当面の金融経済情勢 2014年6月 東京大学経済学部 植田和男 ©Kazuo Ueda 1 非伝統的金融政策の類型 • Communication tools(forward guidance/時間軸政策):将来 の短期金利予想の引き下げ、インフレ期待の醸成 – 将来の不必要な金融緩和を現在約束 – 本来はstate contingent commitmentだが、最近ではより弱い「中央 銀行による将来の政策金利、あるいは経済予想等」の意味でも使用 • Balance sheet tools (QE0を除いて各資産の流動性・リスク・ プレミアムへの働きかけ。) – LSAP1(=“QE1”=「最後の貸し手機能」)(流動性プレミアムの抑制、市 場の正常化): ストレス下の市場での資金供給、資産買い取り – LSAP2(=“QE2”)(ポートフォリオ・リバランス効果):より正常な市場で の資産買い取り(市場の不完全性が何らかの意味で必要) – Pure QE (QE0)(流動性供給) 2 QQEの狙いと経済の反応 • 期待インフレを引き上げ、資産価格・総需要を刺激 – 中心はLSAP2:しかし、国債金利は既にきわめて低い。 – FG:強化はされず(ただし、目標インフレ率の引き上げ。) – QE0:ベースマネー目標は当座預金目標と本質的には 同じ。 – これらで期待インフレ率に働きかける意図を強調。 • しかし、期待インフレ率が上昇するという根拠に乏しい。 • 現実には、インフレ期待はわずかに上昇。円、株価 は大きく反応。要するに、やや違う期待が動いた。 • 実体経済は、緩やかに資産価格変化と第二の矢に 反応。 ©Kazuo Ueda 3 ベースマネーとCPI:日本 500 450 400 350 300 CPI 250 Base Money 200 150 100 50 0 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 ©Kazuo Ueda 4 Base Money & CPI, US: 1990=100 1200 1000 800 CPI 600 Base Money 400 200 0 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 ©Kazuo Ueda 5 ©Kazuo Ueda 6 180 マネタリーベース 160 140 2013年 120 2001年 100 80 60 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 ©Kazuo Ueda 7 日銀買いオペ年限別構成比: 2013年度は11月まで 90 80 70 60 50 0-3年 3年―6年 40 6年―10年 30 20 10 0 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 ©Kazuo Ueda 2010 2011 2012 2013 8 日米の国債イールドカーブ 4 3.5 U:2014.6 3 U:2008.12 2.5 U:2012.7 J:1998.7 2 J:2012.11 J:2014.6 1.5 1 0.5 0 1 3 5 ©Kazuo Ueda 10 20 30 9 日本株投資主体別買越額 3000000 外人が唯一の購入主体 2500000 2000000 1500000 1000000 foreigners 500000 individuals nonfinancials financials 0 mutual funds -500000 -1000000 -1500000 -2000000 -2500000 ©Kazuo Ueda 10 動いたのは海外投資家の「資産価格上昇期待」: 背後に安倍政権の戦略的行動 • 様々な手段でfast money communityを説得。 • 「大胆な」金融緩和実施へBOJに強い圧力。 • 投資家も欧米の金融危機後の金融政策の動きから「学習」 – Fedの素早い対応、特に2008-09年。 – Draghi「ユーロ防衛のためには何でもやる」の連想。 – しかし、これらはQE1(日銀がいまやっているのはQE2). • 「第二の矢」の積極的な活用。 – ヘリコプター・マネーの連想も。 • 賃金引上げmoral suasion • 誤算は国内投資家が動かないこと。 – 彼らの期待はゆっくりと変動。リバランス効果も限定的。 – 結果として、債券市場は安定。 • GPIF活用を含む「第三の矢」 ©Kazuo Ueda 11 外国人投資家は2008-09年の経験に基づいて、円を売ったが。 2.1 2.15 2 2.1 1.9 2.05 1.8 2 1.7 relative base money 1.6 1.95 yen/dollar (right scale) 1.5 1.9 1.4 1.85 1.3 1.2 1.8 ©Kazuo Ueda 12 QE1 金融不安 2001/3-2013/9 ドル安 yen/dollar 0.04 0.03 0.02 0.01 0 -0.12 -0.1 -0.08 -0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06 HJ/HUS -0.01 -0.02 -0.03 -0.04 ©Kazuo Ueda 13 追加緩和? • 国債買いオペの増大に実質的な意味はあまり 認められない。 – 銀行から金利リスク分、資本を解放してやる効果。 – 瞬間的に、円安になるかどうかの勝負。 • 一応「効くもの」という先入観が投資家の間に存在。 – GPIFの国債売りとのセット – インフレ率があまり上がらないことが判明してからで は神通力低下。 • 株式購入? ©Kazuo Ueda 14 インフレ見通し(除く消費税):日銀対民間 2.5 2 1.5 BOJ 1 ESP Forecast 0.5 0 2012 2013 2014 2015 -0.5 ©Kazuo Ueda 15 Core core Tokyo CPI Inflation 0.6 0.4 0.2 0 Jul-12 Sep-12 Nov-12 Jan-13 Mar-13 May-13 Jul-13 Sep-13 Nov-13 Jan-14 Mar-14 May-14 -0.2 -0.4 -0.6 -0.8 -1 -1.2 ©Kazuo Ueda 16 東大物価指数、6月10日まで 17 GPIFの2001-2012年平均運用収益率 6 5 4 3 % 2 1 0 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 -1 GPIF 18 基本ポートフォリオ変更までの流れ • 要求収益率の決定: 𝑊 = 𝑖(𝑥 𝑡 + 𝑖 − 𝑦 𝑡 + 𝑖 )/(1 + 𝜌)𝑖 – 長期的な経済動向の予測(成長率、利子率、賃 金上昇率、インフレ率等) – それに基づいて上記𝜌を計算→対応するリスクを 決定。 • ただし、x、yが賃金連動の性格が濃いため、賃金上昇 率を上回る程度として要求収益率を表現、リスクにつ いても同様とする方向。 ©Kazuo Ueda 19 GPIFにもっとリスクを取らせる? 予想収益率 より魅力的なアセット クラスの発掘 𝜌 P2 リスク分散による 収益向上 P1 現在のポート B 国債並みリスク ? リスク 今後は、 (各資産収益率-賃金上昇率)の σ(横軸)と期待値(縦軸)へ。 ©Kazuo Ueda 20 高い債券利回り予想:ソローモデルの使用(貯蓄率の低下の 効果、閉鎖経済の仮定等)、現実の利潤率(モデル内の利子 率)と利子率の相関から債券利回りを計算。 厚労省「年金財政と積立金のあり方」委員会 21 厚生労働省 22 米国の部門別ISバランス(GDP比) 日銀、資金循環勘定 23 レバレッジ:日本、非金融法人 2.2 2 1.8 1.6 1.4 1.2 1 1980 1985 1990 1995 ©Kazuo Ueda 2000 2005 2010 24 10 8 6 4 2 設備投資 貯蓄 0 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 土地投資 純金融調達 -2 -4 -6 -8 -10 ©Kazuo Ueda 25
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