AN 528

PCB 絶縁材料の選択とガラス繊維の
高速チャネル・ルーティングへの影響
AN-528-1.1
Application Note
データ・レートの増加に伴い、設計者は次第に、広いパラレル・バスから差動信号
を用いるシリアル・バスへと移行しています。差動信号は 2 つの出力ドライバを使
用し、1 つのビットを運ぶ 1 本のラインとその相補を運ぶもう 1 本のラインとの 2 本
の独立した伝送ラインを駆動しています。2 つの信号の差は、情報を運ぶ 2 本のト
レース間で測定します。差動ペアは、ペアの 2 つのレグ間でカップリングを伴う一
対の伝送ラインです。
パラレル・バスの問題として、信号ブレークアウト、ソース・シンクロナス・タイ
ミング・マージン、および終端方式が含まれる一方で、差動信号ではペア内とペア
間のスキュー、ビア・スタブ、絶縁材料特性、およびインピーダンス不連続性に重
点を置かれます。
このアプリケーション・ノートは、Stratix® II GX および Stratix IV GX デバイスで使用
可能な高速トランシーバの使用を計画し、以下に示す、デザインにおける 2 つの重
要なテーマに取り組むプリント基板(PCB)設計者向けです。
■
絶縁体材料の選択
■
絶縁体材料内のガラス繊維のパターンに起因する比誘電率(Er)の局所的な変化
により差動ペアに追加される余分なスキュー
加えて本資料は、ガラス繊維のパターンによる影響を補償するために採用できるさ
まざまな手法について説明し、既存の知識を確認し発展させ、また、追加情報とし
て各種の技術資料を掲載しています。
差動信号
現在、差動信号は広く産業界で使用されています。PCI-E、XAUI、OC768、および CEI
といった高速シリアル・インタフェースはデータを送受信するために差動信号を使
用します。図 1 にドライバ(TX)とレシーバ(RX)間を差動ペアで接続した標準的
なポイント・ツー・ポイント・トポロジーを示します。
図 1. ポイント・ツー・ポイント・トポロジー
Differential Pair
TX
101 Innovation Drive
San Jose, CA 95134
www.altera.com
2011 年 1 月
RX
© 2011 Altera Corporation. All rights reserved. ALTERA, ARRIA, CYCLONE, HARDCOPY, MAX, MEGACORE, NIOS,
QUARTUS and STRATIX are Reg. U.S. Pat. & Tm. Off. and/or trademarks of Altera Corporation in the U.S. and other countries.
All other trademarks and service marks are the property of their respective holders as described at
www.altera.com/common/legal.html. Altera warrants performance of its semiconductor products to current specifications in
accordance with Altera’s standard warranty, but reserves the right to make changes to any products and services at any time
without notice. Altera assumes no responsibility or liability arising out of the application or use of any information, product, or
service described herein except as expressly agreed to in writing by Altera. Altera customers are advised to obtain the latest
version of device specifications before relying on any published information and before placing orders for products or services.
Altera Corporation
Subscrib
2 ページ
差動信号
図 2 に差動ペアの模式図を示します。電圧 V1 と V2 はそれぞれのトレースとそのリ
ターン・パスとの間で測定されるシングル・エンド電圧です。2 つのシングル・エン
ド信号に加えて、
「差動信号」と呼ばれる 2 本の信号トレース間の電圧差があります。
図 2. 差動ペア
伝送ラインの遠端で、差動レシーバは 2 本のトレース間の電圧差を測定し、差動信
号を回復します。以下の数式で表します。
VDIFF = V1 – V2
ここでは、
VDIFF = 差動信号
V1 = リターン・パスに対するトレース 1 の電圧信号
V2 = リターン・パスに対するトレース 2 の電圧信号
差動ペアにおけるシングル・エンド電圧は、コモンと差動信号の組み合わせとして
説明できます。以下の数式で表します。
V1 = VCOMMON + VDIFF/2
V2 = VCOMMON – VDIFF/2
ここでは、VCOMMON = (V1 + V2)/2 であり、VDIFF = V1 – V2
PCB 絶縁体材料の選択とガラス繊維の高速チャネル・ルーティングへの影響
2011 年 1 月 Altera Corporation
差動信号
3 ページ
図 3 に差動ペアに見られる差動モードとコモン・モードの信号の波形を示します。
図 3. 差動信号
2011 年 1 月
Altera Corporation
PCB 絶縁体材料の選択とガラス繊維の高速チャネル・ルーティングへの影響
4 ページ
差動信号
理想的には、PCB 上で差動ペアをルーティングするには以下に示す 2 つの基準を満
たしている必要があります。
■
2 本のトレースが、電気的な観点から同様である
つまり、差動ペアの各トレースは、正確に同じ断面寸法を有するべきであり、同
タイプの絶縁体材料に囲まれている必要があります。絶縁体の間隔は、2 本のト
レースの間においてトレースの全体の長さにわたって同じであるべきです。これ
を対称構造といいます。対称構造を有することにより差動信号に一定のインピー
ダンスをもたらします。非対称はインピーダンスの不連続性をもたらし、差動信
号からコモン信号へのモード変換を引き起こします。
■
差動ペアの 2 本のトレース間でのスキュー(時間遅延)がゼロである
電気的に各トレースの全長を正確に同じにすることにより、差動ペアの 2 本のト
レース間でのスキューをゼロにします。これにより、差動信号のエッジがシャー
プかつ明瞭に定義されます。2 本のトレース間のいかなるスキューも、差動信号
をコモン信号に変換する原因となります。
PCB 絶縁体材料の選択とガラス繊維の高速チャネル・ルーティングへの影響
2011 年 1 月 Altera Corporation
絶縁体積層構造の予備知識
5 ページ
絶縁体積層構造の予備知識
標準的な PCB の絶縁体(コア / プリプレグ)サブストレートは、強化され、エポキ
シ樹脂で貼りあわせれた、さまざまなガラス繊維から構築されています。ガラス繊
維の製織技術は他の織物と基本的に同じです。たて糸が生地ロールの長さ方向に走
り、よこ糸が幅方向に走ります。図 4 に標準的な基材の織り方を示します。各図の
横の数字は、使用されるガラス繊維の密度、ピッチ、たて糸、よこ糸、およびガラ
ス繊維ストランド数に基づいてガラス織物のスタイルを識別します。
図 4. さまざまなタイプの繊維の織り方
ガラスとエポキシはそれぞれ異なる比誘電率(Er/Dk)値を有しており、このため信
号伝搬のための媒体が不均質になります。現在の FR-4 クラスの PCB 積層材料や、多
くの高機能コンポジット材料、とりわけ Nelco 4000-13SI、Rogers 4250B などが、強度
と構造的インテグリティのためにガラス繊維織物を重用しています。
2011 年 1 月
Altera Corporation
PCB 絶縁体材料の選択とガラス繊維の高速チャネル・ルーティングへの影響
6 ページ
絶縁体積層構造の予備知識
大部分のガラス繊維糸の主成分は、E ガラス、S ガラス、NE ガラスです。E ガラスま
たは「電子ガラス」は、ガラス繊維業界で最も一般的です。これはガラス繊維織物
の構成に使用する糸に使用される主要なガラスであり、3 つの中で最も安価です。
S ガラスは、一般的には非電気的用途に使用されます。NE ガラスは E ガラス以上に
電気的性能と機械的性能が改良されており、ハイ・パフォーマンス積層製品ライン
Nelco 4000-13SI や N6000-21SI で使用されています。
表 1 に E ガラスと NE ガラスとの材料特性の比較を示します。
表 1. E ガラスと NE ガラスとの材料特性の比較
特性
E ガラス
NE ガラス
熱膨張係数(CTE)-ppm/C
5.5
3.4
1 MHz での比誘電率(Er)
6.6
4.4
0.0012
0.0006
1 MHz での誘電正接
NE ガラスは同条件化での E ガラスよりも優れた温度安定性、低い Er、および低損失
を示しています。より低い Er と誘電正接は、高速信方式のアプリケーションのシグ
ナル・インテグリティにいおて顕著な効果をもたらします。
基板メーカーは、さまざまなスタイルのガラス繊維織物(106、1080、2113、2116、
1652、7628 など)を層にし、硬化エポキシを充填してコア・シートを形成、または
半硬化エポキシを充填してプリプレグ・シートを形成します。あらゆる積層体の Er
は以下に示す方程式を使用して計算することができます。
Er = Er(エポキシ)× エポキシの%/100 + Er(ガラス)×(1 - エポキシの%)/100
ここでは、
■
Er(エポキシ)は FR-4 クラスのエポキシでは約 3.2、低損失エポキシでは 3.2
■
Er(ガラス)は、エポキシ・マトリックス中の E ガラスでは約 5.6、NE ガラスでは
4.4
積層版におけるエポキシとガラス繊維の混合体の性質は、使用するガラス織物のス
タイルによって変化します。目の粗い 1080 ガラスは、より目が細かい 2116 や 7268
などの織物に比べて、格子間へのエポキシの充填率が大幅に高くなります。
PCB の基材の織り方による影響について詳しくは、20 ページの「参考資料」を参照
してください。
f PCB デザインに関連する材料の選択について詳しくは、AN 613: PCB Stackup Design
Considerations for Altera FPGAs を参照してください。
PCB 絶縁体材料の選択とガラス繊維の高速チャネル・ルーティングへの影響
2011 年 1 月 Altera Corporation
テスト・ボード
7 ページ
テスト・ボード
アルテラは、高速チャネル・デザインを多様な側面から観測することを目的とした
テスト・ボードを開発しました。テスト・ボードは、異なる絶縁体材料からなる
4 つの配線層を含む 8 層基板です。これは片面基板であり、すべての SMA を最上層
に配置しています。図 5 にボード・スタックアップの詳細を示します。
図 5. アルテラ・テスト・ボードのスタックアップ
3 つの異なる絶縁体材料の比較を可能にするために、このボードでは、図 5 に示すよ
うに 3 つの異なるコア(Nelco 4000-13、Nelco 4000-6、Rogers 4350)を使用していま
す。
ボード上のすべてのテスト用構造は、シングル・エンド・インピーダンス
50 Ω ± 10 %または差動インピーダンス 100 Ω ± 10 %を満たすように配線されてい
ます。導体損失を最小にするために、インピーダンス・ターゲットを満たす広いト
レース幅を選択しています。表 2 にインピーダンス・ターゲットを満たすために選
択された、各トレース幅を示します。
表 2. アルテラ・テスト・ボードのトレース幅の要件(その1)
インピーダンス要件
インピー
ダンス・
タイプ
レイヤ
フィニッ リファ
シュ
レンス・
ライン プレーン
第2
目的の
リファ
ターゲット
レンス・ ・インピー
プレーン
ダンス
インピー
ダンス
許容誤差
実際に算
出された
インピー
ダンス
差動
差動
ライン
ライン
中心∼
間隔
中心
1
SE - Coated
Microstrip
00950
2
—
53.00 Ω
± 10%
53.59 Ω
—
—
1
DIF - Coated
Microstrip
Edge
Coupled
00950
2
—
100.00 Ω
± 10%
99.55 Ω
024
0145
1
SE - Coated
Microstrip
01075
2
—
50.00 Ω
± 10%
50.27 Ω
—
—
3
SE - Stripline
00750
4
2
51.00 Ω
± 10%
50.87 Ω
—
—
2011 年 1 月
Altera Corporation
PCB 絶縁体材料の選択とガラス繊維の高速チャネル・ルーティングへの影響
8 ページ
絶縁体材料の選択
表 2. アルテラ・テスト・ボードのトレース幅の要件(その2)
インピーダンス要件
レイヤ
インピー
ダンス・
タイプ
フィニッ リファ
シュ
レンス・
ライン プレーン
第2
目的の
リファ
ターゲット
レンス・ ・インピー
プレーン
ダンス
インピー
ダンス
許容誤差
実際に算
出された
インピー
ダンス
差動
差動
ライン
ライン
中心∼
間隔
中心
3
DIF Stripline
Edge
Coupled
00750
4
2
100.00 Ω
± 10%
100.10 Ω
026
0185
6
SE - Stripline
00700
5
7
51.00 Ω
± 10%
50.84 Ω
—
—
6
DIF Stripline
Edge
Coupled
00700
5
7
100.00 Ω
± 10%
100.27 Ω
026
019
8
SE - Coated
Microstrip
01050
7
—
55.00 Ω
± 10%
55.18 Ω
—
—
8
DIF - Coated
Microstrip
Edge
Coupled
01050
7
—
100.00 Ω
± 10%
100.69 Ω
024
0135
8
SE - Coated
Microstrip
01250
7
—
55.00 Ω
± 10%
50.36 Ω
—
—
絶縁体材料の選択
各絶縁体材料のパフォーマンスをテストするために、25 インチと 40 インチの 2 つの
同一な差動ペアをレイヤ 1、レイヤ 3、レイヤ 6 と、レイヤ 8 にルーティングしてい
ます。レイヤ 3 とレイヤ 6 の信号ビアは、不要なスタブを除去するためにバックド
リルされています。信号ビアの隣のグラウンド・リターン・ビアが最適なリターン・
パスを提供します。表 3 に各絶縁体材料の比誘電率および、損失係数つまり誘電正
接をリストします。
表 3. 各絶縁体材料の Er 値と Dk 値
材料
比誘電率(Er/Dk)
誘電正接(Df)
Nelco 4000-6
1 GHz では 4.1
1 GHz では 0.022
Nelco 4000-13 EP
1 GHz では 3.7
1 GHz では 0.009
10 GHz では 3.48
10 GHz では 0.0037
Rogers 4350B
PCB 絶縁体材料の選択とガラス繊維の高速チャネル・ルーティングへの影響
2011 年 1 月 Altera Corporation
絶縁体材料の選択
9 ページ
一貫性と再現性のある結果を得るために、ボードの最上層にあるハイ・パフォーマ
ンス SMA を使用してすべてのテスト用構造がデザインされています。4 ポート VNA
と TDR(Time-Domain Reflectometry)測定を使用して、各絶縁体材料のパフォーマン
スを観測します。図 6 に 40 インチ・トレースで測定されたシングル・エンド挿入損
失(S12/S34)と抽出された差動挿入損失(Sdd12)のスナップショットを示します。
各層の 25 インチ・トレースでも同様の挙動が観測されます。
図 6. 40 インチにおけるシングルと差動の挿入損失データ
シングル・エンドの S パラメータ測定では、レイヤ 1 とレイヤ 8 の 40 インチのマイ
クロストリップ・トレースが共振挙動(シングル・エンドの S パラメータ測定にお
ける谷)を示し、一方、レイヤ 3 とレイヤ 6 の 40 インチのストリップライン・ト
レースでは期待される単調減少(損失は周波数と長さの関数として増加)を示して
います。
緩やかにカップリングするマイクロストリップ・トレースでの共振挙動は、4 ポート
S パラメータ測定中のマイクロストリップ・トレースにおけるコモン信号と差動信
号の伝播速度の違いに起因しています。ストリップライン・トレースでは信号が伝
搬するトレースの周囲の媒体が均質であるため、このような挙動は見られません。
カップリングがなければ差動信号とコモン信号は同じ速度で移動し、1 本のトレース
2011 年 1 月
Altera Corporation
PCB 絶縁体材料の選択とガラス繊維の高速チャネル・ルーティングへの影響
10 ページ
絶縁体材料の選択
から他のトレースへのエネルギーの転送はありません。カップリングがマイクロス
トリップ・トレースで増加するにつれて、2 本のトレース間のエネルギーは信号の伝
搬に伴って堂々巡りにカップリングします。1 本のトレースから他のトレースへと完
全にカップリングする長さは、伝播速度の差、および差動信号とコモン信号の位相
差によって異なります。
この影響が、ストリップライン・トレース上ではなく、緩やかにカップリングした
マイクロストリップ・トレース上で遠端ノイズが起こる理由です。差動信号を送信
するためにトレースを使用するのであれば、これは問題にはなりません。シングル・
エンド信号を送信するためにトレースを使用する場合には、遠端に過大なクロス
トーク・ノイズをもたらします。この挙動の詳細な分析および情報源については 20
ページの「参考資料」の 3 と 4 の資料を参照してください。
図 7 は、図 6 に示す L1、L3、L6、L8 の 40 インチ・トレースにおけるシングル・エ
ンドの S パラメータ・データから抽出された差動挿入損失(Sdd12)の比較です
図 7. 40 インチにおける差動挿入損失(Sdd21)データの比較
PCB 絶縁体材料の選択とガラス繊維の高速チャネル・ルーティングへの影響
2011 年 1 月 Altera Corporation
絶縁体材料の選択
11 ページ
Rogers 4350B が最も低い Df を有しているため、レイヤ 8 のトレースが最高のパ
フォーマンスを示しています。Nelco 4000-13 の絶縁体材料(中程度の Df)にリファ
レンスしているために、レイヤ 1 とレイヤ 3 のマイクロストリップとストリップラ
インのトレースが 2 番目に高いパフォーマンスを示しています。予想されたように、
レイヤ 6 のトレースは、片側で Nelco 4000-6 材料(高い Df)に、もう片側で
Nelco 4000-13(中程度の Df)にリファレンスしているために、最も悪いパフォーマ
ンスを示しています。Nelco 4000-6 コア(6mil)と Nelco 4000-13 プリプレグ(12mil)
との比較における厚みの違いにより、レイヤ 6 のトレースからの戻り電流の大部分
は、レイヤ 7 ではなくレイヤ 5 に向かいます。25 インチ・トレースでも同様の挙動
が観測されます。
アルテラは、コストに対してセンシティブなデザインには通常タイプの FR-4 サブス
トレートである Nelco 4000-6 を使用し、そのために高価なサブストレートと比べて約
2 dB のパフォーマンス低下を受容することをお勧めします。Stratix II GX または
Stratix IV GX デバイスで使用可能なトランシーバで内蔵のプリエンファシスやイコラ
イザ・セッティングを使用して、信号のバックプレーン通過に伴うチャネル損失を
補償します。
6.375 Gbps またはそれ以上の信号を出力するのに必要な電流エッジ・レート(数十
ps)が求められるのであれば、通常の FR-4 サブストレートから Nelco 4000-13、Isola
FR408、または GETEK といった中程度のパフォーマンスのサブストレートに移行する
ことにより、最適な解決策(価格対パフォーマンス)を得ることができます。コス
トの差は、パフォーマンスの高い Rogers 4350B タイプ材料への移行(ボードあたり
のコア数に応じて、約 5 倍またはそれ以上)と比較すると、比較的小規模です(通
常の FR-4 タイプ材料のコストの 1.25 倍)
。
2011 年 1 月
Altera Corporation
PCB 絶縁体材料の選択とガラス繊維の高速チャネル・ルーティングへの影響
12 ページ
ガラス織物による影響
ガラス織物による影響
PCB は通常、90° の倍数の角度でトレースをルーティングします。ルーティングされ
たトレースは、たて糸の上、よこ糸の上、たて糸のストランド間の中心、またはよ
こ糸のストランド間の中心に直接置くことができます。図 8 は、アルテラがこの目
的のために特別に開発したテスト・ボードのシングル・エンド・トレースを撮影し
たミクロ画像です。
図 8. テスト・ボードのミクロ断面図
上のトレースは、織物上に直接置かれています。下のトレースはエポキシ樹脂上に
置かれています。2 本のトレースが差動ペアの 2 本のレグ(P と N)を構成すると仮
定します。これらは 2 つの異なる比誘電率(Er)値に直面します。その結果、異な
る伝播速度と損失プロファイルが生じます。高いデータ・レートでは、伝播速度の
差は差動ペアの 2 つのレグ間でのスキューの原因になります。データ・レート次第
では、このスキューがユニット・インターバル(UI)で大きな割合を占めることに
PCB 絶縁体材料の選択とガラス繊維の高速チャネル・ルーティングへの影響
2011 年 1 月 Altera Corporation
ガラス織物による影響
13 ページ
なります。P と N のレグ間のスキューにより、コモン・モード電圧、および差動信
号の劣化が生じます。図 9 に差動信号とコモン・モード信号へのスキューの影響を
示します。
図 9. ガラス織物に起因するスキュー
テスト・ボード上で観測されるガラス織物による影響
アルテラのテスト・ボードには、同一のまっすぐな 8 インチ・トレースが 4 本、レ
イヤ 3 で並列にルーティングされています。トレース間のピッチは 2116 のガラス・
ピッチの 1.5 倍にされています。以下の方程式に示します。
D = 1.5 x K x P
ここでは、
2011 年 1 月
■
D = 距離
■
K = 任意の整数
■
P =2116 のピッチ
Altera Corporation
PCB 絶縁体材料の選択とガラス繊維の高速チャネル・ルーティングへの影響
14 ページ
ガラス織物による影響
まっすぐなトレースと同じ長さのジグザグのトレース 2 本も同じくレイヤ 3 にルー
ティングされています。ジグザグのトレースは、繊維にトレースが乗ったり降りた
りを繰り返すルーティングをすることでガラス織物の影響への補償することを意図
しています。図 10 に示すように、SMA 位置であるレイヤ 1 からレイヤ 3 へのビア遷
移の距離はまっすぐなトレースとジグザグのトレースのどちらも同一です。
図 10. ジグザグのトレースとまっすぐなトレースのルーティング
PCB 絶縁体材料の選択とガラス繊維の高速チャネル・ルーティングへの影響
2011 年 1 月 Altera Corporation
ガラス織物による影響
15 ページ
複数回の TDR 測定を行い、まっすぐなトレース間でのスキュー差を観測しました。
TDR は、パルスが SMA へローンチする際のオフセットを避けるために 2 本のケーブ
ルを 1ps 以内でキャリブレーションしています。図 11 から図 13 に、レイヤ 3 の
キャリブレーション、まっすぐなトレースのペア間のスキューと、2 本のジグザグの
トレース間のスキューの、TDR スナップショットを示します。
図 11. TDR キャリブレーション
2011 年 1 月
Altera Corporation
PCB 絶縁体材料の選択とガラス繊維の高速チャネル・ルーティングへの影響
16 ページ
ガラス織物による影響
図 12. まっすぐなトレースで観測されたスキュー
PCB 絶縁体材料の選択とガラス繊維の高速チャネル・ルーティングへの影響
2011 年 1 月 Altera Corporation
ガラス織物による影響
17 ページ
図 13. ジグザグのトレース間のスキュー
いくつかのボードを使用して行われた測定は、レイヤ 3 のまっすぐなトレース間で
より多くのスキュー(14 ps)を示しました。ジグザグのトレース 2 本の間において
も想定された範囲のスキューが観測されました。統計的に有意な回数の測定を行え
ば、ジグザグのトレースで見られるスキューの量はまっすぐなトレースで観測され
るスキューと比較してさらに小さくなると予測できます。Intel Corporation、Sun
Microsystems,、および Teraspeed Consulting Group の研究による詳細なデータについて
は 20 ページの「参考資料」を参照してください。アルテラのテスト・ボードで観測
されたスキューの量は、以下に示す理由により、参考資料に示されているデータほ
ど有意ではありません。
2011 年 1 月
■
テスト・ボードは、影響が顕著である 106 や 1080 といった目の粗い織物ではなく、
目の細かい織物(2116)を使用しています。
■
Nelco 4000-13 積層体はデフォルトのEガラスではなくNE ガラスを使用しています。
NE ガラスの比誘電率は E ガラスより低く、したがって、樹脂とガラスとの間の
Er の差が少なく、これによりスキューが減少します。
■
ボード上にルーティングされたトレースは、織物(高い Er)とエポキシ樹脂(低
い Er)に対するワースト・ケースのアラインメントではないと考えられます。
■
同一の絶縁体材料においては、一般的に、幅広いトレースは狭いトレースと比較
してガラス繊維のスキューに対して低い感受性を示します。レイヤ 3 のトレース
は 50 Ω の公称インピーダンスを実現するために、広いトレース幅(7.5mil)で
ルーティングされています。
Altera Corporation
PCB 絶縁体材料の選択とガラス繊維の高速チャネル・ルーティングへの影響
18 ページ
ガラス織物による影響
アルテラは、ガラス織物の影響によるスキューに細心の注意を払うことを推奨しま
す。6.375 Gbps またはそれ以上の高速データ・レートにおいて、このスキューは有効
な UI の範囲を大幅に削り、レシーバでのアイの幅を減少させます。
緩和手法
ガラス織物によるスキューを緩和するために、さまざまな手法を使用することがで
きます。20 ページの「参考資料」にリストされたリソースで、これらの手法を網羅
した一覧を確認することができます。以下に、レイアウトの段階で実行できる基本
的なテクニックをいくつか示します。
■
インピーダンス・ターゲットを達成するために、狭いトレース幅ではなく広いト
レース幅を使用します。このアプローチの欠点は、広いジオメトリを使用する
と、狭いトレース・ジオメトリに比べ、全てのトレースをルーティングするのに
必要なボード面積が増加することです。
■
選択することができるのであれば、目の粗い織物(106、1080)ではなく目の細
かい織物(2116、2113、7268、1652)を指定します。
■
FR-4 と比較してわずかな費用の増加(1.25 倍)と引き換えに、通常の E ガラス(高
い Er)ではなく NE ガラス(低い Er)を素材とする Nelco 4000-13 サブストレート
のような、より良いサブストレートに移行します。
■
ルーティングが直交ではなく斜めになって終了するように、ボード上のフロア・
プランニングを行います。
■
ジグザグのルーティングを使用します。ルーティングの方向を反転させるまでが
ガラス繊維のピッチの最低 3 倍(W ≥ 3* ガラス・ピッチ)でジグザグに進むよう
にトレースをルーティングします。このアプローチの欠点は、CAD ツールがサ
ポートする標準的な 0°、45°、90° の角度と異なる独自のルーティング角度を用い
るルーティングの難しさと、それに加えて、ボード面積が増加することです。
図 14 にジグザグのルーティングの概略図を示します。
図 14. ジグザグのルーティング
PCB 絶縁体材料の選択とガラス繊維の高速チャネル・ルーティングへの影響
2011 年 1 月 Altera Corporation
結論
19 ページ
■
図 15 示すように、ストリップ・ラインのトレースでは、サブストレートの上下に
ピッチの異なる 2 種類の織物を使用して影響を平均化します。
図 15. 異なるピッチの織物
■
図 16 に示すように、ガラス・ピッチと無関係に、ペア間の空間の中で、各トレー
スを隣のトレースがあったパスに配置します。
図 16. 揺らされたルーティング
結論
設計者は、PCB 設計においてレイアウトと絶縁体材料に細心の注意を払う必要があ
ります。高い周波数では誘電損失が支配的であり、これは任意の絶縁体材料の誘電
正接(損失係数)によって左右されます。ガラス織物に対するトレースの向きは、
ガラス繊維織物のパターンに起因して確認されるスキューの量を決定します。この
アプリケーション・ノートは、高速なチャンネルをルーティングする際に設計者が
必要とする、誘電損失とガラス織物によるスキューについての簡単な説明を行い、
最後にガラス織物に起因するスキューを緩和する手がかりとなる推奨事項を提供し
ています。
2011 年 1 月
Altera Corporation
PCB 絶縁体材料の選択とガラス繊維の高速チャネル・ルーティングへの影響
20 ページ
参考資料
参考資料
1. DesignCon 2005: The Impact of PCB Laminate Weave on the Electrical Performance of
Differential Signaling at Multi-Gigabit Data Rates by Scott McMorrow (Teraspeed Consulting
Group) and Chris Heard (Teradyne Connection Systems)
2. DesignCon 2007: Fiber Weave Effect: Practical Impact Analysis and Mitigation Strategies by
Jeff Loyer, Richard Kunze, and Xiaoning Ye from Intel Corporation
3. DesignCon 2007: Losses Induced by Asymmetry in Differential Transmission Lines by
Gustavo Blando, Jason R Miller, and Istvan Novak from Sun Microsystems
4. Signal Integrity Simplified by Eric Bogatin
改訂履歴
表 4 に本資料の改訂履歴を示します。
表 4. 改訂履歴
日付
バージョン
変更内容
2011 年 1 月
1.1
AN613 へのリンクを追加
2008 年 5 月
1.0
初版
PCB 絶縁体材料の選択とガラス繊維の高速チャネル・ルーティングへの影響
2011 年 1 月 Altera Corporation