2.2 期待効用

14/10/23
現代ファイナンス理論
2.2 期待効用
リスクに対する態度
リスク回避型
リスクに対する態度は3つの型に分類される。
リスク回避型
リスク中立型
リスク愛好型
リスク回避型とはリスクのある状況を全て避けようとする意味ではない。一言でいうと「フェアギ
ャンブルはやらない。自分にとって充分に有利である場合にのみギャンブルを行う。」言い換える
と、受取り金額の期待値Jj=1 a j v j が掛け金pよりも十分大きな場合にのみギャンブルを行う。
フェアギャンブル
現時点で、なにがしかの金額を支払って、将来時点で判明する結果に従って、金額を受け取る契約
をギャンブルと呼ぶことにする。カジノのギャンブルから、保険契約まで、将来の受取金額がラン
ダムに決まるものを含むものとする。将来起こりうる事象は複数個あり、第j番目の事象が起こった
場合に受取る金額を v j とする。事象jが起こる確率をa j 、賭け金を p とする。次の等式を満たすキ
ャンブルをフェアギャンブルと呼ぶものとする。
Jj=1 a j v j = p ∫ (1)
フェアギャンブルでは支払う金額は受け取る金額の期待値と一致している。自分にとって有利でも
不利でもない。
いちばん簡単な例では、コイン投げで表を勝ちとするものである。勝ちの確率は0.5である。賭け金
が100円 、勝てば200円受け取れるルールとする。この場合、表を添え字の1であらわすことにする
と、上記の式は、a1 =0.5、a2 =0.5、v1 =200、v2 =0、p=100 である。 a1 v1 + a2 v2 = p が成り立っ
ている。掛け金がギャンブルの賞金の期待値に等しくなっている。
リスク中立型とリスク愛好型
リスク中立型とは、Jj=1 a j v j ¥ p であれば、ギャンブルを行うという意味である。リスク愛好型と
は、期待収益率がマイナスでもギャンブルを行う場合があるという意味である。
保険会社はリスク中立型、契約する個人はリスク回避型、カジノの客はリスク愛好型と考えること
ができる。カジノの場合、胴元に有利になっているので、客の収益の期待値は必ずマイナスであ
る。Jj=1 a j v j - p < 0 。
リスク回避型の期待効用
リスク回避型効用関数の形状
期待効用の議論では、効用関数は資産の関数であると定義されている。リスク回避型の効用関数は
上に凸の形をしている。資産が増えるに従っての効用の追加的な増加は逓減する。限界効用が逓減
するような形状は上に凸の関数である。U(w)’>0 、 U(w)’’<0。例えば、ルートはこれにあてはま
る。
U(w) =
TextCh02bv2.nb
w
1
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危険回避型の意思決定
危険回避型の投資家がどれだけ自分に有利であれば投資を行うか考えよう。次のような投資案件を
考える。将来の事象は失敗か成功の2つのみ。失敗の確率を a とする。失敗した場合の資産額を
w11、成功した場合の資産額をw12と表す。この投資案件による資産の期待値は次の通り。
a w11 + (1- a)w12 ∫ (2)
期待効用は
a U(w11) + (1- a)U(w12) ∫ (3)
投資家の効用関数を U(w)=
w とする。投資前の資産額をw0 とする。投資家は投資後の期待効用
がU(w0 )よりも大きければ、投資を行うのである。つまり(3) >
w0 。
投資後の資産額は次の通りである。
w11 = w0 - p+ v1 ∫ (4)
w12 = w0 - p+ v2 ∫ (5)
ここで、pは投資額、v1 とv2 は投資の結果の受取額である。期待効用、式(3)の値 は w11 や w12 の
値が大きくなると高くなる。つまり、(a)受取額である v1 や v2 が大きくなる、(b)掛け金である pが
小さくなると、式(3) の値は増える。また(c) 負ける確率である a の値が小さくなるにつれて(3)の値
は大きくなる。
意味するところは、他の条件を同じくしたままで、次のように条件が変われば、期待効用は大きく
なり、やがてこのギャンブルを実行する。(a) 賞金がより大きい。負けたときの損害がより小さ
い。(b) 掛け金や投資額がより少ない。(c) 勝率がより高い。
教科書にある意志決定のモデル例の解釈 教科書27~29ページ。資産額を円単位から(1+収益率)に計り直す。投資前の資産額が100万円なら
単位の変化後の資産額は1である。はっきりそう言っていないが、教科書では、リスクのない投資
案件の存在を仮定して、それの収益率を記号rで表している。例えば、預金の利子率である。そし
てリスクのある投資の収益率を、リスクの無い預金の利子率の回りに定義している。r-h、 r+h。こ
のような表現に従うと、投資後の資産額は 1+r-h または 1+r+h である。
式(4) の 金額表示の -p+v1 は収益率 r-hに対応しており、式(5)で言えば 金額表示の-p+v2が収益率
r+h に対応している。
ŁŁ 注意1. 教科書の図2-4~図2-9の事象1と2のうち、事象1が賭に勝つほうである。このプリ
ントでは勝つという事象は(5)式でありID番号は2番目。これは、図を描いたときに小さい値が左
に来るようにしてあるため。
ŁŁ 注意2. ミスプリあるいは表記の混乱に注意。29ページの例2.2 ではrは確率変数である。効
è
用関数の変数rには本来~チルダがついている。U( r )=W 0.5 。教科書の表記方法では確率変数には
チルダをつける。
教科書では式(4)と (5)の投資額 pに相当する値が明示されていない。そこで、話を簡単にするため
に、式(4)と (5)のv1とv2の値はちょうど良い値になっていて、
-p + v1
w0
= r - h および
-p + v2
w0
= r + h が成り立つものとしよう。
式(4) (5) の代わりに
w11 =1+ r - h ∫ (6)
w12 =1+ r + h ∫ (7)
効用関数は、単位を計り直して、w0=1 とする。収益率をR1で表す。R1は確率変数。
W1= 1+R1
∫ (8)
確率変数R1は2つの値r11と r12のいずれかを取る。ここでこれらの値は次のとおり。
TextCh02bv2.nb
2
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r11 = r - h ∫ (9)
r12 = r+ h ∫ (10)
U(W1)=
W1 ∫ (11)
投資後の資産額W1 に式(8)を代入して収益率で表すと(11) =
率の関数H(R1)として表すと関数の形は次のとおり。
1 + R1 となる。教科書のように収益
H(R1) = 1 + R1
∫ (12)
式(11) と(12)は同じ値になるが、(11) はもともと資産額W1の関数である。一方、(12) は収益率
R1の関数。
投資案件 No.1
r=0.02 と h=0.4 としよう。投資失敗の確率 a =0.5 とする。h=0.03では違いが分かるほどの図が描
けないため。投資後の資産額は式(9) と(10)を用いる。
In[6833]:=
Clearw0, r, h, r11, r12, ; r  0.02; h  0.4;   0.5;
w0  1; r11  r  h; r12  r  h; Print"収益率 r11  ", r11, ",
収益率 r11   0.38,
r12  ", r12
r12  0.42
資産の期待値
In[6835]:=
ClearEW1; EW1   1  r11  1   1  r12;
Print"投資した場合の資産の期待値  ", EW1
投資した場合の資産の期待値  1.02
投資しない場合には、資産額はリスク無しで1.02となる。確率1で資産額の期待値は1.02 。投資後
の資産の期待値は、投資をしない場合の資産額に等しい。投資案件No.1 はフェアギャンブルであ
る。
期待効用
In[6837]:=
ClearEU1; EU1  
1  r11  1  
1  r12 ;
Print"投資した場合の期待効用  ", EU1
投資した場合の期待効用  0.989519
In[6839]:=
ClearEU0; EU0 
1r ;
Print"投資しない場合の期待効用  ", EU0
投資しない場合の期待効用  1.00995
投資をしない場合のほうが期待効用は高い。投資案件No.1は選択しない。
TextCh02bv2.nb
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リスク回避型の効用関数と期待効用
In[6841]:=
Clearx, y, z1, z2, z3
x  1  r11, 1.02, 1  r12;  資産額 
y
1  r11 ,
1.02 ,
1  r12 ;   効用 
z1  Tablexi, 0, i, 1, 3  資産額を表す座標
z2  Tablexi, yi, i, 1, 3  効用を表す座標
z3  z21, 0.5 z21  z23, z23 効用と期待効用の値
Out[6842]=
Out[6843]=
Out[6844]=
In[6845]:=
0.62, 0, 1.02, 0, 1.42, 0
0.62, 0.787401, 1.02, 1.00995, 1.42, 1.19164
0.62, 0.787401, 1.02, 0.989519, 1.42, 1.19164
Cleargh1, gh2, gh3, gh4
gh1  ListPlotz1,
PlotStyle  Red ,
PlotMarkers  "‡",
ImageSize  240;
gh2  ListPlotz2,
PlotStyle  Blue,
PlotMarkers  "",
ImageSize  240 ;
Rowgh1, gh2
1.2
1.0
1.1
0.5
Out[6848]=
à
0.8
à
1.0
1.2
à
1.4
†
-1.0
In[6853]:=
†
1.0
0.9
-0.5
In[6849]:=
†
0.8
Cleargh3a, gh3b
gh3a  ListLinePlotz3,
PlotStyle  Red,
ImageSize  240;
gh3b  ListPlotz3, PlotStyle  Red ,
PlotMarkers  "x",
ImageSize  240;
Rowgh3a, gh3b;
Cleargh4
gh4  Plot
TextCh02bv2.nb
x , x, 0, 1  r12,
ImageSize  240 ;
4
1.0
1.2
1.4
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In[6855]:=
Showgh1, gh2, gh3a, gh3b, gh4,
AxesLabel  "資産", "効用",
PlotLabel  "投資案件No.1の期待効用",
PlotRange  0, 1  r12, 0, 1.2
投資案件No.1の期待効用
効用
1.2
†x
†x
1.0
0.8 †x
Out[6855]=
0.6
0.4
0.2
0.0
0.2
0.4
à
0.6
à
1.0
0.8
1.2
à 資産
1.4
投資案件 No.2
儲けと損失の差が2倍の投資案件を考えてみよう。差は2hである。投資案件No.2 では、h=0.8とす
る。その他は投資案件No.1 と同じである。 a (1+r11)+ (1-a)(1+r12) = 1+ r が成り立っている。投
資後の資産の期待値は投資しない場合の資産の期待値に等しい。利益も損失も大きいが投資案件
No.2 もフェアギャンブルである。
In[6856]:=
Clearh, r11, r12; h  0.8;
r11  r  h; r12  r  h; Print"収益率 r11  ", r11, ",
収益率 r11   0.78,
In[6858]:=
r12  ", r12
r12  0.82
ClearEU2; EU2   1  r11  1   1  r12 ;
Print"投資した場合の期待効用  ", EU2
投資した場合の期待効用  0.909058
リスク回避型の効用関数と期待効用
In[6860]:=
Clearx, y, z1, z2, z3; h  0.8;
x  1  r11, 1.02, 1  r12
y
1  r11 ,
1.02 ,
1  r12 ;
z1  Tablexi, 0, i, 1, 3 ;  資産額 
z2  Tablexi, yi, i, 1, 3;  効用 
z3  z21, 0.5 z21  z23, z23; 期待効用 
Out[6861]=
0.22, 1.02, 1.82
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現代ファイナンス理論
In[6864]:=
In[6867]:=
In[6870]:=
Cleargh21, gh22
gh21  ListPlotz1,
PlotStyle  Red ,
PlotMarkers  "‡",
ImageSize  240;
gh22  ListPlotz2,
PlotStyle  Blue,
PlotMarkers  "",
ImageSize  240 ;
Cleargh23a, gh23b
gh23a  ListLinePlotz3, ImageSize  240;
gh23b  ListPlotz3, PlotStyle  Red ,
PlotMarkers  "x",
ImageSize  240;
Cleargh4
gh4  Plot
In[6872]:=
x , x, 0, 1  r12,
ImageSize  240 ;
Showgh21, gh22, gh23a, gh23b, gh4,
AxesLabel  "資産", "効用",
PlotLabel  "投資案件No.2の期待効用",
PlotRange  0, 1  r12, 0,
1  r12 
投資案件No.2の期待効用
効用
†x
1.2
†
x
1.0
Out[6872]= 0.8
0.6
0.4
†x
0.2
0.0
TextCh02bv2.nb
à
0.5
à
1.0
1.5
à 資産
6
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2つの投資案件の期待効用の比較
In[6873]:=
Showgh1, gh2, gh3a, gh3b, gh21, gh22, gh23a, gh23b, gh4,
AxesLabel  "資産", "効用",
PlotLabel  "2つの投資案件の期待効用",
PlotRange  0, 1  r12, 0,
1  r12 
2つの投資案件の期待効用
効用
†x
†x
1.2
1.0
†x
x
0.8 †x
Out[6873]=
0.6
†x
0.4
0.2
0.0
à
0.5
à
à
1.0
à
1.5
à 資産
投資案件No.2 の期待効用はNo.1の下に来ている。投資案件No.1 と比較して、失敗成功の差が大き
くなるほど、期待効用は下がってくる。この差が大きくなることは、標準偏差の大小で表すことが
できる。計算結果は以下の通り。
In[6874]:=
Clearvariance1, variance2, sd1, sd2
variance1   1  r  0.42  1   1  r  0.42 ;
sd1 
variance1 ;
Print "No.1の資産の標準偏差 ", sd1,
",
期待効用
 ", EU1
No.1の資産の標準偏差 1.09563,
In[6878]:=
期待効用
 0.989519
variance2   1  r  0.82  1   1  r  0.82 ;
sd2 
variance2 ;
Print"No.2の資産の標準偏差 ", sd2,
",
期待効用
 " , EU2
No.2の資産の標準偏差 1.2963,
期待効用
 0.909058
投資案件の選択基準
これまでの例ではフェアギャンブルである投資案件であった。投資を選択することはなかった。で
は次ぎに、失敗の確率を0.5に保ったまま、成功した場合の受取が十分に大きく、受け入れ可能な投
資案件があるとしよう。r の値もこれまでと同じ0.02。
TextCh02bv2.nb
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現代ファイナンス理論
In[6881]:=
ClearA, , v, expu, B; h  0.4;
A
"失敗"
"成功"
1r2h 1r2h
;
1rh 1r3h
1r
1r4h
資産の期待値を求める 
  Table0.5  A1  i, 1  A1  i, 2, i, 1, 3;
 資産の分散を求める
v  Table0.5 A1  i, 1  i2
 0.5 A1  i, 2  i2 , i, 1, 3;
In[6885]:=
 期待効用を求める 
expu  Table0.5
A1  i, 1
 0.5
A1  i, 2 , i, 1, 3;
"期待値" "標準偏差" "期待効用"
B
1
v1
expu1
2
v2
expu2
3
v3
expu3
;
GridB, Frame  All
Out[6887]=
期待値 標準偏差 期待効用
1.82
0.
1.34907
1.82
0.4
1.3408
1.82
0.8
1.3143
標準偏差が増えるにつれて期待効用は減少している。一方、もし、資産の期待値の部分が増えれ
ば、期待効用は増加する。例えば、2番目の投資案件の資産額を1+r+2h と1+r+3hから、1+r+2h+Dh
並びに 1+r + 3h +Dh と増やす。そうすると、標準偏差はそのままに資産の期待値も期待効用も増加
する。(1) 資産の期待値が増加すると、期待効用は上がる。(2) 標準偏差が増加すると期待効用は下
がる。
金融資産のリスクは価値の標準偏差によって測られる。投資家は収益率が高ければリスクのある投
資案件も選択する。あるいは、リスクに見合った収益率が期待できなければ、投資案件を選択しな
い。
TextCh02bv2.nb
8