高橋和郎 上利

4)坐骨神経近位部の微細構造
*
中 村 晴 臣
* 串
智
零
高橋和郎 上利
子子
ホ
ホ
水 平 敏 知 岡 田
美永
研究協力者
結 果
1)ヘテロ接合体マウス:R部にはDyマウ
目 的
ジストロフィーマウス(以下Dyマウス)の
末梢神経近位部には,著明な髄鞘形成不全が
スにみる如き無髄軸索の大集団は認められず,
認められ,筋病変の成因との関係が論じられ
無髄神経の小集団はいずれもSchwann細胞
1,2〉
ている(Bradley and Jenkison,Biscoe et
胞体に包まれ,ほぽ正常像と考えられた。
3。4) 5)
al,Stirling〉.かかる髄鞘の変化をBradley
2)Schwann細胞:Dyマウスの無髄軸索
らはdysmyehnationと称し,Stirlingはamye・
集団は,胎生期軸索に類似し,周辺部に散在
神経近位部に髄鞘形成の不全を認めると共に,・
するSchwann細胞はその軸索集団全周を必ず
しも取りまかず,かつ基底膜を欠いているも
坐骨神経遠位部に下るに従い大径無髄線維が
のもある.即ち,異常なSchwann細胞と考え
減少乃至消失することを報告した.本研究の目
られる.P部では大きなcollagen pocket形成
6,7)
linationと呼んでいる.著者らもDyマウス坐骨
を示すSchwann細胞がみられた.P部とD部
的は,微細構造の面から髄鞘形成不全の成因
を追究するとともに,無髄線維消失の原因を
では多量のlysosomeを含有するものがみら
れたが,R部では稀である.かかる変化は対
知ることにある.
照マウスには認められない.
方 法
3)髄鞘:Dyマウス坐骨神経の横断面では,
使用動物は実験動物中央研より提供された
髄鞘輪の不整形と髄鞘板の厚さの不整が著明
3∼16週目のDyマウス(C57BL/6」・dy dy)
で,embryonal myelinationに類似した所見
をみるが,縦断面では次の如き所見がみられ
8匹と,対照マウス(C57BL/6J・++あ
るいはC57BL/6J・dy+)8匹のほか,12週
た.即ち,髄鞘形成はRanvier絞輪の所で止
及び20週目の確実なヘテロ接合体マウス(C
まり,それに続く軸索はaxolemmaのみ,或
57BL/6J−dy+)5匹である.エーテル麻酔
はSchwann細胞の胞体のみで包まれている.
下に左心室より0.1M燐酸緩衝液加2.5%
すなわちStirlingのhalfnodeに相当する.
glutara亘d曲yde(pH7.2)にて濯流固定後,
かかる髄鞘の欠除は,Ranvier絞輪の近位部
坐骨神経を全長に亘って摘出し,オスミウム
にも,また遠位部にも認められる.絞輪間の
酸にて再固定後,型の如くEponに包埋.神
経根部(R),坐骨結節直上部(P)並ぴに
みの髄鞘欠除はみられなかった.また,大径
無髄軸索集団に続いている軸索に,髄鞘が形
直下部(D)の横断及ぴ縦断面の超薄切片を
成される部位も認められた.
作り,ウラニール塩と鉛塩による重染色を施
4)Ranvier絞輪:Paranodal myelin
し,電顕的検索に供した.
lamellaeの不対称,parahodal cytoplasma
内の1ysosome増加,あるいはdesmosome
様物質の不対称的出現などが,時に認められ
*鳥取大学医学部脳研神経病理
ホ*東京医科歯科大学難治研
たのみで,上述のhalhode以外には明らか
一99一
灘
灘鑛
図1 大径無髄線維の変性
14週目Dyマウスの坐骨神経近位部X13,000.
な異常所見はない.
し,無髄線維では対照に比1しNTは減少し,
5)無髄線維:対照に比し,軸索の電子密
NFは増加している(P〈0.005).
度が高く,neurofilamentの増加がみられ,
neurotubuleほ少ないようにみられたが,そ
考 案
し,P部,D部では大径軸索の変性が多くみ
Dyマウス坐骨神経の近位部には,embryo一
ヘ ヤ
naI myehnation類似の所見がみられるのであ
られた先即ち,dense body,small myelin
るが(岡田ら),同時にhalfnodeを示す
の計測については後述する.また,R部に比
7)
figure,cored vesicleの出現,smaH ves−
Ranvier絞輪が認められた.このhalf node
icleの増加,neurofilamentやneurotubule
の消失などである(図1).
は正常胎生期動物には認められないものであ
り,単に正常の髄鞘形成が遅延した結果とは
6)N6urotubule(NT)とNeurofilament
考えられない.今回の検索においては,絞輪
(NF)の計測:8週目のDyマウス,対照マウ
間のみの髄鞘脱落はなく,脱髄によるseg−
ス各一匹のP部横断面について,20,000倍電
mental demyelinationの結果ではない.む
顕写真上で,有髄・無髄線維それぞれ60本を
しろ先天的な髄鞘形成不全を示すものと解し
うる.
at randomに選び,各軸索毎にNT,NFの数
と軸索面積を測定し,単位面積(μm2)当りの
数として表わした(表1).有髄線維ではNT,
NFとも対照に比し有意差はない.これに反
一100一
髄鞘形成に関与するSchwann細胞は晶eu・
8) 9)
rd crestより発生し(Gamble,Hamiltonら),
末梢神経と共に移動するものと考えられてい
表1 軸索単位面積(μm2)当たりのNT NFの平均値
Neurotubule
M
Neurofilament
M
u
u
対照 38.6±16.284.8±89.1 112.8±24.4 188.5±82.9
Dy 42.6±14.2 34.2±26.3崇米103.0±47.2 269.4±105.3寮渠
M l有髄線維, U=無髄線維, 燃 P<0.005
るカ㍉ 先ず1ヶのS“hwam細胞が1本の軸
維が相対的に増加する.その原因としては,
索を取囲み,髄鞘形成が始まる.この場合,
軸索の変性,無髄線維の有髄化,軸索の分枝
Schwann細胞と軸索の両者が正常機能を有す
10)
ることが必要である(米沢).Dyマウス坐骨
などの可能性が考えられる.大径無髄線維の
神経近位部には,巨大な無髄線維集団があり,
変性がその一因をなすことは,今回の検索で
明らかである.他方,無髄線維束の一部が,
それは胎生期の無髄軸索集団に類似するので
half nodeを介して髄鞘に蓋われる像も認め
あるが,その集団は必ずしもSchwann細胞
られたが,充分な長さに亘っての検索が出来
胞体や基底膜によって取囲まれない.そこに
なかったため,無髄線維の有髄化という因子
みられるSchwann細胞にも,基底膜を欠除す
は確認出来なかった.
るものがみられる.これらのことは,Schwa・
nn細胞そのものの異常を示し,当然その機
能低下が考えられる.大きなco llagen POck−
結 論
Dyマウス坐骨神経近位部ではSchwann細
et形成の存在もまたSchwann、細胞の機能
胞の機能低下を示唆する如き所見があり,無
異常を示すものであろう.他方,Dyマウスの
髄線維にはneurotubuleの減少とneurofila・
無髄軸索もneurotubuleやneurofilament
mentの増加がみられ,これら細胞,軸索両者
の数の異常を示し,機能異常の存在を示唆し
の異常が髄鞘形成不全を招来するものと考え
ている.かくの如く,Dyマウスにおいては,
られる.また,大径無髄線維の減少乃至消失
Schwann細胞にも無髄軸索にも異常がみられ,
原因の一つとしては,軸索の変性が考慮され
この結果として、髄鞘形成不全を生じたものと
る.なお,ヘテロ接合体マウスの坐骨神経に
考えられる.
は著しい異常所見がみられなかった..
なお,Dyマウスにおいては蛋白,燐脂質な
どのaxoplasmic flowに異常が認められてい
11)
る (B『adley and Jaros,Komiya and Aus−
12) 13)
文 献
1)Bradley・W・G・姻Jenkis・n・M・
=、Abハ・r−
tin・.Tang et al〉.Dyマウス無髄線維にみ
malities of peripheral nerves in murine
られたneurotubu監eの減少は,axoplasmic
muscular dystrophy,J.neurol.Sci.,18:227
flowの障害を裏付ける形態学的変化の一つで
−247, 1973.
あろう。
2)Bradley,W。G,and Jenkison,M.:Neural
Dyマウス坐骨神経では,末梢部に向かうに
abnormalities in the dystrophic mouse,J,
従い大径無髄線維が減少乃至消失し,有髄線
neuro1.Sci.,25:249−255, 1975.
一101一
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P
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7
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