2.2.1 実船による漁具動態調査 2そうしらす船曳網操業の漁具動態および燃油消費量等を、篠島漁協所属の2ケ統(A 丸、B丸)のしらす網および静岡県吉田漁協所属の1ケ統(C丸)について調査する。網 規模(袖網部全長)は、A丸が 110 間、B丸が 120 間、C丸が 60 間である。 計測項目は、張力、網高さ、網幅、曳網速度、機関 rpm、燃油消費量等である。伊勢湾お よび駿河湾にて、網立ちよりも大きな水深の海域で用船調査を行う。以下に、しらす船曳 網の概略図(図2)、篠島のしらす船曳漁船(図3)、吉田町のしらす船曳漁船(図4)を 示す。 タンポ 1~2間 大大(760φ×120)40目 アバ(浮子) イセ 1割 イセ1割1分 イセ 1割2分 イセ 1割5分 軽 チェーン→ (75~105kgf) 130目 以下 65目 40目 重 沈子 常に使用 (鉄・鉛) 表層曳きの際は不使用(100kgf) 35目 小(300φ) ソラセ チェーン タンポ イセ 1割 タンポ 大(260φ×440) ロープ 12反 10反 4反 8反 6反 ワキ網 (まち網) 25目 長さ 曳網水深により調節 15~20間 調整 ex.10ヒロ: 30間 20ヒロ:120間 40ヒロ:200間 72~108間 7間 図2 7間 13~20間 4~5間 90~120間 (ソラセ) 袖網(手網) 網の全長は132~177間(200~268m) 7間 4~5間 29~40間 袋網 9~12間 魚取り 漁船により仕立ては少しずつ異なる しらす船びき網の構造例 平成4年度高度合理化漁船設計調査検討事業報告書、漁船協会、26(1994)から転載 図 3 しらす船びき網漁船B丸 (袖網部 120 間使用) 図 4 しらす船びき網漁船C丸(袖網部 60 間使用) 2.2.2 しらす船曳網の漁具シミュレーション 近年、漁具の設計や操業時の網形状の把握などにコンピュータシミュレーションが導入 され、広く活用されている。そのなかで、フランスの研究機関 Ifremer は燃油消費量の削 減を目的として中層トロール網の漁具形状の最適化を図る研究では、漁獲努力量を増加さ せずに燃費の 39%を削減できるとする結果が報告されている。しかし、これらの技術がシラ ス網漁具に適用された事例はない。 本事業では、こうしたシミュレーション技術をシラス網漁具に適用して、しらす船曳網 37 漁業(二そうびき)の省エネルギー化を図る。22 年度は、しらす船曳網漁具をコンピュー タ上でモデル化し、網構造や目合い・網糸径などと漁具抵抗および網なりをシミュレーシ ョンする手法を導入し、現地での漁具動態の計測と合わせて検証を進め、漁業者の目的に 応じた網の改変の仕方を提案できるツールとして活用する。このツールによって省エネル ギー化、小型化、機動性など様々な要望に添った漁具の改変方法を示す。 本事業で使用するシラス網のシミュレーションツールにより、パラメータ(網規模、目 合、網糸直径、袖網長さ、ハンドロープ長、船間距離など)を任意に変化させて漁具の抵 抗や形状、水深を把握することが可能となる。これらの把握は、省エネルギー・省コスト 化を見据えたシラス網の設計に大きく役立つものと期待される。 2.2.3 しらす船曳網漁業の省エネルギー化の検討 以上のような漁船での漁具動態・燃油消費の調査計測と漁具シミュレーションは、次の ような手順で検証を進め、省エネルギー化のための漁具改変方法等を提示する。 ① 調査計測データとシミュレーション解析をつきあわせて、索長・速度・網口高さ・漁 具深度・張力などの実測値とシミュレーションを比較検証して漁具シミュレーションツ ールを構築する。 ② このツールを使用して、省エネルギーに効果が上がると考えられる漁具構造を示し、 改善方策を提示する(どの部分をどの様に変えれば効果的かを示す)。 2.3 調査対象漁船・海域 しらす船曳網漁業の省エネルギー化に向けて、漁具動態等の調査計測は次の3船を対象 に行う。静岡県吉田町漁協所属船C丸の選定に当たっては、吉田漁協および静岡県水試等 との意見交換を経て選定した。対象漁船3隻の仕様を表2に示す。 ①A丸(愛知県篠島漁協所属船)・・・15 トン未満、袖網部 110 間、袋網幅 12 反 ②B丸(愛知県篠島漁協所属船)・・・15 トン未満、袖網部 120 間、袋網幅 12 反 ③C丸(静岡県吉田漁協所属船)・・・10 トン未満、袖網部 60 間、袋網幅 8 反 表 1 調査対象漁船の仕様 2.4 しらす船曳網現地調査結果 しらす船曳網漁具動態等の調査を前述のA、B、C丸について行った。平成 22 年度の現 地調査の取り組みについて表 2 に示す。 38 篠島地区のA、B丸調査は、正確にはしらす船曳網Aヶ統とBヶ統のそれぞれのしらす 網(袖網部が 110 間と 120 間)をAヶ統の網船A丸とBヶ統の網船B丸によって2そう船 曳試験を行ったものである。計測項目を図 5 に示す。 表 2 平成 22 年度の現地調査の取り組み ⽇ 時 篠島漁協(A・B丸) 2010/4/28 2010/5/21 2010/6/21 吉⽥町漁協(C丸) その他 しらす漁業聞き取り調査 しらす船曳網調査依頼 静岡県⽔産技術研究所で意⾒交換 2010/7/12 2010/7/16-17 2010/7/26-27 ⽤船調査の打ち合わせ 船曳網⽤船調査 調査報告と操業調査 2010/8/6-7 船曳網⽤船調査の打ち合わせ 2010/8/20-21 船曳網⽤船調査 しらす船曳網調査の打ち合わせ 2010/9/17-18 調査結果報告・意⾒交換 2010/12/10 2011/1/11 成果普及会 2011/3/14-15 A丸 船曳網漁業の検討会(愛知、静岡、三重) 成果普及会(静岡県3漁協にて) 機関回転数 燃料消費量 対地船速 運搬船 深度 船間距離 B丸 張⼒ 袋網 機関回転数 燃料消費量 対地船速 袖網 図 5 2そうしらす船曳網試験の計測項目(A 丸網および B 丸網試験) *C 丸網試験での機関回転数と燃料消費量は右網船(C 丸)のみ計測 2.4.1 曳網張力と燃料消費の関係 A丸、B丸、C丸の試験の模様を図 6、図 8 に示す。A丸のしらす網(袖網部 110 間)の 2そう船曳試験のA丸、B丸の燃料消費、張力等の結果を図7に示す。ロープ長さを調節 して、A丸では底層びき、中層びき、表層びき(ロープ 80 尋、40 尋、20 尋)、B丸では 中層びき、表層びき(ロープ 30 尋、15 尋)を行った。中層びきにおいては、機関回転数を A丸で3段階、B丸で2段階に変化させた。C丸も同様に、底層びき、中層びき、表層び き(ロープ 60 尋、30 尋、20 尋)を行った(図9)。これらの結果から、曳網張力と燃料 消費量の関係を図 10 に示す。 39 図 6 2そうしらす船曳網試験の様子(A丸、B丸) 図 7 A丸の燃料消費量と張力 40 図 8 2そうしらす船曳網試験の様子(C丸) 図 9 C丸の燃料消費量と張力 41 図 10 2そう船曳網の曳網張力と燃料消費量の関係 2.4.2 漁具動態調査結果 A、B、C 丸による試験操業において、網口および袖網の上下部の深度、両網船の曳綱張力 を計測した。また、各網船に搭載した GPS データにより曳網時の航跡、対地船速、船間距 離を取得した。図 11 に、A 丸にて得られた機関回転数を 3 段階に変化させた条件での航跡 を示す。太線で表された曳網時の航跡から、両網船がほぼ一定の船間距離を保ちながら曳 網していることがわかる。 34.72 回転数 通常 (11:08-11:22) 34.70 回転数 中速 (11:28-11:40) 34.68 回転数 低速 (11:46-12:00) 34.66 136.88 136.90 136.92 136.94 136.96 136.98 137.00 137.02 137.04 図 11. A 丸所有網(袖網部 110 間)使用時の機関回転数を変化させた条件での各航跡 図 12 は、A 丸試験(袖網部 110 間網使用)にて得られた網深度、曳綱張力、船間距離、対 地船速である。曳網条件は、機関回転数 3 段階(曳綱 40 尋)および曳綱長さ 3 段階(機関回 転数通常)であり、各曳網条件において 8~15 分間の安定した計測値が得られた。底層曳き (曳綱 80 尋)条件では、網が着底して下り斜面に沿って曳航されていることが見て取れる。 42 投網 80尋 rpm通常 0 40尋 rpm通常 40尋 rpm中速 40尋 rpm低速 20尋 rpm通常 揚網 深度 [m] 5 10 転回 15 ロープ調整 20 25 30 着底(下り斜⾯) 35 張力 [kgf] 5000 ロープ調整 網口上下 網に漂流物 運搬船で回収 袖網上下(網口から20間) 袖網上下(網口から80間) 4000 左網船 (A丸) 右網船 (B丸) 合 計 3000 2000 1000 船間距離 [m] 0 300 転回 200 ロープ調整 100 0 B丸加速 漂流物回避? 対地船速 [kt] 12 8 転回 左網船(A丸) 右網船(B丸) ロープ調整 4 0 10:20 10:30 10:40 10:50 11:00 11:10 11:20 11:30 11:40 11:50 12:00 12:10 12:20 12:30 12:40 図 12. A 丸所有網(袖網部 110 間)使用時における網深度、曳綱張力、船間距離、船速 A 丸試験および B 丸試験における機関回転数を 3 段階に変化させた条件にて得られた、漁 具抵抗(両舷張力の和)と機関回転数の関係を図 13 に、網口高さと機関回転数の関係を図 14 に示す。機関回転数が上がるにつれて、漁具抵抗が大きくなるとともに、網口の高さは低 くなる傾向となった。また、網口高さの変化は A 丸所有網(袖網部 110 間)使用時において 特に顕著であった。 5000 18 16 14 網口高さ [m] 漁具抵抗 [kgf] 4000 3000 2000 1000 袖網部120間網 左網船(A丸) 右網船(B丸) 袖網部110間網 左網船(A丸) 右網船(B丸) 12 10 8 6 4 2 0 袖網部120間網使用時 左網船(A丸) 右網船(B丸) 袖網部110間網使用時 左網船(A丸) 右網船(B丸) 0 600 800 1000 機関回転数 [rpm] 1200 600 図 13. A 丸および B 丸試験における 漁具抵抗と機関回転数の関係 800 1000 機関回転数 [rpm] 1200 図 14. A 丸および B 丸試験における 網口高さと機関回転数の関係 43 図 15 は、C 丸試験(袖網部 60 間網使用)にて得られた網深度、曳綱張力、船間距離、対地 船速である。曳網条件は曳綱長さ 3 段階であり、各条件について 5 分間の安定した計測値 が得られた。 投網 曳綱 60尋 曳綱 30尋 揚網 曳綱 20尋 0 深度 [m] 5 10 15 20 25 ロープ調整 ロープ調整 30 網口上下 左袖上下(網口から40間) ロープ調整 3000 張力 [Kgf] 右袖上下(網口から40間) 2000 左網船 右網船 合 計 1000 船間距離 [m] 0 300 200 100 0 対地船速 [kt] 12 8 ロープ調整 左網船 右網船 ロープ調整 4 0 9:40 9:50 10:00 10:10 10:20 10:30 10:40 10:50 11:00 11:10 11:20 図 15. C 丸所有網(袖網部 60 間)使用時における網深度、曳綱張力、船間距離、船速 A 丸、B 丸、C 丸試験にて曳綱長さを 3 段階に変化させた条件にて得られた、漁具抵抗(両 舷張力の和)と曳綱長さの関係を図 16 に、網口高さと曳綱長さの関係を図 17 に示す。漁具 抵抗は曳綱長さに対してほぼ一定であったが、 底層曳きを実施できなかった B 丸網を除き、 網口は曳綱が長くなるにつれて低くなる傾向が見られた。 0 20 曳綱長さ [尋] 40 60 80 0 100 20 曳綱長さ [尋] 40 60 80 100 15 5000 14 4000 網口高さ [m] 漁具抵抗 [kgf] 13 3000 2000 12 11 10 1000 A丸試験(110間) B丸試験(120間) C丸試験( 60間) A丸試験(110間網) B丸試験(120間網) C丸試験( 60間網) 9 0 8 0 30 60 90 曳綱長さ [m] 120 150 図 16. 各試験試験で得られた漁具抵抗と 曳綱長さの関係 0 30 60 90 曳綱長さ [m] 120 図 17. 各試験で得られた網口高さと 曳綱長さの関係 44 150 A 丸、B 丸、C 丸の無負荷時における単位時間あたり燃料消費量は 4~5 L/h であったこと から、既に図 10 に示した単位時間あたり燃料消費量と片舷張力の関係をもとに、切片 5 と した指数関数による以下の近似式を得た。 E 5e 0.998T (A 丸)、 E 5e 0.863T (B 丸)、 E 5e1.255T (C 丸) (1) ここで、E は単位時間あたり燃料消費量[L/h]、T は片舷張力[tf]である。 1.5 m 150目 3段 4段 6.6 m 6m 53目 PE 120 mm 1.9 mm ø 5段 6段 7段 8段 5.8 m 5.45 m 5.45 m 11.5 m PA46 500/180 mm 0.6 mm ø PE 120 mm 58目 1.9 mm ø 90目 2段 6m 150目 1段 PE 300 mm 4.15 mm ø C 500/200 mm 0.55 mm ø 1.9 m PA46 500/180 mm 0.6 mm ø 2.9 m PA66 500/150 mm 0.7 mm ø 4m 4m 4m 150目 52目 4.5 m 100目 PA66 500/120 mm 0.75 mm ø PE 120 mm 53目 1.9 mm ø PA46 500/180 mm 0.6 mm ø PE 120 mm 58目 1.9 mm ø 90目 150目 150目 PE 300 mm 4.15 mm ø 0.9 m 14目 10目 ファスナー 1.8 m 15目 * 織上幅 280 mm C 280/210 mm 0.45 mm ø 14目 0.6 m C 500/220 mm 0.55 mm ø 14目 10目 15目 24目 0.9 m 15目 14目 15目 23 mm ø C 浮子綱 C 浮子通し綱 18 mm ø C 浮子添綱 8.4 mm ø 浮子(680gf) 22個 2.5 漁具シミュレーションツールの構築 2.5.1 しらす船曳網を対象とした漁具シミュレーションツールの概要 近畿大学農学部髙木力教授らによって開発が進められている、網漁具挙動シミュレータ NaLA-System をしらす船曳網に適用し、漁具シミュレーションツールを構築した。図 18 に ツールの概要を示す。今回構築した漁具シミュレーションツールは主に漁具のモデリング 部、計算部、可視化部の 3 つで構成されている。実際の網漁具の構造を調べて漁具図面を 作成し、それを元に図 18 の右上に示される漁具構造情報生成プリプロセッサを用いて漁具 のモデリングを行い、しらす船曳網漁具を構成する多数の質点および仮想のバネ、そして 網糸や浮子等の漁具構成部材からなる計算用モデルを作成する。そして、計算用モデル情 報とともに流向・流速といった環境条件および船間距離や船速などの運用条件を計算プロ グラムに入力することで、漁具を構成する質点全ての運動が算定される。これにより、様々 な構成の漁具や環境・運用条件において、模型実験等の従来法では把握不可能であった詳 細な漁具形状および局所的な作用荷重の分布といった情報を得ることができるようになる。 5段上網内側に重ね合せ 25目 25目 127目 150目 PE 30 mm 0.9 mm ø 182目 200目 123目 99目 6-7段上下網内側に重ね合せ 250目 445目 345目 307目 上 0.6 m PA66: ナイロン66 (ポリアミド) ρ 1140 [kg/m3], E 830 [MPa] PA46: ナイロン46 (ポリアミド) ρ 1180 [kg/m3], E 950 [MPa] PE: ダイニーマ (高密度ポリエチレン) ρ 953 [kg/m3], E 270 [MPa] C: クレモナ (ビニロン60%, ポリエステル40%) ρ 1300 [kg/m3], E 500 [MPa] 沈子(680gf): 質量 800 g 水中重量 680 gf 長径 72 mm 短径 54 mm 穴径 21 mm 207目 100目 下 ファスナーに接続 307目 345目 445目 100目 中央1点のみ縫合 200目 上 PE 30 mm 0.9 mm ø * 織上幅 280 mm 浮子(680gf): 質量 276 g 浮力 680 gf 長径 170 mm 短径 110 mm 穴径 21 mm 123目 4段上網内側に重ね合せ 100目 PE 300 mm 2.95 mm ø 100目 PE 120 mm 1.9 mm ø 100目 PE 300 mm 4.15 mm ø 13目 100目 15目 C 280/210 mm 0.45 mm ø ファスナー 1.8 m 20目 0.9 m C 500/200 mm 0.55 mm ø 1.9 m PA46 500/180 mm 0.6 mm ø 2.9 m PA66 500/150 mm 0.7 mm ø 4m 4m 4m 150目 11目 15目 14目 50目 4.5 m 100目 PA66 500/120 mm 0.75 mm ø 14目 沈子 (680gf) 44個 C 500/220 mm 0.55 mm ø 14目 11目 15目 23 mm ø C 岩綱 C 岩添綱 8.4 mm ø 24目 0.9 m 15目 14目 207目 ナイロンモノフィラメント 16 mm, 0.45 mm ø ファスナー 1.8 m *菱目網は目合,綟網は脚長で表記 漁具図⾯ 漁具のモデリング 可視化 計算 環境条件 ・潮流 など 網成り 詳細な網⼝形状や 部分的な流体抵抗など 様々な情報が把握できる 運⽤条件 ・船間距離 ・船速 など 曳綱張⼒ (漁具抵抗) を⼊⼒ 図 18 しらす船曳網用漁具シミュレーションツール 45
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