当院における極低出生体重児の1歳6ヶ月時の発達状況

第 49 回日本理学療法学術大会
(横浜)
5 月 31 日
(土)13 : 55∼14 : 45 ポスター会場(展示ホール A・B)【ポスター 神経!発達障害理学療法 2】
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当院における極低出生体重児の 1 歳 6 ヶ月時の発達状況
伊藤 康弘1),森田
廣瀬 和仁1),日下
伸1),田仲
隆2,3)
勝一1),藤岡
修司1),板東
正記1),刈谷
友洋1),小林
裕生1),
1)
香川大学医学部附属病院リハビリテーション部,
香川大学医学部附属病院総合周産期母子医療センター,3)香川大学医学部小児科
2)
key words 極低出生体重児・1歳6ヶ月・発達状況
【はじめに,目的】
近年の周産期医療の進歩により,本邦は新生児死亡率が世界で最低である。一方で,低出生体重児の出生率は増加傾向にあり,
中でも極低出生体重児(VLBWI)の発達予後に関しては,満期産で出生した児に比べ,発達支援の必要なハイリスク児が多い
事が報告されている。さらに,VLBWI を対象とした全国調査では,出生体重が 750g 未満の児は,それ以上の出生体重の児と比
較して,明らかに予後不良であったとの報告もある。
当院では,2011 年 1 月より新版 K 式発達検査を,リハビリテーション部で継続的に行えるように組織化した。今回は,当院総
合周産期母子医療センター(NICU)を退院した VLBWI の 1 歳 6 ヶ月時の発達状況を,後方視的に調査したので報告する。
【方法】
対象は,当院 NICU に入院していた VLBWI のうち,2011 年 1 月∼2013 年 10 月までに 1 歳 6 ヶ月健診で新版 K 式発達検査を施
行できた症例のうち,脳障害や先天性異常,視覚・聴力障害を認めない 46 名(1,000g 以上 22 名,1,000g 未満 24 名)とした。
対象者の在胎週数は平均 28 週 3 日±30 日,出生体重は平均 1,077±411g,修正年齢は平均 1 歳 6 ヶ月±2 ケ月であった。
方法は,姿勢!
運動(P!
M)
,認知!
適応(C!
A)
,言語!
社会(L!
S)の 3 分野において算出された発達指数(DQ)について,一
元配置分散分析と多重比較を用いて比較検討した。さらに出生体重が 1,000g 以上と 1,000g 未満の児における P!
M,C!
A,L!
S
の 3 分野の DQ について,対応のない t 検定を用いてそれぞれ比較検討した。統計学的有意水準は,いずれも 5% 未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象児の両親に,評価・健診内容,本研究の主旨と目的を説明し,データ利用の理解と同意を得た。
【結果】
P!
M の DQ 平均は 82±18,C!
A が 81±9,L!
S が 80±13 で,3 分野の平均(全領域)は 81±9 であった。DQ は 85 以上が正常
群,70 以上 85 未満が境界群,70 未満が遅滞群とされているが,3 分野の平均(全領域)を含め,すべての分野で境界群であっ
た。また,P!
M,C!
A,L!
S の DQ において,それぞれの間には有意差を認めなかった。
さらに,1,000g 以上の児の DQ 平均は,P!
M は 85±13,C!
A が 85±8,L!
S が 80±9 で,3 分野の平均(全領域)は 84±7 であ
り,1,000g 未満の児の DQ 平均は,P!
M は 78±19,C!
A が 79±9,L!
S が 79±15 で,3 分野の平均(全領域)は 79±9 であっ
た。1,000g 以上と 1,000g 未満の児の比較では,P!
M,C!
A,3 分野の平均(全領域)において,1,000g 以上の児が有意に高かっ
た。L!
S については,1,000g 以上の児が高い傾向であったが,有意差を認めなかった。
また,3 分野の平均(全領域)で遅滞群となった児が,1,000g 以上では認めなかったが,1,000g 未満の児の中に 4 名存在した。
【考察】
当院 NICU を退院した VLBWI の 1 歳 6 ヶ月健診では,P!
M,C!
A,L!
S,3 分野の平均(全領域)すべてにおいて,境界群と
なった。これは,冒頭で述べたように,VLBWI の発達予後に関しては,満期産で出生した児に比べ,発達支援の必要なハイリ
スク児が多いと言われているが,当院でもそれに近い結果となった。
また,1,000g 以上と 1,000g 未満の児の比較では,P!
M,C!
A,3 分野の平均(全領域)において,1,000g 以上の児が 1,000g 未満
の児より有意に高かったことから,1,000g 未満の児でより発達遅滞に関する注意が必要であることが示唆された。
さらに,3 分野の平均(全領域)で,遅滞群となった児が 4 名存在し,その 4 名はすべて 1,000g 未満の児であった。VLBWI
を対象とした全国調査で,出生体重が 750g 未満の児はそれ以上の出生体重の児と比較して,明らかに予後不良であったとの報
告があるように,1,000g 未満の超低出生体重児の中には,発達支援の必要なハイリスク児が多いことが,当院の調査結果からも
示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
今回の調査結果から,VLBWI は発達遅滞に関する注意が必要であり,1,000g 未満では,より発達支援の必要なハイリスク児が
多いことが示唆された。先行研究では VLBWI は,学習障害などの発達障害の発生率が高い事が報告させている事から,今後も
発達検査を継続し,発達障害を早期の段階から見極める手がかりとなる因子を模索し,早期から包括的なフォローアップができ
るように努める必要がある。