温度条件の違いによる帯鋼補強材の引抜き特性について 帯鋼補強材,引抜き試験,凍結融解条件 土木研究所寒地土木研究所 正会員 ○橋本 聖 正会員 山梨 高裕 林 宏親 山木 正彦 国際会員 正会員 1.はじめに 北海道のような寒冷地の冬期にテールアルメ壁を構築した場合,1 日の作業を終えてから翌日の朝までの盛土を実施 しない時間帯は,外気によって盛土表層部に凍結が生じる可能性がある.仮に帯鋼補強材(以降,ストリップとする) 周辺の盛土が凍結し,気温が上昇する春以降にこれらが融解すると,盛土の緩みなどでストリップの引抜き抵抗が低下 する恐れがある.本報告は,地盤に作用する温度条件の違いがストリップに及ぼす影響を明らかにするため,盛土材料 と養生条件を変化させたストリップの引抜き試験を実施し,温度条件の違いによる引抜き抵抗について考察した. 2.試験方法 図-1 に引抜き試験装置を示す.引抜き試験装置は試験土槽,上蓋,ラ バーメンブレン,ロードセル,スクリュージャッキ,変位計で構成され ている.本実験は冬期の盛土を模擬するため,試験土槽内に密度調整し た盛土に対して試験土槽の側面に厚さ 50mm,底面に厚さ 100mm の断熱 材(熱伝導率規格値:λ=0.028W/mk)を取り付けることで,冷気,暖気 を試験土槽上面から 1 次元方向のみ作用させた.試験土槽内寸は長さ 図-1 引抜き試験装置 1,200mm,高さ 600mm,幅 600mm である.地盤材料は砂質土と火山灰 表-1 地盤特性 質粗粒土(以下,火山灰土という)を用いた.表-1 に地盤材料の特性を示 す.ストリップはリブ付きで幅 60mm,厚さ 4mm,長さ 1,500mm である. 実験は長さ 11,500mm×幅 2,280mm×高さ 2,230mm の冷凍コンテナ内で 実施した.コンテナの詳細な仕様は既往文献 1) を参照されたい.表-1 の試 料をコンテナ内にて常温条件は 20℃,低温条件と凍結・融解条件は 2℃で 24h 養生した.その後,試験土槽底面から 150mm の高さまで自然含水比 wn の試料を締固め度 Dc=90(95)%で密度調整した.ここでストリップを設置 したあと,常温,低温条件はストリップ設置前と同じ手順にて,試験土槽 頂部まで試料を投入し盛土を作成した.盛土作成時のコンテナ内の温度は 試料 土質名称 土粒子の密度 自然含水比 最大乾燥密度 細粒分含有率 シルト分 粘土分 液性限界 塑性限界 塑性指数 凍上速度 凍上性 常温条件が 20℃,低温条件では 2℃とした.作成した盛土上に空気圧 が確実に作用するようラバーメンブレンを敷いて上蓋を設置した.凍 結・融解条件はストリップを設置するまでは常温,低温条件と同じ手 順であるが,さらに試料を投入してストリップ上 100mm まで締固め 度 Dc=90(95)%で密度調整した.盛土作成時の温度は低温条件と同じ 2℃とした.ここで,ストリップ上下 100mm の地盤を 「凍上性判定 のための土の凍上試験方法(JGS0172)」に従って,凍結速度 U=1.0~ 2.0mm/h で凍結させた.土中の温度は T 型熱電対を凍結・融解ゾーン に設置し,各実験ケースの凍結速度が上記の範囲内にあるか確認した. ストリップ下 100mm の温度が 0℃を下回ったことを確認し,試験土 槽頂部まで試料を投じて再び締固め度 Dc=90(95)%で密度調整した. ρs Wn ρ dmax Fc WL Wp Ip Uh 表-2 ケース 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 盛土材料 砂質土 火山灰土 S-FG SV-G 2.720 2.498 17.1 50.4 1.500 0.990 16.7 43.9 7.3 33.1 9.4 10.8 3 (g/cm ) (%) 3 (g/cm ) (%) (%) (%) (%) (%) (mm/h) NP NP 0.10 中 0.74 高 実験ケース 温度条件 締固め度 常温 低温 ρdmax90%(wn) 融解1日後 砂質土 融解3日後 凍結・融解 融解14日後 ρdmax95%(wn) 融解1日後 常温 火山灰土 ρdmax90%(wn) 低温 凍結・融解(融解1日後) 上載圧(kPa) 60 140 60 140 60 140 60 140 60 140 60 140 60 140 60 140 60 140 その後,コンテナ内の温度を 25℃に上げてストリップ上下 100mm の 地盤を融解させ,ストリップ下 100mm の温度が 0℃を超過したことを確認し,常温,低温条件と同様の作業後に上蓋を 設置した.表-2 に実験ケースを示す.ストリップの変位速度は v=1mm/min で引抜き試験は常温,低温条件は所定の上 載圧を付加した後に実施した.凍結・融解条件は融解後 1,3,14 日後の±6 時間以内に実施した. The pull-out character of the reinforcing HASHIMOTO, Hijiri material by the difference temperature YAMANASHI, Takahiro Civil Engineering Research Institute for Cold Region, PWRI ditto condition HAYASHI, Hirochika ditto YAMAKI, Masahiko ditto 100 (1)拘束圧と最大せん断強度の関係 図-2 a),b)は引抜き試験の結果を試料別に拘束圧 σv と最大せん断強度 τmax で整理したものである.小川 2) はストリップと地盤との間に発生する σv と τmax には,クーロンの破壊基準式(τmax = s’+σv tanφ)が成立する,と の知見を得ており,s’と φ はストリップと地盤との間に発生する付着力と 最大せん断強度 τ max (kPa) 3.実験結果 80 40 120 最大せん断強度 τ max(kPa) 140 として,粒子間の間隙水が凍結融解作用によって土粒子配列が乱れたため a) 0 τmax は,常温,低温条件のそれと比較して σv を問わず約 30%低下したが, 大せん断強度τmax が他ケースと比較して大幅にφが低下したが,この要因 常温(s'=19.2kN/m2, φ=20.0°) 低温(s'=26.1kN/m2, φ=13.3°) 凍結・融解1(s'=8.3kN/m2, φ=22.7°) 0 れた.一方,図-2 b)における凍結・融解条件(Dc=90%,融解 1 日後)の 場合はφが大幅に増加した.凍結・融解条件(Dc=90%,融解 1 日後)の最 火山灰土 20 くなるのに従って,常温条件と低温条件のそれより低下する傾向が確認さ 同程度に回復した.また,凍結・融解 1 日後でも締固め度 Dc=95%とした τmax 60 摩擦角としている.図-2 a)をみると,凍結・融解条件の τmax は σv が小さ 凍結・融解条件(融解 3,14 日後)の τmax は常温,低温条件のそれと概ね σv 20 40 60 80 100 120 拘束圧 σ v (kPa) 140 160 180 200 σv 100 τmax 80 60 常温(s'=43.7kN/m2, φ=20.0°) 低温(s'=51.1kN/m2, φ=14.4°) 凍結・融解1(s'=42.6kN/m2, φ=5.4°) 凍結・融解3(s'=53.1kN/m2, φ=14.4°) 凍結・融解14(s'=52.0kN/m2, φ=11.0°) 凍結・融解1 95%(s'=36.5kN/m2, φ=32.7°) 40 20 に,一時的にインターロッキング効果が低下したと推察される. 砂質土 b) 0 0 (2)火山灰土の物理特性 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 拘束圧 σ v (kPa) 今回使用した火山灰土は火山灰質粗粒土であるが,この土は凍結融解作 図-2 る.そこで,温度条件の違いが物理特性に影響を及ぼすかを把握するため, 引抜き試験後に物理試験を実施した.図-3 にケース 13,15,17 のストリッ プ上下 100mm を上から 3 等分して採取した試料の粒径加積曲線を示す.粒 径加積曲線をみると,温度条件による大きな違いは見られなかった. 90 80 通過質量百分率 (%) のが多く,粒子破砕が施工に与える影響などが問題である 3)と報告されてい 拘束圧と最大せん断強度の関係 100 用による影響として締固めや圧密,せん断時などに顕著に破砕性を示すも 火山灰土 70 60 ケース13 ケース13 ケース13 ケース15 ケース15 ケース15 ケース17 ケース17 ケース17 50 40 30 20 10 図-4 は凍結・融解条件(融解 1 日後)による火山灰土(ケース 17)にお 0 0.001 けるストリップ引抜き試験後のストリップ設置面の状態である.ストリップ 図-3 設置による跡が残っているものの水が浮いている状態は確認されず,目視で 0.01 0.1 1 粒 径 (mm) 上部 中部 下部 上部 中部 下部 上部 中部 下部 10 100 凍結融解ゾーンの粒径加積曲線 は引抜き特性への影響を確認することができなかった. 北海道の粗粒火山灰土の分類試案 4) によると,今回使用した火山灰土は wn=50.4%,ρs=2.498g/cm3 なので,[Vs2]のカテゴリーに近い材料と考えられる.こ れらのカテゴリーに属する締固め土のせん断抵抗は,通常荷重の範囲では良好で あるとの報告 4)されているが,[Vs2]に近い条件の材料がストリップ周辺で凍結・ 融解しても,wn 状態でかつ Dc=90%で締固めることによって,ストリップ間の盛 ケース 17 土で含水の移動が生じたとしても粒子破砕は生じず,常温条件や低温条件と同様 のインターロッキング効果を期待できることが示唆された. 4.まとめ 図-4 引抜き試験後のストリップ接地面 本報告では,温度条件の違いがストリップの引抜き特性に及ぼす影響につ いて,凍上性が異なる砂質土と火山灰土を対象に実施した引抜き試験結果に基づき考察した.その結果を以下に述べる. (1)砂質土における凍結・融解条件(Dc=90%,融解 1 日後)のτmax はσv に拘わらず,常温条件,低温条件と比較し て大幅に低下するが,凍結・融解 3 日後以降のτmax は常温条件や低温条件と同程度に回復した.ただし,凍結・ 融解条件(Dc=95%,融解 1 日後)ではφの増加が期待できることがわかった. (2)火山灰土では,いずれの温度条件もσv とτmax の関係は一様であった.ただし,凍結・融解条件(融解 1 日後) のτmax はσv が小さくなるに従って,常温条件と低温条件のそれより小さくなる傾向が確認された. (3)北海道の粗粒火山灰土の分類試案による[Vs2]に近い条件の盛土材がストリップ周辺で凍結・融解しても,wn 状態 でかつ Dc=90%で締固めたことによって,ストリップ間の盛土内で含水の移動が生じたが粒子破砕は確認されず, 常温条件や低温条件と同程度のインターロッキング効果を期待できることが示唆された. 【参考文献】 1) 橋本聖,山梨高裕,林宏親,山木正彦:温度条件の違いが帯鋼補強材の引抜き特性に及ぼす影響について,地盤工学会北海 道支部技術報告集第 54 号 pp.217-222,2014. 2) 小川憲保:現場引抜き試験による帯鋼補強材と盛土材との摩擦特性,土木学 会論文集 No.568/Ⅲ-39 pp.221-226,1997. 3) (公社)地盤工学会北海道支部:実務家のための火山灰質土 ~特徴と設計・施工, 被災事例~ pp.60-61,2010. 4) 池田晃一,神谷光彦,佐藤厚子,斎藤和夫,川端伸一郎:北海道の粗粒火山灰土の分類法に関 する試案,土と基礎 Vol.62,No.8 pp.16-19,2001.
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