Page 1 Page 2 学位(専攻分野) 博 士 (薬 学) 学位授与の日付 平 成 ー2

KURENAI : Kyoto University Research Information Repository
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ヘビ血液由来ホスホリパーゼA2阻害タンパク質に関する
研究( Abstract_要旨 )
奥村, 幸治
Kyoto University (京都大学)
2000-03-23
http://hdl.handle.net/2433/181186
Right
Type
Textversion
Thesis or Dissertation
none
Kyoto University
氏
名
藁
指
嘉
(
薬
学)
学位 (
専攻分野)
博
学 位 記 番 号
論 薬 博 第 6
2
7号
学位授与 の 日付
平 成 1
2年 3 月 2
3日
学位授与 の要件
学 位 規 則 第 4条 第 2項 該 当
学位論文題 目
へ ど血 液 由来 ホ ス ホ リパ ーゼ A2阻 害 タ ンパ ク質 に関 す る研 究
論文調査委員
教 授 川 寄 敏 祐
(
主
士
事
査)
論
教 授 市 川
文
内
容
の
厚
要
教 授 伊 藤 信 行
旨
ホスホ リパ -ゼ A2(
PLA2
)は,グ リセロ リン脂質の s
n-2位のア シル鎖を加水分解する酵素である。この酵素は食餌中の
リン脂質の消化 あるいは生体膜中の リン脂質の代謝 に関わるとともに, プロスタグランジンなどの脂質 メディエーターの産
生 に至 るアラキ ドン酸 カスケー ドの開始酵素 と して重要な働 きを もっている。 クサ リへ ど科 に属する中国マムシの血液は,
PLA2と直接結合 して活性 を阻害す る 3種類の タンパ ク質 (
PLI
α,PLI
β,PLI
γ
)を含んでいる。PLI
αは,Ca2+依存性 CRD
0kDaのサ ブユニ ッ トのホモ三量体であり, 1分
(
car
bohydr
at
eRe
c
ogni
t
i
onDomai
n)様 ドメイ ンと糖鎖 を もっ分子量 2
I型酸性 pLA2と結合 して活性 を阻害す る。PLU は,PLI
aや PLI
rとは異なる構造の PLIであ り,糖鎖をもつ分子量
子の I
5
0kDaのサ ブユニ ッ トか ら成 り, 3分子の Ⅰ
Ⅰ型塩基性 PLA2と結合 して活性を阻害す る。 また, PLI
γは分子量 2
5kDaと
2
0kDaの 2種類 のサ ブユニ ッ トか ら成 る糖 タ ンパ ク質 である。PLI
γは 1
分 子のヘ ビ毒 由来 Ⅰ型 PLA2
,ヘ ビ毒由来 Ⅰ
Ⅰ型
PLA2および-チ毒 Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ型 PLA2と結合 して活性 を阻害する。このよ うに,タンパ ク質 としての基本的性質 は明 らかとなって
いるが,分子生物学的解析 はほとん ど行われてお らず, また,PLI
βや PLI
γについてはその一次構造やサブユニ ット構造 も
明 らかにされていない。
申請者 は,中国 マム シ血液 由来 pLl
βと PLI
rの全一次構造 を明 らか にす るとともに PLI
αの発現系 を確立 し,PLI
aと
PLA2との相互作用の機構の解析を行 った。 さ らに,毒を もたない シマヘ ビか らも 3種類の PLIと相同性を示す タンパ ク質
を精製 し,生化学的および分子生物学的解析を行 い,以下の成果を得た。
第 1章
へ ど由来 PLA2阻害 タンパ ク質の生化学的および分子生物学的解析
既 に明 らかにされている中国マム シ血液由来の PLI
α(
Ab
s
PLI
α) のア ミノ酸配列 に基づ き, RTPCR を行い, これをプ
ローブと して中国 マム シ肝臓 由来 c
DNA ライブラ リーより c
DNA を単離 した. これか ら予想 されるア ミノ酸配列を既に明
らかにされているもの と比較 したところ, 5残基のア ミノ酸置換が見 られた。 今回解析 した中国マムシか ら新たに PLI
αを
精製 してそのア ミノ酸配列 を確認 し,さ らに,RTPCR産物のダイ レク トシーケ ンスを行 ったところ,今回得 られた c
DNA
に相当す る配列のみが得 られた。中国マム シの分類 については議論 の余地があり, ここに見 られたア ミノ酸配列の違いは,
亜種 による違 いであると考え られ る。
次 に,中国マム シ PL岬 (
Ab
s
PLI
β)を精製 し,その内部 ア ミノ酸配列 に基づいて c
DNA をクロ-ニ ング し,その全一次構
造 を決定 した。その結果,Ab
s
PL岬 は ヒ ト血祭由来 l
e
uc
i
ne
r
i
c
hα2
gl
yc
opr
ot
e
i
n(
hLRG) と 3
3
% の相同性を もっことが
わか った。 この タンパ ク質 には hLRG と同様 に 2
4残基か ら成 る LRR (
l
e
uc
i
ne
r
i
c
hr
e
pe
at
)構造の 9回繰 り返 し構造があ
り, C末端付近 には LRR構造 を もつ タンパ ク質 に特有の Cys残基パ ター ンが存在す るが, N末端付近 にはそのような配列
は存在せず,Pr
o残基 に富む特徴的な配列がみ られた。また,架橋実験 よりAb
s
PLI
βはホモ三量体であることがわか った。
Ab
s
PL岬 は 3分子 の PLA2と結合す ることか ら, 各 々のサブユニ ッ トが 1分子の PLA2と結合すると考え られた。 LRR構
造 を もつ RNas
eイ ンヒビターが馬蹄型構造を もつので, Ab
s
PLW のサブユニ ッ トも同様な高次構造を もっ と推定 される。
このように Ab
s
PLI
βは既 に構造が明 らかにされている PLI
aや PLI
r
, さらに, アネキ シンファミリーに属する リポコルチ
ン類 とは異 なる新規 な PLA2阻害 タンパ ク質であることが明 らか となった。
-1
5
9
8
-
次 に,中国マム シ PLI
r(
Ab
s
PLI
r
)を精製 し,得 られた各サ ブユニ ッ トの内部 ア ミノ酸配列 に基づいて 2
5kDaと 2
0kDa
サブユニ ッ トに相当す る c
DNA を クローニ ング した。その結果,各サブユニ ッ トは互 いに高 い相同性を示すが異なるア ミノ
酸配列 を もつ ことがわか った。各 サ ブユニ ッ トにはウロキナーゼ受容体やヘ ビ毒 由来サイ トトキ シン/ニューロ トキ シン
ファ ミリーが属す る Ly-6スーパ ーファ ミリーの タンパ ク質 に特徴的な三つ指構造の 2回繰 り返 し構造がみ られ, すでに明
らか にされているタイ コブラ由来 PLI
rや エ ラブウ ミ- ど由来 pLI
rなどと高 い相同性があることか ら,AbsPLI
γはこれ ら
と同様 にヘテロ三量体であることが推定 され る。
PLIは自らの毒液 に対す る防御機構の一つの因子 として機能 していると考え られていたが, サザ ン-イブ リダイゼ- ショ
ンの結果か ら,毒のない シマヘ ビに も PLIと類似の タンパ ク質が存在す ることが示唆 されたので, PLA2に対す る阻害活性
を指標 として シマヘ ビ血液 より 2種類の タンパ ク質を精製 した。 これ らの タンパ ク質の特異性 を調べたところ, Ⅰ
Ⅰ型塩基性
pLA2に特異的な タンパ ク質 と,Ⅰ型,Ⅰ
Ⅰ型 ,Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ型 pLA2を阻害す るタンパ ク質であ った。精製標品の内部 ア ミノ酸配列 を も
とに RTPCR を行 い, シマヘ ビ肝臓 由来 cDNA ライブラリーを用 いて c
DNA クローニ ングと塩基配列の解析を行 った。そ
の結果,I
I型塩基性 PLA2を特異的に阻害す るタンパ ク質 はAbsPL岬 と,I型,Ⅰ
Ⅰ型,I
I
I型 PLA2を阻害す るタンパ ク質 は
AbsPLI
γと各 々相同性 を示す タンパ ク質であることがわか った。 また, シマヘ ビ血液 にはAbsPLI
αと免疫交差性を示す タ
ンパ ク質の存在が示 されたので,次 に本 タンパ ク質を精製 しその阻害活性 を調べたが,種 々の毒由来 PLA2とは結合せず阻
害活性 を示 さなか った。また,c
DNA クローニ ングを行 ったところ,この タンパ ク質 はAbsPLI
α と高 い相同性 を示 した。さ
らに, ノーザ ン-イブ リダイゼー ションの結果, これ らの 3種類の PLIは肝臓で発現 し,他の組織では発現 していないこと
α様 タンパ ク質の生理的機能 は不明であるが, 毒腺や種 々の酵素を含む Duver
noy腺 さえ もない シマ- ど
がわか った。 PLI
に も PLIやその類似 タンパ ク質が存在す ることか ら,これ らの タンパ ク質 は,単 に毒液に対する自己防御機構の因子 として
機能す るだけでな く,他の重要 な生理的役割を も果た しているのではないか と考え られる。
第 2章
中国マムシ由来 PLA2阻害 タンパ ク質 と PLA2の相互作用の解析
PLI
aと PLA2の相互作用の機構を明 らかにす るために, I
I型酸性 PLA2をはぼ特異的に阻害す るAb
sPLI
aの大腸菌を用
s
t
agを N末端 に付加 したAbsPLI
α(
r
PLI
αf
p) と天然型のア ミノ酸配列を もっ組換え型 AbsPLI
α
いる発現系を確立 し,Hi
(
r
PLI
α) を得た。次 に,r
PLI
αf
pのア ミノ酸配列内に PLA2阻害活性のないシマヘ ビ由来 pLI
α様 タンパ ク質 に特徴的なア
ミノ酸残基を導入 した変異型 PLI
αを作製 し, Ⅰ
Ⅰ型酸性 PLA2に対す る阻害活性 を解析 した結果, PLI
αの可変領域の As
n-
-1
4
6を中心 とす る複数のア ミノ酸残基が結合に関与す ることがわか った。
2
6と,CRD様 ドメイ ンの C末端近傍の Tyr
以上の研究 は,毒- どの血液 由来 PLA2阻害 タンパ ク質の基本的性質 に加え,無毒ヘ ビの血液由来 pLA2阻害 タンパ ク質
αと PLA2の作用機構 を解析 した もので
やその類似 タンパ ク質の基本的性質 を比較検討 し, さらに組換え技術を用 いて PLI
あ り,
.PLA2が関連す る病態の解析やその治療薬 としての応用の可能性 を示 したものである。
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
ホスホ リパ ーゼ A2(
PLA2
) はグ リセロ リン脂質の s
n-2位の脂肪酸 エステルを加水分解 して遊離脂肪酸 と リゾ リン脂質
を産生す る酵素の総称である。PLA2はその局在性,分子量 ,Ca2+要求怪,基質特異性などに基づいて,分泌型,細胞質型,
Ca2
十非依存型および PAF-アセチル ヒ ドロラーゼの 4群 に分類 される。 分泌型 pLA2は動物肺臓のほか- ど毒 に多 く含 ま
れ る。 一方, 毒 ヘ ビの血液 には, PLA2と結合 してその活性を阻害す る 3種類の PLA2阻害 タンパ ク質 (
PLA2
i
nhi
bi
t
or
,
PLI
),PLI
α,PLI
β,PLI
γが含 まれている。 これ らの PLIは毒液中の PLA2に対する自己防御機構の一つの因子 と考え られ
ている。
本研究では,中国マムシ肝臓 由来の c
DNA ライブラリーか ら,PLI
α,PLI
βおよび PLI
γの c
DNA のクローニ ングに成功
し, それ らの塩基配列 を決定す ることによ りタ ンパ ク質の全一次構造 を決定 した。PLI
αは 1
6
6個 のア ミノ酸 よ りな り,
Ca2+依存性糖結合 ドメイ ン (
CRD) と類似の ドメイ ン構造を もつ 2
0kDaの糖 タンパ ク質であった。PL岬 は 3
01個のア ミ
ノ酸残基 よりなる 3
5kDaの タンパ ク質であ った。 本分子 は ヒ ト血清由来の l
e
uc
i
ne
r
i
c
h α2-gl
yc
opr
ot
e
i
n (
hLRG) と
3
3% の相同性を示 し,hLRG と同様 に,2
4残基 よ り成 る LRR(
l
euci
ne
r
i
c
hr
e
pe
at
)構造の 9回繰 り返 し構造を もち,また,
C一末端付近 には LRR構造 を もつ タ ンパ ク質 に特有の Cys残基パ ター ンが, N-末端付近 には Pr
o残基 に富む特徴的な配列
がみ られた。RNa
s
eイ ンヒビターなど LRR構造 を もつ他の タンパ ク質 は馬蹄型 の高次構造 を持っ ことが知 られているの
-1
5
9
9
-
で,PL岬 も同様 な立体構造 を持つ もの と推定 された。PLI
γは 2
5kDaと 20kDaの 2種 のサ ブユニ ッ トか ら構成 され るヘテ
ロ 3量体 であ ることが示 された。両 サ ブユニ ッ トはア ミノ酸 レベルで 2
6
.
5% の相同性 を持 ち,いずれ も 2
00個 のア ミノ酸残
基 よ り成 る。これ らのサ ブユニ ッ トは Ly-6スーパ ーフ ァ ミリーに特徴的 な Cys残基パ ター ンの 2回繰 り返 し配列を持 ち,
hr
e
ef
i
nge
r構造 を持っ ことが示 された。なお,ノーザ ン分析 の結果か ら,これ らの PLIはいず
特徴的な β-シー トか ら成 る t
れ も,肝臓 で生合成 され,血中に移行す ることが示 され た。
また,本研究で は毒 を持 たない シマ- どの血液中に も,PLI
βと PLI
γに相 当す る PLA2阻害 タンパ ク質が存在す ること,
α と一次構造上 の高 い相同性 を持 ちなが ら, PLAZ阻害活性 を持 たない PLI
α様 タ ンパ ク質の存在 も明 らか とな っ
また, PLI
た。 これ らの結果 は, PLIが これ まで知 られていない新 しい生理的機能 を果 た している可能性 を示 している。
以上 の研究 は, ヘ ビ毒血液由来の PLA2阻害 タ ンパ ク質 の タ ンパ ク質化学的諸性質を明 らか にす るとともに, その機能 に
関 してい くつかの新 しい知見 を得 た ものである。 よ って本論分 は博士 (
薬学) の論文 と して価値 あるもの と認 める。 更 に,
2年 1月 1
8日論文内容 とそれ に関連 した口頭試問を行 った結果合格 と認 めた。
平成 1
-1
6
0
0
-