生態環境計測学 2014/11/07 1 植物群落における微気象観測 / 渦相関法 植山 雅仁 2 乱流輸送 植物群落と大気の間の物質輸送は、乱流によって生じる渦に よってなされる 25 高度 (m) 20 15 CO2フラックス 顕熱フラックス 30 潜熱フラックス 気温 葉温 12 比湿 (g kg-1) CO2濃度 (ppm) 10 5 0 0 0.5 1.0 2 4 葉面積指数 (m2 m-2) 水平風速 (m s-1) 6 18 20 気温・葉温 (℃) 11 366 368 370 1 3 乱流輸送と二つの渦 浮力生成による渦 シアー生成による渦 風速 4 渦相関法 (Eddy Covariance Method) ) 乱流輸送に寄与する全てのスケール(大きさ)の渦を直接測定 することでフラックスを計測する手法 高い応答性 応答性 (小さな渦を計測するため) 10Hz(1秒間に10回)程度の計測が必要 安定性 (大きな渦を計測するため) 高い安定性 群落スケールでの熱、水蒸気、CO2交換 量の計測において世界標準 2 5 渦相関法 (Eddy Covariance Method) ) 乱流輸送に寄与する全てのスケール(大きさ)の渦を直接測定 することでフラックスを計測する手法 植物群落上には、さまざまなスケールの渦が発生 6 渦相関法 (Eddy Covariance Method) ) 乱流輸送に寄与する全てのスケール(大きさ)の渦を直接測定 することでフラックスを計測する手法 様々なスケールの渦 大きな渦 長周期 数分 10Hz 小さな渦 高周波 3 7 渦相関法 (Eddy Covariance Method) ) 乱流輸送に寄与する全てのスケール(大きさ)の渦を直接測定 することでフラックスを計測する手法 これらの渦が足し合わさる 乱流変動 8 0 -1 気温 (t’) (oC) 1 0 -1 0.4 (mg m-3) 鉛直風速 (w’) 1 (g m-3) (m s-1) 植物群落上の乱流変動 水蒸気密度 (q’) 0.0 -0.4 4 0 -4 CO2密度 (c’) 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 秒 4 9 植物群落上の乱流変動 鉛直風速 (w’) (m s-1) 1 0 -1 顕熱フラックス H = c p ρ w' T ' (oC) 0 -1 (g m-3) 1 0.4 CO2フラックス 0.0 Fc = ρ w'c' (mg m-3) -0.4 4 0 -4 気温 (t’) 水蒸気密度 (q’) CO2密度 (c’) 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 秒 10 植物群落上の乱流変動 顕熱フラックス H = c p ρ w' T ' t = t + t’ 瞬時値 鉛直風速 (w’) 平均値 平均からのずれ (m s-1) 1 0 -1 気温 (t’) (oC) 1 0 -1 w’t’ (oC m s-1) 1.5 0.0 -1.5 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 秒 5 11 CO2フラックス Fc = ρ w'c' 植物群落上の乱流変動 c = c + c’ 1 (mg m-3) (m s-1) 瞬時値 鉛直風速 (w’) 平均値 平均からのずれ 0 -1 4 0 -4 CO2密度 (c’) (mg m-2 s-1) 8 w’c’ 0 -8 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 秒 12 植物群落上の乱流変動 q = q + q’ 瞬時値 (g m-3) (m s-1) 1 平均値 平均からのずれ 水蒸気フラックス E = w' q ' 鉛直風速 (w’) 0 -1 0.4 0.0 水蒸気密度 (q’) (g m-2 s-1) -0.4 0.8 w’q’ 0.0 -0.8 6 13 植物群落上の乱流変動 28 mの観測用鉄塔 の観測用鉄塔 超音波風速温度計 赤外線CO 分析計 赤外線 2/H2O分析計 14 Rn = H + lE + G 純放射量 600 25 200 20 0 12:00 5/1 潜熱フラックス 顕熱フラックス 30 400 -200 0:00 顕熱フラックス 潜熱フラックス 800 高度 (m) エネルギーフラックス (W m-2) 植物群落上の熱交換 15 10 5 0:00 0 0 12:00 5/2 1.0 2010年 年 0.5 葉面積指数 (m2 m-2) 0:00 18 12:00 5/3 20 気温・葉温 (℃) 11 0:00 12 比湿 (g kg-1) 7 15 CO2フラックス (mg m-2 s-1) CO2濃度 (ppm) 植物群落上のCO 植物群落上の 2交換 370 360 350 340 330 320 310 1.5 1.0 0.5 0.0 -0.5 -1.0 -1.5 0:00 12:00 8/17 0:00 12:00 8/18 2009年 0:00 12:00 8/19 0:00 16 フラックスと貯留の関係 フラックス: 1 8 7 6 5 4 3 2 8 17 フラックスと貯留の関係 貯留: 1 8 7 6 5 4 3 2 18 フラックスと貯留の関係 フラックス: 1 7 6 5 4 3 2 8 正味生態系交換量 Net Ecosystem Exchange (NEE) 8 + 5 = 13 貯留: 1 5 4 3 2 9 19 正味生態系交換量 (NEE) フラックス + 貯留変化(FS) 各測定高度の濃度の変化量 FS = ∫ 測定高度まで足す m 0 ∆C ( z ) dz ∆t 単位時間当たり (例えば、30分など) 20 20 m 貯留変化の概念図 FS = ∫ m 0 + ∆C ( z ) dz ∆t 10 m 10/30x10 ppm 分-1 m 5/30x5 ppm 分-1 m -6/30x2 ppm 分-1 m -12/30x3 ppm 分-1 m 5m -77/30 ppm 分-1 m 2m = 2.57 ppm 分-1 m 3m 400ppm 410ppm 10ppm/30分 10 m 390ppm 395ppm 5ppm/30分 5m 380ppm 374ppm -6ppm/30分 3m 420ppm 408ppm -12ppm/30分 10 21 NEE = フラックス + 貯留 貯留とNEE CO2交換量 (umol m-2 s-1) 8 6 貯留 フラックス NEE 4 2 0 -2 -4 -6 -8 0 2 4 6 8 10 12 14 Time 16 18 20 22 24 22 貯留と風速 15 貯留量 (umol m-2 s-1) 10 5 0 -5 -10 -15 0 1 2 3 4 水平風速 (m s-1) 5 6 7 8 11 23 NEE = フラックス + 貯留変化 測定高度より下の物質量の変化 乱流輸送によって大気と交換された量 生態学的なプロセスに起因して変化量 NEE (Net Ecosystem Exchange) 純生態系交換量 24 植物群落上のCO 植物群落上の 2交換 光ー光合成曲線 (直角双曲線) 1.5 NEE (mg m-2 s-1) 1.0 Fc=Rd - 0.5 a 0.0 Pmax : 最大光合成速度 a : 初期勾配 Rd : 暗呼吸速度 PAR : 光合成有効放射 Pmax x a x PAR Pmax + a x PAR -0.5 -1.0 -1.5 Pmax 0 200 Rd 400 600 日射量 (W m-2) 800 1000 12 25 植物群落上のCO 植物群落上の 2交換 季節変化 国内ヒノキ林の場合 *CO2フラックスの符号は正負が逆になっていることに注意 (Takanashi et al., 2005) 26 植物群落上のCO 植物群落上の 2交換 観測されたCO2フラックスから群落光合成と呼吸に分離 CO2フラックス 日中のCO2フラックスはどのようなプロセスによるもの? 土壌呼吸 植物呼吸 光合成 364 366 368 370 CO2濃度 (ppm) 13 27 植物群落上のCO 植物群落上の 2交換 夜間は光合成がない! CO2フラックス 観測されたCO2フラックスから群落光合成と呼吸に分離 土壌呼吸 植物呼吸 378 380 382 384 386 CO2濃度 (ppm) 28 植物群落上のCO 植物群落上の 2交換 観測されたCO2フラックスから群落光合成と呼吸に分離 夜間のデータは、呼吸のみ CO2フラックス (mg m-2 s-1) 植物、生物の呼吸は温度依存がある。 1.5 1.0 0.5 0.0 -0.5 -1.0 -1.5 0:00 12:00 8/17 0:00 12:00 8/18 2009年 0:00 12:00 8/19 0:00 14 29 夜間呼吸の定式化 Rref : 0℃の時の呼吸量 Q10 : 感度定数 (0~10℃の温度上昇で呼吸が何倍になるか表す係数) 夜間 NEE (mg m-2 s-1) 0.8 0.7 RE = Rref × Q10T 10 0.6 Q10=3.4 Rref=0.0512 R2 = 0.8938 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 0 5 10 気温 (℃) 30 光合成と呼吸の分離 NEE = RE - GPP 15 20 GPP : 総一次生産量 (群落光合成量) RE : 生態系呼吸量 NEE : 純生態系交換量 GPP = RE - NEE Fc 気温の日変化・ 夜間フラックスから 測定値 RE GPP GPP : gross primary productivity RE : Ecosystem respiration 15 31 夜間呼吸の定式化 CO2交換量 (mg m-2 s-1) 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 -0.5 -1.0 -1.5 0:00 12:00 8/17 0:00 12:00 8/18 10 0:00 12:00 8/19 2009年 0:00 NEE = RE - GPP CO2交換量の季節変化 CO2交換量 (g C m-2 day-1) 32 呼吸 (RE) 光合成 (GPP) 正味交換量(NEE) 光合成(GPP) NEE 呼吸(RE) 8 6 4 2 0 -2 -4 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 月 ヒノキ林のCO2交換量:2000~2007年の平均的な季節変化 16 33 NEE = RE - GPP 森林のCO 森林の 2収支 光合成(GPP) 2500 NEE 呼吸(RE) CO2交換量 (g C m-2) 2000 1500 1000 500 0 -500 -1000 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 月 ヒノキ林のCO2交換量:フラックスの積算値 * 数値は暫定値である。 34 (Saigusa et al., 2008) アジアの森林の群落光合量 温帯カラマツ林 (北海道) 冷帯カラマツ林 (シベリア) 冷帯カラマツ林 (モンゴル) 冷帯カラマツ林 (中国) ミズナラ混合林 (北海道) ダケカンバ・ミズナラ・アカマツ林 (高山) 高山 アカマツ林 (富士吉田) 熱帯雨林 (タイ) 熱帯雨林 (タイ) ヒノキ林 (大津) 熱帯雨林 (マレーシア) 17 35 (Saigusa et al., 2008) アジアの森林のCO アジアの森林の 2交換量 温帯カラマツ林 (北海道) 冷帯カラマツ林 (シベリア) 冷帯カラマツ林 (モンゴル) 冷帯カラマツ林 (中国) 吸収 放出 ミズナラ混合林 (北海道) ダケカンバ・ミズナラ・アカマツ林 (高山) 高山 アカマツ林 (富士吉田) 熱帯雨林 (タイ) 熱帯雨林 (タイ) 熱帯雨林 (マレーシア) ヒノキ林 (大津) NEP; Net Ecosystem Productivity (=-NEE) NEEと比べて正・負が逆になっている点に注意 36 (Hirata et al., 2008) 呼吸量 群落光合成量 アジアの森林の群落光合量 年間平均気温 (oC) 年間平均気温 (oC) 何が光合成量の空間的な分布を決めているのか? 18 37 クロノシーケンス研究への応用 クロノシーケンス 時間による変化を空間による変化で代用する手法 全球 遷移 空間スケール リモートセンシング 大陸 地域 km m 微気象・渦相関法 cm クロノシーケンス チャンバー 気象 秒 時間 日 月 年 10年 100年 時間スケール 38 クロノシーケンス研究への応用 クロノシーケンス 100年単位の 年単位のCO 年単位の 2吸収量の変化を評価 樹齢と景観 (アラスカなどの北方林の例) 多年生草本 焼け跡 常緑針葉樹 火災 落葉広葉樹 百年程度の周期で攪乱が起こる。 19 39 クロノシーケンス研究への応用 攪乱前は、条件が同じと思われる場所で、 攪乱からの履歴が異なる多点で観測を行う。 観測のデザイン (カナダの森林の場合; Goulden et al., 2006) 40 火災後154年 年 火災後 クロノシーケンス 火災後74年 火災後 年 極相林 火災後40年 火災後 年 火災後23年 火災後 年 火災後15年 火災後 年 吸収のピークは回復 生育期は短い 火災後6年 火災後 年 火災後1年 火災後 年 吸収も放出も少ない (Goulden et al., 2010) 20 41 (Goulden et al., 2010) 炭素固定量 (g C m-2 yr-1) クロノシーケンス研究への応用 吸収 放出 林齢 42 フラックスネット(FLUXNET)構想 )構想 フラックスネット( 日本・韓国にタワーサイトはどれだけあるでしょうか? 41サイト サイト AsiaFlux website : http://www.asiaflux.net/ 21 43 フラックスネット(FLUXNET)構想 フラックスネット( )構想 22サイト サイト AsiaFlux website : http://www.asiaflux.net/ 44 http://www.fluxnet.ornl.gov/fluxnet/index.cfm フラックスネット(FLUXNET)構想 )構想 フラックスネット( 現在は、全世界で400サイト以上 (2007年時) (Baldocchi, 2008) 22 45 微気象学的手法の課題 降雨時など気象条件の悪い時に計測できない。 夜間など安定時の測定精度 光合成、呼吸の推定を夜間のデータに頼らざるをえない。 CO2以外の微量気体フラックスについて渦相関法の適用が困難 600 500 熱収支式が閉じない (エネルギー・インバランス問題) Rn = H + lE + G 複雑な地形、地表面への適用 H+λE (W m-2) 複雑な補正、欠測の補完方法 400 y = 0.76x + 5.87 R2=0.84 300 200 100 0 -100 0 100 200 300 400 500 600 Rn - G (W m-2) 46 復習事項 渦相関法の原理と乱流変動の特徴について CO2フラックスから光合成量と呼吸量の評価法 CO2交換量の日変化、季節変化、樹種・場所による変化 クロノシーケンス 微気象学的手法によるフラックス観測の課題 23 47 引用・参考文献 Baldocchi, D., 2008. ‘Breathing’ of the terrestrial biosphere: lessons learned from a global network of carbon dioxide flux measurement system. Australian J. Botany 56, 1-26. Goulden, M. L., Winston, G. C., McMillan, A. M. S., Litvak, M. E., Read, E. L., Rocha, A. V., and Elliot, J. R. 2006. An eddy covariance mesonet to measure the effect of forest age on land-atmosphere exchange. Global Change Biology, 12, 2146-2162. Goulden, M. L., McMillan, A. M. S. Winston, G. C. Rocha, A. V. Manies, K. L. Harden, J. W. and BondLamberty 、 B. P. 2010. Patterns of NPP, GPP, respiration, and NEP during boreal forest succession. Global Change Biology. [doi: 10.1111/j.1365.2486.2010.02274.x] Hirata, R., Saigusa, N., Yamamoto, S., Ohtani, Y., Ide, R., Asanuma, J., Gamo, M., Hirano, T., Kondo, H., Kosugi, Y., Li, S. -G., Nakai, Y., Takagi, K., Tani, M., Wang, H., 2008. Spatial distribution of carbon balance in forest ecosystems across East Asia. Agric. For. Meteorol. 148, 761-775. 文字信貴 2003. 植物と微気象 ―群落大気の乱れとフラックス―. 大阪公立大学共同出版会, 140pp. 文字信貴・平野高司・高見晋一・堀江武・桜谷哲夫, 1997: 農学・生態学のための気象環境学, 丸善株式会社, 199pp. Saigusa, N., Yamamoto, S., Hirata, R., Ohtani, Y., Ide, R., Asanuma, J., Gamo, M., Hirano, T., Kondo, H., Kosugi, Y., Li, S. -G., Nakai, Y., Takagi, K., Tani, M., Wang, H., 2008. Temporal and spatial variations in the seasonal patterns of CO2 flux in boreal, temperate, and tropical forests in East Asia. Agric. For. Meteorol. 148, 700-713. Takanashi, S., Kosugi, Y., Tanaka, Y., Yano, M., Katayama, T., Tanaka, H., Tani, M., 2005. CO2 exchange in a temperate Japanese cypress forest compared with that in a cool-temperate deciduous broad-leaved forest. Ecol. Res. 20, 313-324. JapanFlux website : http://www.japanflux.org/ AsiaFlux website : http://asiaflux.yonsei.ac.kr/index.html FLUXNET website: http://www.fluxnet.ornl.gov/fluxnet/index.cfm 24
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