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大動脈閉鎖不全モデルラットにおける左室脱共役蛋白発現
○木村正司,マットルブール・ラフマン,福井敏樹,安部陽一
(香川医大・薬理)
【目的】ミトコンドリア内膜に存在する脱共役蛋白( UCP)は,プロトン輸送作用を
持つことにより電子伝達系を抑制する. UCP-2 は多くの臓器で発現する型であるが,
中でも RNA レベルでは心筋に最も豊富に存在する.本研究は,大動脈閉鎖不全(AR)
モデルラットを心エコーで follow し,心筋 high energy phosphate 量と UCP 発現の関係
を検討した.また,併せてアンジオテンシン変換酵素阻害薬,ペリンドプリル(PE),
投与のこれらパラメーターに与える影響を検討した.
【方法】SD ラットに AR を作成し,(1)AR 急性期群(1,3,7 日)と(2)AR 慢
性期群 (30,100 日)に分けそれぞれ検討した.また,慢性期群では
PE 投与(飲水
3.5mg/day)を術後 3 日目より併せた.AR 作成後,経時的に血圧,体重を測定,心エ
コーによって左室拡張末期径( LVDd),左室短縮率(FS)を計測した.左室 ATP,クレ
アチンリン酸(CP)含有量はそれぞれ HPLC 法で定量した.また左室 UCP-2,TNF-α,
ANPmRNA の発現を比較定量した.
【結果】
(1)AR 急性期群;AR 作製後 LVDd は,1 日後から徐々に増大した.左室
ANPmRNA 量は,1,3,7 日を併せた群において LVDd および左室重量に相関した.
一方,UCP-2mRNA 量は,1 日目には AR の重症度に影響は受けなかったが,3,7 日
目の群では低値を示し,ANPmRNA 量あるいは LVDd および左室重量に対し逆相関を
認めた.この急性期においては,ATP, CP 含有量,TNF-αmRNA 量に変化は認めなか
った.また FS にも影響がなかった.(2)AR 慢性期群;LVDd は,30 日後に AR 群
において明らかに拡大した.FS は 30 日には変化がなかったが,100 日後では AR 群で
有意に低値を示した.ATP 含有量は AR 群と sham 群に差はなかったが,CP 含有量は
100 日後に AR 群で低下を認めた.左室 ANPmRNA 量増大はさらに顕著となり,尿中
cyclic GMP 排泄量増加がこれを反映した.UCP-2 および TNF-αmRNA 量は,急性期
とは異なり AR 慢性期では増加に転じ,100 日後には sham ラットの約 4 倍に達した.
PE 投与群では,いずれの時期も血圧を 20mmHg 程低下させた.LVDd の拡大は有意に
抑制され,100 日後における FS の低下および左室 CP 含有量の減少は認めなかった.
ANP, UCP-2mRNA 量は sham 群と同程度まで抑制された.
【考察】ラット AR モデル左室において UCP-2 の発現は術後早期には減少し,前負荷
増加に対する心筋エネルギー効率の改善が示唆された.慢性期には, UCP-2 の発現は
逆に増加しており,その機序として TNF-αによる UCP-2 発現亢進が示唆された.