Shimazu K, Karibe H, Ogata K. Effect of artificial saliva

充塡材料の接着における唾液混入の影響
【目的】
歯冠修復において、唾液等が患部へ侵入するのを防ぐためにラバーダム防湿が有用である。しかし、萌
出途上の歯や歯冠崩壊の著しい歯、あるいは口呼吸患者や障害者、高齢者を対象とした場合など、日常臨
床では防湿が困難なケースが多い。本研究では、唾液が混入した歯面にコンポジットレジン(CR)とグラ
スアイオノマーセメント(GIC)、およびレジン強化型グラスアイオノマーセメント(RMGIC)を応用し、
接着強さと微小漏洩への影響について比較検討を行った。
【対象と方法】
以下の3条件で実験を行った:人工唾液未使用(条件 I,コントロール)
、人工唾液を滴下後に軽く乾燥
(条件 II)
、人工唾液の液滴が残っている状態(条件 III)
。充塡材料として、CR はクリアフィル AP-X(ク
ラレノリタケデンタル)を用い、CR の接着処理材はトータルエッチングシステムのオプチボンドソロプラ
ス(OBS;Kerr)とセルフエッチングシステムのトライエスボンド(TSB;クラレノリタケデンタル)の
2種類を使用した。また、GIC はフジ IX GP エクストラカプセル(ジーシー)
、RMGIC はフジ II LC カプ
セル(ジーシー)を用いた。
1) 接着強さ試験
包埋・表面研磨した牛歯のエナメル質と象牙質に、歯面処理と人工唾液による処理を施した後、CR を適
応する歯には各接着処理を行った。次いで、シリコン型を用いて各充塡材料を直径 2.4mm、高さ 4.0mm
に築盛し、硬化後、各試料を 37℃の蒸留水に 24 時間保存した。なお、歯面処理や光照射は、必要に応じ
て各材料の指示書に従い行った。剪断接着強さは万能試験機を用いて、クロスヘッドスピード 1mm/1min
の条件で測定した(n=10)。統計分析は、3条件間の接着強さの比較に一元配置分散分析を用い、多重比較
には Tukey の HSD 法を用いた。
2) 微小漏洩試験
牛歯に直径 3.0mm、深さ 1.5mm の窩洞を形成した。接着強さ試験に準じて歯面・唾液処理、接着処理、
充塡、硬化後、37℃の蒸留水に 24 時間保存した。次いで、各試料にサーマルサイクル負荷(5-55℃、2000
回)を施した後、0.1%メチレンブルー溶液に 20 時間浸漬し、包埋・切断を行った。色素侵入の定量化は、
ISO/TS 11405: 2003 に従って、スコア0(色素侵入無し)からスコア3(色素侵入が窩洞の髄室床に及ぶ)
の4段階で評価した(n=10, total of 40 surfaces)。
【結果】
GIC と RMGIC では、エナメル質と象牙質の双方とも、唾液の混入による接着力の低下は認められなか
った。一方、CR (OBS)では、エナメル質に対しては接着力の低下が認められなかったものの、象牙質に対
してはコントロール(条件 I)と比較して顕著な低下を示した(条件 II、III とも P<0.001)
。また、CR (TSB)
では、エナメル質に対しては条件 III で接着力が低下し(P<0.01)
、象牙質に対しては、条件 II、III とも
に有意に低下した(両条件とも P<0.001)
。図1(a),( b)
(a)
(b)
図1 各唾液混入条件における各材料の接着強さ(a)エナメル質,
(b)象牙質.
微小漏洩試験の色素侵入中央値は、GIC と RMGIC において、すべての条件で CR (OBS, TSB)と比較し
て低い値を示した。最も唾液混入の多い条件 III における中央値を比較すると、GIC と RMGIC はスコア
1(色素侵入がエナメル質に及ぶ)であるのに対し、CR (OBS, TSB)ではスコア2(色素侵入が象牙質に
及ぶ)であった。
【結論】
GIC や RMGIC は、唾液が混入する条件でも安定した接着力を示し、口腔内環境を想定したサーマルサ
イクル負荷を施しても微小漏洩が少ないことが明らかとなった。グラスアイオノマーは高いフッ素徐放能
をもち、生体親和性も優れているといわれている。現在、臨床においてコンポジットレジン充塡が主流で
あるが、防湿が困難な場合の接着力低下や、微小漏洩による二次カリエスなどを考慮し、グラスアイオノ
マー充塡が有用であると考えられる。
Shimazu K, Karibe H, and Ogata K. Effect of artificial saliva contamination on
adhesion of dental restorative materials. Dental Materials Journal. 2014; 33(4):
545-550.