質問の回答と補足

生態環境計測学 2014.9.26 の質問・補足
回答者 : 植山
1. 地球規模で相対湿度の上昇量と気温の上昇量がマッチしない理由はあるのでしょうか?また、
温暖化等による気候変化によって将来の降水量は変化するのでしょうか。
[Answer]
大気が水蒸気を含むことができる量、即ち飽和水蒸気圧は、気温の上昇により高くなる。こ
のため、温暖化により気温が上昇すれば、飽和水蒸気圧も高くなる。表面と大気との水蒸気圧
差に従って蒸発は起こりやすくなるため、飽和水蒸気圧が上昇すれば蒸発は起こりやすくなる。
実際に、1973 から 2003 年にかけて全球の広い地域で地表面近傍の比湿の上昇が観測されてい
る(IPCC, 2013)
。ここでの上昇量は飽和水蒸気圧の上昇量と対応し、全球平均でおおよそ相対
湿度が 50%を維持していたということらしい(横畠, 2009)
。一方、2000 年代以降、原因はよく
わかっていないが、地表面近傍の比湿の上昇は観測されなくなった(IPCC, 2013)
。この間、気
温の上昇により飽和水蒸気圧は上昇したため、地表面近傍の相対湿度がわずかに低下したこと
が観測されている(IPCC, 2013)
。
IPCC 第 5 次報告書によると、将
RCP2.6
RCP8.5
来の降水量の変化は地域により異
なり、乾燥地ではより乾燥化し湿潤
な場所ではより降水量が増えると
予測されている(図 1)
。
図 1. 気候モデルによる年間降水量の変化予測
参考文献:
IPCC, 2013: Summary for Policymakers.
In:
Climate Change 2013: The
Physical
Contribution of
Climate Change
Science
1986-2005 年に対する 2081-2100 年の相対上昇量
RCP は温室効果気体排出シナリオを表す。
Basis.
Working Group I to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on
[Stocker, T.F., D. Qin, G.-K. Plattner, M. Tignor, S.K. Allen, J. Boschung, A. Nauels, Y.
Xia, V. Bex and P.M. Midgley (eds.)].
Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA
IPCC, 2013;
第 5 次報告(Hartmann, D.L., A.M.G. Klein Tank, M. Rusticucci, L.V. Alexander, S.
Brönnimann, Y. Charabi, F.J. Dentener, E.J. Dlugokencky, D.R. Easterling, A. Kaplan, B.J. Soden, P.W.
Thorne, M. Wild and P.M. Zhai, 2013: Observations: Atmosphere and Surface. In: Climate Change 2013:
The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Fifth Assessment Report of the
Intergovernmental Panel on Climate Change [Stocker, T.F., D. Qin, G.-K. Plattner, M. Tignor, S.K. Allen, J.
Boschung, A. Nauels, Y. Xia, V. Bex and P.M. Midgley (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge,
United Kingdom and New York, NY, USA.)
横畠徳太, 2009: 水蒸気の温室効果, 気象ブックス 026 ココが知りたい地球温暖化. 国立環境研
究所 地球環境センター, 成山堂, pp. 30-35.
(http://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/11/11-2/qa_11-2-j.html)
2. 湿度の指標がさまざまあるが、それぞれの利点・欠点が分かりません。
[Answer]
湿度とは、空気中に含まれる水蒸気の量を表す概念である。湿度には、相対湿度、比湿、混
合比、水蒸気圧、飽差等、様々な指標がある。
相対湿度は、飽和水蒸気圧と水蒸気圧の比であらわされる。飽和水蒸気圧が気温の関数であ
るため、水蒸気圧が変化しなくても、気温が変化すると相対湿度の値は変わる。例えば、夜間
は日中に比べて気温が低いため、相対湿度は日中よりも高い値をとる傾向がある。
比湿や混合比は、大気中に含まれる水蒸気の絶対量を表す指標である(乾燥空気の質量が大
きく変化しない条件の場合)
。凝結等により水蒸気の量が変化しない場合、大気中の混合比は気
圧や温度で変化しないため、気象学の分野では大気の動きを知るのに混合比の分布が使われる。
飽差は、飽和水蒸気圧と水蒸気圧の差である。この指標は、大気があとどの程度、水蒸気を
含むことができるかを表しており、洗濯物等の乾燥しやすさや火災の起こりやすさなどの指標
となる。
参考文献:
日本農業気象学会, 1997: 湿度 (humidity), 新編 農業気象学用語解説集―生物生産と環境の科
学―, 日本農業気象学会, 東京, pp. 20-21.
小倉義光, 1999, 一般気象学 第 2 版, 東京大学出版会, 東京, 308pp.
3. 日射計の仕組みをよく理解できませんでした。
[Answer]
日射計は、光電式と熱電式の二つのタイプに大別される。
光電式の日射計は、波長別感度特性を持つ光電素子(フォト
ダイオード)を利用して、受光部において入射した光子の量
ガラスドーム
1)風の影響を防ぐ 熱電堆
2)長波放射の遮断
多数を直列した熱電対により
白・黒の温度差を計測
受光部
を計測する。熱電式の日射計は、受光部が吸収した日射エネ
ルギーを熱エネルギーとして測定する。光電式の日射計では、
白黒の受光部の温度差を熱電堆で計測する(図 2)
。
図 2. 熱電式の日射計の模式図
参考文献:
岡田益己 (2014), 日射量・光強度の正しい測り方. 生物と気象, 14, A1-3.
4. 熱電対温度計や電気抵抗温度計の原理を説明してください。
[Answer]
熱電変換器
熱電対についてはウィキペディアによる説明が簡潔
であるため、それ引用する。
「熱電対(英: thermocouple)
T1
測温部
V1
+
T0
温度センサー
は温度差を測定するセンサ。異なる二種の金属を接合す
ると、それぞれの熱電能の違いから 2 つの接合点を異な
図 3. 熱電対温度計の回路
る温度に応じた電圧が発生し一定の方向に電流が流れる。異種金属の 2 接点間の温度差によ
って熱起電力が生じる現象(ゼーベック効果)を利用した温度センサである。
」
熱電対を用いる計測では、図 3 のような回路を用いて測温部の温度(T1)を計測する。熱電
対では、T1 と T0 の温度差を計測するため、T1 の温度の絶対値を知るためには、電気抵抗温
度計等で T0 の温度を計測しておく必要がある。
電気抵抗温度計は、温度が上昇すると抵抗値が増す金属を用いた抵抗温度計(白金抵抗温
度計)と、逆に抵抗値が減る半導体を用いた抵抗温度計(サーミスタ温度計)がある。測温
部の温度に対する抵抗値には個体差があるため、あらかじめ抵抗値と温度の対応を正確に調
べておく必要がある。また、一般にサーミスタ温度計は経年劣化があるため、定期的に検定
する必要がある。
参考文献:
日本農業気象学会 (1997), 新訂 農業気象の測器と測定法. 農業技術協会, 東京, 345pp.
Wikipedia (http://ja.wikipedia.org) 関連キーワード:熱電対
5. ステファン―ボルツマンの法則を説明してほしい。
[Answer]
ステファン―ボルツマンの法則とは、黒体放射が黒体温度の 4 乗に比例するという法則であ
る。この時の比例定数(σ)がステファン―ボルツマン定数(5.67X10-8 W m-2 K-4)である。こ
こで、黒体とは、すべての波長の放射を吸収・射出する物体のこという。現実に存在する物体
から射出される放射エネルギーは、黒体放射よりも小さい。射出率とは、黒体放射に対する放
射エネルギーの減衰率として定義される。
黒体以外の物体に対する放射量(L)は、物体の表面温度(Tsurf; 単位は絶対温度)と射出率
(ε)とステファン―ボルツマン定数(σ)を使って、以下のように表される。
L = εσTsurf 4
参考文献
日本農業気象学会, 1997: 黒体 (black body), 新編 農業気象学用語解説集―生物生産と環境の
科学―, 日本農業気象学会, 東京, pp. 90.
6. アノマリとは何かを説明してほしい。
[Answer]
アノマリ(anomaly)とは基準値からの偏差を表し、以下のように定義される。
anomalyi = Vi − Vstd
値、anomalyi はデータ列 i 番目のアノマリを表
す。例えば、図 4 は、1850 年からの全球の気
温のアノマリである。ここでは、1961~1990
年間の気温の平均値(Vstd)を使って各年の気
温(Vi)の偏差を計算したものが、アノマリと
して示されている。
全球の表層気温のアノマリ (℃)
ここで、Vi はデータ列 i 番目の値、Vstd は基準
年
図 4. 全球の表層気温のアノマリ
引用文献
IPCC, 2013; 第 5 次報告(Hartmann, D.L., A.M.G.
1961-1990 年に対する相対値 (IPCC, 2013)
Klein Tank, M. Rusticucci, L.V. Alexander, S. Brönnimann, Y. Charabi, F.J. Dentener, E.J. Dlugokencky,
D.R. Easterling, A. Kaplan, B.J. Soden, P.W. Thorne, M. Wild and P.M. Zhai, 2013: Observations:
Atmosphere and Surface. In: Climate Change 2013: The Physical Science Basis. Contribution of Working
Group I to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Stocker, T.F., D.
Qin, G.-K. Plattner, M. Tignor, S.K. Allen, J. Boschung, A. Nauels, Y. Xia, V. Bex and P.M. Midgley (eds.)].
Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA.)