T 細胞が体内のどのタンパク質を標的として関節リウマチを

T 細胞が体内のどのタンパク質を標的として関節リウマチを起こすかを特定
2014 年 10 月 15 日
京都大学再生医科学研究所
生体機能調節学分野 助教 伊藤 能永
京都大学再生医科学研究所
生体機能調節学分野 客員教授 坂口 志文
研究成果の概要
1.関節リウマチのモデルマウスを用いて、自己反応性 T 細胞が RPL23A というタンパク
質を標的として関節炎を引き起こすことを見出した。
2.関節リウマチの患者さんでも、このタンパク質に対する免疫反応がみられた。
京都大学再生医科学研究所生体機能調節学分野の伊藤能永助教と坂口志文客員教授、京
大病院リウマチセンターを中心とする研究グループは、関節リウマチのモデルマウスを用
いて、関節炎の原因となる免疫細胞(T 細胞)が認識する、自己のタンパク質(自己抗原)
を同定し、その自己抗原に対する反応性がヒトの関節リウマチ患者さんの約 17%に認めら
れることを明らかにしました。T 細胞は免疫の司令塔と呼ばれ、自己免疫疾患の根本的な原
因とされていますが、その T 細胞が認識する抗原を同定することは技術的に難しく、長ら
く不明とされてきました。病気の原因となる自己抗原が同定されたことは、関節リウマチ
の新たな治療法や予防法につながる可能性があります。本研究成果は Science(2014 年 10
月 17 日版予定)に掲載されます。
自己反応性 T 細胞とは
関節リウマチなどの自己免疫疾患は、本来であれば侵入してくる病原体から身を守るは
ずの免疫系に異常があり、誤って自分の身体を攻撃してしまうことが原因であるとされて
います。免疫系の司令塔的な役割を果たすのが T 細胞で、無数の病原体各々に専門に反応
する T 細胞が体内には備わっており、どの標的に対して免疫反応を起こすかを決めていま
す。通常は自己のタンパク質成分(自己抗原)に反応する T 細胞は胸腺で除去されますが、
自己免疫疾患の患者さんではこれらの自己反応性 T 細胞が存在し、自己抗原を認識して活
性化することが、病気の発症原因となるとされています。
本研究の概要
我々はこれまでの研究で、関節リウマチを自然に発症するマウス(SKG マウス)を発見
し、その原因遺伝子などを明らかにしてきました(Sakaguchi et al. Nature 2003)。本研
究ではまず、この SKG マウスを用いて、関節炎を引き起こす自己反応性 T 細胞を特定しま
した。その為に、SKG マウスの T 細胞から T 細胞受容体 (T 細胞受容体:その T 細胞が何
を標的にして活性化するかを決定している分子) を単離しました。そしてその T 細胞受容
体 1 種類だけを表面に出している T 細胞のみを持つマウスを作製(図1)し、その T 細胞
の病原性の有無を検討しました。この方法で数種の T 細胞受容体について調べたところ、
特定の T 細胞受容体を持つマウスでは、自己免疫性関節炎を自然に起こした為、その自己
反応性 T 細胞が関節炎の原因となることが分かりました。更に我々はこのマウスの血液中
に産生される自己抗体を利用して、その自己反応性 T 細胞が認識する自己抗原(RPL23A
(60S ribosomal protein L23a)分子)を同定しました。この方法は、目的とする自己反応
性 T 細胞の標的自己抗原を認識する自己抗体のみが産生される、というこのマウスの性質
を利用したものです。これまで T 細胞の標的抗原の同定は非常に難しいものでしたが、こ
の方法を用いることにより簡便に同定できるようになりました。
さらに、京大病院リウマチセンターに通院中の関節リウマチ患者さんの血清を調べたと
ころ、16.8%(374 名中 64 名)がこの抗原に対する抗体をもつことを見出しました(図2)
。
また、リウマチ患者さんの関節液中に存在する T 細胞が、実際に RPL23A 分子によって免
疫反応を引き起こすことも確かめました。これらの結果は、ヒト関節リウマチ患者さんに
おいても、RPL23A が、病気の原因となる自己抗原の1つとして働いていることを示して
います。
RPL23A は細胞のリボソームを構成するタンパク質で、健康な方でも体の様々な組織に
存在しています。リウマチ患者さんでは、このタンパク質に対する自己反応性 T 細胞が活
性化して異常な免疫反応を引き起こすことが、病気の引き金となる可能性を示唆するもの
です。
本研究の意義
本研究では、関節リウマチのモデルマウスを用いて、関節炎を引き起こす自己反応性 T
細胞が認識する自己抗原を同定しました。そして、その自己抗原が、一部の関節リウマチ
患者さんでも、実際に病気にかかわっていることを明らかにしました。本研究で確立した
方法は、いまだ原因のわかっていないほかの様々な自己免疫疾患の原因抗原の同定にも応
用可能であると考えられます。
本論文
Ito, Y et al. Detection of T cell responses to a ubiquitous cellular protein in autoimmune disease,
Science 2014
(図1)
図1 本研究の方法論: 関節炎モデルマウスの腫れた関節から、T 細胞受容体遺伝子を単
離し、
レトロウイルスベクターを用いて T 細胞受容体を持たないマウスに遺伝子導入する。
その結果関節炎を発症したマウスに、T 細胞は持たず B 細胞(T 細胞からの刺激で抗体を作
る細胞)を持つマウスの骨髄を移植すると、SKG マウス由来の T 細胞受容体を持つ T 細胞か
らの刺激で活性化された B 細胞から自己抗体が産生される。
(図2)
図2 関節リウマチ患者さん血清の RPL23A に対する反応性: RPL23A に対する自己抗体が、
関節リウマチ患者の 374 人中 63 人(16.8%)に認められることを示す。