(3) 経済効果分析上の課題 1) 検討対象項目 ① 総費用 総費用は、気候変動の影響に関係なく効果算定マニュアルに基づいて算定できるため、検討対象 外とする。 ② 総便益(各効果項目) モデル地区である比地大地区において、事業計画で計上されているは排水に関する項目を対象と する。比地大地区では、次の項目が計上されている。 ・ 作物生産効果 ・ 維持管理費節減効果 なお、課題整理では、他地区で一般的に計上されている以下の項目についても検討する。 ・ 災害防止効果(農業関係資産) ・ 災害防止効果(公共資産) 3-1 2) 作物生産効果 ① 効果の捉え方 作物生産効果は、土地改良事業の実施により農用地や水利条件の改良等が行われることに伴って、 その受益地域において発生するとみなされる作物生産の量的増減を捉える効果であり、当該事業を 実施した場合(事業ありせば)と実施しなかった場合(事業なかりせば)の作物生産量の比較によ り年効果額を算定するものである。 気候変動により排水流量が増加し、「事業なかりせば」排水路の排水能力が不足しているため排 水流量に対応できず被害が発生し、「事業ありせば」は増加した排水流量に対応した排水能力とな るため被害は防止される。 排水流量 排水路規模 排水流量は同じ 施設は大規模化 将来のある時点 現況 現況 排水 流量 事業なかりせば 事業ありせば 計画 排水 流量 現況 計画 排水 流量 現況 排水路 規模 排水機能 機能は向上 事業なかりせば 計画 排水路 規模 機能 喪失 作物生産量 生産量は増加 事業ありせば 将来のある時点 事業ありせば 将来のある時点 現況 現況 排水 機能 事業ありせば 将来のある時点 現況 事業なかりせば 計画 排水 機能 現況 生産量 機能 喪失 事業なかりせば 計画 生産量 被害を 受けた 生産量 ※ 現況で被害を受けている。事業なかりせばで更に被害が増える。 図 3-24 効果の捉え方(作物生産効果) マニュアルでは、作物生産効果に関し以下の通り区分されている。上記の捉え方は、現況の被害 を解消するため、防災整備(機能回復)に該当する。 ・新設(機能向上) :土地改良施設がなかったところに新たに施設を設置する場合。 ・再建設整備(機能維持) :現況と同じ機能維持する場合。 ・防災整備(機能回復) :現況で被害を受けている状態から被害のない状態へ整備する場合。 3-2 〔参考〕 (出典:「新たな土地改良の効果算定マニュアル」(p.78))) (出典:「新たな土地改良の効果算定マニュアル」(p.79))) 3-3 ② 効果の要因 作物生産効果の内訳は、減産防止として水害防止、立地条件好転として水管理改良、乾田化、田 畑輪換、水食防止がある。これらのうち、気候変動により降雨量増加、排水不良の影響を受けるの は水害防止(排水改良による効果)、水食防止(排水路の整備等により表流水による作土の流亡を 防止することによる効果)である。なお、水管理改良は「用排水の改良及び区画整理に伴う用排水 分離による効果」、乾田(畑)化は「湿田(畑)又は半湿田の乾田(畑)化による効果」、田畑輪換 は「田畑輪換による効果」であり、気候変動とは直接関係しない。 〔参考〕 (出典:「新たな土地改良の効果算定マニュアル」(p.81)) 3-4 (出典:「新たな土地改良の効果算定マニュアル」(p.82)) ③ 課題の検討 ア. 算定式 算定式は以下の 2 式がある。事業ありせば・事業なかりせば、排水不良の影響を受けて作付面 積又は(あるいは両方)単収が変化するため、単収増加年効果額又は作付増減年効果額は対象と なる。マニュアルに示される単収増加効果額及び作付増減年効果額の算定式を適用することがで きるため、算定式における課題は特にないものと考えられる。 3-5 単収増加年効果額= 作付面積×(事業ありせば単収-事業なかりせば単収)×単価×単収増 加の純益率 作付増減年効果額= (事業ありせば作付面積-事業なかりせば作付面積)×単収×単価×作 付面積増減の純益率 イ. 入力データ 効果算定のために必要な入力データは、以下に示す通りである。これらは、将来の計画策定時 点では、効果算定マニュアルに示される一般的な手法で求めることができる。 (出典:「新たな土地改良の効果算定マニュアル」(p.144)) 以上の結果、作物生産効果に関する課題は特にないものと考えられる。 3-6 3) 維持管理費節減効果 ① 効果の捉え方 土地改良施設は年月の経過とともに老朽化する等、物理的な消耗が生じ、その機能を維持するた めに維持管理費が必要になる。老朽化し機能低下の著しい土地改良施設を改修することにより、こ れまで要してきた維持管理費が増減する。維持管理費節減効果は、事業を実施した場合(事業あり せば)と実施しなかった場合(事業なかりせば)を比較し、維持管理費の増減をもって年効果額を 算定する。 事業ありせば、気候変動に伴う排水流量増加に対応して排水路を整備する。整備した施設規模は 現況よりも大きくなるため、維持管理費は現況よりも大きくなる傾向にある。一方、事業なかりせ ば、現況施排水路のままで、やがて機能が喪失するため、維持管理費は安全管理等に最低限必要な 経費となる。 排水流量 排水路規模 排水流量は同じ 施設は大規模化 将来のある時点 現況 現況 排水 流量 事業なかりせば 事業ありせば 計画 排水 流量 現況 現況 排水路 規模 計画 排水 流量 計画 排水路 規模 事業なかりせば 規模 縮小 排水機能 維持管理 機能は向上 維持管理費は増加 事業ありせば 将来のある時点 将来のある時点 現況 現況 現況 排水 機能 事業ありせば 将来のある時点 事業なかりせば 計画 排水 機能 現況 施設の 維持管 理費 機能 喪失 事業ありせば 事業なかりせば 最低限 の維持 管理費 計画 施設の 維持管 理費 ※施設規模が大きくなるため維持管理費は増加。 図 3-25 効果の捉え方(維持管理費節減効果) マニュアルでは、維持管理費節減効果に関して以下の通り区分されている。上記の捉え方は、事 業実施により現況施設機能の維持と向上を図るため、更新整備(機能維持+機能向上)に該当する。 ・新設(機能向上) :土地改良施設がなかったところに新たに施設を設置する場合。 ・再建設整備(機能維持) :現況と同じ機能維持する場合。 ・更新整備(機能維持+機能向上) :現況施設の再建設に加え機能向上する場合。 3-7 〔参考〕 (出典:「新たな土地改良の効果算定マニュアル」(p.215)) (出典:「新たな土地改良の効果算定マニュアル」(p.216)) 3-8 ② 効果の要因 施設の整備に伴い施設規模が大きくなることに伴い維持管理経費が増減する。 ③ 課題の検討 ア. 算定式 維持管理費節減効果(年効果額)は次式で求める。 年効果額=事業なかりせば維持管理費-事業ありせば維持管理費 イ. 入力データ 効果算定のために必要な入力データは、以下に示す通りである。これらは、将来の計画策定時 点では、効果算定マニュアルに示される一般的な手法で求めることができる。 以上の結果、維持管理費節減効果に関する課題は特にないものと考えられる。 (出典:「効果算定マニュアル」p.232)) 3-9 4) 災害防止効果(農業資産、公共資産) ① 効果の捉え方 災害防止効果は、施設の新設又は更新により、洪水、土砂流出、高潮、地盤沈下等の災害の発生 に伴う農作物、農用地、農業用施設等の農業関係資産、一般資産及び公共資産の被害が防止又は軽 減される効果である。 事業ありせば、気候変動に伴う排水流量増加に対応して排水路を整備することにより、被害は現 況と同じように防止・軽減される。一方、事業なかりせば、現況施排水路のままで、やがて機能が 喪失するため、被害は増加する。 排水流量 排水路規模 排水流量は同じ 施設は大規模化 現況 事業なかりせば 事業ありせば 現況 排水 流量 計画 排水 流量 現況 現況 排水路 規模 計画 排水 流量 排水機能 事業なかりせば 計画 排水路 規模 規模 縮小 被害 被害は減少 機能は向上 事業ありせば 事業なかりせば 将来のある時点 将来のある時点 現況 現況 現況 排水 機能 事業ありせば 将来のある時点 将来のある時点 事業なかりせば 計画 排水 機能 現況 被害 機能 喪失 被害 増加 事業ありせば 計画 被害 図 3-26 効果の捉え方(災害防止効果(農業資産、公共資産)) マニュアルでは、維持管理費節減効果に関して以下の通り区分されている。上記の捉え方は、事 業実施により現況施設機能の維持と向上を図るため、更新整備(機能維持+機能向上)に該当する。 ・新設(機能向上) :土地改良施設がなかったところに新たに施設を設置する場合。 ・再建設整備(機能維持) :現況と同じ機能維持する場合。 ・更新整備(機能維持+機能向上) :現況施設の再建設に加え機能向上する場合。 3-10 (出典:「効果算定マニュアル」(p.267)) (出典:「効果算定マニュアル」(p.268)) 3-11 ② 効果の要因 排水路の場合、以下の要因がある。 ・排水路が新設又は更新されることに伴い、排水条件等が改善され湛水による被害が防止又は 軽減される効果。 ・排水路、承水路等が新設又は更新されることに伴い、農用地の浸食、崩壊を防止する効果。 ・排水路、土留工等が新設又は更新されることに伴い、家屋、公共施設に及ぼす災害を防止す る効果。 ③ 課題の検討 ア. 算定式 災害防止効果(年効果額)は次式で求める。 年効果額= 事業なかりせば(施設機能が失われた場合を想定)年被害想定額-事業ありせ ば(整備後に施設機能が十分に発揮される場合を想定)年被害想定額 イ. 入力データ 効果算定のために総括表は、以下に示す通りである。被害額は、いずれも「土地改良事業計画 設計基準 計画 排水 技術書」に基づいて算定するものであり、入力データは効果算定マニュ アルで示される一般的な手法で求めることができる。 以上の結果、災害防止効果に関する課題は特にないものと考えられる。 (出典:「効果算定マニュアル」(p.350)) 3-12 5) まとめ 経済効果分析を行う上での課題について、効果算定マニュアルに基づき効果項目毎に算定式及び 入力データの観点から検討した。その結果、気候変動の影響により事業を行う場合の経済効果分析 は、これまでの事業と同様に効果算定マニュアルに従って算定すれば特に問題はないことがわかっ た。 3-13 (4) 経済効果の試算 1) 基本方針 比地大地区を対象に経済効果の算定(試算)は以下の基本方針で行う。 ① 以下のケースついて効果を試算し比較するする。 ・ ケース1:気候変動により水位が計画水位を超えた時に更新整備(機能向上)を行う場合 ・ ケース2:気候変動により水位が管理水位を超えた時に更新整備(機能向上)を行う場合 ② 効果の試算は D-s 地区を対象に実施する。 ③ (3)のまとめで述べたように、経済効果分析を行う上での課題は特になく、従来の事業と同様 に効果算定マニュアルに基づいて算定する。 ④ 年効果額は事業計画と同様する。事業計画では作物生産効果、維持管理費節減効果が計上され ている。事業ありせば、施設規模が更新(能力向上)され、計画基準年において気候変動により 発生している被害が防止される。事業なかりせは、施設の機能が失われ被害が大きくなる。 2) 試算の結果 D-s 地区においてケース1とケース2に関して総費用総便益比を試算する。 条件を比較すると、ケース1は残存耐用年数が 33 年残っているにも関わらず更新整備(機能向 上)することになり、ケース2は最も早く更新整備(機能向上)する大流量水路で残存耐用年数が 20 年である。残存耐用年数が長い施設を更新すると総費用が大きくなる。総便益はケース1、ケー ス2ともに同じである。 ケース1はケース2よりも総費用が大きくなり、その結果、ケース1の方がケース2よりも総費 用総便益比が 0.21 小さくなる。 3-14 〔条件〕 ケース1 ケース2 (計画水位) (管理水位) 小流量水路 計画基準年 事業着工年 事業完了年 中流量水路 2048年(H60) 2015年(H27) 2031年(H43) 大流量水路 2028年(H31) 小流量水路 2049年(H61) 中流量水路 2016年(H28) 2032年(H44) 大流量水路 2029年(H41) 小流量水路 2051年(H63) 中流量水路 2018年(H30) 2034年(H46) 大流量水路 2031年(H43) 小流量水路 評価最終年 中流量水路 2058年(H70) 2074年(H86) 33年 17年 大流量水路 事業着工時 残存耐用年数 小流量水路 0年 中流量水路 大流量水路 事業費 (千円) 20年 小流量水路 4,500 4,500 中流量水路 9,500 9,500 大流量水路 143,000 143,000 計 157,000 157,000 ※ ケース2の評価最終年は、事業(大・中流量水路更新)完了から40年後。 〔結果〕 ケース1 ケース2 (計画水位) (管理水位) 総費用 299,114 千円 239,669 千円 当該事業による費用 269,383 千円 219,087 千円 29,731 千円 20,582 千円 その他費用 年償還額 - - うち機能向上分 - - 年総効果(便益)額 12,217 千円 12,217 千円 現況年総農業所得額 11,479 千円 11,479 千円 年増加農業所得額 27,921 千円 27,921 千円 評価期間(当該事業の工事期間+40年) 43 年 割引率 総便益額(現在価値化) 46 年 0.04 0.04 220,593 千円 総費用総便益比 220,593 千円 0.73 0.92 総所得償還率 - - 増加所得償還率 - - 3-15 ケース 年次 水路規模 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 小流量 計画耐用年数 中流量 大流量 小流量 ケース1 (計画水位) 中流量 大流量 小流量 ケース2 (管理水位) 中流量 大流量 ※ 事業実施期間。 耐用年数期間 図 3-27 ケース 1 とケース 2 の事業実施期間の比較 総費用総便益比の比較 1.20 1.00 総 費 0.80 用 総 0.60 便 益 0.40 比 0.20 0.00 ケース1 ケース2 図 3-28 ケース 1 とケース 2 の総費用総便益比の比較 3-16
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