土地資産を考慮した不況経済分析

最大化する。
U  u ct  z mt vq t l t exp ρt dt

土地資産を考慮した不況経済分析
0
 mt  qtl t
フロー; a t  q t l t  wt xt   t mt  ct
ストック; a t
An analysis of
persistent stagnation with land assets
また、各文字は
ct ;消費量、 u c t  ;消費から得られる効用
公共システムプログラム
10B19036 濱口貴克
指導教員
肥田野登
Takayoshi
Adviser
Hamaguchi
Noboru
Hidano
mt ;実質貨幣保有量、 z mt  ;貨幣保有からの流動性効用
qt ;実質地価、 l t ;土地保有量、
vqt l t  :土地保有からの流動性効用、 ρ ;時間割引率、
 t;インフレ率、wt;実質賃金、xt ;雇用量、t ;時間( 0  t   )
1.イントロダクション
1.1
研究背景と先行研究
日本では 1990 年代初頭に起こったバブル崩壊を境に 20 年以
上にもわたり長期不況に陥り、現在まで続いている。そのよう
な現実に鑑みて、長期的な不況を考慮して政策を行う必要性が
認識され始めたのである。その中で小野善康は長期不況の起こ
るメカニズムを発見し、これを解明してきた。Ono(2001)や、
小野(1994)や、小野(1996)においては、人々が貨幣保有するこ
とに対する欲望を持つため、消費への需要不足が生じ、そのた
め生産における労働も不足し、慢性的な失業が生じることで、
不況が長期化することを示していた。また、そういった事態が
であり、物価を P t とすると、インフレ率は  t  P t Pt と表
される。ここで、効用関数は全て一階微分が正で二階微分が負
であり、 u 0  z 0  v 0   、 u  0 、 z   β 、
v  q であると仮定する。
最大化を解くと、以下の等式を得る。
z mt  u ct  t q t qt v qt l t  u ct  ct ct ct  ρ (1)
なお、  ct   u ct ct u ct  とした。
また、横断性条件は lim t at exp ρt 0 となる。
t 
2.2
企業行動
財・サービスは労働のみから A の生産性のもとで最終財が生
yt  A xtd ここで x td は労働需要量と
いろいろな経済で起こることを分析していた。しかし、日本の
産され、企業の生産関数は
経済を考える上で貨幣保有にのみ欲望が存在するというのは
した。また、利潤は ( APt W t )xtd となる。
どうなのだろうか。経済において土地資産というのは大きなフ
企業はこの利潤を最大化するように労働量を選ぶため、名目
APt
ァクターの一つではないだろうか。現在の長期不況が起こった
賃金 W t が
原因であるバブルの崩壊を見ても、主要因は土地資産価格の大
とし、上回れば生産をやめる。
暴落であると見ることができる。それならば、土地資産に関し
2.3
ても考慮するのが妥当なのではないだろうか。
市場均衡式はそれぞれ以下のようになる。
1.2
(2)
研究目的
2005 年からリーマンショックの起こる 2008 年にかけて地価
を下回ればいくらでも雇って生産を伸ばそう
市場均衡
lt  0 (3) q t  Q t P t (4) y t  ct
(5) wt  W t Pt  w
 t wt  W t W t  t
は今迄の下落から一転上昇に至った。この時期の経済は安定性
(6) mt  M Pt  m
 t mt   t
を見せていたが、失業は未だ生じており不況状態にあったと考
(2)は土地市場均衡式で、家計の持つ土地量は一定であるとした。
えられる。不況下にもかかわらず、地価が上昇するのはなぜで
(3)は地価の定義式で、名目地価を Q t と定義した。
あろうかと考えたので、不況下で地価が上昇する要因を分析す
財市場を考える。財市場における需要は消費のみからなる。こ
る事が本論文の目的である。
の市場では物価の調整速度が非常に早く、常に需給を一致させ
2.モデル
ていると仮定する。すると、(4)が成り立つ。
2.1
(5)は労働の定義式である。さらに、Ono(2001)に倣い名目賃金
家計行動
ここでは一国封鎖経済を想定し、人口変動はないものと考え
は労働需要と労働供給のギャップに依存して緩慢に調整され
xtd ,1 のように労働
る。また、政府の行動は名目貨幣量を一定に保つことだけであ
ると仮定する。それゆえ雇用量は xt  min
り、税金は考慮しない。さらに、土地取引はないとする。代表
需要と労働供給の少ない方で決まる。ただし、労働市場で、需
的家計は生涯効用 U をフローとストックの予算制約式の下で
要が供給を上回ると、名目賃金は瞬時に上昇するため、超過需
要は生じないと仮定する。従って、xt  xt
d
1 (7)となる。また、
ρ q u c0  ρ u c0 0 (13)が成り立つ。
名目賃金 W t の変化率は賃金調整スピード α (一定)で超過需要
この時名目地価がどのように動くかを見ていく。今までの結
W t  α xt 1 とな
果は実質貨幣量と実質地価価格が上昇するということであっ
に応じて変化すると仮定する。すると、W t
る。
これらを踏まえて、企業の行動を再び考える。
APt W t のとき単位労働当たりの利潤は正であるため、労働
た。また、その上昇の具合は、(13)式より、
   q q q  ρ q u c0  ρ u c0  m m なので
の超過需要が生じるが、名目賃金が瞬時に上昇するため、
 m 0
q Q P Q Q  q qP P  q qm
APt W t がすぐに達成される。このため、超過需要が生じない
のように、名目地価は上昇するのである。
と仮定することにした。
4.3 失業定常状態における地価の動向---その2
次に、APt W t のとき企業にとってはコストが収入を超える
ため、財を生産しない。すると物価が直ちに上昇し、 APt W t
がすぐに達成される。
こうしていずれの場合も APt W t つまり、 A  wt が成立する。
よって、 W t W t  αxt  1   t (8)が成立するのである。
(6)は貨幣市場均衡式である。
ここでは、土地資産の流動性の限界効用が 0 の場合を考える。
動学式より、定常状態でかつ、土地資産の流動性の限界効用が
0 の時、   vql  u c0 0 であるので
q 0   u c  αc0 A1 vql  u c0  ρ  vql  u c0 
を満たす q がただ一つ存在すし、それが定常値となる。
次にこの場合における名目地価の動きを見てみると、
また、(4) (7)並びに生産関数より、 xt  c t A (9)が成り立つ。
 m0
q Q P Q Q  q qP P  q qm
3.動学
のように、名目地価は下落するのである。
(1)-(8)より、 ct , m t , q t の動学はそれぞれ
 ct ct ct  z mt  u ct αct A1 ρ
 t mt αct A1
m
q t qt  z mt  u ct α ct A1v qt l t  u ct 
土地の流動性の限界効用が 0 であったならば、名目地価は減
(10)
少することが分かった。
(11)
5.結論と今後の課題
(12)
これまでの分析より、失業定常状態において、もし土地資産
となり、これらの方程式で構成される動学システムが、この経
の流動性の限界効用の下限が正としたとき、実質地価が上がり
済の動学となる。
続けるため名目の地価は上がる。しかし、土地資産の流動性の
以下、簡略のため下添え字 t は必要でない限り、省略する。
限界効用の下限が 0 であれば、実質地価が一定値にとどまり、
4.失業定常状態
名目地価は下がってしまう。つまり、2005 年までの地価の下
4.1
落は、土地資産の流動性が 0 であったためであり、2005 年か
失業定常の存在
ら 2008 年までの上昇は、人々の効用が変化し、土地資産の流
小野(2001)の論文より、
lim z m  β 0 かつ  u  A ρ かつ ρ  α
動性が正になったためであるということが分かった。
m 
今後の課題としては、本モデルにおいて考慮しなかった土地
であれば、失業定常状態が存在する。本論文においても、こ
取引や、生産構造の複雑化を考慮することが挙げられる。これ
の仮定をそのまま用いるので失業定常状態は存在し、その時の
らを考慮することでより現実に近い経済になると考えられる。
状態は、実質貨幣量は増え続け無限に行き、消費は失業のまま
また、不況を一時的なものととらえた研究は数多くなされてい
とどまる状態である。この定常状態にたどり着くのは、 t  
るが、長期的な不況が続くことを前提としたとき、小野以外の
のときである。
研究にも本研究の枠組みを当てはめ、地価の動向を分析してい
4.2失業定常状態における、地価の動向---その 1
 
定常における q の動向は、 q q  ρv ql  u  c である。

0
ここで、土地資産にも流動性が貨幣の場合と同様に正であり
きたいと考えている。
6.参考文献
[1] Yoshiyasu Ono(2001), ‘A Reinterpretation of Chapter 17
of Keynes’s general Theory; Effective Demand Shortage
続けるとすると、
Under Dynamic Optimization’, International Economic
v ql   q  0 となる。
lim
q 
Review,pp207-236
また、土地資産に関する流動性と貨幣に関する流動性を比べ
ると一般的に貨幣の流動性の方が高いと考えられるので 、
   q が成り立つ。さらに、 ρ u c 0 であるから、

0
[2]小野善康『金融』
(1996)岩波書店 [3]
小野善康『貨幣経済の動学理論
京大学出版会
ケインズの復権』(1994)東