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Title
弱ユークリッドアルゴリズムとローラン級数環について
Author(s)
尼野, 一夫
Citation
[岐阜大学教養部研究報告] no.[31] p.[239]-[245]
Issue Date
1995-02
Rights
Version
岐阜大学教養部数学教室
URL
http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/handle/123456789/3961
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。
岐阜大学教養部研究報告第31号 ( 1995)
239
弱ユ ー ク リ ッ ド ア ル ゴ リ ズ ム と
ロー ラ ン級 数環 につ いて
尼野
一 夫 ・ 葛巻
孝子
岐阜大学教養部数学教室
( 1994年10月11日受理)
On weak E uclideり.n algorithms and
skew L aurent pow er series r・ings
K azuo A M A N O and T akako K U ZU M A K I
A bstract
L et R be an integral domain and c
t an autom orphism of R . L et R [ [ x, x ¯ 1 : (y) ]
be theskew L aurent powelTseriesring in which each element has a unique ret)resentation
= O foralmostall positiveintegern and xl a二 ぴ1( a) xl
1
1
as 2 7a x1( i EZ) with a
-
n
ln [21, K. Amano and T. Kuzumaki proved that R [ [x, x¯1 : c
y] ] is euclidean ring
if and only if R is euclidean ring. 0 n the other hand, G. E . Cooke in [ 3] defined the
follow ing possibility and called R 2-stage euclidean ring : for any a, b ≒ O in R, there
exist
q, r, qへ が such that
satisfying
a= bq十r,
N ( a) > O for a ≒ O and
b= r(ど十rへ N ( r勺 < N ( b) ,
N ・( O) = 0.
where N is a m ap
Such a 2-stage euclidean ring is not
euclidean in the usual sense and there are m any 2-stage euclidean rings in the rings
of algebraic integers in number fields。
ln the present paper, we shall show that, if R is 2-stage euclidean ring,
R [ [x, x¯1 : 刈 ] isalsoright 2-stage euclideanring andright principal ideal domain.
§1 .
環 R を整域 と し, c
yをその 自己同型写像 とす る. 文字 x と R の元 a と の積 を
尼野
240
一夫 ・ 葛巻
孝子
一
1
x a = び1( a)x l , i E Z
と定義す れば, 形式的巾級数
X a
iEZ
・
1
f=
x I ( 但 し, 殆 どすべての正の整数 nにつ いて a
= O)
が非可換整域 R [ [x, x¯1 : ,y] ] ( ローラ ン級数環という ) を作る. 尼野 ・ 葛巻 [2] は, R
が右ユー ク リ ッ ド環な らば R [ [x, x¯1 : 刈 ] は右ユー ク リ ッ ド環であるこ と を証明し た.
一般に, 整域 Dが右ユー ク リ ッ ド環で ある と は, Dの各元 aに整列集合W の元 衣 a) が対応
し, D の 元 a, b ≒ Oが与 え ら れ た と き.
a= bq十 r√ダ ( r) < g ( b)
をみたす D の元 q, r が存在す る と き と定義す る. こ の場合, D のイ デア ルはすべて右単項 イ
デア ル と な る. 左ユア ク リ ッ ド環 も同様に定義 さ れ, 右, 左ユー ク リ ッ ド環 を単にユー ク リ ッ
ド環 と い う .
犬
他方, 単項 イ デア ル環 は必ず し もユー ク リ ッ ド環 と 限 ら な い こ と は良 く 知 ら れて い る.
十しか し , 単項イデアル環の中には, Dの各元 aに整列集合W の元 g( a) が対応 し, Dの元
a, b ≒ Oが与 え ら れた と き.
a= bq十 r, (p ( r) < g ( b)
ま た は.
a 二 bq 十 r, b 二 r q什 r≒ 9 ( r勺 < p ( b)
をみたす D の元 q, r, q≒ f が存在す る よ う なユー ク リ ッ ド環 と 異な る も のが あ る. こ の
よ う な整域は弱ユー ク リ ッ ド環 と呼ばれ, G. E. Cooke[3] は実 2次体の整数環のなかに沢山
の例 を発見 し て いる( G. E. Cookeはそのよ う な環 を
2-stageeuclideanring と呼んで い る) .
この小論では, Rが弱ユー ク リ ッ ド環のと きR [ [x, x¯1 : 刈 ] も弱ユー ク リ ッ ド環であ
る こ と を 示 し, 非可換整域 の 中に も 弱ユー ク リ ッ ド環の存在す る こ と が初め て確認 さ れた の
で, それ を報告す る.
一
1
27
i≧h
に対 し て ,
a
・
1
f=
X
ah ≒ 0
一
R [ [ X, X¯1 : 刈 ] か ら Rへの写像 ρを R [ [ X, X¯1
a
§2 .
刈 ] の元
弱ユー ク リ ッ ドア ル ゴ リ ズム と ロー ラ ン 級数環 に つ いて
ρ( f) 二 3 h
24 1
ρ( 0) ゜ 0
と定義す る. と の と き, 次の補題 を得 る.
補題 1. R [ [x, x¯1 : (y) ] の元 f, g≒ Oに対 して,
f = 9 u, または, f = 9 u十 v, ρ (v) ≠ O (mod.・ρ(9) )
と表す こ と がで き る.
[証明]
f, g の最小次数を h, k とする. 先ず, ρ(f) = ρ(g) q十r と表 し,
自己同型写像 だ か ら
こ の と き,
,yk
測まRの
( C) = q をみたす R の元 Cを選んでお く .
V = f - g Cχ
h- k
と お け ば,
v= ( ρ(f) T p (g) q) x h 十 high6r degree terms
ト
ニ
r
x
h
十
h i g li e r
d e g r e e
t e r m
s
■
十
と表せ る. こ こ で, ρ( v) = r ≠ O ( mod. ρ( g) ) な らば証明は終わる.
ρ. ( v) = r ≠ O ( m od. ρ( g) ) な らば ρ( v) = ρ(g卜(f と表 し , イ k( c勺 = (j をみたす
R の元 (y を選 ん で お き, y = V - g (ダX
1- k
と お く O は V の 最 小 次数 ) . ρ ( V勺 ≠ 0
(m od. ρ( g) ) な らばそ こ で終 り, ρ( v ) ≡ O(m od. ρ(g) ) な らばこ の操作 を続け る.
この操作が有限回で終われば,
f 二 g ( CX
h- k
+ (ダ χ
二
1- k 十 ‥
・ 十C( 11) χS¯ k ) 十V( り)
(n)
ρ(v
) ≠ O (m od. ρ( g) )
を得 る. こ の操作が無 限に続 く な らば,
h- k
U =
C X
+ (ソ X
I一k
+ ●●●+ C( 11) χS¯ k
+
●●●
と お け ば, f = gti を得 る. ■
§3 .
N を R か ら Z へめ写像で N( a) > O ( a≒ O) , N ( O) = O を満 たす も の と し, R
をN に関 し て 弱ユー ク リ ッ ド環 とす る. す な わ払
R の元 a√b ≒ 0 が与 え ら れた と き,
a= bq十 r, N ( r) < N( b)
また は,
a 二 bq 十 r, b = r q汗 r≒ N ( 内
く N ( b)
尼野
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一 夫 ・ 葛巻
孝子
をみたす R の元 q, r, q , r が存在す る も の とす る.
R [ [x, x¯1 : 刈 ] から Zへの写像 N
x
を N (f) = N ( ρぐf) ) と定義す れば, 次の定
x
理 を得 る .
定理 2 .
R [ ()( )(¯1 : ゛ ) ] は N XI に関 し て右弱ユニ ク リ ッ ド環であ る.
[証明]
R [ [x, x¯1 : 祠 ] の元
.ヶ
f =
ρ
け )
x h
十
h i g h er
d eg r ee
te r m s,
六
大
g = ρ( g) x k 十 higher degree terms ( ≠¥O)
いし
■
に対 し て, 補題 1 よ り, f = guな らば明らかに成 り立つ. f こ g・u十 v, β( v) ≠ O( mod.
ρ( g) ) な ら ば N x( ゛ ) .< IN 友( g) の場合には成 り立つ.
N
x
(v) ≧ N (g) の場合には, R は弱ユー ク リ ッ ド環だか ら次の 2通 りの場合が考え られ
x
る.
a) :
ρ( v)
=
ρ
(g) q 十 r, N ( r) < N ( ρ(g) ) ,
ま た は,
b)
ρ(v) = ρ(g) q十 r, ρ(g) = rq 十 s, N (s) < N ( ρ( g) ) , を満たす Rの元
q, r, q≒ s が存在す る.
い ま, と「
k( C) こ qな る R の元 Cを選び, V - gCX l k = V ( 1はVの最小次数) とおけ
ば,
.
- -r.
■
f 二 gU十 V二 gU 十 gCX l¯ k 十 V心 g ( U 十 CX l¯ k) 十 Vy
と 表せ る .
こ こ で,
a) の場合には,
…
…
Nメ V勺 二N(ρ(V) - ρ(g) q) = N(r) く N(ρ(g) ) = N ゴg)
と な り 定理 は成 り立つ .
b) の場合には, X t
( C )== (f な る R の元 Cを選び, g T V CX
最小次数 ) とおけば,
f=
g ( U十 CX
fχ k ¯ t
g 二 y C
I- k
+
) 十昿
V″
k一t
= V″ ( tは がの
弱ユ ー ク リ ッ ドア ル ゴ リ ズム と ロー ラ ン 級数環 につ いて
243
と表せ る. こ の と き, ρ( v″) ≒ Oで あ る.
なぜな らば, ρ( v″) = Oとすれば, ρ( v勺 = r だか ら ρ( v″) = ρ( g) - ρ(v勺 (j =
s= Oと な っ て, N( ρ( g) ) = N( rq勺 ≧ N ( r) である. 他方, 仮定 よ り N( r) ≧ N( ρ(g) )
だか ら N( q勺 = 1 とな り, q勺まR の単数 である. し たがっ て, r 二 ρ( g) (j ¯1 と表 さ れ,
ρ(v) = ρ(g) (q十 q ¯1) と な る. これは最初の仮定 ρ( v) ≠ O( mod. ρ(g) ) に反す
る.
よ っ て, N
§4 .
X
( Vy)
-
N (S) < N ( ρ( g) ) 二 N X(g) が証明さ れ定理は成 り立つ. ■
R を代数体K の整数環 と し。 , を K のQ上の 自己同型写像 とす る。 測まR の 自己同型
写像で もあるから, ローラ ン級数環R [ [ X, X¯≒ 祠 ] が考え られる. RがK のノ ルム写像
ト ニ I NK/Q ¦ に関して弱ユ¬ グリ ッ ド環な らば, 定理 2 よ り R [ [X, X¯1 : 刈 ] も N X =
N ・ ρに 関 し て 右 弱ユ ー ク リ ッ ド環 で あ る . ノ ルム写像 N はすべ て の R の元 a につ いて
N( a) = N価 ( a) ) を満たすか ら, 次の命題 を得 る.
命題 3
N X(f9)
[iE明]
-
N・X(f) N X(9)
。 (fg) = 。 (f) j l(。 (g)) ( hはfの最小次数) だから,
NX(fg) 二N(ρ(fg)) 二N(ρ(f) j h(ρ(g)))
= N ( ρ( f) ) No h(ρ ( g) ) )
二N( ρ( f) ) N( ρ(g) ) 二 N X( f) N X・(g) ・ ■
Rがユー ク リ ッ ド環な らば, R [ [X, X¯1 々 ] ] は右ユー ク リ ッ ド環であ り [21, 右単項
イデ ア ル環 と な る. 同様な こ と は, N
= N ・ ρ に関 し て右弱ユー ク リ ッ ド環 で あ る
X
R [ [X, X¯1 : 刈 ] について も成 り立ち, 次の定理 を得る.
定理 4 .
N X 二N ・ ρに関 して右弱ユーク リ ッ ド環である R/[ [X・ X¯1 : 刈 ] は右単項イ
デアル環で ある.
[証明]
R [ [X, X¯1 : (y) ] の右イデアルを I ( ≒ O) とする/ I の元 g を
尼野
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N ( g) = m in l N
と選んで お く . こ の と き,
一夫 ・ 葛巻
孝子
( t) : tEI, t ≒ 叫
I の任意の元 f ≒ O につ いて, 0 < N
( g) ≦ N
(f) で あ る.
R [ [x, x¯1 : ,y] ] は右弱ユー ク リ ッ ド環であるから,
3 ) : f 7 即 十゛
N χ( ゛ ) < N χ(g)
ま た は,
`
¥
… …
…
b) : f 二 gu十 v g 二 vty+ vへ N x( v勺 < N x(り
を満たす R [ [文, x¯1 : (7) ] の元 u, v, uへ ず が存在する.
∧
づ
づ
‥
ヶ
b) の場合には, ず ≠ Oとすれば, ず = g ( 1 + 11u勺 T f uy は I の元で あっ て, 0 < N
(゛ ) <
]N X( g) だか ら 二gの取 り方に反す る. し た力ぷ
っ て, V/=
び
一
] ] である.
幽
a) の場合には, gの取 り方か ら v二 Oとな り, f こ gu. よっ て, fEg R [ [x, x¯1
X
O で ある. この と き
N 二(g) 二N ブ VU勺 ≧N ブ V). 他方, 9, V については仮定よ り N y g) ≦N ゴ V) が成
り立っ て いるか ら, N
X
( VU ) = N ( V) と な る. よ っ て, 命題 3 か ら N
X
る , ゆ え に, U勺ま R [ [ X, X¯1 : 刈 ] の単数 で あ っ て ,
V ± g Uに 1
g (U十ざ¯1). よって, fEgR [[X, X¯1 : 刈] で`ある/ ダ
・
X
(U ) = 1であ
と表 さ れ るか ら f =
上
ム
したがって丿いずれにして も I 二gR [ [X, X¯1 : (y) ] である. ・
[注意]
[2] での構成を考えれば, R [ [X, X¯1 : g
7] ] は左弱ユー ク リ ッ ド環で もあ り左
単項 イ デ ア ル環 と な る.
犬
R eferenCeS
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二
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上