第 5 章 IT 化に関する取組 第 5 章 IT 化に関する取組 本章では、特許庁の業務を支える IT 化に関する取組について、現在までの 取組や、今後のシステム開発、及び、IT を通じた国際的取組について紹介する。 1 特許庁の一層のIT 化に向けた取組 本節では、ペーパーレス計画を始めとして、これまでに達成してきた IT 化に関する取 組を紹介する。また、今後の特許庁システム開発についての方針を紹介する。 (1)特許庁システムの紹介 テムに分けられる。 特許庁は、1984 年、世界に先駆けて、特 包袋事務処理システムは、オンラインによ 許行政全般の総合的コンピュータ化、データ り申請データ・受領書等を授受する受付シス ベース化を図る「ペーパーレス計画」を策定 テム、自動方式チェックと目視による方式審 1 し、1990 年の世界初 の電子出願システム 査等を行うための方式審査システム、申請 の導入を始めとして、様々な業務に IT を活 データ等を格納管理する記録原本管理システ 用したシステムを導入してきた。 ム等からなるシステムである。包袋事務処理 システムのうち特許・実用新案は、前述の電 ①電子出願システム 子出願システムと同時(1990 年)に、意匠・ 特許庁は 1990 年 12 月に特許・実用新案 商標は、2000 年に稼働を開始した。 関連手続のための電子出願システムを導入 審査周辺システムは、審査対象案件の管理、 し、それ以降、電子出願の対象拡大、新しい 起案・決裁処理、審査補助等の審査官業務を 通信技術の導入等様々な取組を行ってきた。 支援するシステムであり、特許・実用新案に 特許庁では、これまでの取組が実を結び、 ついては 1993 年に、意匠、商標については 2013 年において特許・実用新案は 98.2%、 包袋事務処理システムと同時(2000 年)に 意匠は 92.5%、商標は 82.4%、査定系審判 稼働を開始した。 は 99.4%、PCT 国内段階は 99.9%、PCT 国 際出願は 95.9%の高い電子出願率を実現す ③検索システム るとともに、インターネットを利用した電子 特許庁における特許・商標・意匠の実体審 出願の受付を開始した 2005 年 10 月以来、 査業務に際し、公報などの検索業務が必要と 24 時間 365 日(メンテナンス時間を除く) なる。 電子出願の受付を継続している。 特許においては、公報等の審査資料に技術 的特徴に応じて付与した分類であるFターム ②事務システム 及び FI2 やフリーワード等の検索キー、出願 事務システムは、大きく分けて、特許、実 人、発明者、発明の名称、さらには、フルテ 用新案、意匠、商標の出願から公報発行まで キストにより検索できる特実検索システムを の庁内事務処理を対象とする包袋事務処理シ 利用している。 ステムと、実体審査を行う際の審査周辺シス また、意匠では、意匠分類を複数の観点に 1.KIPO は 1999 年、EPO 及び USPTO は 2000 年に電子出願を導入 2.File Index の略。IPC を基礎として細展開された日本国特許庁独自の分類 178 特許行政年次報告書 2014 年版 の知見を活用しつつ、技術検証委員会による 検索を行う意匠検索システム、商標において 専門技術的観点からの審議等を踏まえて作成 は、称呼検索システム、図形商標審査システ し、パブリックコメントを経た上で改定最適 ム 、周知・著名商標データベースの構築及 化計画(以下、最適化計画という)として び同検索システム等を利用している。 2013 年 3 月に公表した。 (2)次期特許庁システム開発 ②最適化計画の目標と刷新方針 ① 「特許庁業務・システム最適化計画」の 策定経緯 最適化計画は、以下の 4 つの目標を掲げ、 前項で述べたとおり、特許庁ではこれまで (ⅰ)グローバルな環境変化に柔軟かつ機動 も積極的な IT 化を推進し、業務処理の効率 的に対応しつつ、世界最高レベルの迅速かつ 化と迅速かつ的確な審査・審理を実現してき 的確な権利の設定に不可欠なシステムの基盤 た。一方、政府全体においては、簡素で効率 を整備する。 的な行政運営を実現するための取組として、 (ⅱ)発明、デザイン、ブランド等によるイ 「電子政府構築計画」(各府省情報化統括責 ノベーションの促進に向け、情報発信力を強 任者(CIO)連絡会議において 2003 年 7 月 化するとともに、 ユーザーの利便性を向上する。 に決定、2004 年 6 月に一部改定)が取りま (ⅲ)強靭な情報セキュリティ及び事業継続 とめられた。同計画を踏まえ、特許庁では、 能力を確保するため、安全性・信頼性の高い 業務とシステムの全体最適化を目指し、「特 システム及び運用体制を構築する。 許庁業務・システム最適化計画」 (最適化計画) (ⅳ)行政運営の簡素化・効率化・合理化及 を 2004 年 10 月に策定した。その後、シス び質の向上を進めるため、業務及び制度の見 テム開発に関する取組及びプロジェクト進捗 直しを図りつつ、システム構造の抜本的見直 状況等について「特許庁情報システムに関す しを進め、システム経費を節減する。 る技術検証委員会」(技術検証委員会)によ 上記目標を実現するために、最適化計画に る検証が行われ、2012 年 1 月、同委員会よ おいては、システムを一括して刷新する方式 り「技術検証報告書」が提出され、当該報告 に替えて、段階的に刷新する方式 2 を採用す 書に基づき、プロジェクトを中断し、新たに ることとしている。これにより、昨今、知的 システム開発計画を策定することとした。新 財産をめぐる環境が大きくかつ急速に変化 たなシステム開発計画は、外部 IT ベンダ等 し、中国等諸外国の技術文献への対応など、 その達成を目指すこととしている。 第3章 第4章 第5章 V3 (意商) 特実方式 登録 サーバ 審判 XML 書類管理 特実審査 特実公報 受付 V3 (意商) 共有DB (特実) 審判 特実公報 リアルタイム 特実検索 システム構造が不統一で、かつ、各 システムが独自のDBを保持してい る課題を有する。 特実方式 特実審査 特実検索 喫緊の優先政策事項に逐次システム 対応しつつ、個別システムに分散し たデータベースを段階的に集約。 登録 受付 意商審査 共有DB (四法) 四法方式 特実審査 審判 四法公報 第7章 特実記録 原本管理 ホスト 目標とするシステム 第6章 受付 第2章 段階的刷新の概念図 【段階的に刷新する方式】 現在のシステム バッチ処理 登録 ホスト 第1章 2-5-1 図 特許庁における取組 1 第2部 より細区分化した分類であるDタームにより 特実検索 全システムのデータベースを集約、 システム構造の簡素化を実現。 1.文字列検索、分類(図形ターム、2004 年 4 月よりウィーン図形分類)及び類似群コード等により検索を行う。 2. 「技術検証報告書」(2012 年 1 月)において提言された、喫緊の優先政策事項に逐次システム対応しつつ、個別システムに分散したデータベースを段階的に統合 しシステム構造の簡素化を実現する方式 特許行政年次報告書 2014 年版 179 第 5 章 IT 化に関する取組 優先して取り組むべき新たな喫緊の政策事項 速化の実現を図る。加えて、旧式(レガシー) を逐次システム対応することにより実現しつ システムからの脱却を進め、システム運用経 つ、同時並行的に、業務処理の迅速化、シス 費の節減を図る。 テム運営経費の節減等に向けたシステム構造 第Ⅱ期においては、優先度が高く喫緊に実 の簡素化を進めることを可能とした。 現すべき政策事項について、引き続き逐次シ ステム対応を進めつつ、特許・実用新案に加 ③最適化計画における特許庁システムの刷 新工程 え、意匠、商標及び国際出願に係る業務を含 最適化計画では、具体的な刷新の工程につ 化・庁外情報提供サービスの迅速化の実現を いて、特許庁システムの規模・複雑性に鑑み 図る。 めた全ての業務につき、システム構造の簡素 て、全体工程(10 年程度を要する見込み)を、 おおむね前半 5 年(第Ⅰ期)と後半 5 年(第 ④最適化計画の実施における取組 Ⅱ期)に大別している。 最適化計画の実施に当たっては、特許庁長 第Ⅰ期においては、中国・韓国語特許文献 官、特許庁情報化統括責任者(CIO)である を始めとする外国語特許文献の検索環境の強 特許技監を中核とする「特許庁情報化推進本 化、新たな意匠・商標制度、特許付与後レ 部」を設置し、強力なトップマネージメント ビューに関する審議を踏まえた関連業務のシ による意思決定やプロジェクト推進を可能と ステム対応、セキュリティ対策の強化、受付 している。また、上記②で述べたとおり、最 システムのバックアップセンター構築など、 適化計画においては「段階的に刷新する方式」 優先度が高く喫緊に実現すべき政策事項につ を採用しており、複数のシステム開発が同時 き逐次システム対応を進める。あわせて、特 並 行 的 に 実 施 さ れ る た め、「特 許 庁 PMO 許庁システムに占める規模等の比率が高く、 (Program Management Office)」を設置し 処理迅速化、改修効率化、経費節減等の効果 て、それら全体を見渡したプロジェクト進捗 が大きい特許・実用新案に係る中核的な業務 管理を着実に実施している。 につき、他に先行してシステム構造の簡素化 各システム開発を担当する事業者の調達に 及びそれを通じた庁外情報提供サービスの迅 当たっては、技術力の高い事業者を選定すべ 2-5-2 図 特許庁業務・システム最適化計画工程表 第Ⅰ期 ・・・・ 第Ⅱ期 25年度(2013年度) 26年度(2014年度) 27年度(2015年度) 28年度(2016年度) 29年度(2017年度) 30年度(2018年度) 31年度(2019年度) 32年度(2020年度) 33年度(2021年度) 34年度(2022年度) 優先対応すべき政策事項のシステム対応 知財を取り巻く環境変化や開発の進捗に応じて柔軟に計画の見直しを行う 政策事項対応(業務・検索システム関係) 政策事項対応(業務・検索システム関係) 多言語翻訳機能を活用したグロー バル化への対応 産業財産権制度を取り巻く環境変化への対応 PCT出願件数増加への対応 特許付与後に権利をレビュー する制度導入に向けた対応 ユーザーの利便性向上に向けた手続等の見直し検討 新たな意匠・商標制度への対応 システム対応・人的対応を通じた 総合的なセキュリティ対策の強化 救済等手続の充実 料金納付における出願人等 の利便性向上 セキュリティ対策の強化 業務の継続性確保 受付システムの二重化 政策事項対応(対外提供システム関係) 提供対象データの一元管理と充実化 (特許・実用新案に関する情報提供 迅速化を含む) システム構造の見直し 個別システム刷新の完了 政策事項対応(対外提供システム関係) 産業財産権情報の対外提供の強化 国際連携の拡大の検討 データ交換のメディアレス化の推進 アーキテクチャ標準仕様策定 データ分析・データ統合方針検討 業務・システム可視化資料の整備 個別システム刷新方針の検討(詳細統合計画の策定) 特実出願系共有DB構築 ・ホストコンピュータのオープン系システムへの移行 ・特実記録原本管理・XML書類管理システムの構造の 定型化・データ集中化を実施 設計 (12ヶ月) 開発 (12ヶ月) テスト (9ヶ月) 特実出願系システムの改修 ・一部業務のリアルタイム化完了 設計 開発 テスト (8ヶ月) (8ヶ月) (5ヶ月) 特実方式審査・特実審査周辺システムの刷新 ・個別システム構造の定型化・データ集中化の完了 設計 (12ヶ月) 開発 (12ヶ月) テスト (9ヶ月) 意商システムの刷新 ・個別システム構造の定型化・データ集中化の完了 設計 (12ヶ月) 開発 (12ヶ月) 審判・公報システムの刷新 ・個別システム構造の定型化・データ集中化の完了 設計 (12ヶ月) 180 特許行政年次報告書 2014 年版 開発 (12ヶ月) テスト (9ヶ月) テスト (9ヶ月) 力に対する審査を重点的に行うとともに、プ 査・助言といった外部監査体制の確立による ロジェクトマネージャに対する技術審査前の 客観性の確保といった取組を行うことによ ヒアリングを導入する等の取組を行っている。 り、最適化計画に基づいたシステム開発を着 上記の取組に加えて、現行業務全体を網羅 実に実施していく。 特許庁における取組 の徹底的な分析、技術検証委員会等による監 第2部 く、入札手続において、プロジェクト遂行能 的に文書化する作業を通じた業務等について 2 グローバルなIT 化に向けた取組 世界的に急増する出願に対応しつつ、業務の更なる効率化を図るべく、各国特許庁は、 出願 ・ 審査関連書類の電子的管理や審査業務をサポートする情報システム基盤の強化を 推進している。 本節では、我が国特許庁が海外特許庁と共に行っている情報技術(IT)を活用した様々 な国際的な協力と、利用者に役立つ IT 関連サービスの提供を目指して進められている新 たな取組である「グローバル・ドシエ」について紹介する。 (1)IT を活用した様々な国際協力 数の特許庁間で優先権書類を電子的に交換す には、出願人は最初に出願した特許庁から優 類の電子的交換が開始された。我が国特許庁 先権書類を書面にて取得し、その他の特許庁 は世界に先駆けて 2009 年 4 月に DAS に参 へと提出する必要がある。このため、出願人 加し、出願人の利用に供している。また、 にとっては優先権書類の取得・提出手続の手 2012 年 7 月からは、DAS 利用者の手続を大 間とその費用が、また、各国特許庁にとって 幅に簡素化した新しい方式が利用可能とな は優先権書類の出願人への交付のための事務 り、我が国特許庁は 2013 年 3 月にこれを 処理の負担が大きかった。そこで、我が国特 導入した。 許庁は、海外特許庁と協力して、出願人が自 2014 年 3 月時点で、DAS に参加している ら優先権書類を提出する手続を省略し得るよ 国・機関は、参加日順に、WIPO、米国、韓国、 う、特許庁間で電子的に優先権書類を相互交 スペイン、英国、オーストラリア、フィンラ 換するプロジェクトを進めている。 ンド、スウェーデン、デンマーク、中国であ 1999 年 1 月に欧州特許庁との間で優先権 る。今後も、DAS 参加国の増加に加え、更 書類の電子的交換を開始したのを皮切りに、 なるサービスの改善が期待されている。 第6章 クセスサービス(DAS)を利用した優先権書 第5章 約に基づく優先権主張を伴って出願する場合 第4章 られ、2009 年 4 月から WIPO のデジタルア 第3章 複数の国で特許等を取得するため、パリ条 第2章 る新たなシステムの構築に向けた検討が進め 第1章 ①優先権書類の電子的交換 2001 年 7 月から韓国特許庁と、2007 年 7 ②出願・審査関連情報の参照システム る。さらに、2013 年 12 月から、新たに台 知的財産活動のグローバル化に対応すべ 湾智慧財産局とも優先権書類の電子的交換を く、審査や先行技術文献調査(サーチ)の相 開始した。 互利用などの審査協力が求められている。こ 一方で、このような二庁間の優先権書類の れに応じるべく、IT を用いて他国のサーチ・ 電子データ交換は、相手国が増加するに応じ 審査結果や出願経過情報を審査官が参照する て、特許庁間の個別の取り決めやネットワー ことができる環境を整備するために、我が国 クを構築する負担が増加する。そこで、世界 特許庁では、世界の各国特許庁が有する出願・ 知的所有権機関(WIPO)をハブとして、複 審査関連情報(ドシエ情報)を相互に照会で 特許行政年次報告書 2014 年版 第7章 月から米国特許商標庁との間で実施してい 181 第 5 章 IT 化に関する取組 きるシステムの整備に取り組んできた。 (AIPN)」を通じて、我が国のドシエ情報を 日米欧の三極特許庁では、我が国の提言に 英語に機械翻訳し、64 の海外特許庁に提供 基づき、三極特許庁間で専用のネットワーク している(2014 年 3 月現在)。特許審査ハ 回線を通じて各国特許庁が保有する特許に関 イウェイ(PPH)の利用時などに、海外特許 するドシエ情報に各国特許庁の審査官が相互 庁の審査において、我が国出願の審査経過を にアクセスできるシステムの構築に向けたプ 参照することにより、当該国の審査の効率化 ロジェクトを進め、2006 年にこのシステム と審査の質の向上を促し、我が国出願人の他 を稼動した。2007 年からは、韓国特許庁も 国での適切な権利取得、ひいては経済活動の これに加わり、日米欧韓の特許庁間でのドシ 円滑化に寄与することが期待されている。 エ情報の相互参照を開始した。 このようなドシエ情報の相互参照のネット ③サーチ環境の高度化 ワークを、より多くの国々へと拡張し、利便 特許等の審査においては、現在、新規性判 性を一層高めるべく、我が国は、2008 年に 断の基準として主要国のほぼ全てにおいてい 日米欧中韓の五大特許庁の枠組みにおいて、 わゆる「世界公知」が採用されているため、 複数国に出願された一連の特許に関するドシ 自国のみならず世界中の文献を調査対象とす エ情報を一括して取得し、見やすく表示する る必要がある。これを可能とするためには、 システムの実現を目指す「ワン・ポータル・ 審査協力を推進するとともに、世界の各国特 ドシエ(OPD) 」のコンセプトを提唱し、我 許庁が保有する文献データ範囲を統一し、国 が国の主導の下で、OPD プロジェクトを開 際的なワークシェアリングに資するサーチ環 始した。そして、OPD は、五大特許庁間の 境の高度化を目指す必要がある。そこで、五 協力の下で開発が進められ、2013 年 7 月に 大 特 許 庁 に お い て 検 討 を 重 ね た と こ ろ、 システムの稼働を開始した。日本の審査官は 2008 年、各国特許庁審査官が同一の文献 他の特許庁が保有する出願・審査書類に、 データ範囲にアクセスできるようにサーチ OPD システムの稼働開始から 2014 年 3 月 データベース環境を整備する共通文献プロ までに約 40 万回アクセスする等、審査業務 ジェクトが提案され、2009 年にはプロジェ において大いに活用している。 クトの柱として、共通文献セットの目録(オー さらに、ドシエ情報の相互参照のネットワー ソリティ・ ファイル)の作成、CD 等の記録 クを五大特許庁以外へも拡大する試みとして、 媒体を用いない形態での各国特許庁間のデー 我が国特許庁は、我が国の OPD システムと、 タ交換(データ交換のメディアレス化)、特 世界知的所有権機関(WIPO)がオーストラ 許文献中の化学構造式や数式等の情報を検索 リア、カナダ、英国の特許庁の協力の下で開 できる「インテリジェント・ドキュメント」 発しているドシエ情報共有システムである 化を検討していくことが五大特許庁で合意さ WIPO-CASE(Centralized Access to Search れた。2013 年 2 月には、五大特許庁がオー and Examination)との接続を進め、2014 年 ソリティ・ファイルの作成を完了し、3 月に 3 月から、オーストラリア、カナダ、英国の は、我が国特許庁においてインターネットを 各特許庁との間で、ドシエ情報の相互参照を 通じたメディアレスデータ交換の第一歩とし 可能とする環境が整った。この成果を踏まえ、 て FTP サーバの設置を行っている。 今後、他の五大特許庁の OPD と WIPO-CASE 182 との接続、WIPO-CASE へのその他の国の特 ④新興国へのIT関連の支援等 許庁の参加等、ドシエ情報の相互参照のネッ アジア諸国を始めとする新興国において トワークの更なる拡大が期待されている。 は、成長市場、製造拠点としての重要性が高 また、我が国特許庁では、インターネット まっている。我が国企業が新興国で円滑なビ を 利 用 し た「高 度 産 業 財 産 ネ ッ ト ワ ー ク ジネスを展開する上で、模倣品・海賊版問題 特許行政年次報告書 2014 年版 に対する改善を要請するだけではなく、知的 許商標庁と共に、IT に関する国際的な取組 財産保護のための IT インフラの整備を行う についても、従来型の特許庁業務の改善に比 ことも必要である。 重が置かれた活動だけではユーザーニーズに 我 が 国 特 許 庁 は、 世 界 知 的 所 有 権 機 関 十分に応えられないのではないかとの危機意 (WIPO)等と協力しながら、人材育成協力 識を共有するに至った。そして、よりスピー や審査協力に加え、「情報化協力」として、 ディな活動の成果の達成と、知的財産に関わ 特に我が国との経済的・文化的な結びつきの る多くのユーザーへの貢献につながるような 強い東南アジア諸国に対し、庁内データベー 方向で活動の見直しを進めるとともに、従来 ス、特許電子図書館(IPDL)等の情報発信 の IT 関連の国際プロジェクトに包括的な目 環境の構築等の情報インフラの整備を支援し 標を与え、より実効性の高い取組を進めるべ ている。また、新興国の知的財産庁の近代化 く、2012 年 6 月の五大特許庁長官会合でグ を目的として、専門家の派遣により、IT イ ローバル・ドシエ構想を提示した。そして、 ンフラに関する指導・助言等を通じた支援を 同長官会合において、ユーザーニーズを反映 行っている。 しつつ、これを推進していくことが合意され 特許庁における取組 く変化している中、我が国特許庁は、米国特 第2部 などのこれらの諸国が抱える知的財産権問題 た。 (2)グローバル・ドシエ グローバル・ドシエ構想では、前述のワン・ 含む知的財産に関わる全てのユーザーにとっ の審査官だけでなく、出願人や一般公衆を含 て役立つと期待される様々なサービスの提供 む多くのユーザーが必要なデータに容易にア を、可能な限り早期に実現するべく、これま クセスできる仮想的な共通システムを構築 での国際的な取組とその成果をいかした IT し、特許庁における審査業務の効率化や公衆 インフラの構築を目指すものである。 監視の負担を軽減するようなサービスの実現 経済活動のグローバル化と共に、世界各国 に向け、取組を進めている。また、中長期的 での権利取得を目指すグローバルな出願は な視点から、グローバルな出願の際に必要な 年々増加し、ユーザーニーズも多様でレベル 手続を簡素化するようなサービスの検討を進 アップする等、特許庁を取り巻く環境が大き めている。 第4章 エ情報共有ネットワークを拡大しつつ、各庁 第3章 査官や職員のみならず、出願人や一般公衆を 第2章 ポータル・ドシエ(OPD)1 を核とするドシ 第1章 グローバル・ドシエ構想とは、特許庁の審 第5章 第6章 第7章 1.第 2 部第 5 章 2.(1)②を参照 特許行政年次報告書 2014 年版 183 第 5 章 IT 化に関する取組 Column 6 産業財産権分野における情報のフォーマットの標準化 IT を通じた国際協力を進める上で、やりとりされる情報のフォーマットを標準化しておくことは、正確で 円滑な情報の利用という観点から、大変重要なものであると言えます。 世界知的所有権機関(WIPO)では、知的財産権に関連する種々の情報の国際間での交換を促進するため、 表 記 法 や デ ー タ の 形 式 等 に 関 す る 種 々 の ル ー ル を 策 定 し て お り、 こ れ ら は「WIPO 標 準(WIPO Standards)」と呼ばれています。例えば、ST.3 という WIPO 標準においては、国・地域を簡潔かつ分かり やすく表示するために、国・地域を表すアルファベット 2 文字のコード(例:JP 日本)が定められており、 PCT 国際出願に関する書類等の国際的にやり取りされる文書において、使用されています。WIPO 標準は、 IT 利用の進展と共に年々その数が増加しており、2014 年 3 月時点で、52 の WIPO 標準が定められていま す。我が国特許庁も、WIPO 標準委員会(Committee on WIPO Standards:CWS)への参加を通じ、 WIPO 標準の策定及びその利用に積極的に取り組んでいます。 近年、特にインターネットを介して、異なる情報システム間で構造化された文書や構造化されたデータの共 有を容易にすることを目指して、XML(eXtensible Markup Language)形式の採用が様々な分野で進んで います。XML 形式は、情報を「要素」又は「タグ」と呼ばれる項目で構造化して表現できるもので、どこに どのような種類のデータが記載されているのかを分かりやすく表現できるため、データの交換や表示、検索等 に適した形式と言われています。このような特性から、各国特許庁が取り扱う書類についても XML 形式を採 用することは、事務処理負担の軽減、文献検索等におけるデータの利用性向上、国際的な情報交換の促進など、 様々な点で役立つことが期待され、WIPO 標準においても、特許等の XML 標準が策定されています。我が国 特許庁では、特許・実用新案登録の出願について、電子出願システムを整備して 2003 年 7 月より WIPO 標準の XML 形式に準拠した出願の受付を行っています。 また、情報フォーマットの標準化や共通化は、各国特許庁だけでなく出願人等のユーザーにとっても有用で す。例えば、日米欧中韓の五大特許庁では、従来、国別に異なっていた明細書等の書類の順序や明細書に記載 する見出しの名称等の様式を、国際特許出願(PCT 国際出願)の様式に準拠する形で共通化した「共通出願 様式 CAF(Common Application Format)」を定めており、五大特許庁全てにおいて CAF に従った出願が 可能となっています。CAF の導入により、出願人は出願国別に様式の変更をする必要がなくなり、複数国へ の出願の際の負担が軽減されるようになりました。 我が国特許庁は、海外特許庁や国際機関等と連携して、このような取組を進め、効率的な業務とユーザーが 利用しやすいサービスの提供を推進してまいります。 184 特許行政年次報告書 2014 年版
© Copyright 2024 ExpyDoc