数学の世界 C 第 3 回試験(7 月 23 日実施,試験時間 60 分)の解答例とコメント 問 1 を 10 点,問 2 問 3 を 15 点の 40 点満点で採点した.満点は 6 人,最低点は 2 点,平均は 28.49 点だっ た.採点において,計算ミスは基本的に無視している.ただ計算が正確にできない人も多い.この程度の計算 は確実にできるようになってほしい.もっとも,電卓が普及した現状で,手計算の力が落ちるのはやむを得な いのかもしれないが. 問1 次の文章の枠内に適切な用語,文章または式を入れよ. 時間とともに変化する量を x(t) と表す.時刻が t から t + ∆t まで経過したときの変化量は ア なのでそれ を経過時間 ∆t で割れば単位時間当たりの変化量になる.これを ∆ → 0 として極限をとったものが微分 x′ (t) である.微分とはその時刻における単位時間当たりの変化量といえる. x(t) の単位時間当たりの変 化量が常に一定であれば x(t) は イ 関数である. 変化量を tyウ で割ったものを変化率という.微分を使えば単位時間当たりの変化率は エ と表せる. 単位時間当たりの変化率が常に一定であれば x(t) は オ 関数である.変化率一定の現象の例としては カ がある.なお,変化率が正の時は増加率,負の時は減少率と呼ぶことが多い. 2 種類の生物 X, Y のいる生態系では,X, Y の個体数 x(t), y(t) の変化率は他方の個体数によって変化する と考えられる.例えば X が Y を捕食するとき,x(t) の変化率は y が増えれば キ する.一方 y(t) の変化率 は x が増えれば ク する.これを簡単に 1 次式とおけば,x(t) と y(t) に関する微分方程式 ケ が得られる. 【解答例】 ア x(t + ∆t) − x(t) イ 一次 ウ 全量,x(t) エ x′ (t)/x(t) オ 指数 カ 放射性元素の崩壊,出生率・死亡率一 定の町の人口 キ 増加 ク 減少 ケ x′ = (−A + By)x, y′ = (C − Dx)y 【コメント】 • アはすなおに式で表示すればよい.一定という解答も目立ったが見当外れだ.この段落の最後の「一定 であれば」とつながらなくなる. • ウは経過時間としたものが目立った.変化量を経過時間で割ったら「単位時間当たりの変化量」だ.変 化率ではない.変化率とは変化量の全体量での割合なので,全体量, x(t) などが正解になる. • カは「放射性元素の崩壊」とすればよい.「人口増加率」とした解答も目立ったが,人口は一定の割合で 増加するとは限らない.「出生率,死亡率一定の町の人口」とすればよいが.「放射性元素の半減期」と いう解答は迷ったが崩壊の現象について言ってるつもりだろうと判断し正解にした.ただし「半減期」 は概念であって現象ではない. • ケは変化率を 1 次関数でおけばよい.解答例の形で与えると,係数は正になるがそこまでは求めなかっ た.「これを簡単に 1 次式とおけば」という問題文の「これ」が x(t), y(t) の変化率を意味していること に気づけば,授業内容を忘れていても答えられるはずだ. • ケは本質的に 2 つあるので 2 点,他は 1 点の 10 点満点で採点した.平均点は 5.24 点だった. 問2 大気中には放射性炭素(炭素 14)が常に一定の割合で含まれることが知られている.樹木は呼吸 をしているので,その生きている間の炭素 14 の割合は大気中での炭素 14 の割合と等しい.一方,伐採 して木材になると呼吸をしなくなるので炭素 14 の割合は崩壊によって減少していく.その半減期(半分 になるのにかかる時間)は約 5730 年である.以下の問いに答えよ. (1) 伐採されてから t 年経過したときの炭素 14 の割合を x(t) とおく.変化率一定の現象なので x(t) = Re−αt と表せる.ただし x(0) = R は大気中の炭素 14 の割合である.α と 5730 の関係を記述せよ. (2) ある木材を調べたところ,炭素 14 の割合は大気中の割合の 2/3 になっていたという.この木材は伐 採から何年たったと考えられるか.ただし log 3 = 1.099, log 2 = 0.693 とすること. (3) 現在の機械の精度では炭素 14 の割合が大気中の 1/210 以下になると測定できない.ここで述べた年 代測定法は何年前まで適用できるか. 【解答例】 (1) x(5730) = Re−α5730 = R/2 より e−α5730 = 1/2 である.e を底とする対数をとれば −α5730 = − loge 2 なので α= loge 2 5730 である. (2) 経過した年数を Y とすると x(Y) = Re−αY = 2R/3 なので e−αY = 2/3 である.e を底とする対数をとると αY = − loge (2/3), Y= loge 3 − loge 2 loge 3 − loge 2 0.406 = 5730 ≒ 5730 ≒ 3357 α loge 2 0.693 (3) 5730 年たつと半分になるので,57300 年経過すると 1/(210 ) になる.これを超えると検出できなくなるの で放射性炭素により年代測定は行えない. 【コメント】 • (1) は関係を記述せよという問題なので e−α5730 = 1/2 としてもよい.これから対数をとって計算すると きにミスをしてしまった人もこの式があれば正解にした.ただし,α を解答例のように t の式にしない と次の問題に答えられない. • (1) で Re−α/5730 = 1/2 としてしまう人がいた.これでは R が残ってしまい,次の問題に答えられなくな る.なお (2) を (1/2)t/5730 = 2/3 として解くと,(1) での上記のミスはカバーされる. • (3) の答えが 1000 年に満たない人は半減期が 5730 年であることとの矛盾を感じてほしい.573010 と いう解答には思わず笑ってしまう.100010 = 1030 ではこの宇宙の年齢(150 億年ほど)をはるかに超 えてしまう. • 各問 5 点,計 15 点で採点した.また計算ミスは一切無視した.平均点は 11.35 点だった. 問3 ケプラーの法則が数学的に証明できたことにより,太陽系におけるすべての惑星等について軌道長 半径の 3 乗と,公転周期の 2 乗は比例することが分かった.特に単位を AU と年にすれば,地球では両 方とも 1 なので,比例定数も 1 になる.すなわち軌道長半径の 3 乗と公転周期の 2 乗は一致する.以下 の問いに答えよ. (1) ハレー彗星の公転周期は 76 年,近日点距離は 0.59AU である.遠日点距離を求めよ.なお 762/3 ≒ 17.94 としてよい. (2) 海王星はほぼ円軌道であり,その半径と冥王星の近日点距離はほぼ等しい.冥王星の公転周期は海王 √3 星の公転周期の 1.5 倍であることから,冥王星の遠日点距離と近日点距離の比を求めよ.なお 18 ≒ 2.62 としてよい. 【解答例】 (1) 遠日点距離を x とすると長半径は x+0.59 2 である.この 3 乗が公転周期の 2 乗 762 と等しいので x + 0.59 = 762/3 ≒ 17.94 2 x = 2 × 17.94 − 0.59 = 35.29 (2) 海王星の軌道半径を R とする.冥王星の近日点距離は R であり遠日点距離を xR とおく.海王星の公転周 期を T とすると冥王星の公転周期は 3T/2 である.海王星について R3 = T 2 が成り立ち,冥王星について ( R + xR )3 2 ( )2 3 = T 2, 2 1+x = 2 √ 3 9 , 4 x= √3 18 − 1 ≒ 1.62 【コメント】 • 長半径,遠日点距離,近日点距離の関係がきちんととらえられていない人がいる.そのために黒板に図 示したのだが分からなかったのだろうか. • 公転周期を π を使った式で表す人がいるが,円の面積と誤解したのだろうか.なぜそういう答えが出て くるのか理解に苦しむ. • 2(1.5)2/3 = √3 18 に気が付かない人がいた.そう難しいことではないと思うのだが. • (1) を 7 点,(2) を 8 点の計 15 点満点で採点した.平均点は 11.91 点だった. アンケートについて,最も印象に残ったものとして,第 1 章の題材をあげた人が 35 人,第 2 章が 58 人,第 3 章が 23 人だった.第 1 章ではユークリッドの互除法,第 2 章では球面多角形の面積をあげた人が多かった. 第 2 章の内容は高校までではまったく扱っていないことなので新鮮だったようだ.第 3 章を取り上げた人は予 想通り少なかった.つかみどころがないと感じる人も多かったのではないか.それでも生態系の話やケプラー の法則などを取り上げてくれた人も少なくなかった. 第 3 章についてコメントしておこう.講義で解説したことは微分の意味とそれがどのように様々な現象の理 解に役立つのかということだ.特に変化率という考え方は重要で,問 1 の主要な質問項目になっている.ただ それだけでは試験にならないので,問 2 と問 3 をつけた.これは物理などの試験問題ともいえる.しかし,こ の講義で強調したことは,この考え方の裏に,微分によって導き出された現象の理解があるということだ.ケ プラーの法則は事実として知っているだけでも興味深いことではあるが,これが万有引力の法則と運動方程式 から微分積分によって導き出されるということを知っていてほしい. 今年の授業ではケプラーの法則の証明を扱えなかった.心残りである.文系の学生には厳しい内容だが,理 系の学生は十分理解できる内容だ.テキストにきちんと記述してあるので興味のある人は是非読んでみてほ しい. 途中の放棄者もほとんどなく,多くの人が最後まで受講してくれたことに感謝します.この講義が,君たち の数学に対する意識,より一般に学問に向き合う姿勢を見直すきっかけになることを願っています. 井上 尚夫
© Copyright 2024 ExpyDoc