世界の水問題 世界の水 - 滋賀県立大学環境科学部

2015/1/18
世界の水問題
利水
治水
水不足
洪水
深刻な水問題
世界の水問題
環境
水質汚染
水=淡水
21世紀は水紛争の時代
イスマイル・セラゲルディン 元世銀環境部副部長
生命の水の究極の水源はエルサレムの地下にある
滋賀県立大学 井手慎司
水の安全保障
ある国や地域における水資源を確保することと水に関する紛争を回避・解決すること
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世界の水(量)問題
水問題の予測
•いま地球上に存在する水の量は,先史時代と変わっていない
•人間が手にできるのは,毎年海に流れ込む水の3分の1だけ
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•栄養はあるが肉の少ない1人分の1年間の食糧を生産するため •世界の水の使用量(1995 年現在)は約 35,700 億 m3/年,
そのうち,農業用水は約 25,030 億 m3/年で使用量の7割
には 1100 m3の水が必要
を占める.そのほか,工業用水は約7,150 億m3/年,生活
用水は約 3,540 億m3/年.
•潅漑によって栄えた文明はそれゆえに自滅した.
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水問題に関する世界の動き
③世界水フォーラムの主催者団体は?
「中東での次の戦争は水資源を巡る争いになるだろう」ガリ
前国連事務総長(National Geographics,1993)
「21世紀では水資源の争奪から戦争が起きるだろう」セルゲ
ルディン世界銀行元環境問題担当副総裁(World Press
Review,1995)

世界人口は現在の60億人から2030年には約80
億人に増加する.
2025年までに35億人以上(世界人口の50%)が
水不足に直面する.(1995年の1/3→2/3に)
2025年の世界の水需要は1995年の1.4倍に.
開発途上国及び経済移行国における水の安全確保
には現在の2倍の1800億㌦/年が必要となる.
→淡水をめぐる争奪戦
水問題による内戦,国際紛争の勃発.
利潤目的で水の所有権支配をもくろむ「水カルテ
ル」の結成.→水のアパルトヘイト
http://www.gispri.or.jp/newsletter/2003/pdf/0303-4-1.PDF
水戦争と水の安全保障
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「水不足と各国内の武力衝突との間には明らかな連関性が見られ
る」コロンビア大学国際地球科学情報センター マーク・リーヴィ
(2007)
⇔「水資源の逼迫は,必ずしも水資源を共有する国々の間の関係が
悪化したり,水資源の利用をめぐって係争が増加傾向にあったりする
ことを示唆するものではない.水資源の逼迫は,むしろ流域国を協調
に向かわせる」中山幹康
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1977 国連水会議
1992 ダブリン会議
1992 地球サミット
水問題を国際社会
のアジェンダに
1996 世界水会議 設立
世界水フォーラム
1997
2000
2003
2006
2009
マラケシュ
ハーグ世界水ビジョン
京都滋賀大阪
メキシコシティ
イスタンブール
主催
水の専門家,国連
利害関係者,NGO
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水と環境に関する国際会議(1992)
マル・デル・プラタ国連水会議(1977)
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マル・デル・プラタ(アルゼンチン)で開催された初めての国連水会議.
マル・デル・プラタ宣言(行動計画)を採択
人々はその基本的ニーズを満たすため,飲料水を入手する権利があ
る
その後,1980年の国連総会において,81から90年の十年間を「水供
給と衛生の十年(Water Supply and Sanitation Decade) 」とすることを決
定.「水供給と衛生の十年」では,低コストで利用可能な技術(low
cost affordable technology),すなわち適正技術(Appropriate
Technology)の普及に焦点が置かれ,住民参加型の推進方策が奨励
された→公営モデルでの水道サービスの充実を目指す
終了時点の90年には,改善された飲料水供給にアクセスできる世界
人口は41億人(普及率79%),し尿処理にアクセスできる世界人口は
29億人(普及率55%)に増加したが,なお十分ではなかった
→公営モデルから,ネオリベラリズムに基づく民営化モデルに国連が
転換

International Conference on Water and the Environment

淡水問題に関する地球サミットへのインプットを
目的に,アイルランド(ダブリン)で1992月1月26
から31日に開催.113カ国の政府から推薦の338
名と国連機開からの13名の専門家,非政府機関
からの12名が参加
ダブリン宣言(原則)を採択
同宣言は,アジェンダ21の第18章に大きな影
響を与え,現在でも水資源管理に関する重要な
指針と位置付けられている
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ダブリン宣言(1992)
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アジェンダ21(1992)
ダブリン原則(Dublin Principles)
(1)水資源の「有限性」:淡水は,生命と開発と環境の
維持に不可欠な,有限で損なわれやすい資源である
(2)「参加型」での水資源開発・管理:水資源と管理は,
あらゆるレベルの利用者,計画立案者,政策決定者を
含む,参加型アプローチによるべきである
(3)水供給・管理・保全における「女性の役割」:女性は,
水の供給,管理,保全に中心的な役割を担う
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地球環境サミット(1992)で採択された21世紀の人類の行動計画
第18章「淡水資源の質と供給の保護」
水は生命の源である.各国政府は「水資源を開発,利用する上で,
基本的ニーズの充足と生態系の保護を優先しなければならない.
しかし,こうした要件を超過する部分については,利用者が適切な
負担を行うべきである」と合意
アジェンダ21が掲げた課題
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(4)「経済財」としての水:水は,あらゆる競合的用途
において経済的価値を持ち,経済財として認識されるべ
きである
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(1) 統合的水資源開発及び管理
(2) 水資源アセスメント
(3) 水資源,水質及び水生態系の保護
(4) 飲料水供給及び衛生
(5) 水と持続可能な都市開発
(6) 持続可能な食糧生産と農村開発のための水
(7) 水資源に対する気候変動の影響
しかし,水問題は地球サミットにおいて些末な扱いを
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国連水の日
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世界水会議(WWC)
1992年12月の国連総会において毎年3月
22日を“国連水の日”とすることを採択
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World Water Council(WWC)
地球サミットにおける水問題の些末な扱いに危機感を募らせ
た世界の水関係者が,国際水資源学会(IWRA)の第8回世
界水会議(カイロ,1994)において設立を決議
水に関わる国際政策の検討会などを行うシンクタンクとして,
国連教育科学文化機関(UNESCO),世界銀行(WB),国際
水資源学会などの水に関連する国際機関や国際学会が中
心となり,1996年に設立.本部マルセイユ
「世界水ビジョン:水をすべて人類の課題に」(World Water
Vision: Making Water Everybody’s Business)(1998)
水問題の重要性を世界に喚起するために世界水フォーラム
を主催
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世界水パートナーシップ(GWP)
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水の民営化・多国籍企業の関与
Global Water Partnership(GWP)
世界水会議の姉妹機関
途上国における統合的な水資源管理を支援するた
めに,世界銀行,国連開発計画(UNDP),スウェー
デン国際開発庁(SIDA)などの資金提供機関等の
主導により1996年に設立された.事務局はス
ウェーデンのストックホルム
「世界水会議」「21世紀に向けた世界水委員会」と
共同で世界水ビジョンを策定
GWP技術諮問委員会(TAC)バックグランドペー
パー第4巻「統合的水資源管理」発行(2000)


先進国政府や世界銀行,国際通貨基金(IMF),世
界貿易機関(WTO),世界水会議(WWC)などと協
調した途上国進出(水開発モデル:融資と民営化)
ヴィヴェンディ(仏:現ヴェオリア・エンヴァイロメント)
は100カ国以上の1.1億人に,スエズ(仏) は130カ
国1.15億人に,RWE(独)(テムズ・ウォーターを
買収.同社は後に再び独立)は0.7億人に水を供
給する世界の3大水企業

(民間企業から水道サービスを受ける人口は2008年時点で約六億人)

同3社で世界の水道民営化市場の77%を独占して
いる

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第1回世界水フォーラム(1997)
世界水フォーラム(WWF)とは

「世界の水が支配される」国際調査ジャーナリスト協会,
作品社(2004)
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世界水会議の提唱により21世紀の国際社会
における水問題の解決に向けた議論を深め,
その重要性を強くアピールすることを目的とし
て,1997年から3年に一度,「世界水の日
(3月22日)」を含む期間に開催されている
フォーラム
•期間:1997年3月
•場所:マラケシュ(モロッコ)
•テーマ:人間の基本的ニーズ(Basic Human Needs: BHN)
である安全な水と衛生設備を満たすためのアクションと水
の有効利用の推進
•参加者:63ヶ国500人
•「マラケシュ宣言」を採択.21世紀における世界の水と生
命と環境に関するビジョン「世界水ビジョン」の第2回世界
水フォーラムでの策定を提唱
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第2回世界水フォーラム(2000)
世界水ビジョン(WWV)
•期間:2000年3月
•場所:ハーグ(オランダ)
•分科会:80余りの地域・分野別
•参加者:156ヶ国5700人
•「世界水ビジョン」を発表.
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•21世紀の水に関する世界委員会作成
•世界銀行 イスマイル・セラゲルディン
•米州開発銀行 エンリケ・V・イグレシアス
•スエズ会長 ジョローム・モノー
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•閣僚級国際会議(91か国の水関連大臣を含む149か国の
代表が出席)において「ハーグ閣僚宣言」を採択
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World Water Vision
世界の水の現状と25年後の姿を様々な面から検討,
予測した
策定の目的は,水に関する未来像を明らかにするこ
とにより,水資源問題やWWVの提案する解決方法
に対す人々の意識を高めること
WWVの目指す水の未来像とは「人々が食料をはじ
め様々なものを手に入れるために必要な水を安全
かつ,淡水生態系を完全に維持することが可能な
方法で供給することのできる世界」である
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統合的水資源管理(IWRM)
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国連ミレニアムサミット(2000)
Integrated Water Resources Management (IWRM)
IWRMとは「水,土地および関連資源の開発管
理を相互に有機的に行い,その結果もたらさ
れる経済・社会的繁栄を,貴重な生態系の持
続可能性を損なうことなく,公平な形で最大化
する方法」である.

GWPの技術諮問委員会がバックグランドペーパー第
4巻として「統合的水資源管理」を2000年に発行.
WWVで推奨されている統合的な水資源管理の実践
的な管理手法を具体的に示した.
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2000年9月,第55回国連総会(ミレニアム総会)
国連ミレニアム宣言:地域,国内及び地方レベルで,
公平なアクセスと十分な供給の両方を促進するた
めの水管理戦略を策定することにより,水資源の持
続不可能な開発を止めること
国連ミレニアム開発目標(MDG):各国政府は「安
全な飲料水にアクセスできない人の割合(現在2
0%)を2015年までに半減させる」こと
2003年を「国際淡水年」とすることを採択
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第3回世界水フォーラム
持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)
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~ビジョンから行動へ~
南ア・ヨハネスブルクで開催(2002年8-9月)
コフィ・アナン国連事務総長が「具体的な成果が得ら
れる,また得なくてはならない」5つの重要な分野と
して「水と衛生」「エネルギー」「健康」「農業」「生物
多様性」(総称してWEHAB)を指摘
水問題は5つの最重要課題の一つとして議論され
た.
【ヨハネスブルグ宣言】
「地球環境の悪化による大気,水,海洋汚染は人類
から適切な生活を奪っている.清浄な水を,衛生へ
のアクセスを確保するとともに,技術移転,人材開
発,教育訓練を行う」
•期間:2003年3月16-23日
•場所:京都,滋賀,大阪
•テーマ:「貧困」「気候変動」「ダム」「官民連携」「アジアの
日」など33テーマ,世界5地域に関する計351の分科会
•参加者:182ヶ国24000人
•運営委員会共同議長:橋本龍太郎元首相,ムハマド・ア
ブザイド世界水会議会長
• 公式サイト:http://www.world.water-forum3.com/jp/index.html
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第3回世界水フォーラム
閣僚宣言「琵琶湖・淀川流域からのメッセージ」
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閣僚宣言に盛り込まれなかった課題
(1)全般的政策-貧困者及びジェンダーへの十分な配慮,
地方自治体及びコミュニティの権限強化.グッドガバナンス,
キャパシティビルディング,統合的水資源管理の促進,汚染
者負担原則,民間部門を含む資金調達手段の探求など.
(2)水資源管理と便益の共有-統合的水資源管理及び水
効率化の計画を策定,水需要管理措置,水のリサイクルな
ど.
(3)安全な飲料水と衛生
(4)食料と農村開発のための水-コミュニティベースの開発
促進,参加型灌漑水管理,既存水利施設のリハビリと近代
化など.
(5)水質汚濁防止と生態系保全
(6)災害軽減と危機管理
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•「水は基本的な人権」
•→公正な水の扱いを求める運動(ウォーター・ジャスティス・
ムーブメント)
•国際河川での安全保障
•先住民の権利
•文化への配慮
二つの争点
•ダム建設の是非
•世界に約45000のダム(15m以上)
•世界の淡水魚の三分の一が絶滅あるいは絶滅の危機に.その最大の原因がダムや導
水路
•熱帯にある水力発電ダムは火力発電所より地球温暖化を促進
•官民連携(水の自由化/水道事業民営化)
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第4回世界水フォーラム
第5回世界水フォーラム
~地球規模の課題のための地域行動~
~水問題解決のための架け橋~
•期間:2006年3月16-22日
•場所:メキシコシティ
•構成:フォーラム(約150の分科会を含む),水関連展示
閣僚級国際会議,
水関連賞授与式(ハッサンⅡ世賞,京都水大賞)等
•参加者:140ヶ国19000人(日本から約300人)
•公式サイト:http://www.worldwaterforum4.org.mx/home/home.asp
•多くのNGOはフォーラムをボイコット.メキシコシティの中心市街で四万人規模のデ
モ集会を組織するともに,千人規模の独自の「水を守るためのフォーラム」を開催
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•期間:2009年3月16-22日
•場所:イスタンブール
•参加者:192ヶ国33000人
•公式サイト:http://www.worldwaterforum5.org/
第6回世界水フォーラム
~解決のとき~
•期間:2012年3月12-17日
•場所:マルセーユ
•参加者:173ヶ国34000人
•公式サイト:http://www.worldwaterforum6.org/
世界水フォーラムの提案する価格設定
⑤環境面における外部不経済を含んだ水供給に係るすべての費用を
負担することを何と呼ぶか?
全費用負担
FCP
(Full Cost Pricing)
総費用
環境面における外部不経済
「水資源の経済化」について
世界水フォーラムの主張
全経済費用
経済的外部不経済
「水は生命にとって欠くことのできないも
のでありながら,まったくコストがかから
ないが,ダイヤモンドは生命維持の役に
は立たないのに高い値段がついている」
アダム・スミス
世界水フォーラム
の提案する
価格設定
機会費用
全供給費用
運営・維持 資本費用
NGO,PSIの主張
奨励
反対
実行可能性?
手段
・資源に対する考え方
は地域により異なる
・完全なFCPは不可能
価格設定
全コスト回収
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利点
民営化
仮想水
問題点
・人々の認識を高める(節水)
・水資源管理が
より効率的に進む
不完全な価格設定
は弊害を生む
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「水関連事業の民営化」について
世界水フォーラムの主張
利点
世界水フォーラムの掲げる水資源管理を実施する利点と問題点
世界水フォーラムの主張
NGO,PSIの主張
水資源の経済化
問題点
競争原理が働く
情報公開,説明責任
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水資源管理の効率化
競争原理は働かない
(欧州企業による事業独占)
情報公開,説明責任
への疑問
NGO,PSIの主張
水資源の経済化
実行不可能
可能でも 弊害を生じる
その他の問題点
策定に偏りがある
競争原理が働いたとして
民営による
水資源管理
の効率化
公的機関の
体制の改善
価格の高騰
消費者への配慮の欠如
労働者の解雇
「水は金をめがけて低きから高きへと流れる」
世界水フォーラムの主張するようなよい面ばかりではない
完全なFCPが可能でない限り,時期尚早
少なくとも全ての国々に適応するとは言い切れない
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『水辺ぐらしの環境学』より
欧州と日本における「資源の利用と所有」
総有の網
琵琶湖周辺の「土地と水の所有」に関する考え方
明確な境界線
欧州
水田:私有
私有
公私の区別
明確な所有
公有
「総有」の網
日本
増水により水が溢れると・・・
私有:水田
水田→漁場:共有
水田
柔軟な所有の形態
重層的な利用
漁場:共有
境界線が薄れる
増水により水が溢れると
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欧州と日本の「資源の利用と所有の形態」の違い
日本において欧州的な水資源管理を実施することについて
農業を中心とした水資源管理
欧州
日本
農業を中心とした社会の崩壊
共有
公有
私有
公有
所有
利用可能
利点
私有
効率的な農業用水の再配分
利用
所有可能
実行可能性?
水資源を所有できるか
日本特有の資源に対する考え方が欧州で注目されている
資源の利用と所有の形態が
欧州
欧州的な水資源管理を単に受け入れるのではなく,
より日本に適した水資源管理を考えるべき
日本
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琵琶湖総合保全のための新たな流域ネットワーク
閣僚宣言
•政府により地方自治体及びコミュニティー
の権限強化が促進されるべきである.
•水管理においては,我々は,水政策におい
て貧困配慮及びジェンダーの視点に十分留
意し,便益の共有における衡平の確保に取
り組むことにより,家庭及び近隣コミュニ
ティーに根ざしたアプローチに一層強い焦
点を当てて,良いガバナンスを確保すべき
である.
• 効果的かつ衡平な水利用と管理を通じ,
また,必要な地域にかんがいを拡大しつつ、
我々は,近隣コミュニティーベースの開発を
促進する.これは,農村地域にて収入をも
たらす活動や機会をつくり,貧困撲滅に資
するべきものである.
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