12抄録 松島一司 筑波大学大学院

多段階の台高を利用したドロップジャンプテストによる
トレーニング評価法の開発
松島 一司 1),苅山 靖 1),図子 浩二 2)
1)筑波大学大学院人間総合科学研究科,2)筑波大学体育系
1.目的
本研究では,競技レベルの異なる跳躍選手
を対象にして,DJ の台高を多段階式に変化
させた場合の RDJindex,接地時間,跳躍高,
さらに地面反力や下肢各関節のトルクやパ
ワー,仕事などの変化について検討し,新し
い多段階式 DJ テスト法の有用性について検
討した.
2.方法
被験者には,国内外の試合で優秀な成績を
修めている優れた選手も含む,陸上競技跳躍
種目を専門とする男子大学生選手 10 名(年
齢 19.5±0.7 歳;身長 175.8±6.6 cm;体
重 68.0±3.3 kg)を用いた.実験運動とし
て,4 種類の台高(0.3,0.6,0.9,1.2 m)
からの DJ を実施させた.その際,できるだ
け短い接地時間で,できるだけ高く跳ぶよう
に指示し,行わせた.
すべての実験試技を,高速速度ビデオカメ
ラ(CASIO 社製,EX-F1)を用いて 300 Hz
で撮影し,同時に地面反力をフォースプラッ
トフォーム(Kistler 社製)
を用いて 1000 Hz
で測定した.各台高において,RDJindex(跳
躍高/接地時間)を,また被験者ごとに,0.3
m から 1.2 m までの 4 つの台高における
RDJindex による回帰直線(Y = a X + b)の
傾き(a)を切片(b)で除すことによって,
RDJindex の低下率を算出した.さらに,競
技 成 績 と し て , IAAF Scoring Tables of
Athletics により跳躍種目の最高記録を得点
換算したものを用いた.加えて,関節トルク
や関節仕事などの各種キネティクスを算出
した.
測定項目の比較には,一元配置の分散分析
を行い,Bonferroni 法による多重比較を行
った.相関係数は Pearson の方法を用いて
算出した.有意水準はいずれも 5 %未満で判
定した.
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3.結果および考察
1)低負荷型から高負荷型 DJ への移行に伴う
運動特性の変化
RDJindex は DJ 0.6 で高値を示し,それ
以降低下傾向であり DJ 1.2 で有意に低くな
った.接地時間は,DJ 1.2 がその他の台高
と比較して有意に長くなった.跳躍高は,そ
れぞれの台高間に有意な差は認められなか
った.これらの結果は,従来の研究結果とほ
ぼ一致しており,台高が増大し身体が受け止
める運動エネルギーが増大すると,跳躍高は
変化しないが,接地時間が長くなるために,
RDJindex が低下することが確認された.
その際の力学量についてみてみると,最大
地面反力は,台高上昇に伴い大きくなり,台
高 1.2 m では,実際の跳躍種目における踏
切時の負荷に近づくことが認められた.
また,下肢関節におけるキネティクス変数
について検討すると,低負荷型および高負荷
型 DJ のいずれにおいても,足関節が大きく
働く運動特性を有しているが,低負荷型から
高負荷型になるにつれて,股関節の動員が大
きくなり,台高 1.2 m では股関節を大きく
動員した動きに変化していることが認めら
れた.
2)多段階式 DJ テストと跳躍種目パフォ-
マンスとの関係
跳躍競技成績と 0.3 m から 1.2 m までの
DJ による RDJindex の低下率(傾きを考慮
した指数)との間には,有意な正の相関関係
が認められた(r = 0.662,p < 0.05:図 1)
.
このことから,跳躍選手の競技力を向上さ
せるためには低負荷型 DJ から高負荷型 DJ
に至るまで RDJindex を低下させないこと
が重要であることが認められた.
3)多段階式 DJ テストによる各選手の評価
診断
以上にみられた各種台高における DJ の特
性に配慮しながら,多段階式 DJ テストによ
る各選手の筋力・パワー発揮能力に関する評
RDJindex(m/s)
4
y=12.428x+1044.7
r=0.662
P<0.05
n=10
1150
1100
1050
1000
950
Keep 1
Keep 2
Down 1
Down 2
3
Av
2
1
900
0.3
接地時間 (s)
850
800
-14
-12
-10
-8
-6
-4
-2
0
2
RDJindex 低下率 (%)
図 1 跳躍競技成績と RDJindex の低下率
との関係
0.2
0.1
まず,RDJindex における低下率が平均値
よりも低い選手群(優れている)を Keep
group,高い選手群(劣っている)を Down
group として分類した.さらに,Keep group
の中でも,台高が上昇しても跳躍高の低下が
少ない選手,もしくは増大し続ける選手を
Keep type 1(Keep1),いずれの台高におい
ても平均値より短い接地時間で遂行してい
る選手を Keep type 2(Keep2)とした.また,
Down group の中でも,いずれの台高におい
ても平均値よりも短い接地時間で遂行して
いる選手を Down type 1(Down 1),台高が
上昇すると,接地時間と跳躍高ともに低下す
る選手を Down type 2(Down 2)とした.そ
して,それぞれの Type から典型的な傾向を
示す選手を 1 名ずつ抽出し,比較検討を行っ
た. なお,Down2 は,全体傾向とほぼ同様
の傾向を示したため,ここでは,Keep1, 2,
Down1 の 3 名に絞り比較検討を進める.
Keep 1 は,伸長負荷が増大しても下肢三
関節の貢献度を変えることなく,すなわち運
動特性を変えることなく,下肢三関節の仕事
を増大させることで,跳躍高を高め続ける優
れた特性を有していた.なお,この選手は,
本研究で用いた被験者の中で最も競技水準
の高い選手であり,高い台高になるほど優れ
た下肢のパワー発揮特性を示した.
Keep 2 は,足関節の仕事及び貢献度が大
きく,台高が上昇し大きな運動エネルギーに
抗することになっても,強調的に足関節の働
きを大きくした特性を保持することができ,
非常に短い接地時間の特性を変えることな
く遂行できる特性を有していた.
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0.6
跳躍高 (m)
跳躍競技成績 (point)
価診断を実施した.
0.5
0.4
0.3
0.3
0.6
0.9
台高 (m)
1.2
図 2 RDJindex,接地時間,跳躍高の個別
傾向
Down 1 は,足関節の仕事及び貢献度が大
きい一方で股関節の仕事及び貢献度は極め
て小さい傾向にあった.このことより低台高
では,足関節を強調的に利用することで,短
い接地時間で高いパフォーマンを発揮でき
ていたが,落下衝撃の増大に伴い,大きな力
発揮のできる股関節をうまく動員した動き
の変更が成されないために,接地時間が長く
なりパフォーマンスが低下したことが推察
される.なお,Down 1 は,低負荷型では非
常に優れた RDJindex を示すものの,高負荷
型では非常に劣る特徴のある選手であった.
4.結論
以上の結果から,一般的な 1 種類の台高を
用いる DJ や連続リバウンドジャンプによる
テストでは,高いレベルの跳躍選手の下肢の
筋パワー発揮特性や個人の動作特性を評価
できず,本研究で開発した多段階式 DJ テス
トを用いたアセスメント法の有用性を示唆
することができた.