意 見 陳 述 書 - 生業訴訟原告団・弁護団 生業訴訟原告団・弁護団

平成25年(ワ)第38号等 「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発事故原状回復等請求事件等
原 告
中島 孝
被 告
国
外
外1名
意 見 陳 述 書
(原告ら準備書面(27)について)
2014(平成26)年11月18日
福島地方裁判所 第1民事部 御中
原告ら訴訟代理人
弁護士
久保木 亮 介
原告ら準備書面(27)の概要について陳述します。
第1 4省庁報告書・7省庁手引きの後退を目指した東京電力ら電事連
被告国が提出した「
『太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査』への対応につ
いて」
(乙 B70号証、以下「対応について」
)は、1997年3月にまとめられ
た国の一般的な津波防災対策である4省庁報告書および7省庁手引きの内容を、
被告東京電力をはじめとする電気事業連合会(電事連)が強く警戒し、後退させ
ようとしていたことを示す重要な証拠です。
東京電力ら電事連は、4省庁報告書・7省庁手引きの何を後退させようとした
のか。それは、既に生じた地震津波だけでなく「想定しうる最大規模の地震津波」
を考慮すべきであり、過去数百年の記録からは津波地震が確認できない福島県沖
日本海溝沿いの空白域を含め、太平洋沿岸を網羅するように想定地震を設定すべ
きであるという、安全側に立った津波想定の考え方そのものでした。
被告東京電力ら電事連は、
「対応について」の中で、
「歴史期間の長さからみて、
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大地震が発生する場所では既に大地震が発生している可能性が高い」
、
「歴史的に
大地震が発生していない場所にまで想定地震を設定する必要はない」として、想
定地震の発生位置を「これまでに大地震が発生している場所及びその近傍」に限
定せよと国に「修正」を迫ったのです。
第2 4省庁報告書から2002年「長期評価」へ
しかし、4省庁報告書及び7省庁手引きの、常に安全側に立って、既に生じた
場所に限定せずに最大規模の地震津波を想定するという指針は、被告東京電力ら
電事連の抵抗と修正要求の中でも変わることなく、1998年3月に正式に公表
されるに至りました。これにより、国の津波対策の基本が示されたといえます。
そして2002年には、国の地震調査研究推進本部が「三陸沖から房総沖にか
けての地震活動の長期評価について」
(いわゆる「長期評価」
)を発表しました。
震源域は1896年の『明治三陸地震』についてのモデルを参考にし、同様の地
震は三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域内のどこでも発生する可能性があ
る」とするものです。
4省庁報告書・7省庁手引きによって国の津波対策の基本が示され、2002
年には国の「長期評価」により具体的予測がなされた以上、福島県沖を含め明治
三陸地震に準じる津波地震が日本海溝のどこでも起きうるとして津波想定をす
べきは当然のことでした。
第3 福島沖日本海溝沿いに津波地震を想定しない「津波評価技術」の策定
一般的な津波防災についての4省庁報告書・7省庁手引きが、前述した津波想
定の指針を示した以上、原子力発電所という大きな危険性を抱える特殊な施設に
おける津波対策は、質的に異なるより高い水準の安全性の確保が求められていま
した。
しかるに、4省庁報告書・7省庁手引きの基本内容を「修正」させることに失敗
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した被告東京電力ら電事連が次に目指したのは、土木学会津波評価部会という財
政・人員の両面において電力会社の影響力が圧倒的な民間団体において、
「日本海溝
沿いの空白域では津波地震は起きない」という被告東京電力に都合のいい見解を打
ち出すことでした。
「長期評価」と同じ2002年に発表された「津波評価技術」で
は、歴史記録に残っている既往津波を想定津波の基本とするという考え方に立ち、
福島県沖の日本海溝沿いに津波波源を想定しようとしませんでした。
先頃公表された、政府事故調ヒアリングにおいて、2002年当時土木学会津波
評価部会の主査を務めた首藤伸夫氏は、
「計算波高を超える可能性に関する主張が津
波評価技術に反映されなかったのはなぜか」との問いに対し、
「対策しようとすれば
百億円なりの金がかかるが、株主総会に説明できるものでない」と述べています。
原子力発電所における津波対策において、
「万が一にも深刻な災害を起こさない」こ
とよりも「株主総会の承認が得られるか」に重きが置かれる。首藤氏の発言は、土
木学会津波評価部会と「津波評価技術」の本質をよく伝えています。
第4 国は「津波評価技術」による津波想定の後退を是認した
被告国は、第8準備書面であたかも「長期評価」の知見を重視し、原子炉施設の
安全性評価に役立てるよう電力事業者を指導していたかのように主張しています。
しかし、これは事実を偽るものです。
「長期評価」発表から4年以上が経過した2006年9月の「バックチェックル
ール」
(丙B42)を見れば明らかなとおり、被告国は、原子力発電所の津波予測に
ついては土木学会津波評価部会の「津波評価技術」の手法に依るべきであることを
明記しています。
また何より、被告国から規制を受ける相手方である被告東京電力自身が、この裁
判において、
「本件事故に至るまで保安院等の規制当局から『長期評価』の見解を設
計基準に取り入れるよう指示があったり、
『長期評価』の見解を踏まえて津波対策を
講じるよう指導等されたこともなかった」
(準備書面(10)11頁)と明言してい
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ます。
まとめ
被告国は、自らが防災対策のために定めた4省庁報告書・7省庁手引き、および
「長期評価」を特段の理由もなく無視し、これらの知見を踏まえた対応を電力事業
者に求めることを何らしませんでした。
他方で、原子力発電所の津波評価は一般防災より高度の安全性が求められるにも
かかわらず、規制される側の電力会社が中心となり策定され、しかも4省庁報告書
から重大な後退を見せている「津波評価技術」に無批判に従ったのです。
被告国の責任は重大といわねばなりません。
以 上
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