地域戦略としてのWLBキャンペーン、社員の子育て状況の見える化等の

(2)企業子宝率調査に取り組む自治体の広がり
①働き方改革と女性活躍は、車の両輪
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数年前までは、数値目標は社内限りが成功しやすいとされてきたが、大半の企業は社外アピールに切替
え。筆者のコンサル企業の中には、社内限りで WM の女性管理職割合を数値目標化している企業も。
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時間外労働が多い会社ほど、正社員に占める女性正社員の割合、子持ち正社員に占める子持ち女性正社
員の割合いずれも低い(図表1)。
(図表1)残業時間別にみた、女性正社員割合(分母は正社員)および子持ち女性正社員割合(分母は子持ち正社
員)
(注)「子持ち正社員」とは、小 6 以下の子どもを持つ正社員を指す。
(資料)大手企業約400社の2012年度のデータをもとに、渥美由喜が試算(2014 年、日経新聞の依頼による)。大半がくるみんマーク取得企業。
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女性活躍推進法案は非常に有意義な法律だが、現在、国が主導している、女性社員の活躍状況の見える
化だけでは、キャリアと出産の二択を強いられている大半の職場の状況は改善できない可能性が大。
②A 県が実施している、企業の「出産職員割合」データ
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毎年、ほぼ全都道府県・政令市を訪問し、少子化対策をヒアリング調査。いくつかの自治体では、少子
化対策やWLB等の政策アドバイザーを務める。
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A 県では、毎年、1500 社近い企業を対象(社員数ベースでは 5 万 4000 人)とした労働関連の調査の中
で、男女別にみた「常用職員数」と「出産職員数」を調査。業種別にみた出産職員割合は1%~5%と、業
界によって非常に差が大きい。また、企業規模別にみても、1.4%~2.8%と濃淡がある。
③企業子宝率(合計特殊出生率の企業版)を地域活性化の起爆剤に
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いまだに、子育て支援、WLB は「大企業で取り組みが進んでいて、地方の中小企業ではそんな余裕は
ない」という声を耳にするが、その認識は間違い。
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政府は 11 月6日に、地方創生の司令塔となる「まち・ひと・しごと創生本部」のまとめた、人口減少の
抑制と地方活性化に向けた「総合戦略」と「長期ビジョン」の中で、「人口減少に歯止めをかける必要があ
る」「将来にわたって「活力ある日本社会」を維持するためには、人口減少に歯止めをかける必要。結婚や
出産に関する国民の希望が実現すると、出生率は1.8程度に改善すると試算。この水準は、OECD 諸国の
半数以上の国が実現しており、日本がまず目指すべき水準」と明記。
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今後は、少子化対策の政策効果をさまざまな組織、特に企業内で検証する指標作りが重要になる。
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8年前から、子育てと仕事の両立の実質的な指標として、
「企業子宝率」を提唱(知財の活用フリーに)
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企業子宝率とは、1人の女性が生涯に産む子どもの数を推計する「合計特殊出生率」の企業版であり、
企業の従業員(男女を問わない)が、在職中に持つことが見込まれる子どもの数。
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これまで、企業 2000 社から依頼を受けて、実施。3年前から、福井県の依頼を受けて、調査。福井県
内では、子宝率が 2.0 を超えた企業は 25 社で、いずれも社員が数十人と小規模。
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昨年から静岡県でも、1000 社を対象に実施。今年は、この他に三重県、鳥取県、山梨県、佐賀県、大津
市等、10 前後の自治体、経済団体で実施。
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企業子宝率による企業の分析結果は、以下のとおり。
① くるみんマークを複数回、取得しているような子育て先進企業でも、特に大企業では企業子宝率は低い傾
向にある。特に、全国転勤が常態化している職種、長時間労働職場では女性社員の子宝率はきわめて低い。
中小企業の子宝率は二極化している。子宝率が高い企業の特徴は、「経営者も子育て経験を持っている」、
「子どもや家族の話題が職場で話すのは当たり前、業務計画に織り込む」、「社員の職場満足度の向上が
商品・サービスの質を高め、顧客満足度も向上させる(ES は CS に直結)と経営者が考えている」等。
② 部署別に在籍経験者の企業子宝率を比較すると、女性社員の子宝率がきわめて高い部署が存在(いわゆる
『マミートラック』)。したがって、企業子宝率が高いからポジティブに評価できるとは限らない。
③ 子宝率が高い企業において、3人以上子どもがいる社員の特徴は(他の社員、他のきょうだいとの比較)、
「本人要因:子ども好き、子育てにポジティブなイメージ、多子家庭のロールモデルやメンターがいる」、
「家庭要因:配偶者と一緒に家事育児を分担」、
「職場要因:突発的な空きに対応できる業務体制がある」、
「地域要因:祖父母と同居近居、近隣との人間関係の密度が濃厚、待機児童問題なし」
 WLB しやすい地方の中小企業にスポットを当てることで、都市部で働くよりも、物価が安い地方では
生活もしやすく、環境の良い地方で子育てしたいというニーズを高めたいと考えている。これまで地方から
都市部に流入してきた若年層に対して、I ターン、U ターンを加速化させるべき。
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子育てしやすい企業は、介護もしやすい。企業子宝率を働きやすい・働きがいのある会社を選ぶ尺度に
して、地域活性化の起爆剤にしたい。実施自治体は、県内の大学生高校生に企業事例紹介の冊子を配布。
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静岡県では、2014 年に県庁内の企業子宝率を公表(県内の合計特殊出生率を上回る。これは実施して
いるすべての自治体に共通する特徴)。
政策提言②
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企業子宝率、あるいは企業の「出産社員割合」データ等、仕事と子育てを両立できる職場状況の見える化を
企業に義務付けるべき。
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特に、「まずは櫂より始めよ」で、官庁別に「企業子宝率を」を公表するといいのではないか。
ご参考:静岡県の「ふじのくに企業子宝率」WEBサイト:http://www.pref.shizuoka.jp/kousei/ko-130/kodakara.html
福井県の「企業子宝率」WEBサイト:http://www.pref.fukui.lg.jp/doc/rousei/26kodakaratyousa.html
(3)地域における若年女性の雇用機会の創出
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第 3 回会議(テーマ:妊娠・出産支援・子育て支援)で、筆者は以下の問題を指摘。
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いわゆる「消滅自治体」問題の主因は、地方に若年女性にとって魅力のある雇用機会が少ないこと。
現状の保健所・保健センターの対応は高齢者への対応に追われ、子育て家庭にきめ細やかな対応をする
のは現実として困難な状況にある。例えば、多胎児世帯支援サービスを無償で提供したいと申し出た
NPO に対して地域の保健センターが多忙を理由に断り、その NPO の代表が市役所の幹部職員から保
健センターに働きかけても、優先順位が低いと断られてしまう状況。
したがって、厚労省の産後ケア事業は有意義な取組ではあるが、行政の枠組みのみならず、地域の NPO
やボランティア、民生委員等、多様な主体を活用する「総力戦」で臨むべき。
かつて産婆さんは地域の子どもたちや子育て家庭のことを熟知し、相談相手になり、地域社会で一目を置か
れていた。妊娠・出産・育児を切れ目なく支援する職務を新設し、主に女性が地域社会で活躍する、雇用機
会を創出すれば一石二鳥ではないか。
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「子ども・子育て支援新制度」開始に合わせて、保育のサポート態勢を充実させるために新設される「子育
て支援員」制度では、基本研修8時間に分野ごとの専門研修が加わり、自治体が研修を実施する。非常に意
義深い事業だが、虐待予防の観点から、子どものみならず、広く子育て家庭全般をバックアップための専門
的知識やノウハウを持つ人材を育成すべきである。
政策提言③
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保健師とソーシャルワーカーを統合した資格制度「助育師」あるいは「子育てケアワーカー」を新設すると
いいのではないか。
(4)育児・介護等、ライフイベントへの備えの「前倒し」
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前倒しで準備する姿勢。例:独身時代からキャリアプランセミナー、「孫」介護。
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女性活躍に取り組む先進企業では、20 代半ばから後半の「中長期キャリアプラン研修」
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キャリアとライフ(育児・介護)の両立⇒女性のみならず、今後は男性も当事者に
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自分と配偶者4人親が存命ならば、1人が要介護になる確率は 50 歳代前半で6割、50 歳代後半で9割
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2025 年問題(団塊の世代が 75 歳以上の後期高齢者に)
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現在、社員の平均年齢が 40 歳の会社:2025~30 年代には介護社員(家族に要介護者を抱える社員)割
合は2-3割に達する。
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多重介護(一人で複数介護)は現在 20 万人、10 年後には 5 割増する見込み。片働き世帯でも困難。仮
に、専業主婦の妻に押し付けると、介護を契機とした熟年離婚はさらに増大。
年
2013 年
2030 年
2050 年
多重介護者
18 万人
28.3 万人
43 万人
(注)多重介護とは、高齢者や障害者など複数の人を同時に介護すること。Ⅰ介護者は「一人っ子」または「独身」で、2人以上(両親)の
介護を同時期にしているケース、Ⅱ配偶者と親が同時期に介護が必要になるケースをそれぞれ推計。
(資料)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2012 年 1 月推計)」等、各種統計を基に、渥美由喜が作成。
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若者介護(10~20 代で家族の誰かを介護)は現在、14 万人。今後も 20 万人前後で推移する見込み。彼
らの結婚が困難になり、晩婚化が進む可能性も。
年
2013 年
2030 年
2050 年
若者介護者
13.8 万人
19.9 万人
18.9 万人
(注)若者介護とは、10~20 代で家族の誰かを介護すること。Ⅰ「一人親家庭で祖父母どちらかを介護する」ケース、Ⅱ「共働き家庭で祖
父母どちらかを介護する」ケースをそれぞれ推計。
(資料)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2012 年 1 月推計)」等、各種統計を基に、渥美由喜が作成。
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WLBの重要性は認識されながら、実際の職場においてなかなか進まない背景には、高度成長期以来の
成功体験(「専業主婦モデル」とセットになった長時間労働による経済成長)からの脱却が進まず。WLB
という言葉に対して「生活を充実させるために、仕事はほどほどに」と誤解したイメージの広がり。
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短時間社員あるいは定時帰宅社員など、制約社員の方が、ダラダラ残業をしている偽装バリバリ社員よ
りはるかにハードな生活を送っている。
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ワークとライフの「DUALキャリア」あるいは「パラレルキャリア」を推進するには、ライフイベン
トが始まる前にスキルの習得が必要なことに無自覚な社員が多い。
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成功するDUALキャリア・マネジメントのコツを広める必要は高まる一方。社員をニューフロンティ
アに導くJFK。J(自律:DUALキャリアを追求する覚悟)、F(俯瞰:短期ではなく中長期で思考)、
K(葛藤:葛藤こそイノベーションの源泉、掛け算:上述)
政策提言④
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「DUALキャリア(パラレルキャリア)・コンサルタント」養成講座の実施。
※キャリア・コンサルティングとは、労働者が、その適正や職務経験などに応じて自らの職業生活設計を行い、これに即
して職業選択や職業訓練の受講等の職業能力開発等を効果的に行うことができるよう、労働者の希望に応じて実施され
る相談のことをいう。(厚生労働省「キャリア・コンサルティング研究会報告」2002 年 4 月)
以上