⼩型衛星PolariS搭載 ガンマ線バースト広視野偏光計の開発 中森健之、坂野光成、⽚桐惇、加藤晃紀、岸川達哉、⽊村沙也⾹、郡司修⼀(⼭形⼤理)、 ⽶徳⼤輔(⾦沢⼤理)、三原建弘(理研)、他 PolariSワーキンググループ Abstract X線・ガンマ線による偏光観測は、放射機構や磁場の構造などを知るための強⼒なプローブであるにもかかわらず、技術的な困難さから未だ開拓が進んでいな い ⾼エネルギー天⽂学のフロンティアである。我々は⼩型衛星PolariS搭載を⽬指して、ガンマ線バースト観測⽤のX線・ガンマ線偏光計を開発している。この偏光計は コンプトン散乱の異⽅性を利⽤した広視野偏光検出器であり、散乱体であるプラスチックシンチレータアレイと吸収体であるGAGGシンチレータアレイによって50--400 keVのエネルギー帯域をカバーする。また信号の読み出しにはそれぞれマルチアノード光電⼦増倍管とアバランシェフォトダイオードを採⽤している。本講演では、我々 が現在進めているマルチアノード光電⼦増倍管に関する要素試験と、シミュレーションによる検出器サイズの最適化について報告する。 Introduction 検出器構成と開発のポイント コンプトン散乱の異⽅性を利⽤した検出器である。 散乱 散乱硬X線の⽅向は偏光⽅向に対して垂直になりや 線 ⽅向 偏光⽅向 対 垂直 すい。プラスチックシンチレータ(散乱体)でコン プトン散乱させ、周囲を取り囲む無機シンチレータ (吸収体)によって散乱X線を吸収する。シンチ レータをピクセル化することにより、散乱⽅向を知 ることができる。シンチレータの読み出しにはマル チ ア ノ ー ド 光 電 ⼦ 増 倍 管 (MAPMT) と ア バ ラ ン シェ・フォトダイオード(APD)を⽤いる。 ガンマ線バースト(GRB)は宇宙論的な遠⽅で起こる宇宙 最⼤の爆発現象であり、prompt emissionの発⽣機構につ いては決定的な結論が得られていない。特に硬X線の偏光を 測定することによってモデルに対して⾮常に強い制限を与 えることができる。 GRB100826A GRB偏光計 4隅に4台 RHESSI[1] とINTEGRAL[2] によるGRBからの硬X線偏光の検 出報告には議論があったが、ソーラーセイル実証機イカロス に搭載されたGAP検出器が3σを超える有意度で偏光を検出 (左上図[3])した他、合計3例のGRBに対して偏光検出結果 を報告した。 GRBの偏光度から輻射モデルを特定するためには、100例程 度まで偏光検出数を増やし GRBの個性が⾒えなくなるよう 度まで偏光検出数を増やし、GRBの個性が⾒えなくなるよう にして統計的に判断する必要がある。我々は⼩型衛星 PolariS[4] に搭載するGRB⽤硬X線偏光計を開発している。 GAPより⾼い感度を持つ検出器を4台、それぞれ別の⽅向を 向けることによって広い視 重量 電⼒ ⾯積 野を確保する計画である( GAP 3.8kg 5W 140cm2 左下図)。 新型 〜6kg 〜15W 300cm2 耐震改良型 MAPMTの評価 耐震化を施したウルトラバイアル カリ光電⾯のMAPMTを採⽤予定 である(右図)。通常MAPMTに は個体差があり、平均的なゲイン やピクセル間のゲインの均⼀性は 保障されていない。今回ピクセル 間のゲインの最⼤最⼩⽐が2倍以 下という条件で10台のMAPMTを 購⼊した。 26.2mm 26.2mm R11265‐200‐M16 すべてのチャンネルに対して、光電⾯からの熱雑⾳によ る1 p.e.を測定し、各MAPMTの平均ゲインやピクセル のゲインのばらつきを調べた。全160チャンネルのゲイ ン分布を下左図、各PMT内でのゲインの最⼤最⼩⽐を下 右図に⽰す。要求値を⼗分に満⾜する1.4倍程度に収 まっていることがわかった。 全chのゲイン 各MAPMT内のゲインの最⼤最⼩⽐ Modulation Factor 100%偏光に対する 検出器レスポンス MF Cmax Cmin Cmax Cmin MF 〜30% 検出効率 15%@100keV 〜45% >25%@100keV 55Fe 耐震化性能を確認するため、⼭形県⼯業 技術センター置賜試験場において正弦波 のスイープ試験(x, y, z⽅向)、およびパ イロ衝撃試験(左図)を⾏った。典型的 な打ち上げ振動プロファイルを元にした。 振動試験後のMAPMTの性能変化について 現在評価を進めている。 シンチレータの 形状最適化 放射化実験による 放射化実験 よる 吸収体の選定 吸収体の候補となる無機シンチレータは衛星軌道上での 放射化によるバックグラウンド(BG)が最も少ないもの を選ぶ必要がある。我々はCsI(Tl)、GAGG、GSOを候補 として挙げ、放射線医学研究所HIMACで150 MeVプロト ンビームを各シンチレータに10kradを⽬標に照射した。 ビームライン最下流に設置され て ている2次元位置有感型イオン る 次元位置有感型イオン チェンバのデータを元にビーム の形状を再構成し(左図)、 Geant4 各結 晶の ドー ズ量 をよ り正確に⾒積った。以下では ドーズ量で規格化して結晶間の ⽐較を⾏った。 結晶のサイズ 鉛ブロック 結晶 プリアンプ ⾼さ 厚み PMT MCA 上図のセットアップで241Amのスペクトルを取得するこ とにより、発光量の評価とエネルギーキャリブレーショ ンを⾏った。ビーム照射前と⽐較して有意な光量の低下 はいづれの結晶でも認められなかった。偏光計を組み上 げた際に問題となる、30̶400 keVのエネルギーデポ ジットを起こすカウントレートを内在BGとして計上した。 衛星搭載上の重量の制限の 下で、検出効率を最⼤にす るシンチレータの⾼さ及び 吸収体の厚みをGeant4を ⽤いて調べた。ここでは検 出器1ユニットを⽤いて評 価した。4ユニットで1台 の偏光計となる。 の偏光計となる 14.5×14.5 mm2のプラスチックシン チレータを6×6に並べ、MAPMTとの 接合部にテーパ加⼯を加えた。同じ幅 を持つGAGGを6つずつ周囲に並べた。 単⾊の硬X線を全⾯に対して垂直に⼊ 射し、以下の条件を満たすイベントの 割合を求め、検出効率とした。 裏 評価測定セットアップ 整形アンプ 次に、10台の中で最もゲインが⼩さいチャンネルの性 能を調べた。 5.5x5.5x40 mm3のプラスチックシンチ レータに5.9 keVのX線を照射して得られたスペクトル を、ガウシアン+ポアソン分布でフィットし、信号の検 出効率をエネルギー閾値の関数として求めた(下図)。 その結果、50%の検出効率を要求すると1.5 keV程度 まで閾値を下げられることがわかった。またこのときの 1p.e.ノイズレートは室温で143 Hzであった。 検出器への要請は、GRBからの偏光X線を3-4年の ミッション期間中に100例程度捉えることである。 X線のエネルギーが低いほど⼊射粒⼦数は多いが X線のエネルギーが低いほど⼊射粒⼦数は多いが、 散乱体でのエネルギーデポジットが⼩さい。した がって、散乱体のエネルギー閾値低下は感度向上に 直結する。また、衛星軌道上では吸収体シンチレー タの放射化によるバックグラウンドが問題であり、 GAPの場合ではGRBの信号を卓越するほど⾼いレー トであった。放射化バックグラウンドの影響が⼩さ い素材を選ぶ必要がある。 イベント選択条件(1)2本以下のプラスチックシンチ レータでエネルギーデポジットが発⽣する。ここでは実 験で求めた検出効率も考慮した。(2)ただ1本だけ GAGGシンチレータで30keV以上のエネルギーデポジッ トが発⽣する。(3)⼊射エネルギーを全吸収する。 検出効率のエネルギー依存性を下図に⽰す。吸収体の厚 みよりもシンチレータの⻑さを伸ばすことが効果的であ る。このことから、X線が散乱する確率を上げることが 検 出 効 率 に 対 し て⽀ 配 的 で あ る と 考え ら れ る 。 ま た GAP[5]よりも⾼い検出効率でより広いエネルギー領域を カバーできることも分かった。今後は実験で評価した GAGGのエネルギー閾値を反映させ、最適解を決定し、 デザインを確定する予定である デザインを確定する予定である。 ⻑さ 上左図はGAGGのBGスペクトルの時間変化である。時 間経過と共に放射化で発⽣したピークと連続成分の減少 が明らかにわかる。上右図にBGレートの時間変化を⽰ す。1⽇より⻑いタイムスケールではGAGGが最もBG レートが低いことが分かった。 得られたデータから、 1krad/yr と し て 軌 道 上 でのBGレートを計算し た(左図)。ミッション を通じてBGが最も低い GAGGを吸収体として採 ⽤することに決めた。 2014年宇宙科学シンポジウム@宇宙科学研究所 厚み 70mm ● 5mm 65mm ■ 6mm 60mm ▲ 7mm ▼ 8mm GAP References [1]Coburn, W. & Boggs, S. E. (2003), Nature, 423, 415 [2]Goetz, D. et al. (2009), ApJL, 695, L208 [3]Yonetoku, D. et al. (2011), ApJL, 743, L30 [4]Hayashida, K. et al. (2012), SPIE, 8443, 9 [5]Yonetoku, D. et al. (2011), PASJ, 63, 625 This document is provided by jAXA.
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