Clinical Case Study 2013.1 A Young Adult with Aplastic Anemia and

Clinical Case Study 2013.1
A Young Adult with Aplastic Anemia and Gray Hair
Eva C. Guinan1,2,3,4,a and Suneet Agarwal2,3,4,5
1
Departments of Radiation Oncology and
Pediatric Oncology, Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA;
3
Division of Hematology/Oncology, Boston Children's Hospital, Boston, MA;
4
Harvard Medical School, Boston, MA;
5
Harvard Stem Cell Institute, Harvard University, Cambridge, MA.
2
a
Address correspondence to this author at: Dana-Farber Cancer Institute, 450 Brookline Ave., Boston, MA
02215. Fax 617-632-3770; e-mail [email protected].
臨床症例研究
再生不良性貧血と白髪のヤングアダルト
症例
20 代の初めの男性が、血尿症および適度な汎血球減少症を訴えて来院した[白血球数 1.9 × 109/L (正常値,
4.2 × 109/L から 9.9 × 109/)、L ヘモグロビン, 13.3 g/dL (正常値, 13.0–17.4 g/dL)、 血小板 61 ×
109/L (正常値, 140 × 109/L から 440 × 109/L)]。 身体検査および通常の検査では目立った箇所は見られな
かった。骨髄(BM)穿刺液 6 および生検において、形成障害は伴わないものの細胞数の減少(20%)がみられた。フ
ァンコニ貧血の診断に用いられる BM 細胞遺伝学、蛍光イン・サイチュウ・ハイブリダイゼーション(FISH)およ
びジエポキシブタンテストの結果は正常だった。末梢血フローサイトメトリー検査においても、リンパ増殖、脊
髄細胞成熟障害などは見られず、また発作性夜間ヘモグロビン尿症において認められるような、タンパク質の欠
陥も見られなかった。その後 5 年に渡り患者は無症候性のままで血球数が安定していたため、輸血も必要ではな
く、BM 組織にも変化は見られなかった。
万一に備え治療介入調査の一部として、6 歳から 9 歳までと 22 歳の時に再度、尿道狭窄の既往歴を申告する際
に、彼はセカンド・オピニオンを求めた。彼の髪は 11 歳の頃から白髪になり始め、16 歳になる頃までに生え際
が後退し始めた。同様の現象が彼の家族においても過去に見られた。彼は手足の爪が常に「あきれるほどに」乾
燥して割れていると述べた。彼は、涙が過剰に流れることがあり、彼自身が気づいてないのに、友人たちが彼が
泣いていると指摘することもあると申告した。検査において、その患者には頭髪の抜け毛、白髪化、緩やかな禿
症状が見られた。彼には前方上部と胸郭後部にわずかに赤みがかっている茶色の網様色素沈着が見られた。彼の
爪にはすべて著しい栄養失調症が認められた。上部の硬口蓋上に平な 1×1.5cm の白色病変があった。それ以外
には目立った結果は得られなかった。それ以前の 5 年間の彼の血球数は、非常に安定していた。 白血球数、
1.4 × 109/L から 3.8 × 109/L (正常値、 4.2 × 109/L から 9.9 × 109/L); 絶対好中球数、 0.71 × 109/L
から 2.7 × 109/L (正常値、 2.4 × 109/L から 7.6 × 109/L); ヘモグロビン、 12.9–14.5 g/dL (正常値、
13.0–17.4 g/dL)、その内 大赤血球症を伴うもの(平均赤血球容積、 105–111 fL; 正常値, 82.0–100 fL); 血小
板、 46 × 109/L から 71 × 109/L (正常値, 140 × 109/L から 440 × 109/L)。
考察課題
1. 再生不良性貧血(AA)の原因は何か?
2. この患者の症状から考えられる診断は何か?
3. どのようなラボラトリーテストがこの診断において有効か?
考察
患者は穏やかな AA を患う成人として来院したが、AA は 1 種類以上の細胞系統において末梢血球数の減少を伴う
BM の、細胞数の低下によって定義される。AA の場合そのほとんどが特発性か獲得性に分類され、おそらくはウ
イルス感染による免疫の調節異常が原因であると一般的に考えられている。いくつかの自己免疫の症候群の発症
と同様に、相当の放射線、ある種の薬品および化学物質への接触も、骨髄損傷に関係している。脊髄形成異常、
発作性夜間ヘモグロビン尿症および稀ではあるが、白血病などの血液疾患もまた AA として認識される。あるい
は、患者の病歴、身体検査および家族歴を慎重に精査することにより、病因として遺伝性の骨髄不全症候群
(IBMFS)の可能性が示唆されることもある。この患者は、その古典的形式(爪形成異常、粘膜の白斑症および皮膚
色素沈着の変化)、および BM 不全、尿道狭窄、過度の涙 (流涙)、未成熟期における禿げと白髪、肺の疾病(1)な
どの他の異常も含めて、先天性角化異常症(DC)で見られるいくつかの特徴を示した。
患者のフォローアップ
推察から得た DC の臨床診断に基づいて、私たちはテロメア長(TL)の測定を試みた。その結果、彼のリンパ細胞
と顆粒細胞における TL の中央値(MTL)は著しく短い値を示した(第 1 パーセンタイル以下) [それぞれ 4.1 kb
vs 7.5 kb (年齢における題 50 パーセンタイル)、 4.5 kb vs 8.6 kb (年齢における題 50 パーセンタイル)]。
従って、下した診断は確認された(図 1)。DC に関係していると知られている遺伝子の突然変異を分析するために、
DKC17(先天性角化異常症 1(dyskerin))、 TINF2[TERF1(TRF1)- interacting nuclear factor 2]のエクソン 6、
TERC(テロメラーゼ RNA コンポーネント)の配列を解読した。TERC 遺伝子の欠失/複製テストも行った。その結果、
異常は認められなかった。骨密度測定(2 重エネルギーの X 線吸収測定法)の結果は正常だった。肺機能検査を行
ったところ、患者の一酸化炭素分散能(DLCO)は 17.0 mL · mmHg−1 · min−1 (予想の 45%)を示した。硬口蓋病変
の生検では、穏やかな上皮の形成障害および角化症が確認された。
2
過去 20 年にわたる IBMFS の原因となる遺伝子突然変異の同定により、類似した変異によって著しく異なる臨床
的発病および兆候が引き起こされることが判明した。したがって、BM 不全の患者を診察する場合、小児および
成人の血液内科医師は遺伝子が原因であることを疑わなければならない。複数の遺伝パターン(常染色体の優勢
遺伝、劣性遺伝、X 連鎖性遺伝、散発的変異)、可変浸食作用、多面発現および遺伝的表現促進の存在により、
DC の診断は複雑になる(2)。DC 関連の病気の患者は、幼児期における多臓器疾患(例えば Hoyeraal-Hreidarsso
症候群およびレーベース症候群)や、後期発症型の肺線維症のような組織特異的な疾患などの臨床スペクトルを
示すかもしれない。テロメア生物学に関する 8 つの遺伝子-DKC1, TINF2, TERC, TERT (テロメラーゼ逆転写酵
素), NHP2 [NHP2 リボ核タンパクホモログ (酵母)], NOP10 [NOP10 リボ核プロテインホモログ(酵母)], WRAP53
(WD repeat containing, antisense to TP53; formerly TCAB1), CTC1 (CTS telomere maintenance complex
component 1)-の一つにおける遺伝子変異が、古典的 DC の特徴がみられる患者のおよそ 50%で同定され、それ以
外の患者についてはまだ解明されていない(3、4)。テロメアは染色体の末端に存在し、数百から数千もの 6 ヌク
レオチドの繰り返し[(TTAGGG)n]から成り、各細胞分裂毎に消耗される。複数タンパク質複合体(例えば、TINF2
と CTC1 によってコードされるコンポーネントなど)はテロメアを維持し、またリボ核タンパク・テロメラーゼ
[TERC, TERT, DKC1, TCAB1 (i.e., WRAP53), NHP2, NOP10 遺伝子産物から成る]はテロメアの消耗を打ち消すた
めに、逆転写によって 6 ヌクレオチドを置換する。DC の遺伝障害によりテロメアの統合制御系がおかしくなり、
細胞の自己再生や自己増殖は阻害され、それが罹患者にみられる未成熟期の多臓器不全の原因であると説明でき
る(5)。
テロメア維持の不全は、診断に利用できる DC の遺伝子型全てに共通する特徴である。Lansdorp とその同僚たち
は、末梢血液細胞の TL を定量するために、CLIA が保証されたフローサイトメトリーに基づく FISH (flow-FISH)
を開発した(6)。蛍光ラベルしたペプチド核酸プローブ(CCCTAA)3 を、脱脂した末梢血液細胞のテロメアにハイ
ブリダイズさせる。この時、テロメアに結合したプローブの数は TL に比例し、46 本の染色体の全ての末端に結
合した 92 のプローブシグナルの総発光量を、その細胞の MTL として読み始める。血液細胞のテロメアは加齢と
共に短くなるので、Lansdorp たちは年齢で調整した flow-FISH で測定される MTL の基準を作成した。細胞表面
のマーカーに対する抗体染色を同時に行うことにより、抹消血液細胞の中でも特異的な細胞(例えばリンパ細胞
や顆粒細胞)における MTL の測定が可能である。患者のサンプルを健常対照群と比較することで、年齢および細
胞のタイプで標準化されたパーセンタイルスコアを患者の MTL に割り当ることが可能になる。
Alter らは、65 人の DC 患者(古典的な臨床的な異常、あるいは既知の病因性突然変異が認められる個人を患者
として定義した)と 127 人の健康な家族から末梢血液細胞を採取し、flow-FISH を用いて MTL を測定した(7)。
第 1 パーセンタイル以下の MTL 値(「非常に低い」)をデータをカットする閾値として用いた結果、flow-FISH が
全てのリンパ細胞を用いた場合、DC の診断に対する感度 97%、特異性 91%を達成し、顆粒細胞を用いた場合、感
度 97%、特異性 82%を達成することを Alter らは示した。各リンパ細胞分画を用いて DC の診断に対する感度と
特異性を更に詳細に調べたが、最もパフォーマンスが良かったのは、全てのリンパ細胞を用いて MTL を測定した
場合であった。これらの重要な研究により flow-FISH が DC の診断に使用するテストとして有効であることが確
認され、私たちはこの患者が DC であると診断する上でこのテストを補助的に行った(図 1)。
3
図 1 リンパ細胞と顆粒細胞を用いた flow-FISH による MTL の測定。年齢で補正した正常値のパーセンタイルとし
て示している。
両方の血球において患者は非常に低い MTL(第 1 パーセンタイル以下)を示している。MTLN(任意の年齢における
正常な MTL(第 50 パーセンタイル)); INT(TL 解釈); VL、非常に低い値(第 1 パーセンタイル以下)
DC の確定的な遺伝子診断は、診断に必要な遺伝子セットが不完全であるにもかかわらず大規模な配列決定を行
う必要があり、また配列の違いによる病原性を確立するのが困難なため、いまだ制限されている。DKC1 の変異
は DC の 25%~30%でみられる。DKC1 は X 連鎖性であるため男性は発症するが、女性のキャリアーは臨床的に
は無症状なのが一般的である。DC の症例のおよそ 15%を占める TINF2 の変異は、常染色体優勢で散発的である
ことが多い。TERC と TERT の変異(それぞれ全症例の 5%~10%)は、常染色体の優勢および劣勢の両方の DC で
みられ疾患の予後を暗示する。つまり、その後何世代にも渡り遺伝子欠損が引き継がれていくだけでなく、テロ
メアの長さも短いままなので、臨床症状を早くに発症する可能性がある(8)。おそらく造血幹細胞の中で結果と
して生じる選択的成長促進によって引き起こされる、TERC 遺伝子の細胞内での回復が DC で観察されており、
これは潜在的な遺伝子検査における交絡因子である(9)。臨床において十分な配慮をもとに、末梢血 DNA の
TERC 解析で正常な結果が出たとしても、その後他の細胞を用いたテストも引き続き行うべきである。私たちが
請け負った患者の病歴は、遺伝パターンを決定するのに不十分だった。また CLIA を保証し、且つ検査室での標
準的試験に基づいた複合検査によって、DKC1、TINF2、TERC および TERT の変異は原因として除外された。
flow-FISH によって患者の両親と兄弟の MTL を分析することで、遺伝パターンを明確にできるかもしれない。
またそれ以外の候補遺伝子およびエクソーム配列解読により、患者の DC の遺伝基礎を決定できるかもしれない。
IBMFS と診断するか後天性 AA と診断するかは、その後の治療に重要な意味合いをもつ。今回の場合のように、
BM 不全を患う成人においては症状の遅延や症状そのものが穏やかであることも考慮されなければならない。
IBMFS における BM 不全では、シクロスポリン A や、造血細胞移植(HCT)のための兄弟ドナーがいない場合に、
後天性 AA の治療に用いられる抗胸腺細胞グロブリン免疫抑制療法に対する反応が弱い。さらにより新しく疾患
特異的な低濃度の事前療法により結果が改善されている一方で、AA のために用いられる HCT の事前療法は、
4
DC 患者にとって許容できない器官毒性に関与している。いずれかの IBMFS が疑われる場合、HCT のための潜
在的な家族ドナーにおいて、無症候性疾患を除外することは避けられない。BM 不全の次に多い DC の死因には
頭、首および肛門における扁平上皮細胞癌、肺線維症、そして肝硬変がある(10)。これらの合併症とテロメア不
全の病態生理学的な関係は憶測の域を出ないが、潜在的に致命的な兆候を示すことから、HCT を考慮していな
い場合でも家族検査を行うことが重要である。したがって、DC および他の IBMFS の診断によりその時の治療
が影響を受けるだけではなく、多岐に渡るケア、長期的な観察、事前の指針、および家族と遺伝子型に関するカ
ウンセリングなども影響を受ける。
覚えておくべきポイント
•再生不良性貧血は、免疫系制御異常、毒物への接触、骨髄形成異常や IBMFS などの、血液系疾患の兆候の結果
として生じる場合がある。
•AA で来院するすべての年齢の患者において、遺伝的原因が考慮されるべきである。DC を評価するにあたり基
本となるのは、注意深い身体検査、病歴および家族歴などである。
•DC の評価において考慮されるべき遺伝子検査は、末梢血細胞の TL 測定や候補遺伝子の変異分析などである。
•DC はテロメア維持を異常にすると知られているいくつかの遺伝子の不全によって引き起こされるが、症例の
50%に関係する遺伝子はまだ明らかになっていない。
•DC と診断するか、特発性 AA と診断するかは、患者とその家族にとって重大な意味合いを持つ。
謝辞
We are grateful to Repeat Diagnostics Inc., North Vancouver, British Columbia, Canada, for providing the telomere length test
data in Fig. 1.
脚注
6
Nonstandard abbreviations: BM, bone marrow; FISH, fluorescence in situ hybridization; AA, aplastic anemia;
IBMFS, inherited BM failure syndrome; DC, dyskeratosis congenita; TL, telomere length; MTL, median TL; flowFISH, flow cytometry–based FISH; HCT, hematopoietic cell transplantation.
7
Human genes: DKC1, dyskeratosis congenita 1, dyskerin; TINF2, TERF1 (TRF1)-interacting nuclear factor 2;
TERC, telomerase RNA component; TERT, telomerase reverse transcriptase; NHP2, NHP2 ribonucleoprotein
homolog (yeast); NOP10, NOP10 ribonucleoprotein homolog (yeast); WRAP53 (formerly TCAB1), WD repeat
containing, antisense to TP53; CTC1, CTS telomere maintenance complex component 1.
5
参考文献
1. Kirwan M, Dokal I. Dyskeratosis congenita: a genetic disorder of many faces. Clin Genet 2008;73:103–12.
2. Pagon RA, Bird TD, Dolan CR, Stephens KSavage SA. Dyskeratosis congenita. In: Pagon RA, Bird TD, Dolan CR, Stephens K,
eds. GeneReviews™. Seattle: University of Washington; 2009 Nov 12 (updated 2012 Sep 13).
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK22301 (Accessed October 2012).
3. Keller RB, Gagne KE, Usmani GN, Asdourian GK, Williams DA, Hofmann I, Agarwal S. CTC1 mutations in a patient with
dyskeratosis congenita. Pediatr Blood Cancer 2012;59:311–4.
4. Mason PJ, Bessler M. The genetics of dyskeratosis congenita. Cancer Genet 2011;204:635–45.
5. Calado RT, Young NS. Telomere diseases. N Engl J Med 2009;361:2353–65.
6. Baerlocher GM, Vulto I, de Jong G, Lansdorp PM. Flow cytometry and FISH to measure the average length of telomeres
(flow FISH). Nat Protoc 2006;1:2365–76.
7. Alter BP, Rosenberg PS, Giri N, Baerlocher GM, Lansdorp PM, Savage SA. Telomere length is associated with disease
severity and declines with age in dyskeratosis congenita. Haematologica 2012;97:353–9.
8. Vulliamy T, Marrone A, Szydlo R, Walne A, Mason PJ, Dokal I. Disease anticipation is associated with progressive
telomere shortening in families with dyskeratosis congenita due to mutations in TERC. Nat Genet 2004;36:447–9.
9. Jongmans MC, Verwiel ET, Heijdra Y, Vulliamy T, Kamping EJ, Hehir-Kwa JY, et al. Revertant somatic mosaicism by mitotic
recombination in dyskeratosis congenita. Am J Hum Genet 2012;90:426–33.
10. Alter BP, Giri N, Savage SA, Rosenberg PS. Cancer in dyskeratosis congenita. Blood 2009;113:6549–57.
論評
Todd E. Druley
Department of Pediatrics, Division of Hematology and Oncology, Washington University School of Medicine, St. Louis, MO.
Address correspondence to the author at: Department of Pediatrics, Division of Hematology and Oncology, Washington
University School of Medicine, 660 S. Euclid Ave., St. Louis, MO 63110. Fax 314-362-3245; e-mail [email protected].
著者は先天性角化異常症(DC)の古典的症例を示し、遺伝性骨髄機能不全症候群(IBMFS)の患者の臨床診断における
ばらつきをうまく要約している。終末器官機能障害、様々な癌に対するリスクの上昇、および適切な遺伝子カウ
ンセリングが必要であり、正確な診断が不可欠である。この患者は DC の古典的症状を示したが、多くの患者は
もっとあいまいな症状により来院する。その結果、IBMFS サブタイプと後天性骨髄機能不全を区別するのが困難
になる。従って、適切な診断をするにあたり臨床治験と診断方法を組み合わせる必要性がより強調されるべきで
ある。
IBMFS の臨床症状はすさまじく多様であるが、おそらくは様々なサブタイプに渡って遺伝因果関係や浸食作用に
6
おいて、かなり多様性があるためであろう。この症例が示しているように、遺伝的原因は DC 患者の約 50%にし
か見出せない。DC の遺伝的要因の解明が不完全であるため、テロメア維持に関与する遺伝子の変異が原因であ
ると想定されることが多い。しかし場合によっては、それはただ人種の違いや、個人の起源に起因するだけで、
機能解析を行うとテロメア生物学にはほとんど影響しないということがあり、潜在的な誤診の原因となる(1)。
IBMFS と後天性骨髄機能不全を区別する上で、テロメア長の解析は高感度ではあるがその特異性には限界がある。
病気ではない人―患者の家族であれば特に―もしくは他の原因による骨髄不全を患った人も、テロメア短縮を示
すかもしれない。あるいは同様の臨床所見だが、それほど深刻なテロメア短縮が見られない人(例えば Clericuzio
型多形皮膚萎縮症)に関する知見はほとんど報告されていない。骨髄不全ではあるものの、正常なテロメア長が
見られる患者の場合、DC である可能性は除外される(2)。したがって、臨床診断にしろ、遺伝子配列解析にしろ、
テロメア長の解析にしろ、それ単独で用を満たす方法はない。ハイスループット遺伝子解析が臨床診断に浸透す
るに連れ、このような患者のより包括的な遺伝特性の詳細が一般化してくるはずである。
参考論文
1. Vogiatzi P, Perdigones N, Mason PJ, Wilson DB, Bessler M. A family with Hoyeraal-Hreidarsson syndrome and four
variants in two genes of the telomerase core complex. Pediatr Blood Cancer. Forthcoming 2012.
2. Du H-Y, Pumbo E, Ivanovich J, An P, Maziarz RT, Reiss UM, et al. TERC and TERT gene mutations in patients with bone
marrow failure and significance of telomere length measurements. Blood 2009;113:309–16.
論評
Timothy S. Olson* and Monica Bessler
Children's Hospital of Philadelphia, Philadelphia, PA.
Address correspondence to this author at: Children's Hospital of Philadelphia, 3401 Civic Center Blvd., Philadelphia, PA
19104. Fax 215-590-3770; e-mail [email protected].
この症例研究において Guinan と Agarwal は、栄養失調症の爪、網様色素沈着、白斑症など多くの先天性角化異
常症(DC)の古典的特徴を示す、進行性骨髄機能不全(BMF)の患者を報告している。分子診断の不足にもかかわら
ず、古典的臨床症状の存在、家族歴および末梢血リンパ球中での特徴的なテロメア短縮などは、DC であるとの
臨床診断を支持し、患者の BMF が極端に短いテロメアにより引き起こされていることを示唆している。またこ
の症例により強調されるのは、BMF を発症した際、全ての患者が古典的症状を示すとは限らないし、またこれ
らの症状が微妙であるために、容易に見落とされるかもしれないということである。更に、古典的臨床症状を示
す場合でさえ、患者全体のおよそ 3 分の 2 しか分子診断を利用できない。それ以外の患者においては、以下の
理由により分子診断が欠けている。(a)個々の臨床遺伝子検査が高価であるために、効果的な遺伝子検査を行え
る機会が制限されるため。(b)現在の臨床検査では、既知の DC の原因遺伝子内の制御配列の変異や、広範囲に及
ぶ欠失などの遺伝子欠損が見落とされてしまうため。(c)DC を引き起こすその他の遺伝子が、まだ発見されてい
ないためである。
現在、DC に関係している遺伝子の突然変異は 8 つ見つかっている。これらの変異はすべてテロメア維持に関与
7
するが、3 つの別々のテロメア維持経路に分類される: 幹細胞中のテロメアを伸長するテロメラーゼ複合体[疾病
遺伝子 TERC、TERT、DKC1、NOP10、NHP2、WRAP53(以前は TCAB1)]; テロメア末端を保護しテロメラーゼを誘導
する shelterin 複合体 (疾病遺伝子 TINF2); テロメア複製に関与し、テロメア末端でテロメラーゼ活性を制御する
CTS 複合体(疾病遺伝子 CTC1)(1)。それぞれの異なる遺伝子突然変異は、相当な表現型の重複が認められるものの、
臓器系に関すること、発症年齢および症状の重篤度などの臨床的症状が広範囲にばらついた DC を引き起こす。
それに加えて、ユニークな臨床症状が特異的遺伝子変異に関係しています(2)。テロメラーゼおよび(また
は)shelterin 複合体の遺伝子変異は、BMF の発症時における非常に短いテロメアの原因であるが、CTC1 の変異に
よって引き起こされた BMF が、常に非常に短いテロメアと関係があるかどうかについては未だ不明である(3)。
(訳者:平井孝明)
参考論文
1. Armanios M, Blackburn EH. The telomere syndromes. Nat Rev Genet 2012;13:693–704.
2. Mason PJ, Bessler M. The genetics of dyskeratosis congenita. Cancer Genet 2011;204:635–45.
3. Walne A, Bhagat T, Kirwan M, Gitaux C, Desguerre I, Leonard N, et al. Mutations in the telomere capping complex in
bone marrow failure and related syndromes. Haematologica [Epub ahead of print 2012 Aug 16].
8