フィルム状酸素センサシートによる立体物表面酸素濃度のイメージング富山大学大学院理工学研究部（工学）教授鈴木正康大学院理工学教育部修士2年木本和樹工学部技術職員入部康敬電気電子システム工学科（元）4年遠藤佳覇背景我々は酸素応答性蛍光色素Tris(1,10phenanthroline) ruthenium(II)（以下ルテニウム錯体）を用いたマイクロウェルアレイ型の酸素センサやバイオセンサを開発した。またこの酸素センサ色素膜を用いた酸素濃度分布の可視化にも成功し、微小流路中における酸素濃度やグルコース濃度のイメージングを実現した。本研究ではこの技術を立体物表面の酸素濃度分布の可視化に応用した。従来研究との比較標識物質等を用いて化学種の２次元的な分布を可視化する手法は多数報告されているが、直接イメージングできる計測デバイスについての報告はまだ少ない。H+イオン分布の可視化については半導体イオンセンサ技術を利用したケミカルCCDやLAPSが知られているがフレキシブル化は困難である。フレキシブルな電極を用いた化学センサは報告されているがポイント計測用であり画像計測への展開例はまだない。実験酸素を通す酸素イメージングシート用の膜として、酸素透過度が高く（20,000 [ml/m2･d･atm]）、耐熱温度(150℃)、透湿性（45g/m2・d）とも条件を満たすポリエチレン／ポリプロピレン製多層フィルム（以下PE/PPフィルム）、酸素を通さないコントロール用シートの膜として、酸素透過度が著しく低く（ 60 [ml/m2･d･atm] ）、耐熱温度（ 140℃ ）、透湿性（12g/m2・d）が条件を満たすポリ塩化ビニリデン製フィルム（以下PVDCフィルム）を用いた。PVDCフィルム上に酸素センサ膜溶液（0.5g/l ルテニウム錯体、0.3g/l ポリビニルアルコール、2.5mM MOPS、10%ナフィオン）を1cm2 あたり約 0.1ml滴下して展開し、室温で24時間乾燥させた後、酸素透過性のPE/ PPフィルムを密着させ酸素イメージングシートを作製した(図１)。蛍光画像の取得には高感度蛍光実体顕微鏡等を用いた。 O2 P E /P P P VDC H 2O O2 S ens or film H 2O P VDC P VDC (a)酸素イメージングシート (b)コントロール用シート図１フィルム状酸素センサシート実験結果 ■PE/PP ■PVDC PVDCフィルム上の酸素センサアレイも従来のガラス基板上に形成したセンサと同等の応答を示した。通液によるセンサ膜の剥離も見られなかった。作製した酸素イメージングシート及びコントロール用シート(両面にPVDC)で溶存酸素濃度の異なる水溶液を測定したときの応答を図２に示す。酸素イメージングシートでは酸素濃度の違いにより蛍光強度が増減したがコントロール用シートでは酸素濃度による蛍光強度の変化は見られなかった。立体的な計測対象としてヒマワリの発芽種子を用いた。密着性を良くするために蒸留水を少量滴下し、酸素イメージングシート、コントロール用シートをそれぞれ種子に貼り付けた。酸素イメージングシートとコントロール用シートの蛍光画像の差分画像を図３に示す。2種類のシートで差分をとることで酸素濃度のみに対応したイメージングに成功した。図２フィルム状酸素センサの酸素応答図３発芽種子表面の酸素濃度イメージングまとめ・今後の展望立体物表面の酸素濃度分布を、他の影響を受けることなく蛍光画像として「画像化」することに成功した。フレキシブルなシート状センサによる化学種の分布の画像化は世界的にもほとんど例がない。酸化酵素固定化膜や微生物固定化膜等と組み合わせることで特定の化学物質の分布を画像化することも可能と考えられ、それに向けた研究も始めている。また本研究では手軽に入手できる市販フィルムを用いたが、これらのポリマー膜を直接センサ上に形成する方法についても研究を始めている。携帯型の安価な市販蛍光画像センサとの併用により現場での計測も可能である。【地域社会や産業界での応用分野・活用方法等】医療、農業、環境、工業プロセス等様々な分野での応用が可能な技術である。気軽にご相談頂ければ幸いである。・医療分野ではin situでの臓器表面の腫瘍部位の検出が可能と考えられる。・農業分野では、種子や作物・果実の表面からの品質評価・管理での応用が期待できる。・工業プロセス分野では配管や部品からの極微小なリークの検出などへの応用が考えられる。連絡先富山大学リエゾンオフィス・ＴＬＯ TEL：076-445-6392 FAX：076-445-6939 Email：[email protected]