高温強度に優れる 酸化物分散強化型(ODS)フェライト鋼 日本原子力研究開発機構 次世代高速炉サイクル研究開発センター 燃料サイクル技術開発部 燃料材料開発グループ 皆藤 威二 1 はじめに(鉄鋼材料の強化機構) 現実の鉄鋼材料は種々の欠陥を含み、その機械的性質は材料欠陥の 1つである「転位」の動きやすさと関係あり。つまり、転位の動きを抑制す ることで強度の向上が可能 鉄鋼材料の4大強化機構(=転位の動きを抑制する方法)* ①固溶強化:固溶原子(合金元素や不純物元素)による強化 ②粒子強化:第2相粒子による強化 炭窒化物,金属間化合物等の析出物 酸化物粒子 等 ③転位強化:転位密度の増加による強化 ④結晶粒微細化強化 *)谷野 満,鈴木 茂、「鉄鋼材料の科学 鉄に凝縮されたテクノロジー」、内田老鶴圃(2001年)より 2 研究の背景(従来技術と問題点) 安全性・経済性に優れる高速炉 の実現に向けて、 耐中性子照射特性 高温強度 (~700℃) に優れる燃料被覆管の開発が 不可欠 700 被覆管温度(℃) (~50×1026n/m2;E>0.1MeV) 燃料被覆管の使用条件 600 500 オ | ス テ ナ イ ト 鋼 の 使 用 範 囲 フェライト鋼の使用範囲 400 既存の材料では左記使用条 件範囲をカバーしきれないため、 酸化物分散強化型(ODS) フェライト鋼を開発 20 30 40 50×1026 高速中性子照射量(n/m2;E>0.1MeV) 実用化段階の高速炉燃料被覆管の使用条件 (検討例) 3 ODSフェライト鋼の特徴 焼戻しマルテンサイトを主とする母 相(基本組成:Fe-0.13C9Cr-2W-0.2Ti)を選定 オーステナイト鋼に比べて、 • 優れた耐照射特性 • 低い熱膨張係数 • 高い熱伝導度 熱的に安定な酸化物(Y2O3) 粒子の微細分散により、基地組織 を安定化 高温・長時間環境下における強 度特性の向上 Y2O3粒子 (数nm) 20nm 4 ODSフェライト鋼の強度特性(1) 100 1500 SUS316 ODS鋼 80 1000 破断伸び(%) 引張強さ(MPa) SUS316 ODS鋼 500 60 40 20 0 0 200 400 600 試験温度(℃) 引張強さ 800 1000 0 0 200 400 600 800 1000 試験温度(℃) 破断伸び 5 ODSフェライト鋼の強度特性(2) 相当応力(MPa) SUS316* ODS鋼 未破断 100 高強度フェライト鋼(11Cr-0.2C-1.5Mo-V,Nb) 10 10 100 1000 10000 100000 破断時間(h) 700℃におけるクリープ強度 *) SUS316のクリープ強度データは物質・材料研究機構の「クリープデータシートNo.6B」より引用 6 ODSフェライト鋼の強度特性(3) 10 全歪み範囲(%) ODS鋼 1 改良9Cr-1Mo鋼 0.1 2 10 10 3 10 4 10 5 10 6 破損繰返し数(cycles) 700℃における疲労強度 7 ODSフェライト鋼の強度特性(まとめ) 原子力機構で開発したODSフェライト鋼(基本組成:Fe-0.13C9Cr-2W-0.2Ti-0.35Y2O3)は、フェライト鋼で世界最高レベルの クリープ強度,優れた疲労特性を有する。 代表的なオーステナイト鋼であるSUS316と比べても高温・長時間環 境下において優れた強度特性を有する。 その他にも以下の特性を有する。 • 低い熱膨張係数 • 高い熱伝導度 等 8 ODSフェライト鋼の基本製造工程(1) 上工程(固化工程) • Y2O3粒子を微細かつ均一に分散させることがポイント • 従来の溶解鋳造法では製造不可のため、機械的に合金化(メカ ニカルアロイング(Mechanical Alloying:MA))する粉末 冶金法を採用 • 粉末を軟鋼性カプセルに充填・脱気した後、熱間押出により丸棒を 製造 原料粉末 機械的合金化 真空封入 熱間押出押出棒材 (MA) MA粉末 合金粉末 (Fe-0.13C-9Cr-2W-0.2Ti) 酸化物粉末 (0.35Y2O3) 軟鋼製カプセル アトライター 9 ODSフェライト鋼の基本製造工程(2) 下工程(製管工程) • 丸棒から機械加工により素管を製造 • 冷間圧延により薄肉・細径管に加工 機械加工素管 冷間圧延 中間/最終熱処理 被覆管 (4回繰返し) α/γ相変態の利用により加工性を向上 AC3点を超える1050℃で熱処理を施した後、冷却速度150℃/hr程度で 徐冷することで軟化フェライト相が得られる。 薄肉・細径管(肉厚0.4mm×外径6.9mm)の 製造が可能 10 ODSフェライト鋼の基本製造工程(3) 温度(℃) AC1 γ+α 軟化フェライト相 Ms γ+α’ 0 Mf 硬さ(Hv) AC3 1000 500 450 3回目 4回目 最終熱処理 350 1回目 2回目 3回目 素管 300 1,000 1回目 2回目 400 焼戻しマルテンサイト相 18,000 冷間圧延(加工率≒50%) 中間熱処理 100 冷却速度(℃/hr) ODSフェライト鋼の 連続冷却変態(CCT)線図 1050℃×30min 炉冷(150℃/hr) オーステナイト(γ)領域からの冷却速度を遅くすることで 軟化したフェライト(α)相が得られることに着目 11 想定される用途 700℃程度の高温で使用される部材 (できれば)接合の必要のない単体部材 例えば、ねじ(ボルト,ナット)等 12 実用化に向けた課題 量産技術開発 • ODSフェライト鋼の基本的な製造技術はほぼ確立してい るが、量産に向けた技術開発,装置整備が必要 想定される用途に適した加工技術開発 • 冷間圧延による薄肉・細径管の製造は可能だが、冷間 抽伸等による細径の線材への加工は未確認 接合技術開発 • 強度加圧抵抗接合技術の開発を進めており、被覆管に 端栓を接合する技術についてはほぼ確立しているが、接 合の必要のない単体部品への適用を推奨 13 企業への期待 ODSフェライト鋼の適用部位検討(非原子力分野への適 用を期待) 量産技術開発 • MA工程:アトライター大型化,転動ボールミル導入 等 加工技術開発 14 本技術に関する知的財産権 発明の名称 :高温強度に優れたマルテンサイト系酸化物分 散強化型鋼およびその製造方法 登録番号 :第4413549号 発明者 :大塚 智史,鵜飼 重治,皆藤 威二,成田 健,藤原 優行 出願人 :核燃料サイクル開発機構(現 日本原子力研 究開発機構),㈱コベルコ科研 15 お問合せ先 独立行政法人日本原子力研究開発機構 研究連携成果展開部 phone:029-282-6934 e-mail:[email protected] 16
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