社会学論考35 表1 - 首都大学東京機関リポジトリ;pdf

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学位(修士)論文要旨 : 母-娘に見る若年女性の性役
割観・ライフコース観の形成過程
細川, 千紘
社会学論考(35): 75-78
2014-11-19
http://hdl.handle.net/10748/6843
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Departmental Bulletin Paper
publisher
http://www.tmu.ac.jp/
首都大学東京 機関リポジトリ
社会学論考
第 35 号
2014. 11
学位(修士)論文要旨
母―娘に見る
若年女性の性役割観・ライフコース観の形成過程
首都大学東京大学院 人文科学研究科 社会行動学専攻
2013 年度 修士論文
細川 千紘
女性の性役割観やライフコース研究の中では,現在の若年女性は母親と同
様のライフコースを歩むことが難しいと指摘されている(岩上 )
.これか
らライフコース選択をしていく若年女性はこのような時代にどのようなライ
フコースを歩みたいと思っているのだろうか(以下,ライフコース観とする)
.
また,彼女たちのライフコース観はいかにして形成されるのだろうか.本研
究では若年女性の性役割観・ライフコース観の形成過程を明らかにすること
を目的とした.
女性のライフコースに関する先行研究では量的な研究が多くなされており,
質的研究は少なく,行っていたとしても母親,娘への個別のインタビュー調
査が多い.先行研究では女性のライフコース形成において母親の影響が指摘
されているが,その影響の程度や過程などは量的な世代間比較や母娘個別の
インタビュー調査だけでは考察できないと考えた.そうした点を補うために
本研究では母親の影響に着目して,母―娘ペアでのインタビュー調査を行っ
た.娘の幼少期から振り返り,母が娘を,娘が母をどのように捉えてきたの
か,現在はどのように見ているのか.母―娘の語りからお互いの意識変化を
とらえつつ,娘(若年女性)の意識形成過程を考察していくこととした.
第 章では,女性のライフコース観・性役割観に関する研究を就業(初職
につく)以前と就業後という つの視点に分け概観した.女性のライフコー
ス形成には,母親の性役割観やライフコースの影響を受けることが指摘され
ていた(大道・山村相良 )
.
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第 章では関連する文献を参照し,日本女性のライフコースの変遷を概観
した.その後母親世代のライフコースと時代背景をまとめ,調査対象である
母世代( 代女性)と娘世代( 代女性)の特徴をまとめた.第 章では国
立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査 結婚と出産に関する全
国調査」など,未婚の若年層を対象とした調査・データを参照し,現代若年
女性がどのようなライフコース観や性役割観を持っているのかを確認した.
第 章では調査概要(調査対象者の選定方法や属性,質問項目)について
説明した.選定方法は,まず 代前半の女性 人にプレ調査を実施.その
後母親の就業経歴別に「専業主婦型」
,
「再就職型」
,
「就業継続・両立型」の つのグループに分類し,それぞれのグループから母―娘ペアでのインタビュ
ーに応じてくれる親子を選出した.今回の調査概要を提示し,母親にもイン
タビューを依頼することができたのは合計 組のペア(計 人)であった.
またインタビューを行う際に母親/娘が同席することで,それぞれ回答が変
化すると考え,インタビューは母/娘一人ずつを行い,インタビュー内容を
親子間で共有することも控えてもらった.質問内容に関しては大きく つの
観点(①母親のライフコース,②娘から見る母,③娘の希望しているライフ
コース(ライフコース観)
,④母から見た娘)に分け,親子ペアでのインタビ
ューを試みた.第 章では母―娘ペアでのインタビュー調査の概要を,この つの観点を中心にまとめた.
続く第 章ではインタビュー結果から各ペアでの共通点などをまとめ,若
年女性の意識形成過程を考察している.ペアでの調査から明らかになった点
は以下の 点である.
まず,幼少期の娘は母親の就業状況によって母親像(母親に対するイメー
ジ)を形成し,その後周囲の母親と自分の母親を比較していく中でその内実
が変化していくことがわかった.母親が就業継続型であった場合は,幼少期
からその後母親像にゆらぎが見られた.一方母親が専業主婦型であった場合
は,幼少期から現在まであまり母親像にゆらぎがみられなかった.この点に
関しては,規範的な母親イメージと母親のライフコースとの乖離が少なかっ
た専業主婦型の母親を持つ娘ほど,母親像のゆらぎが少なかったのではない
かと思われる.
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次に母親のライフコースと娘のライフコース観を比較し,娘は母親のライ
フコースに対してどのような点に共感や肯定,または否定的に捉えるのか.
また,それをふまえた上で自身のライフコースをどのように描いているのか
を考察した.娘のライフコース観を母親のライフコースに対して肯定的(ロ
ールモデル)型と否定的(反面教師)型というカテゴリーを作成し,分類し
た.結果,完全に分類できず母親のライフコースを部分的に肯定/否定した
グループがあった.こうしたグループは周囲の母親と自身の母親を比較し,
周囲の母親に対して「足りない」と感じる側面を否定的に捉えており,そし
てそこを補うように自身のライフコース観を形成していた.母親の生き方に
肯定的(ロールモデル)型であったグループは,自分のライフコースを考え
た際に母親に対するイメージが好意的に変化したという共通点があった.ま
た,同じ家庭環境で育った姉妹でも母親のライフコースに対して肯定/否定
と分かれ,同様の方向を示さなかった.幼少期の母親のイメージは共通だっ
たが,成長後の客観的な母親のイメージが姉妹では異なり,それが母親の生
き方に対する評価を分けていた.
逆に娘のライフコース観を母親がどのように見ているのか,母親側からも
考察した.結果,母親の望む娘のライフコースと娘の望む理想のライフコー
スは必ずしも一致しておらず,ズレが生じている場合もあった.母親が自身
のライフコースを肯定的/否定的に捉えているかにより,娘にのぞむライフ
コースが変化していた.自身のライフコースで得た経験・体験を元に娘のラ
イフコースと照らし合わせ,自身が感じたメリット・デメリットを伝え,娘
に道を示そうとしているのではないだろうか.
上記の考察から,母親のライフコースは意図せずとも娘(若年女性)のラ
イフコース観形成に影響を与えており,娘は母親のライフコースをモデルと
しながら自身のライフコース観を形成していることがわかる.ただし,それ
が必ずしも娘にとって肯定的なモデルになるとは限らず,モデルの仕方も単
純な肯定/否定にとどまらないことが明らかになった.今後はこの複雑性の
背後にどのような要因があるのかを明らかにしていきたい.
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主要参考文献
Giele, J.Z. and Elder, G.H., Jr. (eds.) (1998) Methods of life course research. Qualitative
and quantitative approaches. Thousand Oaks: Sage. 正岡寛司藤見純子訳
『ライフコース研究の方法―質的ならびに量的アプローチ』明石書店
石川由香里・杉原名穂子・喜多加美代・中西祐子, 2011, 『格差社会を生きる家族
――教育意識と地域・ジェンダー』, 有信堂高文社
岩上真珠,
『ライフコースとジェンダーで読む家族』
,有斐閣
岩井八郎「戦後日本型ライフコースの持続と変容(Ⅱ)―女性の学歴と
ライフコースの分析―」中井美樹・杉野勇編『 年 660 調査シリーズ ライフコース・ライフスタイルから見た社会階層』 年 660 調査研究会
岩永雅也「アスピレーションとその実現―母が娘に伝えるもの―」岡本
英雄直井道子編『現代日本の階層構造 女性と社会階層』東京大学出版
会
大道和美・山村直子, 「家庭のジェンダー文化と職業意識」神田道子編, 2000,
『女子学生の職業意識』, 勁草書房, 117-145.
相良順子『子どもの性役割態度の形成と発達』風間書房
独立行政法人国立青少年教育振興機構編『これから親となる若者の就労
観,結婚観,子育て観に関する調査研究』独立行政法人国立青少年教育振
興機構
中西泰子『若者の介護意識 親子関係とジェンダー不均衡』勁草書房
大和礼子『生涯ケアラーの誕生―再構築された世代関係再構築されない
ジェンダー関係』学文社
吉村恵「性別役割分業と親子関係―学生のアンケート調査から―」平
安女学院短期大学附属教育研究所編,『平安女学院短期大学教育研究所年
報』
リン中野・我妻もえ子「母親と未婚の娘たち―世代変化に関する一考察」ゴ
ードン・マシューズ・ブルース・ホワイト編小谷敏監訳・川畑雅臣訳『若
者は日本を変えるか― 世代間断絶の社会学』世界思想社
(ほそかわ ちひろ・首都大学東京大学院博士後期課程)
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