J. Plasma Fusion Res. Vol.90, No.12 (2014)7 86‐788 小特集 太陽系プラズマ 6.太陽系プラズマの観測技術 6. Observational Technique of the Solar System Plasma 6. 2 撮像観測 6.2 Remote Sensing of Planetary Plasma and Atmosphere 吉 川 一 朗1),吉 岡 和 夫2),桂 華 邦 裕3),江 副 祐 一 郎4) YOSHIKAWA Ichiro1), YOSHIOKA Kazuo2), KEIKA Kunihiro3)and EZOE Yuuichirou4) 1) 東京大学,2)宇宙航空研究開発機構,3)名古屋大学太陽地球環境研究所,4)首都大学東京 (原稿受付:2 0 1 4年6月1 5日) 太陽系というフィールドで宇宙プラズマを観測することの第一のメリットは「その場」観測から詳細な情報 が得られることである.その一方で,プラズマの撮像観測も盛んになりつつある.一番わかりやすい例が地球の オーロラである.地球のオーロラは,磁気圏の高エネルギー電子が地球大気を衝突励起することにより発生する. オーロラの映像から地球の磁気圏の中で何が起きているのかを推測していたのが1980年代である.9 0年代には, 極端紫外光や高速中性粒子による撮像の技術が進歩し,地球や惑星周辺のプラズマが撮像できるようになった. さらに技術が進歩し,地球の磁気圏界が可視化される日もそれほど遠くはないだろう. Keywords: EUV, EA, imaging, X-ray, Hiraki Space Craft, plasma sphere, magneto sphere 6. 2. 1 極端紫外線(EUV)によるプラズマ撮像 太陽系の惑星を観測している.惑星磁気圏を構成するイオ 地球電離圏の更に上層には,太陽の紫外線によって電離 ンは,太陽光を共鳴散乱する過程の他に,電子との衝突励 したプラズマが支配している領域(プラズマ圏)がある. 起過程を経て輝線を発する場合もある.衝突励起過程で発 質量の軽い水素イオンが数密度にして全体の約9割を占 せられる輝線の光量は,イオンの密度に加え,周囲の電子 め,約1割がヘリウム一価イオン,微量の酸素イオンから の温度と密度にも依存する.また同種のイオンが発する輝 なる.水素イオンは電子をもたないが,ヘリウム一価イオ 線においても,電子温度や密度に対する発光強度の依存度 ンと酸素イオンは内部の電子が励起/脱励起されることに はそれぞれ異なる(一般に,電子温度が高いほど短波長の より,特定の波長を発する(太陽共鳴散乱光).この散乱光 輝線強度が高くなる).この性質を利用して,観測的に得 は極端紫外光領域にあり,通常のレンズや鏡では映像にす られた輝線強度分布(スペクトル)から,イオンの組成や ることできない.90年代後半に,ヘリウム一価イオンが散 乱する光(30.4 nm)を検出する技術が花開き,日本の火星 探査衛星「のぞみ]が,地球の周回軌道中にプラズマ圏の 撮像に成功した.プラズマ圏の外側から地球の周辺全体を 見渡した世界で最初の成果である.技術的なブレイクス ルーは光を集める鏡にある.X 線天文学で使われている成 膜技術を多層膜反射鏡に応用し,極端紫外光に対する集光 能力を向上させたのである.2000年には,NASA が本格的 な撮像衛星(IMAGE 衛星)の打ち上げに成功し,ヘリウム イオンによるプラズマ圏撮像は熟成期に入った [1].2007 年には,日本の月探査衛星が月の周回軌道から地球のプラ ズマ圏の撮像に成功した[2](図1). 図1 この手法は地球物理の進展にとどまらず,惑星科学にも 応用 さ れ 始 め た.2 013年 に 打 ち 上 げ ら れた ひ さ き 衛 星 (図2)には,惑星大気/プラズマの分光撮像機がつまれ, 月 か ら み た 地 球 の プ ラ ズ マ 圏.極 端 紫 外 領 域 の 波 長 30.4 nm の光を撮像.矢印の部分はプラズマ圏に構造があ ることがわかる. University Tokyo, TOKYO 113-0033, Japan corresponding author’s e-mail: [email protected] 786 !2014 The Japan Society of Plasma Science and Nuclear Fusion Research Special Topic Article 6.2 Remote Sensing of Planetary Plasma and Atmosphere 図3 図2 ひさき衛星に搭載された惑星大気/プラズマ分光器.人工 衛星の大半の部分が光学系を占める.惑星からの大気光を 主鏡(entrance mirror)で集光し,スリット部(Slit plate) に集める.スリットの背後には回折格子(grating)があり 光を分散する.マイクロチャンネルプレート(MCP)で光 を検出する. I. Yoshikawa et al. ひさき衛星が取得したイオプラズマトーラスの極端紫外ス ペクトル(実線)と,スペクトル診断により最適化したモ デルスペクトル(破線).上段はトーラスの夕側領域,下段 は朝側領域のスペクトルをそれぞれ示す.イオン種と波長 を図中に示す.地球の大気光の混入が多い波長領域を影で 示す. (低温中性粒子) O+(高エネルギー酸素イオン)+H 電子の温度と密度を導出する手法が確立された(スペクト →O (高速中性粒子)+H+. ル診断). 木星の内部磁気圏(10木星半径より内側)には,6木星 電荷交換反応ではエネルギー授受や損失がほとんどないた 半径上軌道をする衛星イオがある.イオには火山があり, め,直線運動に移った高速中性粒子を観測すれば,高エネ 火山ガスを源とする硫黄イオンや酸素イオンが,木星磁場 ルギーイオンの時間空間変動をイオンエネルギー毎に可視 に捕らえられ,衛星イオの軌道に沿った分布(イオプラズ 化できる. マトーラス)を形成している. ENA 撮像は,1 980年代に米国 IMP-8 衛星や ISEE-1 衛 2013年11月から木星観測を開始したひさき衛星は,イオ 星,1990年代にスウェーデンの Astrid 衛星,日本の Geotail プラズマトーラスの極端紫外スペクトルを波長分解能約 衛星,米国 Polar 衛星に搭載された各イオン検出器によっ 0.3 nm(半値全幅)で取得した(図3).我々はこのデータ て行われた.その後,ENA 専用観測器が米国を中心に開発 に対して前述のスペクトル診断を適用させることで,イオ さ れ,米 国 の Cassini 衛 星,IMAGE 衛 星,TWINS 衛 プラズマトーラスにおけるイオンの組成比と電子温度分 星,IBEX 衛星などに搭載され,惑星磁気圏/電離圏プラ 布,および電子密度の空間構造の導出に成功した.この結 ズマ起源や太陽圏末端起源の ENA を観測してきている 果は,木星内部磁気圏における動径方向のプラズマ輸送の (図4) [3]. 証拠を世界で初めて捉えたことを示唆し,木星の放射線帯 ENA 専用観測器は大きく分けて2種類ある.一つは, に含まれる太陽系内最大のエネルギーをもつ相対論的電子 カーボンフォイルを用いて ENA をイオン化 し, 「そ の (数10 MeV)の加速過程の解明につながると期待している. 場」観測で習得しているイオン計測技術を使うものであ 2014年半ばから,ひさき衛星は系外惑星の大気探査に乗 る.もう一つは,入射スリット部の偏向板でプラズマを偏 り出している.今のところ新しいニュースはないが,将来 向し ENA のみを入射させ,Time of Flight システム,MCP, の系外惑星探査に必要な情報を収集し,ポストひさき衛星 SSD を用いて3重コインシデンスを取る技術である.後者 計画に備える. は前者に比べ,入射粒子がフォイルを通過する時のエネル ギー損失と散乱度が低いため,解像度やエネルギー分解能 6. 2. 2 高 速 中 性 粒 子(ENA: Energetic Neutral Atom)によるプラズマ撮像 が高い. 6. 2. 3 X 線による磁気圏界面の撮像 EUV で撮像するプラズマ圏粒子より高いエネルギーを もつプラズマの時間空間変動を映像する有力な手段は,高 撮像の新たな手段として期待されているのが X 線であ 速の中性粒子を測定する方法である.磁気圏内の高エネル る.太陽風に含まれる酸素,炭素,窒素などの重イオンが ギーイオン(>1 keV)が中性粒子(地球の場合はジオコロ ジオコロナの中性粒子(主に水素原子)から電子を奪い, ナをなす水素原子)と電荷交換し,電荷を失ったイオンは 移動した電子はイオン中で脱励起する際に X 線輝線を放射 磁場に捕捉されず直線運動に移る. する.反応式は例えば (低温中性粒子) H+(高エネルギー水素イオン)+H (ジオコロナ) O7+(太陽風イオン)+H →O6++H++!! (軟 X 線), →H (高速中性粒子)+H+, 787 Journal of Plasma and Fusion Research Vol.90, No.12 December 2014 図4 (左) IMAGE 衛星搭載 HENA 撮像器で得られた ENA 映像. 2 0 0 1年1 0月2 8日2 0UT に 27‐39 keV の高速中性粒子を撮像した.色はフラッ クスの強さ,数字は磁気地方時,白線は地球外縁およびダイポール型磁力線(地球半径の4倍と8倍の赤道面を通る磁力線)を示す. (右) HENA 撮像器の ENA 検出部(スリット,TOF,MCP,SSD)の模式図([3] より) . りで,シースやカスプの撮像ができると期待される. X 線の本質的な利点は,望遠鏡によって高い空間分解能 と時間分解能が可能なことであり,首都大,名古屋大, ISAS/JAXA などで検討している将来計画では地球から 40 RE 離れた位置からの衛星観測でそれぞれ 0.1 RE 以下, 1 hr 以下の分解能を め ざ し て い る.実 現 す れ ば NASA IBEX 衛星 LENA によるシース,カスプ観測に比べ,どち らも約1桁以上優れる.一方で10°×10°以上といった広視 野には望遠鏡を複数搭載する必要があり,装置重量が重く なるため,ENA による超広視野観測とは相補的ともいえ る.実現のポイントは軽量で高解像度・広視野の X 線望遠 図5 鏡である.ESA,NASA も同様のミッションを計画してお XZ平面(子午面)内の地球磁気圏の軟X線強度の見積もり. [5] から引用) GSM y axis 50 RE からの観測を仮定.( り,X 線が新手段として確立する日も近いと思われる. となり,ENA と式が似ているがこの場合,イオンは太陽風 参考文献 に含まれる重イオンであり,イオンからの発光を捉える点 [1]J.L. Burch et al., Geophys. Res. Lett. 28, 1159 (2001). [2]I. Yoshikawa et al., J. Geophs. Res. 115, CiteID A04217 (2010). [3]Mitchell et al., Space Science Reviews 91, 67 (2000). [4]I.P. Robertson and T.E. Cravens, Geophys. Res. Lett. 30, doi:10.1029/2002GL016740 (2003). [5]I.P. Robertson et al., J. Geophys. Res. 111, doi:10.1029/ が異なる. これは欧州の X 線天文衛星 ROSAT の全天サーベイ中 に,数時間から数日で変動する広がった雑音として1995年 に発見され,2000年代になって日本の X 線天文衛星「すざ く」などの分光観測によって確立した.そこで X 線を用い た磁気圏撮像が現在,具体的な検討に入っている[4].図5 JGPA2105R (2006). がアメリカのグループによる地球磁気圏 X 線強度の見積も 788
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