ライセンス費の無駄

特集
今、ソフトウエアのライセンス費を無駄に払っ
てしまう危険性が高まっている。ライセンス費
の計算が複雑なサーバー仮想化やパブリック
クラウドの利用が増えているからだ。判断ミス
をすれば、典型例で5割増となるケースもあ
る。主要ソフトについて、ライセンス費の無駄
をなくす方法を解説しよう。
(白井 良)
クラウドが起こす副作用
特 集
ライセンス費の無駄
クラウドが起こす副作用 ライセンス費の無駄
判断ミスで5割増も
プライベートクラウド上の仮想マシ
一方だ。その結果、
「ラ
ンでWeb系システムを運用している。
イセンスをきちんと理解してイ
れる。まずはサーバー仮想化環境を前
CPUがボトルネックになってきたの
ンフラを設計したり、ソフトを購入し
提にした、商用ソフトのライセンス体
で、仮想マシンに割り当てるCPUを増
たりできているユーザーは多くない。
系を整理しよう。
やそう―。当たり前の対応のようだ
ユーザーのシステムを精査すると、さ
ライセンス体系は、価格算出のため
が、実際はそう単純ではない。システ
まざまな無駄が見つかる」
(相田氏)
。
のパラメーターの違いで大きく三つの
ム構成を変更すると、ソフトウエアの
本特集では、ライセンス費の無駄使
タイプがある(図1)
。
(1)物理サーバー
ライセンス料も変わってくる。
「CPU
いをしないための、インフラ設計やラ
のコア数またはCPU数を基に算出す
を一つ増やすだけでライセンス料が2
イセンスの選択の方法を解説する。特
るもの、
(2)ソフトが動作するVMに
倍になる場合もあるし、変わらない場
に判断ミスの影響が大きいOSやミドル
割り当てているコア数を基に算出する
合もある」
(ソフトライセンス関連のコ
ウエアを取り上げる。具体的には、米
もの、
(3)ソフトにアクセスするユー
ンサルティングを手掛けるライセンシ
Microsoftの「Windows Server」と
ザーやデバイスの数を基に算出するも
ング ソリューションズ チーフコンサ
「SQL Server」
、米Oracleの「Oracle
ルタントの相田雄二氏)
。ライセンス
Database」
、米IBMの「WebSphere
すべてのソフトがこれらの体系と
体系を理解して構成を変えないと、無
Application Server」だ。加えて、ア
1対1で対応しているわけではない。
駄なコストを支払う羽目になる。
プリケーションの代表として独SAPの
例 え ばM i c r o s o f tの サ ー バ ー O S
仮想マシン(VM)の登場でソフト
ウエアのライセンス体系は複雑化し
た。サーバー仮想化やクラウドの利用
48
「SAP ERP」も見てみよう。
ライセンス体系は大きく三つに分類
が異なっている点が挙げら
の、だ。
「Windows Server 2012 R2」では、
物 理 サーバーのCPU数 に 基 づ い た
「サーバーライセンス」と、ユーザー数
が広まるにつれ、ライセンス料を加味
ライセンスの選択が難しくなる原因
またはデバイス数に基づいた「CAL
したインフラ設計・運用は煩雑になる
として、製品によってライセンス体系
(Client Access License)
」を合計し
NIKKEI SYSTEMS 2014.8
<写真:Getty Images >
VMの
利用コア
物理サーバーのコア数
またはCPU数で決まる
仮想マシン
(VM)のコア数
で決まる
またはデバイス数で決まる
ソフトのユーザー数
ソフトが動作する物理サーバーのCPU
コア数またはCPU数を基に価格を算出
ソフトが動作するVMに割り当てているコ
ア数を基に価格を算出
ソフトにアクセスするユーザー数やデバ
イス数を基に価格を算出
VM1
VM2
VM1
VM2
VM1
VM2
ソフト
ソフト
ソフト
ソフト
ソフト
ソフト
ゲストOS
ゲストOS
ゲストOS
ゲストOS
ゲストOS
ゲストOS
…
仮想化ソフト
(ハイパーバイザー)
…
仮想化ソフト
(ハイパーバイザー)
仮想化ソフト
(ハイパーバイザー)
CPU
物理サーバー
コア
CPU
クラウドが起こす副作用 ライセンス費の無駄
物理サーバー
コア
特 集
CPU
ハードウエア
ハードウエア
ハードウエア
コア
…
物理サーバー
1 ソフトライセンスの課金方法は3パターン
図
て料金を算出する。
要がある。サーバーライセンスで注意
VMを作成できるのは、Standardも
同じソフトでも複数のライセンス体
すべき点は「適切なエディションを選
Datacenterも同一の物理サーバー内と
系を選択できたり、
エディションによっ
択しないと無駄なコストを支払うこと
なる。
て適用できる体系が違ったりする。
になる」
(ソフトライセンスのコンサル
1ライセンス当たりの参考価格は
データベース管理システム(DBMS)
ティングを手掛けるSoftwareONE
Standardが17万円、Datacenterが119
の「Microsoft SQL Server 2014」は
Japan ライセンスソリューショング
万円だ。どちらのエディションでも、
Windows Serverのライセンス体系に
ループ ディレクターの上原哲哉氏)こ
1ライセンスで利用できる物理サー
似た「サーバー /CAL モデル」と、
とだ。一つのサーバーで稼働させる
バーのCPU数は2CPUまで。CPU内の
VMのコア数の合計をカウントする
VMの数によって、適切な選択が変
物理コア数はいくつでも必要なライセ
わってくる。
ンス数は変わらず、VMに割り当てる
ル」の二つの体系を用意している。両
Windows Serverにはいくつかのエ
コア数もライセンス数に影響しない。
方を選べるのは下位エディションの
ディションがある。サーバー仮想化環
「S t a n d a r d」 だ け で、 上 位 の
境では
「Standard」
または
「Datacenter」
「Enterprise」はComputing Power
のいずれかのエディションを選択す
こうした条件から、1台の物理サー
ライセンス モデルしか選択できない。
る。どちらを選んでも機能は同じ。異
バーで稼働させるVMが少ない場合
なるのは1ライセンスで稼働できるVM
は、Standardの方が安くなる(次ペー
エディションを変えて無駄をなくす
の数だ。Standardでは1ライセンスで
ジの 図2)
。4コアのCPUを1基搭載す
同時利用できるVMの数が二つまで。
るような安価なサーバーの場合、稼働
ま ず、 サ ー バ ー 向 け 商 用O Sの
これに対し、Datacenterは無制限だ。
するVMはせいぜい四つで、Standard
Windows Server 2012 R2のライセン
StandardでVMを三つ以上使うには、
を2ライセンス購入しても34万円だ。
スについて解説しよう。
ライセンスを追加購入しなければなら
Datacenterを購入するのは無駄に
Windows Serverでは、サーバーラ
ない。1ライセンス追加すれば、同時
なる。
イセンスとCALを別個に検討する必
利用できるVMの数を二つ増やせる。
VMの数が多いとDatacenterの方が
「Computing Power ライセンス モデ
Microsoft Windows Server
「8コアのCPUが2基」が分水嶺
NIKKEI SYSTEMS 2014.8
49