あもんノート http://amonphys.web.fc2.com/ ユークリッド幾何学、ニュートン力学から、相対論、宇宙論、量子力学、場の量子論、 素粒子論、そしてくりこみ理論まで、理論物理学を簡潔にかつ幅広く網羅したノート です。TOP へは上の URL をクリックして行けます。 目次 1 2 ゼータ関数 1.1 三角関数の部分分数展開 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 1.2 ゼータ関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 1.3 ガンマ関数の相反公式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 1.4 リーマン予想 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 1.5 アベル・プラナの和公式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 1 1 ゼータ関数 ゼータ関数に関連した公式、およびその証明をここにまとめておきます。リー マン予想は物理とはあまり関係しませんが、興味深いと思われるので簡単に触れ ておきます。 1.1 三角関数の部分分数展開 三角関数 tan に関して、次のようなシンプルな公式が成り立ちます。 X 1 1 = tan z z − πk. k∈Z これを三角関数の部分分数展開といいます。Z は整数全体の集合を意味します。 [証明] f (z) = 1/ tan z とすると、f は πk (k ∈ Z) に 1 位の極を持ち、留数は全 て 1 であることが簡単にわかります。よって S を複素平面全体とすると、留数定 理から、 ! Ã Z X f (ζ) 1 dζ = 2πi f (z) + . ζ −z πk − z ∂S k∈Z 一方、∂S として 0 を中心とする無限に大きな円をとれば、 Z 2π Z 2π Z iθ f (ζ) f (Re ) dθ dζ = lim iReiθ dθ = i lim R→∞ 0 ζ − z R→∞ 0 Reiθ − z tan(Reiθ ) ∂S ですが、tan が奇関数であることに注意すると、0 ∼ π の寄与と π ∼ 2π の寄与 がちょうど打ち消しあい、この積分は 0 になることがわかります。よって f (z) = X 1/(z − πk). [証明終] k∈Z 上の公式を少し変形すると、 1 1 − = tan z z X k=±1,±2,··· 1 z − πk ですが、辺々 z で微分すると、 X 1 1 1 = − sin2 z z 2 k=±1,±2,··· (z − πk)2 2 (∗) を得ます。z → 0 の極限を考えると、 1 3 1 5 z + z + ··· , 6 120 ¢ n¡ (1 + ax + bx2 + · · · )n = 1 + nax + (n − 1)a2 + 2b x2 + · · · 2 に注意して、 ∞ X 1 π2 = k2 6 sin z = z − k=1 が得られます。また、(∗) をさらに z で 2 回微分すると、 X 1 1 2 1 = − − 4 2 4 (z − πk)4 sin z 3 sin z z k=±1,±2,··· を得ますが、z → 0 の極限をとれば、計算は少し大変になりますが、 ∞ X 1 π4 = k4 90 k=1 が得られるでしょう。 ちなみにこれら級数の値は、フーリエ展開におけるパーセバルの等式から導く こともでき、その方が計算はいくぶん簡単です (関数論と応用数学の章参照)。し かし三角関数の部分分数展開に基づくこちらの方法の方が系統的と考えられます。 1.2 ゼータ関数 一般に、 ∞ X 1 ζ(x) = nx n=1 (x > 1) でリーマンのゼータ関数を定義します。そうすると、 ζ(2) = π2 6, ζ(4) = π4 90, ··· . 偶数におけるゼータ関数の値はこのように π を用いて表されるわけです。 一方、奇数のゼータ関数についてはこのような計算ができません。奇数のゼー タ関数については近似値が知られているだけで、それらが無理数になるかどうか も一般にはわかっていません。ただし ζ(3) が無理数であることはアペリーの奇跡 的な証明によりわかっています。また、ζ(5), ζ(7), ζ(9), ζ(11) のうち、少なくと も 1 つは無理数であることもわかっています。近似値は、 ζ(3) ∼ 1.20205, ζ(5) ∼ 1.03692, 3 ··· . ところで全ての正の整数は、素数の列を p1 , p2 , · · · として、pn1 1 pn2 2 · · · と表され ます。ここで ni は 0 以上の整数です。よって、ゼータ関数は、 Ã ∞ ! ∞ X ∞ ∞ ∞ X Y X Y 1 n1 n2 −xni −x ζ(x) = · · · (p1 p2 · · · ) = pi = 1 − p−x i n =0 n =0 i=1 n =0 i=1 1 2 i と表すこともできます (オイラー積)。すなわち、 ζ(x) = 1 1 1 1 ··· 1 − 2−x 1 − 3−x 1 − 5−x 1 − 7−x (x > 1) ということです。このためゼータ関数は素数の性質と深く関係していると考えら れます。 一方、ガンマ関数は、 Z ∞ Γ(x) = dt tx−1 e−t (x > 0) 0 で定義され、 Γ(1) = 1, Γ(x+1) = xΓ(x), lim ² Γ(²) = 1 ²→0 という性質を持つのでした。特に正の整数 n に対して、 Γ(n) = (n−1)! です (関数論と応用数学の章参照)。 ゼータ関数とガンマ関数に関する次の 2 つの積分公式は重要で、物理では主に統 計力学で用いられます。 Z ∞ Z ∞ tx−1 tx−1 dt t = ζ(x)Γ(x), dt t = (1 − 21−x )ζ(x)Γ(x). e −1 e +1 0 0 [証明] Z Z ∞ Z ∞ ∞ X tx−1 tx−1 e−t x−1 −t dt t = dt = dt t e (e−t )n −t e −1 1−e 0 0 0 n=0 Z Z ∞ ∞ ∞ ∞ X X = dt tx−1 e−(n+1)t = (n+1)−x ds sx−1 e−s = ζ(x)Γ(x) ∞ n=0 0 0 n=0 途中、積分変数を s = (n+1)t に置換しました。同様にして、 Z ∞ Z ∞ ∞ X tx−1 n −x = (−1) (n+1) ds sx−1 e−s dt t e + 1 n=0 0 0 4 を得ますが、ここで、 ∞ X (−1)n (n+1)−x = 1−x − 2−x + 3−x − 4−x + · · · n=0 = 1−x + 2−x + 3−x + · · · − 2 (2−x + 4−x + 6−x + · · · ) = ζ(x) − 2·2−x ζ(x) = (1 − 21−x )ζ(x) に注意して与題後式を得ます。[証明終] 上の公式から、 Z ∞ dt 0 t² = (1 − 2−² ) ζ(1 + ²)Γ(1 + ²) t e +1 ですが、左辺の積分は ² → 0 で log 2 を与えることが初等的にわかるので、 lim ² ζ(1 + ²) = 1 ²→0 を得ます。すなわち ζ(x) は x → 1 で発散し、その留数は 1 です。 1.3 ガンマ関数の相反公式 0 < Re z < 1 を満たす複素数 z に対して、 Γ(z)Γ(1−z) = π sin(πz) が成り立ちます。これをガンマ関数の相反公式といいます。 [証明] ガンマ関数の定義から、 Z ∞ Z ∞ ds dt tz−1 e−t s−z e−s Γ(z)Γ(1−z) = 0 0 Z ∞ Z ∞ = ds sdx (sx)z−1 e−sx s−z e−s 0 Z = Z ∞ 0 ds 0 Z ∞ dx x 0 z−1 −(x+1)s e ∞ = 0 xz−1 dx x+1 ですが、図 1 に示す経路 C に対して、 Z Z R Z r ζ z−1 xz−1 xz−1 i2πz dζ = dx +e dx ζ +1 x+1 x+1 C r R Z Z 2π 0 (reiθ )z−1 (Reiθ )z−1 iθ + ire dθ + iReiθ dθ Reiθ + 1 reiθ + 1. 2π 0 5 被積分関数は多価で、カット (切断) を実軸正の部分に取りました。r → 0, R → ∞ という極限をとれば、0 < Re z < 1 であるため後ろの 2 項が消えて、 Z Z ∞ ζ z−1 xz−1 i2πz dζ = (1 − e ) dx ζ +1 x + 1. C 0 一方、留数定理から、 Z ζ z−1 dζ = 2πi(eiπ )z−1 = −2πi eiπz ζ +1 C なので、これらを比較して、 Z ∞ −2πieiπz xz−1 π = dx = x+1 1 − ei2πz sin(πz) 0 ∴ Γ(z)Γ(1 − z) = π sin(πz) を得ます。[証明終] 図 1: 相反公式 例えば相反公式で z = 1/2 とすると、 µ ¶ √ 1 Γ = π 2 を得るでしょう。これはガウス積分の評価からも知られていた結果です。 また、相反公式をその適用範囲を超え、いわば “意図的に乱用” することによ り、ガンマ関数 Γ(z) の定義域を Re z > 1 から 0 以下の整数を除く複素数全体に なめらかに拡張できることに注意してください。このような正則性を保持した定 義域の拡張を一般に解析接続といいます。解析接続による定義域の拡張は一意的 であることが知られています (一致の定理)。 図 2 に実軸上のガンマ関数のグラフを示します。 6 図 2: ガンマ関数 1.4 リーマン予想 複素数 z に対して、 Z ζ z−1 I(z) = dζ ζ e −1 C で I(z) を定義します。ここで C は図 3 のように、実軸正の無限遠方から 0 を囲っ て周回する経路です。z が整数でない場合、被積分関数は多価ですが、この場合 カットを実軸正の部分に取ることにします。 図 3: ゼータ関数における積分経路 7 正則な領域で C を変形することにより、I(z) は、 Z ∞ Z r Z 2π xz−1 xz−1 i(reiθ )z i2πz I(z) = dx x + dθ reiθ +e dx x e −1 e −1 e −1 ∞ 0 r (0 < r < 2π) と表せますが、ここで r → 0 の極限をとると、Re z > 1 においては第 2 項が消 えて、 Z ∞ xz−1 i2πz I(z) = (e − 1) = (ei2πz − 1)ζ(z)Γ(z). dx x e −1 0 よって、 Z ζ z−1 ζ(z) = dζ ζ Γ(z)(ei2πz − 1) C e −1 1 を得ます。ここで Re z > 1 ですが、この式によりゼータ関数の定義域を z = 1 を 除く複素数全体に解析接続します。相反公式を使えば、 Z Γ(1 − z) ζ z−1 ζ(z) = dζ ζ 2πi eiπz C e −1 と表すこともできます。 例えば z = −n (n = 0, 1, 2, · · · ) のとき、 (−1)n n! ζ(−n) = 2πi Z dζ C ζ −n−1 eζ − 1 ですが、ここで被積分関数が ζ = 0 に (n + 2) 位の極を持つことに注意すれば、留 数定理から、 ¯ µ ¶n+1 ¯ ζ (−1)n d ¯ ζ(−n) = n + 1 dζ eζ − 1 ¯ζ=0 を得ます。これを計算して、 1 1 ζ(−1) = − 2, 12, 1 ζ(−3) = ζ(−4) = 0, 120, ζ(0) = − ζ(−2) = 0, ζ(−5) = − 1 252, ··· が得られるでしょう。負の偶数 z において ζ(z) = 0 となることが見てとれます が、これら z をゼータ関数の自明な零点といいます。 一方、 負の偶数でない z において ζ(z) = 0 ならば Re z = 1/2 である ( ゼータ関数の非自明な零点は実部が 1/2 の複素数に限られる ) 8 という予想があり、これはリーマン予想と呼ばれます。リーマン予想の真偽は特 に整数論において重要なのですが、1859 年にリーマンにより提示されて以降、多 くの数学者の努力もむなしく、いまだその証明も反証もできていません。第一級 の未解決問題で、ミレニアム懸賞問題の 1 つになっています。ちなみに実部が 1/2 の非自明な零点は無限に存在することが知られています。 図 4 に実軸上のゼータ関数のグラフを示します。 図 4: ゼータ関数 (余談) ζ(−1) = 1 + 2 + 3 + · · · = −1/12 などと書いて読者を驚かす文献がありますが、もちろ んこの式は正しくありません。級数で表される元の ζ(x) と解析接続された ζ(x) は、x > 1 にお いて一致するというだけのことです。 1.5 アベル・プラナの和公式 正則でかつ遠方で高々ポリノミアル (多項式的) な関数 f に対して、すなわち、 µ ¶ k ∃k ∈ Z lim f (z)z = 0 |z|→∞ を満たす関数 f に対して、 Z ∞ Z ∞ ∞ X f (iy) − f (−iy) f (0) +i dy f (n) − dx f (x) = 2 e2πy − 1 0 0 n=0 9 です。これをアベル・プラナの和公式といいます。 特に f (x) = x, x3 とすると、 Z ∞ ∞ X 1 n− dx x = − 12, 0 n=1 ∞ X Z 3 ∞ n − dx x3 = 0 n=1 1 120 という極めてトリッキーな式が得られますが、これらの式は一部の物理 (カシミー ル効果の理論やひも理論) において実際に用いられます。 以下、アベル・プラナの和公式の証明です。 [証明] Γ を 0 以上の整数を全て囲み、なおかつ負の整数 1 つも囲まない経路とす れば、留数定理から、 ∞ XZ X f (z) dz = 2πi f (n) z−n Γ n=0 n∈Z X 1 π ですが、ここで三角関数の部分分数展開 : = を用いれば、 tan(πz) z−n n∈Z ∞ X 1 f (n) = 2i n=0 Z dz Γ f (z) tan(πz) となります。 経路 Γ を図 5 左のようにとると、 図 5: アベル・プラナの和公式 10 Z Z R f (iy) f (−iy) idy + −idy tan(iπy) tan(−iπy) R ² Z 3π/2 f (²eiθ ) iθ + i²e dθ + I1 − I2 tan(π²eiθ ) π/2 Z ∞ f (iy) − f (−iy) = −i dy + if (0) + I1 − I2 . tan(iπy) 0 f (z) dz = tan(πz) Γ Z ² ここで、 Z Ik = dz Ck f (z) tan(πz) (k = 1, 2) で、C1 は R から iR に向かう第 1 象限の経路、C2 は R から −iR に向かう第 4 象限の経路です (R → ∞)。よって、 Z ∞ X f (0) 1 ∞ f (iy) − f (−iy) i f (n) = − dy − (I1 − I2 ). (1) 2 2 tan(iπy) 2 0 n=0 一方、関数 f を図 5 右の 2 つの経路で積分すれば、コーシーの定理から、それぞれ、 Z ∞ Z 0 dx f (x) + idy f (iy) + J1 = 0, Z 0 Z ∞ ∞ 0 dx f (x) + 0 Z −idy f (−iy) + J2 = 0, ∞ Jk = dz f (z) Ck ですが、これら 2 式を加えることで、 Z Z ∞ ¢ 1 i ∞ ¡ dy f (iy) − f (−iy) − (J1 + J2 ) dx f (x) = 2 0 2 0 (2) i 2 を得ます。(1)−(2) を作り、 − 1 = 2πy および、関数 f が遠方で高々 tan(iπy) e −1 ポリノミアルであることから、 µ ¶ Z Z i 2 iI1 − J1 = dz − 1 f (z) = dz −i2πz f (z) = 0, tan(πz) e −1 C1 C1 ¶ µ Z Z −2 i + 1 f (z) = dz i2πz f (z) = 0 iI2 + J2 = dz tan(πz) e − 1 C2 C2 となることに注意すれば与題が得られます。[証明終] 11 索引 あ アベル・プラナの和公式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 一致の定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 オイラー積 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 か 解析接続 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 さ 三角関数の部分分数展開 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 ゼータ関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 相反公式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 ら リーマン予想 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 12
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