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CSR コミュニケーションのこれから⑧
CSR 担当者と CSR 経営者のためのニュースレター
醍醐 利明(トッパン エディトリアル コミュニケーションズ株式会社)
ユニバーサルデザインの神髄
現在、多くの企業が「CSR 活動の一環」としてユニバー
しかし、人員の限られた組織内のみで少数者の視点に気付
サルデザイン(UD)に取り組んでいます。ISO26000 の中
くことは、容易ではありません。UD に積極的に取り組んで
核主題の 1 つ「消費者課題」にも、
追加原則として「ユニバー
いる企業の多くは関連 NPO などと協働し、優れた製品・サー
サルデザインの推進」が位置付けられています。それでは、
ビスを生み出しています。そこはまさに、シェアードバリュー
そもそも UD とは何でしょうか。
が創造されている現場だといえます。
UD を説明する際には、先行するバリアフリーとの比較で、
その優れたノウハウは、他の CSR 課題にも有益に展開で
「対象者を障がい者に限定しない」
「すでにあるバリア(障壁)
きるでしょう。もし、現状のコミュニケーション施策で期待
に対処するのがバリアフリー、最初からバリアをつくらない
通りの成果が得られていないならば、UD をテーマにしたダ
のが UD」などと語られることが多いようです。しかし、こ
イアログなどから始めるのも良いかもしれません。
れだけでは CSR を説明するのに「法令遵守とコンプライア
ところで、UD の取り組みも含めて伝える CSR コミュニ
ンスの違い」
を語った程度のことにしかならないと感じます。
ケーションツールであれば、ツール自体も UD に配慮したい
UD の成り立ちをひも解くと、
「ダイバーシティ&インクルー
ところです。ゼロ年代初頭の「第一次 UD ブーム(?)
」の
ジョン」と一卵性双生児のような関係にある共生思想である
際には、防衛的な色覚バリアフリー対策で地味になり、余白
と同時に、
「CSV 戦略」を先取りした市場開発方針でもあっ
を犠牲にしてまで文字を大きくし、太いゴシック体の多用で
たと思うからです。
強弱が無くなるなど、かえって読みにくくなったツールも散
シェアードバリューを共創する視点
UD の提唱者である故ロナルド・メイス教授が求めたのは、
「すべての人が(一時的に/将来に)障がいを持つ」という
見されました。その後、「UD フォント」が開発され、グラ
フィックデザイナーも徐々に配色テクニックを身に付けてき
たことで改善されつつありますが、書体と色使いだけが UD
手法ではありません。
発想の転換であり、その視点で「魅力的で市場性の高い」モ
どの情報を、どのような手順で、どう伝えていくのか。さ
ノを生み出すことでした。
らには、伝えた後のフィードバックなども含めて、コミュニ
国際ユニヴァーサルデザイン協議会(IAUD)がウェブサ
ケーションサイクルのすべての段階に、工夫の余地はありま
イトで公開している「IAUD・UD マトリックス」では、身
す。そこで何より重要なのは、「必要な内容にすぐにたどり
体機能の区分ごとに、障がい・症状の種類、一般的な配慮
着けること」
「要点が明確であること」
「誤解されにくいこと」
方法などが紹介されています。そこでは、それぞれの症状な
です。このあたりの研究は、アクセシビリティ/ユーザビリ
どに類似する「特殊な状況下」も挙げられています。
「特殊」
ティとして、ウェブデザインの分野でロジカルに進められて
といっても、
「暗い部屋」
「荷物を持っている」
「肉体的疲労、
いるので、ぜひ参考にしたいところです。
時間的制約」
「慌てている」など、誰もが日常的に経験する
最後に。コミュニケーションツールをつくるうえで最も重
ことがほとんどです。
要な「UD 視点」とは、それを発行することがゴールではな
つまり、ある不便を常に抱えている少数者の切実な問題を
くスタートだという意識でしょう。常に「どのように使われ
理解し、
商品開発に反映することにより、
多くの人が普段「こ
るのか」を意識すること。そして、活用しながら継続的に改
ういう状況だから使いにくくても仕方ない」とあきらめてい
善すること。「小さな気付き」の「共有」と「積み重ね」こそが、
る状態でも、使いやすいものがつくれるということです。
UD な社会を築いていくのですから。
【だいご・としあき】学生時代から出版・広告・広報の各分野で、企画・デザイン・編集・コピー等に幅広く従事。1998 年から現職で環境・CSR 分野の開拓、
ウェブ部門の立ち上げなどを歴任。環境・CSR 報告書での担当受賞作多数。2009 年にその企画・制作ノウハウを「トッパン E-UD」として UD 視点で体系化。
第 12 号 P.20
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