田舎を共有する 領域を開く建築安部 良;pdf

田舎を共有する
領域を開く建築
安部 良
建築家
空き家をオープンキッチンに改造した「島キッチン」 ⓒDAICI ANO
でもできる 劇 場にしてほしい。それ以 外 は全ておま
結 びつける 場 を 作ってほしい。そ してどんなイベント
﹁ 豊 島 という 島に、観 客 と参 加アーティストと島 民 を
結ぶアートイベント﹁瀬戸内国際芸術祭﹂が開催された。
入 りや すい素 材で
あ り 安 価で手に
ていて 、耐 候 性 も
敷の外 壁に使 われ
た。この地域では屋
使 う 案に変 更 し
かせします。﹂芸術祭ディレクターからの要望は難題で
あった。これが意 外
二○一○ 年、香川 県を中 心に、瀬 戸 内 海の島 と島を
シンプルで、
そして自由だった。豊島は自然環境に恵まれ
作 品 が 完 成 して
な結果に繋がった。
だった。最初に僕の頭に浮かんだのは﹁島キッチン﹂とい
問 題のイメージは島 民の心に大 きな傷 を残したまま
ど ういう 仕 組 みに
﹁このシングルは一体
発 表されるや 否や
てし ま
業 が 盛んだが、戦 後 最 大 と言 われた 産 廃 不 法 投 棄
て、自 給 自 足が出 来る島 と言 われるくらい農 水 畜 産
うプロジェクト名だった。豊 島のお母さん達が手 料 理
と、世 界 中から沢 山の問い合わせが舞い込んできた。
なっているのか? ﹂
フォーマンスだと思ったからだ。古い空 き 家 をオープン
屋 根や外 壁に木 板を使った伝 統 的な建築は世界中に
を 作 る 様 子こそ が 、
この島の文 化 を 伝 えるベストパ
キッチンに改 造 して、そこをステージに見 立てよう と
のだから二∼三年ごとに交 換が必 要だ。メンテナンス
呼ぶ。耐候性のある焼き杉といっても屋根に使っている
軽やかで薄い屋根を作ってその下を客席にしようと考
も 兼 ねてボランティアの人 達 と年に一度 、屋根をおろ
あって、
そ ういう 屋 根の葺 き 方 を総じて﹁シングル﹂と
えた。有 機 的 な 素 材で長い年 月で大 地に戻って行 く
して葺き替えをする事にした。この作業が毎年の恒例
考えた。次に浮かんだのは大きな木陰の様な屋根だっ
屋 根を作ろう と思った。最 初に思いついた素 材は銅 板
まるで親戚達を迎えるように、
手作りのおもてなしを
行事となっている。屋根の葺き替えが終わると炊き出し
楽しんでいる。
だった。銅は豊島のすぐ隣の直島や犬島で大正時代から
ぎ目を際立たせることで、
空間や領域を作り出した。
島キッチンの反響で年に数回、
欧州諸国で講演をする
と餅つきをして振る舞う。作業に参加した人 達はここ
僕も、社寺建築や大正時代に流行した擬洋風建築と
機 会に恵 まれている。欧 州 諸 国では都 市 と地 方の関
製錬されていた瀬戸内らしい素材だし加工も簡単だ。
はぜんぜんちがう、
誰も見た事のない銅の使い方をした
係 性 、高 齢 化や 過 疎 化による 地 域 集 落の存 続 な ど
を自 分の家 と感 じて年に何 度 も 帰ってきてくれる。
かった。小さな薄い銅板を鳥の羽のように重ねて、
風で
日本が抱えている問題が二○年くらい先行しており、
そして僕にとって銅や真 鍮は憧れの素 材でもあった。
はためくようにしよう 。板 と板の重なり 部 分で反 射
建築や建築家の役割に対して明確なビジョンが求められ
雑 誌やインターネットで知った 海 外の人 達 が 島の御
した光が屋 根の内 側 まで優しく 入ってきて、新しい環
ている。講演後の質疑やディスカッションを通じて、
訪問
馳 走 を 目 指してやってくる。キッチンのお母さん達は
境が出 来 上がると考 えた。設 計の途 中で銅 板を使 う
中に埋め込んで宝石のようなディテールをつくり繫な
ほどの予 算 がないことがわかり 、代 りに焼 き 杉 板 を
イタリアの建築家カルロ・スカルパは銅や真鍮を木や鉄の
た。敷 地の中 心に残っていた柿の木を拡 張したような
「島キッチン」柿の木を中心にした大屋根
ⓒDAICI ANO
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入る。火を取り込んだ生活には省エネやエコロジーという
暖をとる、
かまどでご飯を炊 く、薪で風 呂を湧かして
薪をボイラーで燃やして熱を作る。薪で火を燃やして
減らして行こうという試みも始められている。間伐材や
オマスエネルギーを取 り 込み、化石 燃 料への依 存 度 を
若い世代の人 達が可 能 性を求めて入 村している。
バイ
村の活 性 化に力 を 注いでいる。技 術や 知 識 を もった
岡山県西粟倉村は、
林業を中心とした新しい試みで
命題になってきているように感じている。
領 域を開いてネットワークを繋いで行 くことが建 築の
者に対して田舎 をひらき 地 元 感 覚 を共 有 すること、
元 湯 ﹂は高 齢 者 介 護 基 盤としての機 能 を あ わせもつ
の温 泉の改 装 設 計をする事になった。
﹁あわくら温 泉
ならこの人が適 任です ﹂こんな流れで隣にいた僕が村
予算が使えそうだから建築家を探して下さい﹂
﹁それ
やってきて友 人 達 と話し始めた。
﹁ 建 物の改 装に国の
イベントを 企 画 した。イベントの最 中 、村 役 場の人が
使った生活の楽しさを共有するコミュニティーづくりの
鋳 物メーカーとの協 同で、入 浴や食 を切 り口に、火 を
準備中の友人たちと、
日本で唯一五右衛門風呂をつくる
旅館を村から借り受けバイオマスエネルギーでの再開を
せる 可 能 性 が あ る 。二 ○一四 年 、廃 業 中だった温 泉
魅 力には人々の繋がり をつく り、新 しい場 を 発 生 さ
とともに、実は小さな子 供 を育てる世 代にも 焦 点 を
当てている。キッズコーナーや授乳室を備えたカフェには
子育てに追われる主婦達が集い、
その様子を楽しみに
世 話 好 きな近 隣の老 人 達が集 まってくる。地の物 を
食 堂や、旅 行 者 達のゲストハウス機 能 も 備 えている。
つかったシンプルな料理とかまどで炊いたご飯が自慢の
世代を超えたコミュニティーが見えやすい場所、
訪問者と
村民の交流が生まれる場所を作り出そうという計画だ。
はっき り とし たビジョンが 固 まれば僕 達 はそれらを
効 果 的に繋いで行くようなデザインをするだけだ。そし
て最後の仕上げにアプローチの正 面の窓 をキッズコー
ナーから直 接 出 入りできる引き戸に作り替え、
その手
前に大きなウッドデッキをつくり、
パーゴラ屋 根を設 置
することにした。近隣に開いた大きな縁側を作り出す
建築家
イメージ、
新しい
﹁あわくら温泉元湯﹂
の特 徴を一番 解り
やすく表した場所だ。パーゴラ屋根の下は子供たちの
りょう
あ べ 遊び場になったり、
移動式五右衛門風呂が設置された
露天風 呂になったり、鹿やイノシシを調理した炊き出
し、
野外ライブや地域の交流イベントが催される場にも
なるだろう。春のオープンが待ち遠しい。
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安 部 良
思 想 を 超 えた 能 動 的 な 楽 しさが 発 見でき る。その
「島キッチン」の中央ステージでは、さまざまなイベントが... ⓒart setouchi
安部良プロフェール
1966年 広島県生まれ
1990年 早稲田大学理工学部建築学科卒業
1992年 早稲田大学大学院理工学研究所修士修了
1994年 一級建築士取得
1995年 AARA architects atelier ryo abe
一級建築士事務所安部良アトリエ設立
受賞歴
AR Award for Emerging Architecture 2010, 大賞
WAN Awards 21 for 21 2011, 大賞
World Architecture Festival 2011 World Culture Building of the Year, 大賞
Barbara Cappochin Biennial Internationa Prize 2011, Special Detail Prize 大賞
著書: 建築依存症/ARCHIHOLIC(ラトルズ刊)