森林からの天然物を利用した製品の開発( 6 ) ヒメマツタケ乾燥子実体および抽出物顆粒 東京農業大学地域環境科学部教授 江口 文陽 ヒメマツタケは、ブラジルサンパウロ郊外の山地および北米(フロリダ から南カロライナ州の海岸草地)の一部で発見されているきのこです。ブ ラジルでは、1950年代後半より食経験があり機能性きのことしての人気か ら乱獲され、近年野生種を見ることはほとんどできません。人工栽培法の 確立とその技術開発が検討され、1965年に日系ブラジル移民の古本隆寿氏 が岩出玄之助博士の元に持ち込んだことで日本における研究が開始されま した。岩出博士は、発生地の立地条件、土質、養分、気象関係を調査し、 写真 1 ヒメマツタケ子実体 1973年に人工栽培を普及しました。1980年代半ばよりヒメマツタケの機能 (CJ-01) 性研究が本格的に開始されましたが、乾燥きのことしての活用法が一般的 で生食としての流通はほとんどありません。ヒメマツタケは、健康志向の 食品原料として国内産、ブラジル産、中国産が多く販売されています。1995年前後を境に大手から中小の 企業までが市場に参入し、あらゆる形態の“いわゆる健康食品”が販売されるようになりました。ヒメ マツタケの子実体および菌糸体を利用した商品は、ネットや通信による販売だけでも全盛期には300種以 上できのこ由来の“いわゆる健康食品”としては最多数の製品がありました。健康食品関連市場規模は、 2003年をピークに350∼400トン、380∼400億円程度と推定されましたが、2006年 2 月、一部のメーカー製 品の自主回収報道などを引き金にその規模は大きく落ち込みました。厚生労働省は、一部製品の自主回収 はあったものの、ヒメマツタケそのものに問題があるのではないと風評被害防止を呼びかけています。 期待される各種疾患への予防・改善効果 東京農業大学におけるヒメマツタケの研究は、1990年に株式会社日本バイオの吉本克己社長が林産化学 研究室にブラジル原産のヒメマツタケ(CJ 01株)を持ち込み研究が開始されています。当時大学院生で あった筆者も檜垣宮都先生の指導下で研究に従事しました。ヒメマツタケの子実体や菌糸体からの成分は、 熱水、アルコール、酵素処理などいろいろな抽出法・加工法で調製し ましたが、機能性物質の本体となる特定物質は規格化されているもの ではありません。機能性成分としては、糖タンパク複合体、(1,3) (1, 6) β D グルカン、プルラン、フコース、ガラクトースなどの物質 などが複合的に定量されています。ヒメマツタケCJ 01株での と および臨床による症例研究結果があります。気管支炎患者 における細胞内サイトカイン濃度に対する影響として抽出物の摂取で IFN γ産生増強により気管支炎症状を改善することが確認されまし た。記憶障害に対する治療効果として 8 方向放射状迷路課題により、 えぐち ふみお ヒメマツタケ摂取群のマウスでは脳虚血による空間認知記憶障害が抑 東京農業大学地域環境科学部森林 制されました。その結果は当帰芍薬散、黄連解毒湯および釣藤散といっ 総合科学科教授。日本きのこ学会 た漢方方剤と同等かそれ以上の改善が見られました。さらに自然発症 会長。2015 年ミラノ万博日本政 糖尿病ラットにおける膵β細胞数減少に対する改善作用として膵β細 府館サポーター。 胞機能を回復させインスリン産生を増加させインスリン分泌機能の亢 専門分野:林産化学、きのこ学、 木材劣化生物学。 進でのII型糖尿病に対する効果、本態性高血圧症の被験者が摂取した 主な研究テーマ:特用林産物の高 ことによる血圧降下作用なども確認しています。ヒメマツタケCJ 01 付加価値化への科学的解析と製品 株は、乾燥きのこや抽出物の顆粒加工品として開発・販売されていま 開発。 す。ヒメマツタケCJ 01株を用いた東京農業大学での研究は、国内共 主な著書:きのこを利用する(単 著)地人書館、科学が証明!エノ 同研究に留まらず中国との国際共同研究も実施されています。さらに キダイエット(単著)メディアファ 今年よりタイの大学との共同研究も始まりました。きのこを研究材料 クトリー とした学際的な国際交流も実施されています。 新・実学ジャーナル 2014.10 5
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