルギーΔW は,図 12-1 におけるハッチング部分の面積となる
ので,式(12.9)で表される.
⎛
Qy
⎛
⎞
f
ΔW = 2 f R max ⎜ ymax − R max ⎟ ≈ 2Qy ⎜ ymax −
⎜
kR ⎠
kE μ
⎝
⎝
⎛
⎞
⎛
μδ y ⎞
1 ⎞
⎟ = 2Qy ymax ⎜1 −
⎟⎟ = 2Qy ymax ⎜1 −
⎟
⎜
⎜
μδ y ⎟⎠
μ ⎟⎠
⎠
⎝
⎝
(12.9)
従って,これらを式(12.7)に代入する事により,復元力 fR の寄与分 heqR は式(12.10)で得られる.
heqR
⎛
1 ⎞
2Qy ymax ⎜ 1 −
⎟
⎜
μ ⎟⎠ 1 ⎛
1 ΔW
1
1 ⎞
⎝
=
=
= ⎜1 −
⎟
⎜
1
4π W
4π
π⎝
μ ⎟⎠
Qy ymax
2
(12.10)
一方,減衰力 fD の寄与分 heqD は,減衰定数が弾性時での値 h0 と比べて剛性低下により低下するも
のと考える.ここでは,系が円振動数ωeq で定常振動している場合には,減衰力 fD の寄与分 heqD を表
す減衰係数 ceq が最大応答点での等価剛性に比例するものと考えると,式(12.11)で表される.
ceqD =
2h0
ωe
keq = 2mheqDωeq
(12.11)
ここで,ωe は弾性時の固有円振動数である.式(12.11)より heqD は以下のように表される.
heqD =
⎛ ωeq
h0 keq
= h0 ⎜
ωe mωeq
⎝ ωe
⎞ h0
⎟=
μ
⎠
(12.12)
以上により,系が円振動数ωeq で定常振動している場合の等価粘性減衰定数が式(12.13)で表される.
heq = heqR + heqD =
1⎛
1 ⎞ h0
⎜⎜ 1 −
⎟+
π⎝
μ ⎟⎠
μ
(12.13)
しかしながら,系が非線形領域で応答する場合,最大振幅 ymax で定常振動しているわけではない
ので,式(12.13)より算出される heq は過大評価となると考えられる.そこで,式(12.13)を式(12.14)の
形に修正し,係数αは非線形時刻歴応答解析の結果に基づき定める事とする.
12-2
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⎛
1 ⎞ h0
heq = α ⎜ 1 −
⎟+
⎜
μ ⎟⎠
μ
⎝
12.2
(12.14)
等価粘性減衰定数の算定
ここでは,柴田らの”Substitute Damping”の考え方により,等価粘性減衰定数の評価を行う.非線
をかけて時刻 0 から時刻 td まで積分すると式(12.15)
形運動方程式(式(12.1))において,両辺に dy = ydt
が得られる.
td
td
td
td
0
0
0
0
+ ∫ f D ( t ) ydt
+ ∫ f R ( t ) ydt
= − ∫ my0 ydt
∫ myydt
(12.15)
ここで,時刻 td における運動エネルギーWK(td),減衰エネルギー(減衰力によるエネルギー消費分)
WD(td),ひずみエネルギーWS(td),入力エネルギーEI(td)をそれぞれ式(12.16)~(12.19)で定義する.
td
=
WK ( td ) = ∫ myydt
0
2
1
m { y ( td )}
2
(12.16)
td
WD ( td ) = ∫ f D ( t ) ydt
(12.17)
0
td
WS ( td ) = ∫ f R ( t ) ydt
(12.18)
0
td
EI ( td ) = − ∫ my0 ydt
(12.19)
0
式(12.16)~(12.19)を式(12.15)に代入すると,エネルギーの釣合い式が式(12.20)で得られる.
WK ( td ) + WD ( td ) + WS ( td ) = EI ( td )
(12.20)
ここで,td を地震終了後に十分経過した後の時刻と考え,系が静止状態となると仮定する.その
時,運動エネルギーWK(td)は 0 となるので,地震終了後のエネルギーの釣合いは式(12.21)の形となる.
WD ( td ) + WS ( td ) = EI ( td )
(12.21)
式(12.21)は,系が非線形領域で応答する場合には,地震動による入力エネルギーEI(td)が減衰によ
る吸収エネルギーWD(td)とひずみエネルギーWS(td)として吸収される事を示している.
をかけて時刻 0 から時
一方,等価線形系の運動方程式(式(12.2))において同様に両辺に dy = ydt
刻 td まで積分すると式(12.22)が得られる.
td
td
td
td
0
0
0
0
= − m ∫ m ∫ yydt + 2mheqωeq ∫ y 2 dt + mωeq 2 ∫ yydt
y0 ydt
(12.22)
式(12.22)において,td を地震終了後に十分経過した後の時刻と考えると,等価線形系においては
左辺の運動エネルギーに相当する項(第1項)のみならずひずみエネルギーに相当する項(第3項)
も0となるので,heq が式(12.23)により得られる.
td
heq =
− ∫ y0 ydt
0
(12.23)
td
2ωeq ∫ y dt
2
0
ここで,等価粘性減衰 heq を,非線形時刻歴応答解析の結果から式(12.23)を用いて算定する事とす
12-3
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る.具体的には,非線形応答解析により得られる速度 y の時刻歴と最大応答点から定まる等価固有
円振動数ωeq を式(12.23)に代入して算定する事とする.
等価粘性減衰 heq の算定結果を図 12-2 に示す.図 12-2 は,弾性固有周期 Te を 0.1~2.0 秒,弾性
時の減衰定数 h0 を 0.05 とし,観測記録 5 波を最大速度 V0 = 0.5m/s となるように振幅を係数倍した
ときの結果である.ここで,C は系の降伏ベースシアー係数であり,式(12.24)で定義される.
C = Qy mg
(12.24)
ここで,g は重力加速度である.図 12-2 より,等価粘性減衰 heq を値は地震動によりばらつきが
図 12-2
等価粘性減衰定数の算定結果
12-4
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みられるものの,αの値として 0.25 程度としておけば概ね小さい側(安全側)に評価できそうであ
ることがわかる.そこで,等価粘性減衰 heq の算定式として式(12.25)を用いる事とする.
⎛
1 ⎞ h0
heq = 0.25 ⎜ 1 −
⎟+
⎜
μ ⎟⎠
μ
⎝
12.3
(12.25)
等価線形化法による最大応答の推定
以上の準備に基づき,等価線形化法による非線形領域での最大応答の推定手順を以下に述べる.
ここでは,入力地震動の特性は弾性応答スペクトルとして与えられているものとする.
STEP 1:構造物を1自由度系にモデル化し,その復元力特性を,降伏後の耐力が一定となる完全
弾塑性型のバイリニアー型で与える.具体的には,系の質量 m ならびに初期(弾性)剛性
kE,降伏耐力 Qy を定める.
STEP 2:初期値として,等価固有周期 Teq を弾性固有周期 Te,等価粘性減衰定数 heq を弾性時の減
衰定数 h0 と仮定する.
STEP 3:弾性加速度応答スペクトルの値 SA(Te,h0)を求め,系に生じる最大応答せん断力 Qmax を
式(12.26)より求める.
Qmax = m ⋅ S A (Te , h0 )
(12.26)
最大せん断力 Qmax が降伏耐力 Qy より小さい場合,系は線形弾性範囲で応答する事となり,
最大変形 ymax は初期剛性 kE を用いて ymax = Qmax / kE と得られて終了する.一方,Qmax > Qy
の場合には,STEP 4 に進む.
STEP 4:塑性率μを 1 から少し大きい値と仮定し,このときの等価剛性 keq を式(12.4),等価固有周
期 Teq を式(12.5),等価減衰定数 heq を(12.25)から求める.
STEP 5:弾性加速度応答スペクトルの値 SA(Teq,heq)を求め,系に生じる最大せん断力 Qmax を式
(12.26)より求める.
Qmax = m ⋅ S A (Teq , heq )
(12.27)
最大せん断力 Qmax が降伏耐力 Qy と等しい場合,
最大変形 ymax は仮定した塑性率μを用いて,
ymax = μδy と求められる.一方,Qmax > Qy の場合には,塑性率μを先ほどより大きい値に仮
定しなおして,STEP 4 に戻り再び算定する.以下,Qmax = Qy となるまでこれを繰り返す.
例)質量 100ton,弾性固有周期 Te = 1.0s で降伏耐力 Qy = 294kN の1自由度系の最大応答変位を求
める.降伏後の系の復元力は一定(完全弾塑性型)とし,弾性時の減衰定数 h0 は 0.05,復元力特性
は RC 造を想定し,剛性低下型バイリニアーモデルとする.ここで,入力地震動の加速度応答スペ
クトルは以下により与えられるとする.
⎧4.8 + 45T
⎪
S A (T , 0.05 ) = ⎨12
⎪6.912 T
⎩
T ≤ 0.16 s
0.16s ≤ T < 0.576s
(12.28)
T ≥ 0.576 s
なお,系の等価粘性減衰定数 heq は式(12.25)を,減衰による応答スペクトルの低減係数 F(h)は式
(12.29)を用いて算定してよいものとする.
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F (h) =
1.5
1 + 10h
(12.29)
このとき,等価周期 Teq,等価粘性減衰 heq に対する加速度応答スペクトル SA(Teq,heq)の値は式
(12.30)で得られる.
S A (Teq , heq ) = F ( heq ) ⋅ S A (Teq , 0.05 ) =
1.5
S A (Teq , 0.05 )
1 + 10heq
(12.30)
(解)系の弾性固有周期 Te = 1.0s であるので,そのときの加速度応答スペクトルの値は
S A (1.0, 0.05 ) =
6.912
= 6.912m/s2
1.0
この時,系が弾性応答すると仮定したときの最大最大応答せん断力 Qmax は,
Qmax = m ⋅ S A (1.0, 0.05 ) = 100 × 6.912 = 691.2kN > Qy = 294kN
従って,Qmax > Qy であるので,系は非線形領域で応答する事となる.
そこで,以下の表を作成し,塑性率μを少しずつ大きくして応答を算定する.
表 12-1
塑性率
最大変形
復元力
等価線形化法による応答の推定
等価剛性
等価周期
等価減衰
μ
ymax(m)
fR (kN)
keq (kN/m)
Teq (s)
heq
1.00
0.0745
294
3948
1.00
0.050
1.01
0.0752
294
3909
1.00
1.02
0.0759
294
3870
1.03
0.0767
294
1.04
0.0774
294
F(h)
SA(Teq,heq)
2
Qmax
(m/s )
(kN)
1.000
6.912
691.2
0.051
0.993
6.832
683.2
1.01
0.052
0.987
6.755
675.5
3833
1.01
0.053
0.981
6.680
668.0
3796
1.02
0.054
0.975
6.607
660.7
…(途中過程を省略)
2.48
0.1847
294
1592
1.575
0.1230
0.673
2.952
295.2
2.49
0.1854
294
1585
1.578
0.1233
0.671
2.943
294.3
2.50
0.1862
294
1579
1.581
0.1235
0.671
2.938
293.4
2.51
0.1869
294
1573
1.584
0.1238
0.670
2.925
292.5
以上により,最大変形 ymax の推定値は,0.186m となる.
例題の推定結果を図により表現したものが図 12-3 である.まず図 12-3(a)では,系の(復元力 fR /
質量 m)-変位 y の関係と,加速度応答スペクトル SA(T, h)-速度応答スペクトル SD(T, h)の関係を
示している.一方で図 12-3(c)には系の等価周期 Teq(式(12.5))-変位 y の関係が,図 12-3(c)には系
の等価粘性減衰 heq(式(12.25))-変位 y の関係がそれぞれ示されている.ここで,系の変位 y に応
じて定まる Teq,heq に対応する SA(Teq, heq)-SD(Teq, heq)が図 12-3(a)中の太い点線で表されている.こ
の太い点線と系の(復元力 fR / 質量 m)-変位 y の関係の交点(図 12-3(a)中の黒い点)が最大応答
の推定値となる.なお,図 12-3(a)中には非線形時刻歴応答解析より得られた最大応答が白丸の点も
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併せて示しているが,推定結果は解析値よりも大きめの値(安全側)となっている事がわかる.
図 12-3
例題の系の最大応答の推定
12-7
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演習問題
12.4
z
等価線形化手法による非線形地震応答の推定
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12.3 節の例題と同様にして,以下の1自由度系の最大応答変位 ymax を求めよ.
構造物1:質量 100ton,弾性固有周期 Te = 0.8s で降伏耐力 Qy = 294kN.
構造物2:質量 100ton,弾性固有周期 Te = 0.4s で降伏耐力 Qy = 588kN.
降伏後の系の復元力は一定(完全弾塑性型)とし,弾性時の減衰定数 h0 は 0.05,復元力特性は RC
造を想定し,剛性低下型バイリニアーモデルとする.ここで,入力地震動の加速度応答スペクトル
は式(12.28)より与えられるとする.等価粘性減衰定数 heq の算定式,ならびに減衰による応答スペク
トルの低減式はそれぞれ式(12.25),式(12.29)を用いてよい.
次いで,この構造物1・2の非線形時刻歴応答解析を,前回課題で使った Excel マクロ” 非線形
応答解析-Degrading-Bi-Linear-2014 版.xlsm”を用いて実施し,等価線形化法で求めた結果と比較せよ.
提出物には,各々の構造物につき,
z
計算過程の確認できるもの(表 12-1,ただし最大値付近を抜粋したもの)
z
図 12-3 に相当するものを付ける事(ただし,非線形時刻歴応答解析のプロットは不要)
z
非線形時刻歴応答解析結果(シート”Graph-履歴応答”).
とする.
12-8