クリティカルシンキングの教育目標と評価方法―標準テストの使用可能性― 久保田 祐歌(愛知教育大学大学教育研究センター研究員) 大学の授業において、学生のクリティカルシンキング(以下 CT と表記)育成を目指す場合、「CT」 としての、教育目標と評価方法をまず定める必要がある。本報告では、まず米国における CT の教育目 標を資料に基づき提示しながら、それに対応する効果測定の方法を紹介した。その次に、哲学教育とし ての CT 教育について紹介しながら、2013 年度に非常勤講師として中京大学で担当した「論理学 A・B」 の授業で実施した科研費による調査研究の概要と結果を提示した(注) 。 米国では、大学のジェネラル・エデュケーションにおいて CT が教育目標の一つとされているため、 日本の大学での CT の教育を考えていく上で参考となる。定義や目標としては、Ennis のような CT 研 究者個人によるものだけでなく、学者間において協働し検討した結果がまとめられたものもある。例え ば、Facione(1990)によると、CT の認知的スキルとしては、「解釈」「分析」「評価」「推論」「説明」 「自己調整」の 6 項目が挙げられる。その他、全米カレッジ・大学協会が示した CT の VALUE ルーブ リックを見ると、 「観点」に「イシューの説明」 「証拠」 「文脈と前提の影響」 「学生の立場(観点、主題/ 仮説)」 「結論と関連する結果(含意と帰結) 」の 5 つが含まれている(AAC&U) 。 CT を授業の教育目標の一つとして掲げた際の、到達度の測定方法に関しては、既存の CT テストの 定義に応じた各種テストの分類等がなされている(平山 2004)。また、これまでに、ワトソン・グレイ ザーCT テストが翻訳・改訂されたり、コーネル CT テストを翻訳した上での尺度研究が行われたりし てきている。 (久原・井上・波多野 1983;平山・田中ほか 2010) 。 哲学分野における CT 教育については、CT を「論理的思考」とのみ狭く捉えると、 「 (形式)論理学」 の科目が担っているように思われるが、日常の議論で陥りやすい誤りを分類し、よい推論の基準を提示 する「非形式論理学」が CT の母体であると言われている(岩崎 2000) 。CT はそもそも哲学における 思考法や論理学をベースにしたものであり、教養としての「論理学」の科目において、非形式論理学と しての CT を教えることを期待される場合もないわけではない。中京大学の「論理学 A・B」は、まさ にそうした授業であり、哲学系研究者が担当している。 2013 年度に担当した本科目では、前期「副題:クリティカルシンキング入門」においては、汎用的技 能一般を測定する PROG テスト(河合塾&リアセック)のうちの「リテラシー」を行ったほか、 「教育 による間接的な効果を間接的に測定する指標」として、 「クリティカルシンキング志向性尺度」 (廣岡・ 元吉ほか、2001)を自己評価として実施した。そして、これら二つと期末試験(論証図、三段論法、論 証作成等)の結果との相関関係を分析した。また、後期「副題:科学的思考とクリティカルシンキング」 においては、期末レポートとして、教科書として使用した、 『科学技術をよく考える:クリティカルシン キング練習帳』のユニット9「動物実験の是非」を課題とし、両論併記型で書かれた文章を読んだうえ で、自分がどちらの立場に賛成するかを論述させた(対応するルーブリック表を作成し学生に自己評価 させた) 。 授業で学んだ内容に即した評価を行う際にはルーブリックが有用であるが、一般的な CT のスキルが 身についているかを測るためには、標準テストが一つの手段となりうる。いずれにしても、両方の手段 を継続的に用い、内容に改善を加えながらの試行錯誤(の機会)が必要となる。 注)若手研究(B) (2013-2014 年) 「汎用的技能としてのクリティカルシンキング標準テスト開発のための基礎的研究」 (研究課題番号:70527655)
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