伊藤友美 Black Beauty Pioneers' Struggle for Uplifting Black Women: Madam C. J. Walker and Marjorie Stewart Joyner 2009 年、アメリカ合衆国第 44 代大統領となったバラク・オバマ大統領は、大統領選挙キ ャンペーンにおいて、黒人票獲得を目指し、the B&B (Beauty Shop and Barber Shop) strategy を展開した。黒人コミュニティーにおいて、美容院と理髪店とは、歴史的に人種、ジェンダ ーにより隔離されており、コミュニティーの住民が集まり、政治、経済、社会問題について の議論を交わす場所と見なされてきた。黒人理髪店を専門とする歴史学者 Quincy T. Mills に よれば、黒人教会、教育機関、ラジオ以上に、多くの人々が議論に従事するのが美容院、理 髪店であるという。現在においても、未だに多くが人種とジェンダーにより分離されており、 美容院と理髪店とは非常に限定的空間であり、政治的な場所であると考えられている。また 特に黒人美容産業は、黒人女性にとって歴史的に経済的自立を果たすことができる数少ない 業界であった。 本論文では、黒人女性が携わった黒人美容業界に焦点を当て、特に 20 世紀初期に黒人美 容産業の基礎を築いた The Madam C. J. Walker Manufacturing Company の創始者 Madam C.J. Walker (1867-1919)と Walker の死後、Walker Company の副社長となった Marjorie Stewart Joyner (1896-1994)の黒人女性向上にむけた活動を考察する。従来の黒人女性美容実業家につ いての研究は、主に美容実業家個人の活動のみに焦点が当てられており、黒人女性向上にお いて中心的役割を果たした黒人女性クラブ組織(National Association of Colored Women や National Council of Negro Women)との関係を通した彼女たちの考察は非常に少ない。黒人女 性クラブ組織のイデオロギーや活動と黒人女性美容実業家のそれと考察することにより、黒 人女性クラブと共に黒人女性美容師の活動の変遷を明らかにし、黒人女性史における彼女た ちの歴史的意義を定義したいと考える。 第一章では、20 世紀転換期における黒人女性の立場、主に彼女たちに対するステレオタ イプがどういったものであったのかを確認し、1896 年に初の全国的黒人女性クラブ組織 National Association of Colored Women(NACW)による白人社会から見なされるステレオタイプ の打破に向けた行動を考察する。エリートを中心としたクラブ女性は、白人中産階級を基本 とした身なり、マナーつまりリスペクタビリティーを下級に属する黒人女性に身につけるよ う指導した。さらに“golden age of black business”と呼ばれる 1900 年から 1930 年代に、大規 模に組織されたモダン黒人美容産業がどのように誕生したのかを見てみる。 第二章では、黒人ビジネス黄金期の最中、黒人美容産業の中で最も影響を与え、当時の数 少ない百万長者となった黒人女性実業家 Walker が、どのように利益を上げ、彼女の美容品 を通して外見改善を行う黒人女性をどのように改善させたのかを考察する。また彼女の黒人 女性向上へのイデオロギーが、NACW の女性たちとのそれとどのように関連していたのか を考察する。 第三章では、Walker Company を引き継いだ Joyner が“race woman”と呼ばれ、フランク リン・D・ローズベルト内閣におけるブラック・キャビネットの一人であった Mary McLeod Bethune(1875-1955)に影響を受け、黒人女性地位向上目的のために従来のリスペクタビリテ ィーの強調から、黒人女性がよりローカル、州、連邦レベルにおいて影響力を示すべきとす る方向へと転換させることとなった。1935 年に Bethune は、NACW のメンバーの反対を押 し切り、新たな黒人女性組織 National Council of Negro Women(NCNW)を設立した。NACW に比べ、NCNW は、エリート主義でなく、また外見、マナーを重視せず階級に関係なく全 黒人女性が政治的影響力を与えることを目的とした。Bethune と親しい関係にあった Joyner は、Bethune の助言もあり 1945 年全国的黒人女性美容師団体である United Beauty School Owners and Teachers Association (UBSOTA)と Alpha Chi Pi Omega(ACPO)を設立した。それら の団体の目的は、黒人女性美容師の教育、技術向上だけでなく、黒人コミュニティー、黒人 女性美容師の地位向上を目的とした。組織の代表である Joyner は、冷戦期において美容師 による海外遠征を多数実施し、当時国際的に非難されていたアメリカ国内の人種差別問題を 緩和すべく、黒人女性美容師の豊かで民主主義的イメージを特にヨーロッパで広めた。 Joyner は、国際遠征でのアメリカの民主主義的イメージ回復に寄与していることを誇り、ア メリカ政府に黒人女性美容師の社会的立場改善を求めた。しかしながら政府による助けは得 られず、美容師の立場改善を行うには人種向上を優先し、美容師の集団的行動を利用し、公 民権運動時代における政治的活動を積極的に行った。特に黒人コミュニティー内における投 票権の呼びかけやケネディーやジョンソン政権への協力を行った。 これら Walker Company 内におけるリーダーの活動と黒人女性クラブ活動を照らし合わせ て考察することにより、当時の黒人指導者とは異なりエリートや中産階級出身ではない経済 界における2人の黒人女性美容実業家の歴史的意義を考えてみたい。
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