I.I.MECA メンタルケア協会 平成 26 年 9 月 20 日発行 発行責任者 吉 村 博 邦 財団法人 VOL. 73 アイ . アイ . メカ (Idea & Information of Mental Care Association) 〒 150-0001 東京都渋谷区神宮前 2-5-8 カーデ青山 201 TEL 03-3405-7270 FAX 03-3405-8580 E-mail:[email protected] http://www.mental-care.jp/ 保育・教育現場における「気になる」子ども 講 師 本 郷 一 夫 (東北大学大学院教育学研究科教授、 教育学研究科長・教育学部長) 時代が 20 世紀から 21 世紀に変わる頃からでしょうか。障害の確定診断はなされてはいないも のの、保育・教育の現場において特別な配慮が必要な子どものについての相談が増えてきました。 いわゆる「気になる」子どもの出現です。このように子どもの特徴としては、①知的には顕著な 遅れがないにもかかわらず、 ②感情や行動のコントロールがしにくく、③対人的トラブルが多い、 といったことが挙げられます。 このような子どもの理解の難しさの一つは、状況によって子どもの行動が違うということです。 たとえば、家では「気になる」行動は見られないのに、幼稚園や学校では「気になる」ことがあ ります。また、普段は「気になる」行動が多いのに、授業参観などではちゃんとできることがあ ります。したがって、「気になる」子どもは、時として保育者や教師に、「問題がある」子どもと して捉えられることがあります。 しかし、実際には「気になる」子ども自身も学校に馴染めず、不適応感を抱えながら生活して いることも少なくありません。たとえば、小学校低学年では、 「クラスの友だちが気持ちを分かっ てくれない」などの受容感の低さが挙げられます。また、高学年になると、「クラスにいたくな いと思うことがある」「嫌なことを言われたりからかわれたりする」など、友だちとの関係が一 層難しくなってきます。 以上のことから「気になる」子どもを理解し、支援していく上ではいくつかのことが重要となっ てきます。第 1 に、表面的な「気になる」行動だけにとらわれずに、その背景を理解した上で、 子どもに働きかけることです。第 2 に、「気になる」子ども自身の自尊感情の低下や不全感にも 目を向けることです。第 3 に、「気になる」子どもだけでなく、周りの子どもや大人を同時に支 えていくことです。このような「気になる」子どもの支援に関しては、心のケアの専門家である 精神対話士に期待される役割は大きいと感じています。 I.I.MECA 2014 vol.73 −1− I .I .M E C A VOL. 73 心の青空をさがして 精神対話士 宗像 波子 クライアントは A さん(女性・60 才)です。 友人や話し相手もなく寂しさを訴えておられます。 私は、対話士の仕事を始めて六年になり、A さんとのお付き合いも六年目に入りました。精神 対話士認定式当日、「明日対話の依頼が入った場合、初めての仕事であっても『対話のプロ』と してクライアントに向いあうことになります」と説明を受けていましたので、初回訪問の時は、 緊張してお宅に伺ったことを思い出します。A さんのお子さん達はすでに自立しており、一人 で生活していたその頃の A さんは、精神的に大変落ち込んでいて、表情も暗く、今にも消えいっ てしまいそうなご様子でした。そのため、考えること全てにマイナスのイメージがつきまとい、 訪問の度にこの状態の繰り返しで終始していました。 何回目かの対話の終わりに、A さんが私に「いつも暗い話ばかりですみません。宗像さんにつ らい思いをさせてはいませんか?」と話されました。A さん自身がしんどい日々を過ごしていらっ しゃるのに、私を気遣ってそのような言葉をかけていただいたことに、私は感謝の気持ちと共に、 大変驚きました。その時私は、“A さんの心をおおっている重く黒い雲を取り払って青空のもと に連れ出してさしあげたい!” “精神対話士として私に出来ることが何かないだろうか?・・・” と、真剣に考えました。 「そうだ! 絵本を読もう、絵本の世界を再び味わってもらおう」、かつて、一保育士として働 いていた私は、絵本が大好き。これまで子供達に何百冊読んできたことでしょう。読み聞かせは 私と子供たちとの柵を取り払い、ワクワクする楽しさで心を一杯にしてくれたものです。 ある日、対話が終わり、A さんに絵本を題材とする対話について提案すると、A 子さんは快 く承知してくれました。 家にある絵本から始まり、足りなくなると図書館から借り出してきて『読んで — 帰る』、そ んな対話が百回以上続きました。最初は表情も少なく聞いていた A さんでしたが、そのうち「今 日の絵本は?」「作者は?」「どこの国の絵本?」と次第に興味をもたれたご様子でした。もちろ ん選ぶ本は明るく、希望の持てる、時々は笑える話などに気を配りました。 「絵本っておもしろいですね!」と、感想を話していただけるようになり、それと共に、笑顔 も増えていきました。 また、A さんはいつも誰もいない家に帰るのは淋しく、「こんなにだらだらした生活をしてい てよいのか」と悩み、 「線路を前にするとふと飛び込みたくなってしまう」と口癖の様におっしゃ り、その度に私は対話の中で子育てを頑張ってきたから今があることなどを繰り返しお伝えして いきました。その後、A さんは少しずつ今ある幸せに目を向けられるようになっていきました。 A さんの素直な心が対話を通して忘れていた大切なものを思い出すきっかけになったことは 間違いありません。最近、特に A さんは本当によく笑うようになりました。 「両親がいて、心配してくれる人がいて、今とても幸せです」とメッセージを伝えてください I.I.MECA 2014 vol.73 −2− I .I .M E C A VOL. 73 ます。 対話の帰り道 — 、私も「A さんに負けない位周囲の人を大切に、前向きに、自分に素直に生 きよう」と考えました。 そして「生きているって何て素敵なことなんだろう」と、思わずこのことに気付かせていただ いた A さんへの感謝の気持ちで胸が一杯になりました。 I.I.MECA 2014 vol.73 −3− I .I .M E C A VOL. 73 平成26年8月20日未明に発生した「広島土砂災害」において、精神対話士が “見守り話し隊”として、被災者の心のケアの活動を開始しました。 平成 26 年 9 月 2 日 産経新聞 I.I.MECA 2014 vol.73 −4− I .I .M E C A VOL. 73 災害現場 打合せを行う精神対話士 避難所を訪れた精神対話士 避難所へ贈られた義捐の品 I.I.MECA 2014 vol.73 −5− I .I .M E C A VOL. 73 精神対話士日記 精神対話士 村上 正人 平成 26 年 8 月 20 日未明、広島市を襲った豪雨は、山腹から始まった崩落が複数箇所で土石流 となり、沢に沿って山裾まで達して、74 名死亡、住宅被害 4 千 5 百棟の大規模土砂災害となり ました。 2 日後の 8 月 22 日、広島県の精神対話士が集まり、実際の活動に入ることになりました。 避難所の公民館の責任者の方が、東日本大震災における精神対話士の心のケアの活動に深い理解 を示していただいていたことから、30 日から早速活動開始となりました。 8 月 30 日、31 日は、避難生活されている方々に対し、2 日間で延べ 22 回の対話を行なうこと ができました。ダンボールで仕切られ、ダンボールベッドで生活される避難者の中には、疲労の 色を隠せない方もいらっしゃいました。そういう方々の中には、1 日目は対話を拒絶されたもの の、2 日目にもう一度お声掛けすると、色々とお話してくださり、表情も少し和んだように思え ました。なかでも家が全壊した年配のご夫婦と対話した際は、奥様が「主人にとって精神的なリ ハビリになり、笑顔が戻りました」と大変喜んでくださいました。(この模様は 9 月 2 日の産経 新聞に掲載されています) また 31 日夕刻には、この活動を拡大すべく、精神対話士の仲間が集い、スケジュール調整や 精神対話士としての活動に対する思いを皆で確認し合いました。 そして、災害発生から 1 ヵ月が経過した現在、避難所が閉鎖すると共に、残った避難所で生活 している人数も減少し、医療スタッフも常駐ではなくなりました。 しかし、被災者および関係者の心の痛みは簡単に軽減されるものではありません。 心のケアは災害発生直後より、数日経った時点から必要性が高まります。精神対話士として、更 に心のケアの支援の輪を広げていきたいと思います。 医療スタッフのように医学的立場の活動とは一線を画し、我々精神対話士は一人ひとり個々の 魂に触れ合う対話で「ひと対ひと」の心のケアを行なっていくこと。そして継続していくこと。 それがまさに使命だと考えます。 I.I.MECA 2014 vol.73 −6− I .I .M E C A VOL. 73 お知らせ 「第 9 回日本精神対話学会」、 「精神対話士研修会」を次の要領で開催いたします。 奮ってご参加ください! 参加申込みは協会あて、電話、FAX、E-mail でお願いいたします。 TEL:03-3405-7270 FAX:03-3405-8580 E-mail : [email protected] ◆ 第9回日本精神対話学会 日 程 平成 26 年 11 月 2 日(日)・11 月 3 日(月・祝) 会 場 東京大学駒場キャンパス「 5 号館」 ☆論文提出者全員のポスターによる解説、質疑応答の時間があります。 ◎詳細は別添案内をご参照ください。 ◆ 精神対話士研修会 大阪会場 日 会 時 場 交通案内 平成 27 年 3 月 1 日(日) 「エル・おおさか」南館 701(7F) 大阪市中央区北浜東 3 − 14 地下鉄谷町線・京阪電車「天満橋」駅 徒歩 5 分 東京会場 日 会 時 場 交通案内 平成 27 年 5 月 6 日(日) 「国立オリンピック記念青少年総合センター」センター棟 416(4F) 渋谷区代々木神園町 3 − 1 ・小田急線「参宮橋」駅 徒歩約 7 分 ・地下鉄千代田線「代々木公園」駅 徒歩約 10 分 ・京王バス * 新宿駅西口(16 番)より 代々木 5 丁目下車 * 渋谷駅西口(14 番)より 代々木 5 丁目下車 福井会場 日 会 時 場 交通案内 平成 27 年 5 月 16 日(土) 「ユニオンプラザ福井」3F 福井県福井市問屋町 1 − 35 JR「福井」駅東口より車で約 10 分 ○ 時 間 PM 1:00 〜 4:20 ○ テーマ 「精神対話士のためのメンタルケア論」 ○ 費 用 6,000 円(当日会場受付でお支払いください) 〔以上 3 項目各会場共通〕 I.I.MECA 2014 vol.73 −7− −8−
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