雪氷作業車両の冬期以外の有効活用及び腐食対策につい

雪氷作業車両の冬期以外の有効活用及び腐食対策について
大西
吉田
康博
公一
1.はじめに
*1
*2
本文では、雪氷作業車両の有効的な活用と、旧来より課
東日本高速道路株式会社(NEXCO 東日本)新潟支社は、
題となっている車両の腐食対策について報告する。
関東、中部、関西、東北方面と新潟県を結ぶ高速道路約
430km を管理している。管内全域が積雪寒冷地で、とり
わけ関越道や上信越道の山間部では累計降雪量が 20m
に達する豪雪地域を通過している。
(図 1)
このような厳しい環境下において、冬期の安全、安心で
円滑な交通確保は最重要課題のひとつであり、新潟支社
では車両保有総台数の約 7 割にあたる雪氷作業車両約
260 台により雪氷作業を展開している。(図 2)
図2
図1
新潟支社管内
新潟支社の車両保有台数
冬期気象概要図
*1 東日本高速道路株式会社 新潟支社 施設課
*2 東日本高速道路株式会社 新潟支社 長岡管理事務所
2.雪氷作業車両の冬期以外の有効活用
高速道路の雪氷作業車両は、新雪除雪や圧雪除雪を行う
除雪トラック(写真 1)
、凍結防止剤(湿塩)散布車(写
真 2)
、路肩拡幅除雪を行うロータリー除雪車(写真 3)、
インターチェンジやサービスエリアなど構内除雪を行う
トラクターショベル(写真 4)などがあるが、その用途
に応じた専用の架装を施しているが故に、冬場の稼働に
限定されるといった課題がある。
冬期の円滑な交通確保のため雪氷作業車両が重要であ
ることは言うまでもないが、この有効活用を図ることで、
高速道路の信頼性とサービスレベルの向上に寄与できる
写真 1
除雪トラック
のではないかと考えた。
その際に注目したものが、災害発生時のライフライン
の確保である。高速道路において特に、電気、水道が重
要といえる。
仮に電気が供給されず停電になると、トンネル照明は
もちろん、道路情報板などの交通情報設備の機能停止、
道路管制センターであれば設備を集中的に制御・監視す
る道路管制システムが機能停止し、高速道路の運営がた
ちまち困難となるが、このような重要設備には、非常用
の自家発電設備からの給電方法が確立されておりバック
アップ体制が既に整っている。
写真 2
凍結防止剤(湿塩)散布車
次に、水道の断水の場合はどうか。サービスエリアや料
金所などの飲料水やトイレ洗浄水などへの供給が停止す
るため、お客さまに対して直接的な影響を与えることと
なる。
最近では、平成 23 年 7 月の新潟・福島豪雨災害におい
て水源に泥水が混入したことによって、自治体側の上水
が供給停止となり、新潟県内の一部のサービスエリアで
運営に支障を来すこととなった。
また、過去には、阪神淡路大震災の神戸市で約 90 日間、
中越沖地震で約 20 日間、東日本大震災のいわき市では約
20 日間と、長期の断水により一般市民の生活が困難な状
写真 3
ロータリー除雪車
況に陥ることとなった。
このように、大規模災害に関わらず、お客さまが安心
して高速道路を利用していただくため、サービスエリア
における給水車として、雪氷作業車両の活用を検討する
こととした。
写真 4
トラクターショベル
3.給水装置の導入
給水車として活用するにあたっては、①サービスエリア
平成 25 年度には、パーキングエリア内の工事に伴い一
時的な断水の計画があったため、当該給水装置を利用し、
における断水を想定し、飲食用水やトイレの手洗い用と
トイレの洗浄水及び手洗い水として早速活用することが
して水量を満足すること、②既存車両のアタッチメント
できた。
として取扱いが容易であること、③一般的な給水車と比
較しても安価であることを諸要件とした。
また、ベース車両は、新潟支社管内の 4 つの管理事務所
に配備されていて、かつ保有台数が多い除雪トラックも
しくは凍結防止剤(湿塩)散布車とした。
先ず、除雪トラックはボディ上に雪氷作業用の装置が少
ないことから、給水用の水槽設置スペースは確保できる。
但し、水槽に加え、水槽を固定するための専用の架台が
必要なことから導入コストが高くなることがわかった。
次に、凍結防止剤(湿塩)散布車の場合、ボディ上には
凍結防止剤のホッパがあり、これを給水用の水槽として
利用できないか調べたところ、以下のとおり諸要件を満
足するものであったため、車両更新のタイミングであっ
た平成 24 年度に導入することとした。
1)水槽容量は 4.5t と比較的大きい
(1,500 人/日分の飲料水相当
1.5t×3 槽とすることで取扱いが容易)
2)袋水槽は脱着可能で雪氷作業の邪魔にならない
3)袋水槽は室内保管が出来るため、衛生面でも良好
4)飲料水として利用する際、袋水槽は滅菌することに
写真 6 給水装置設置イメージ
より再使用可能
5)一般的な給水車(2t)の約 1/8 と安価
なお、導入台数は、先の新潟・福島豪雨の経験から、1
4.散水装置付き凍結防止剤散布車の導入
エリア上下線同時断水を想定し、4 事務所各 2 台とした。
NEXCO 東日本では、道路清掃や凍結防止剤散布、火災
今回、導入した給水装置は、凍結防止剤(湿塩)散布車
時における消火活動の初動応援において散水車(写真 7)
のホッパ内部に、1.5t の袋状の軽量コンパクト水槽(以
を使用することとしている。
下、袋水槽という)を 3 槽取り付け、ホースと蛇口を接
続し重力式で給水を行うものである。
(写真 5,6)
写真 7 散水車
長岡管理事務所では、散水車を 1 台保有しているが、故
障及び車検・点検整備時には、散水車が 1 台もない状況
となることを危惧していた。万一、高速道路上で火災が
写真 5 給水装置の構成部品
あった場合、または、事故後の路面清掃が必要な場合で
あっても、隣接事務所からの借用もしくは、レンタルに
費用共に膨大となる。当然ながらこの間車両が使用でき
頼るしかないためである。
ないこととなる。
(写真 9)
このことから、散水車の増車を検討してきたが、高価で
あることに加え、導入後の維持費もかかることから、代
替車として購入するのは非経済的と判断した。
このため、雪氷作業車両を活用し、散水機能を設けるこ
とができないか調べたところ、凍結防止剤(湿塩)散布
車を利用した散水装置があることがわかった。
この装置は、先述した給水装置同様に、凍結防止剤ホッ
パを利用し、ホッパ内部に袋水槽を取り付け、専用のポ
ンプで加圧し、車両後方に取り付けたノズルから凍結防
止剤(溶液)を散布するものである。
しかし、今回必要な機能は、消防活動の初動応援送水及
び路面清掃(写真 8)であるため、この装置を取り込む
写真 9 車両下部の腐食状況
ため、凍結防止剤(湿塩)散布車側に以下の機構を追加
することで対応することとした。
腐食対策は、細めな清掃の実施及び整備時の再塗装、
1)
消防車側へ送水するための送水口の設置
また、凍結防止剤の影響を最も受けやすい車両の下回り
2)
路面清掃用の散水ノズルを前方に設置
については、耐薬品性、耐摩耗性に優れ車両の防食塗料
また、本来は、凍結防止剤(溶液)散布装置であるため、
として実績の高いエポキシ樹脂塗料を塗付している。
車速同調機能(車両の走行速度に応じて、散水量を自動
さらに、雪氷作業基地に設置された下部洗浄装置(固
調整する機能)を有していたが、求める要件には不要な
定式)による洗浄を徹底している。下部洗浄装置は、作
ため、当該機能を取り除くことで、1 台当たりのコスト
業終了後に簡便に下回りの洗浄が行えるため、腐食に対
を抑えることができた。
し有効な洗浄方法であるが、シャシフレーム内側に堆積
した塩分を含んだ土砂については、抜本的な洗浄方法と
は言えない。シャシフレームの形状が、コの字型(写真
10)になっており、真下からの洗浄では内側まで洗うこ
とが出来ないためである。
このため、シャシフレーム内側の洗浄方法を検討する
こととした。
写真 8 散水装置導入による路面清掃
5.雪氷作業車両の腐食対策
積雪寒冷地における車両維持管理上の問題点として、
凍結防止剤による腐食があげられる。腐食・減肉が進行
すると、最悪の場合、走行中にシャシフレームが折れる
写真 10
シャシフレーム(コの字型)
という事態も想定され大変危険である。しかし、腐食の
進行具合を見極め、シャシフレームの取換もしくは補強
先ずは、ハンディ式下部洗浄機である。(写真 11)
を行うためには、車両構造上、架装装置を取り外し、車
この洗浄機は、手動で洗浄したい箇所へ移動すること
両本体を分解しなければならないため、修理時間と修理
ができ、水流も斜め方向に放出されるため、シャシフレ
ーム内側への洗浄効果も期待できる。また、雪氷作業基
地に設置された既存の高圧洗車機に接続することで、容
易に使用することができることから、比較的安価かつ容
易に導入可能である。
しかし、水平な地面場でなければ洗浄機の移動に支障
を来たし、うまく車両下部に挿入できないことから、冬
季の積雪状況下においての使用は困難と判断した。
写真 13
接続コネクタ
写真 11 ハンディ式下部洗浄機
次に、シャシフレーム洗浄装置である。(写真 12)
これは、車両のシャシフレーム自体に洗浄ノズルを取
り付けるもので、車両に取り付けた接続コネクタ(写真
13,14)へ雪氷作業基地の高圧洗車機を接続すると水圧で
写真 14
接続コネクタ(拡大)
洗浄ノズルが回転し自動で洗浄するものである。コの字
型のシャシフレームに対し、真横から洗浄できるため、
以上のことから、腐食の進行が最も顕著な凍結防止剤
非常に効果的で、さらに人力に頼らないことから、作業
(湿塩)散布車の更新時に標準で装備していくこととし
員の労力軽減にもつながり、誰が使用しても一様の効果
た。
が得られるものである。
6.効果検証及び改善
以上の各取り組みについて、現在まで実施している効
果検証、評価、問題点の抽出、改善の検討内容を報告す
る。
6.1
1)
給水装置
装置脱着時間の短縮
先術したとおり、パーキングエリアの工事に伴い、給
水装置を使用してみたが、装置の取り付けに 2 時間もの
時間を要した。理由は以下のとおりである。
① ホッパ内部のスペースが狭い(写真 15)
② 取付マニュアルが不明瞭
写真 12
シャシフレーム洗浄装置
この改善として、ホッパ上部の金網の形状を変更し作業
スペースを確保し、取付マニュアルの見直しにより脱着
2)
時間の短縮を目指している。
路面清掃時における水圧を確認する。
3)
性能の確認
適切な装置のメンテナンス手法
効率的な整備時期、整備手法を確立し常に健全な状態
とすることにより、稼働率を向上させる。
6.3
シャシフレーム洗浄装置
1) 腐食の進行状況の確認
長期的な調査により、車両の腐食状況から整備費用の削
減、車両の延命化につながっているか確認していく。
2) 洗浄による付加要素の検討
シャシフレームのみならず、ブレーキ、タンク等の延命
化について検討する。
写真 15 ホッパー内部の給水装置取付状況
7.まとめ
2)
水の積み込み方法の検討
積雪寒冷地では、雪氷作業車両を多く保有しており、そ
一般的な水道蛇口からの水の積み込みでは、満水までに
の資産保有にかかるコストも膨大なものとなる。冬期間
4 時間もの時間を要するため、使用目的に応じた積み込
限定で稼働していた雪氷作業車両が通年で稼働すること
み方法を検討した。
で、資産の効率的利用となり大変有意義なことと考える。
飲料水として使用しない場合は、各管理事務所に設置
また、凍結防止剤の影響を受けやすい雪氷作業車両の腐
されている凍結防止剤水槽の真水給水配管を利用し、積
食対策は、かねてから重要視されている問題であり、今
み込めば問題ない(写真 16)が、災害等有事の際に飲料
後もシャシフレーム洗浄装置の効果検証を進めるととも
水としての利用を想定すると、速やかに積み込みができ
に、新たな腐食対策、延命化対策を検討・具体化してい
るよう改善する必要がある。
きたいと考える。
この改善として、インターチェンジの給水設備に飲料水
本文で紹介した雪氷作業車両のさらなる活用事例につ
用の大口径の取出し口を設置することとした。これによ
いては、
NEXCO 東日本のほんの一部の取組みではあるが、
り、積み込み時間は 4 時間から 20 分程度に短縮すること
高速道路の信頼性とサービスレベルの向上に寄与し、お
ができると考えている。
客さまにとって、これからも、安全、安心、快適、便利
な高速道路空間を創造、提供していくことができるもの
と考えている。
写真 16 凍結防止剤水槽の真水配管からの積み込み
6.2
1)
散水装置
装置脱着の効率化
冬季は凍結防止剤(湿塩)散布仕様、夏季は散水仕様で
待機させることにより作業準備時間の簡略化、効率化を
図っていくものとする。