ICMJE統一投稿規定の概要と 臨床試験登録 東京大学医学部附属病院UMINセンター 東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学 木内貴弘 研究の公正な公表・評価の必要性 国家財政赤字 ⇔ 国の将来のための研究の必要性 効率的な予算配分 競争的資金比率の向上 ⇔ 運営費交付金の削減 (経常運営費の削減) 研究業績を公正に公表し、適正に評価する必要性 1)文献情報による研究評価 ーインパクトファクター等 適切な研究評価 2)文献の執筆・投稿を巡る諸問題 -統一規定等 研究及び論文の質の維持・向上、不正の防止 統一投稿規定とは Uniform Requirements 国際医学編集者会議(International Committee of Medical Journal Editors)の 作成した論文執筆統一規定 生物医学雑誌への投稿論文の統一投稿規定 -生物医学論文の記述と編集 Uniform Requirements for Manuscripts Submitted to Biomedical Journals: Writing and Editing for Biomedical Publication 〇一番最初は書誌情報(バンクーバースタイル)から 投稿形式 ⇒ 出版の質・倫理 公正の追求 ⇒ 情報開示 統一投稿規定の概要 1.原稿の形式(バンクーバースタイル) 2.著者と研究貢献者 3.編集の自由 4.利害衝突(Conflict of interest) 5.著者と査読者の秘密保護 6.研究知見に関する訂正・撤回・懸念表明 7.余剰投稿 8.広告 1.原稿の形式(書誌情報) -バンクーバースタイル Kiuchi T, Takahashi T: High speed digital circuits for medical communication; the MINCS-UH project. Methods of Information in Medicine 39(4):353-355, 2000 著者名:Kiuchi T, Takahashi T 題名: High speed digital circuits for medical communication; the MINCS-UH project 雑誌名: Methods of Information in Medicine 巻:39 =>多く場合1年に1巻、通常1巻毎に製本して保存する 号:4号 =>雑誌1冊毎につく、巻の中での雑誌の通し番号、新しい巻は1号から始まる 頁:353頁から355頁 =>同じ巻では,巻単位で通し番号になっている *書誌情報には、著作権が設定されない(著作権法の例外)。 Kiuchi T, Takahashi T. High speed digital circuits for medical communication; the MINCS-UH project. Methods of Information in Medicine. 2000; 39(4):353-55. (バンクーバースタイル) 2.著者と研究貢献者(1) 著者に関する問題 論文1本あたりの著者数の増加 1955年 1.83人 ⇒ 1997年 3.84人 背景:多数の専門家の共同作業の増加(専門の細分化) ⇒特に臨床試験・疫学研究 オーサーシップの贈呈(Gift authorship) ・1994年、Malcom Pearceが捏造論文をBritish Journal of Obstetrics and Gynecologyに2本投稿し、採択・掲載 ・ともに同雑誌の編集長Chaimberlain教授を共著者にする (Chaimberlain教授は、研究内容のチェックをしていなかった) ⇒捏造が発覚 1.著者と研究貢献者(2) 著者の要件 発表された研究の内容に責任を持ち、研究において 十分な貢献をした人々で下記の要件を満たすこと。 1)研究の着想やデザイン、またはデータの分析と解釈 2)論文の執筆、もしくはきちんとした校閲 3)出版原稿内容への最終的な承認 ⇒ 1)著者全員のサインを要求 2) 各著者の貢献内容を記述(情報開示) 1.著者と研究貢献者(3) 著者とはみなせないもの 1.資金の確保 2.データの収集 3.研究グループの総指揮 2.編集の自由 雑誌の所有者(経営者) 編集者 編集者への編集の全権委任 ⇒論文の妥当性・重要性のみにもとづく編集 編集の自由の保障方法 1.最高経営責任者への編集者の直接アクセス 2.侵害があった場合には、国際社会に訴える (情報開示) 3.利害衝突(Conflict of interest) 利害衝突の概要 対象となる人 著者(著者の所属機関)、査読者、編集者 利害衝突の程度 多大なものから些細なものまで 利害衝突の種類 雇用、研究費、謝礼、報酬、株式 ⇒ 名誉心、個人的関係 3.利害衝突(Conflict of interest) 利害衝突の実例 製薬会社から研究費による研究成果 ⇒資金源をすべて論文に明記 ⇒データのアクセス権を明記 研究競争相手の論文を査読する場合 ⇒査読者に利害衝突の申告 ⇒著者が利害衝突のある査読者を申告 利害衝突自体がいけないのではなく、 情報開示されないのがいけない 4.著者と査読者の秘密保護 論文原稿コピー禁止 論文原稿の返却 第三者の開示禁止 契約 5.研究知見に関する 訂正・撤回・懸念表明 訂正(Correction) 著者による間違いの訂正 撤回(Retraction) 著者による論文の取下げ 懸念表明(Expression of concern) 編集者による論文への懸念表明 撤回声明・懸念表明の 雑誌掲載(情報開示) ・目次に掲載 ・目立つセクション (頁番号のあるところ) 6.過剰投稿 著者による申告(情報開示) (他雑誌には投稿していない等) 事後に明らかになった場合には余剰投稿 の告示(情報開示) 7.広告 広告が編集に影響を与えてはならない ⇒編集者とは、独立の広告審査機関 論文・記事と広告の識別がつくように 広告に関する読者の批判は雑誌に掲載するように 8.臨床試験登録 研究者等が、臨床試験の概要を研究開始前 にインターネットで臨床試験登録サイトに登録 する。 研究者・一般国民が、臨床試験の概要を臨床 試験登録サイトから参照できる。 病院 病院 臨床試験登録の歴史 ・必要性の認識(1970年代から) ・海外には、複数の臨床試験登録サイト (日本にはなし) しかし、海外でも登録は一般的でなかった 1)登録する研究者にメリットなし ⇒ 一般市民にメリット 2)アイディア盗用 国際医学雑誌編集者委員会(ICMJE)声明 (2004年9月) ・ICMJE加盟の主要11雑誌が、臨床試験論文の受 付にあたって、非営利機関への臨床試験登録を 義務付け (1)2005年7月以降に開始される臨床試験 ⇒事前登録を義務化 (2)2005年7月以前に開始された臨床試験 ⇒2005年9月までに登録を義務化 主要11雑誌の内訳 ⇒総合誌・各国のトップジャーナル Journal of American Medical Association (JAMA) The New England Journal of Medicine Now Zealand Medical Journal Norwegian Medical Journal Canadian Medical Association Journal The Lancet Annals of Internal Medicine Croatian Medical Journal Dutch Journal of Medicine Journal of the Danish Medical Association Medical Journal of Australia 臨床試験登録の必要性 1.出版バイアス(1) 実施された臨床試験 (実施15件:治療効果あり13%) ●●××○●●○●×●●●×● 雑誌に投稿された臨床試験 (投稿4件:治療効果あり50%) ○ ○ 雑誌に公表された臨床試験 (公表2件:治療効果あり100%) ○ ○ (凡例:○有効、●無効、×中断) 不採択 不採択 臨床試験登録の必要性 1.出版バイアス(2) -臨床試験登録によるバイアス解消 第三者機関 実施された臨床試験 (実施15件:治療効果あり13%) 雑誌に投稿された臨床試験 (投稿4件:治療効果あり50%) 研究開始前に事前登録・公開 ●●××○●●○●×●●●×● ○ ○ 不採択 不採択 結果の確認できる臨床試験 ●●××○●●○●×●●●×● (確認15件:治療効果あり13%) (凡例:○有効、●無効、×中断) 臨床試験登録の必要性 2.後付け解析(1) ・ヒトの個体差は大きい ⇒治療効果は確率的にばらつく (あるヒトは良く効くが、あるヒトにはあまり効かない) ・治療効果の統計的な評価が必要 ⇒何も治療効果がなくても、 20-30項目比較すれば、 1つくらい統計学的有意差のある項目がある 臨床試験では、事前に比較する項目を1つに決めておく 臨床試験登録の必要性 2.後付け解析(2) 後付け解析とは 1.臨床試験の終了後に 2.当初の研究目的とは別の 3.都合のよい部分のみを探して解析すること (例)事前に決めた評価項目: コレステロール値 コレステロール値に差がない 差がみられる項目を探す (中性脂肪、血糖、血圧、尿酸、GOT・・・・・) 臨床試験登録の必要性 2.後付け解析 ⇒臨床試験登録による防止 1.第三者機関へ当初の研究計画を事前登録 2.第三者機関が研究計画を公開 (例)事前に決めた評価項目:コレステロール値 事前登録、公表してあれば、 「コレステロール値」以外の統計解析はできない。 出版バイアス + 後付け解析 後付け解析 実施された臨床試験 (実施15件:治療効果あり13%) ●●××○●●○●×●●●×● 雑誌に投稿された臨床試験 (投稿4件:治療効果あり50%) ○ ○ 雑誌に公表された臨床試験 (公表2件:治療効果あり100%) ○ ○ (凡例:○有効、●無効、×中断) 不採択 不採択 臨床試験登録・公開の更なる意義 (1)一般市民の希望による臨床試験への参加 ⇒特に難治疾患 (2)臨床試験結果の参照 ⇒治療法の自己選択 今後の展開 医学研究者への臨床試験登録の理解推進 「臨床試験の倫理指針」で臨床試験登録義務付け ⇒国内の医学雑誌も対応を迫られる (倫理指針に反した研究の公表を認めるのか?)
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