KOTO( KL → π 0ν ν¯ 探索実験) と京都 K グループの活動報告 発表 : 内藤 大地 (高エネルギー) 座長 : 坂本 陽平 (素粒子論) 記録 : 仲村 佳悟, 石山 優貴 (高エネルギー) 1 KOTO 実験 1.1 理論的背景と実験目的 KOTO 実験は茨城県東海村の大強度陽子加速機施設 (J-PARC) で実施している、KL → π 0 ν ν¯ 稀崩壊探索 実験である。本崩壊は崩壊過程に未知の粒子が寄与する事で、崩壊分岐比が標準模型の予測からずれると様々 な新物理で予測されている。この崩壊は標準模型での予測分岐比の理論的不定性が∼2% と小さい上に、非常 に抑制されている (予測分岐比:2.4 × 10− 11 )。よって崩壊分岐比の標準模型からのズレが測定しやすく、新物 理の発見が期待できる。しかし本崩壊は実験的に観測が難しく未発見である。KOTO 実験ではまず現在の上 限値 (2.6 × 10− 8 ) の更新を目指す。次に理論に依らない上限値である Grossman-Nir limit(1.5 × 10− 9 ) を超 えた感度で測定を行い、新物理に対する制限をかけて行く。そして 2018 年度までに新物理を含む KL → π 0 ν ν¯ 初観測を目指す。 1.2 信号検出原理 図 1 に KOTO 実験のセットアップを示す。KL → π 0 ν ν¯ 崩壊において π 0 は瞬時に 2γ に崩壊し、ν ν¯ は観 測不能であるため、終状態は”2γ 以外何もない”状態となる。そこで、 KL 由来の π 0 → 2γ である事の保証 (KL → 2γ の排除) →2γ を CsI カロリメータで測定して π 0 を再構成、π 0 の崩壊点と横方向運動量によって事象選択。 2γ 以外何もない事の保証 (KL → 2π 0 、KL → e+ π − ν 等の他の崩壊モードの排除) → 崩壊領域を定義し、その全立体角を Veto 検出器で覆う。 を行う。また、KOTO 実験では beam 近傍に不可避的に残存する中性子が検出器と反応して π 0 を生成する と”2γ 以外何もない”状態を満たし、これが主なバックグランド源の一つとなる。そこで NCC と呼ばれる検 出器で中性子の flux を測定する事で、このバックグランドを見積もる。 図1 KOTO 実験のセットアップ 1 2 今年度の進捗状況 今年度 KOTO 実験では初の物理ランを行った。しかし 2013 年 5 月の加速器事故により実験は中断された。 それでも崩壊分岐比の上限値更新が可能な統計量は取得できた。現在は上限値更新のため、解析を進めてい る。今年度の京都 Kaon グループの成果は大きく分けて、今までに測定したデータの解析と、来年度のビーム に向けた新しい検出器の開発の二つに分けられる。ここではこれらの成果を順に紹介する。 2.1 KL flux 測定 実験での signal sensitivity(到達感度) を決定するには、まず大元の KL の生成量の見積もりが必須で ある。そこで KOTO 実験では全検出器インストール後の 2013 年 1 月に、KL → 3π 0 崩壊からの 6γ を CsI カロリメータで測定し、KL を再構成する方法で KL flux 測定を行った。これにより KL fluxs として 4.182±0.061×107 / 2×1014 POT という値を得た。またこの解析の過程で π 0 を再構成するために必要な CsI での energy deposit や温度等の各種補正とその補正方法を確立した。さらにシミュレーションで実験データ を再現するため、各種検出器応答の開発と反応モデルの選別を行った。これによりデータの再現性が非常に高 いシミュレーションモデルを確立した (図 2)。 # of events / 2 MeV/c2 (b) 104 分割型CsIによるn/γ分離 103 γ入射の場合 2 Data/MC 10 図2 中性子測定部 γ 10 1 1.8400 1.6 1.4 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2 400 γ veto部 420 440 460 480 500 520 540 560 580 KL beam 600 中性子入射の場合 420 440 460 480 中性子 500 520 540 560 580 600 Reconstructed KL mass [MeV/c2] 再構成した KL 質量分布。黒線がデータ、赤線 図3 中性子 flux 測定原理 がシミュレーションを示す。 2.2 中性子 flux 測定 2013 年 3 月に検出器上流部に設置した NCC を用いて中性子 flux 測定を行った。NCC は CsI 結晶で構成 され、Z 軸方向に 3 分割されて波長変換ファイバーにより個別に読み出される。これにより中性子 event の選 別を可能にしている (図 3)。本年度は測定したデータとシミュレーションとの比較から、検出器応答の理解と 中性子 event を効率よく選別する手法の開発を進めてきた。その結果、測定データから中性子 event らしき enhance を取り出す事に成功した。 2.3 Veto 検出器の不感率測定 検出器をインストールする前の 2012 年 5 月に、KOTO ビームラインで Charged veto(CV) の性能評価を 行った。2013 年度は性能評価のうち、不感率測定の解析を行った。CV は CsI 直近に 2 層置かれる、CsI を覆 2 う唯一の荷電粒子検出器である。CV はプラスチックシンチレータに波長変換ファイバーを埋め込み、MPPC で読み出す。その役割は CV を突き抜け CsI に入射する荷電粒子を排除する事で、各層で荷電粒子に対して 10−3 以下の不感率を達成しなければならない。解析の結果この不感率の要求に対し、2 層とも 10−4 以下の不 感率を達成できている事を確認し、本実験でのバックグランド除去能力を保証した (図 4)。 CV energy deposit FirstLayer Entries 1245877 Mean 0.5692 RMS 0.201 SecondLayer Entries 1245877 Mean 0.572 RMS 0.2074 ry threshold (100keV) 4 lim in a 10 p re 103 102 10 1 0 0.2 図4 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 Energy deposit (Mev) CV での energy deposit 分布 図5 検出器の energy deposit 分布の一例 2.4 本実験の解析状況 2013 年 5 月に本実験を行い、KL → π 0 ν ν¯ 崩壊分岐比の上限値更新に向けて解析を進めて来た。検出器応 答に関しては 1 次陽子ビームがシールド遮蔽をすり抜け、KOTO 検出器に直接入射する効果を組み込む事で、 データを良く再現できるシミュレーションを構築した (図 5)。また 3π 0 event から KL を再構成し、シミュ レーションと比較する事で CsI のキャリブレーションと π 0 の再構成が正しく行われている事を確認した。現 在はバックグランド削減のための新たな解析手法の開発を進めている。 2.5 新しい検出器の開発 来年度、実験施設の修復後にはビーム強度が高くなり、下流ビーム中にある荷電粒子検出器の γ や中性子に よる hit rate が増えると予想されている。すると本来検出すべき荷電粒子が検出できなくなる可能性や、偶発 的にデータを排除してしまう確率が増大してしまう。これを解決するため、ガスチェンバーを用いた低物質量 の荷電粒子検出器の開発を行った。本年度はシミュレーションを用いた検出器デザインの決定、小型試作機 の作成と信号読み出し用プリアンプの開発を行った。そして荷電粒子の検出効率 98.2% という要求に対して、 試作機 + プリアンプで 98.6% の検出効率を達成できた。 2.6 まとめと今後の展望 本年度は遂に本実験を開始した。事故により実験が中断したが、上限値更新が可能な統計は取得できた。現 在は鋭意解析を行っている。一方で実験再開後を見据えて新検出器の開発を行った。この新検出器は 2014 年 度ビーム再開までに完成させ、本実験で運用する。2014 年度実験再開後は新物理に感度がある領域に世界で 初めて到達する。そして 2018 年度には標準模型での予測分岐比近くまで感度を上げ、新物理の発見を目指す。 3
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