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日本機械学会[No.147-1]北陸信越支部 第51期総会・講演会
講演論文集 [2014.3.8 富山県射水市]
0917
MSE 法を用いた超硬合金の表面強度評価
-摩耗粉解析による摩耗形態の考察Evaluation of the surface strength of WC-Co alloy by a MSE method
- Discussion on damage modes using wear debris analysis ○
山本
山下
康博(福井大院) 正 髙沢 拓也(福井大) 木幡 護(福井大) 正 岩井 善郎(福井大)
正人(京都マテリアルズ) 橋本 敏(京都マテリアルズ) 花木 宏修(京都マテリアルズ)
阿保 政義(兵庫県大)
Yasuhiro YAMAMOTO, Takuya TAKAZAWA, Mamoru KOHATA, Yoshiro IWAI,
University of Fukui, 3-9-1 Bunkyo, Fukui
Masato YAMASHITA, Satoshi HASHIMOTO, Koushu HANAKI,
Kyoto materials Co. Ltd., 1-39, Goryoohara, Nishikyo-ku, Kyoto
Masayoshi ABO, University of Hyogo, 2167, Shosha, Himeji, Hyogo
Key Words: Evaluation, WC-Co alloy, MSE, Damage mode, Wear debris
緒言
切削工具や金型は表面が数 µm 摩耗することで精度が著
しく低下するため,表面強度を高精度で評価する方法が求
められている.しかし,超硬合金は非常に硬いため,簡便
に表面強度を評価することが難しい.
本研究は,表面強度を加速試験で評価できる試験法とし
て著者らの研究室で開発した Micro Slurry-jet Erosion(以下,
MSE)法 ( 1) で,超硬合金表面のミクロな表面損傷の評価
を行うことを目的としている.本報では,WC 粒径と Co
含有率が異なる超硬合金について MSE 試験を行い,摩耗
粉を分析することで超硬合金の摩耗形態を考察した.
1.
2. 試験方法及び供試材料
2・
・ 1 MSE 試験装置及び試験方法
MSE 試験装置の概略を図 1 に示す.水槽内で固体粒子を
水に混在させた試験液(以下,スラリー)を撹拌しながら
給水口から吸い上げ,ノズル内で圧縮空気によって加速さ
せ,ノズル端から噴射し試料に衝突させる.ノズルの形状
は正方形(2×2 mm)で,ノズル端から試験片までの距離 S
を 10 mm,投射角度 α を 90°とした.エアー圧力 Pair=0.29
MPa,スラリー圧力 Pslu=0.21 MPa を標準とし,試験ごとに
校正用標準試料(Si ウェハ)を用いて微調整することで投
射の強さを一定にした.
スラリーは,室温に保った純水に平均粒径 41 µm の不定
形アルミナ粒子を濃度 c=0.3 mass%で含有させた.
Specimen Nozzle
α
Manometer (Pslu)
Air compressor
Flow meter
Manometer (Pair)
Pressure switch
SD
Flow meter
Slurry tank
(slurry
Table
concentration c )
Slurry
Air
Mixer
Return pump
Mix
Fig.1 Schematic view of the MSE tester
Tank
2・
・ 2 摩耗粉採集方法
投射後のスラリーを循環させずに回収し,孔径 8.0 µm の
メンブランフィルタでろ過することで投射粒子を除去した.
ろ過後のスラリーを孔径 0.1 µm のメンブランフィルタで
再度ろ過してメンブランパッチを作成し,白金蒸着後 SEM
で観察した.観察個数は長径が 0.5 µm 以上の摩耗粉を 50
個とした.
2・
・ 3 供試材料
供試材料は,WC 粒径と Co 含有率が異なる 10 種類の超
硬 合金を用 いた.い ずれの試 料も熱間 等圧加圧 法( Hot
Isostatic Pressing, HIP)によって製造されている.供試材料
の機械的性質を表 1 に示す.
Table 1 Mechanical properties of specimens
Specimen No.
A B C D E F G H I
J
Grain size d, µm
0.6
0.8
1.5
3.0
6.0
Co content, wt.%
6
9 14 19 9 17 9 20 9 22
Density, g/cm³
14.9 14.6 14.1 13.6 14.6 13.8 14.6 13.5 14.6 13.4
1520151013501160145011601250 970 1200 860
Hardness HV
Fracture toughness
13 14 16 17 15 18 17 25 21 28
Kc,MPam1/2
Young’s modulus
610 590 540 490 590 520 580 490 580 460
E,GPa
3.
実験結果と考察
3・
・ 1 MSE 試験結果
MSE 試験では,超硬合金に 2×2 mm の正方形状の摩耗こ
んが形成される.摩耗こんの中心部分を触針式二次元粗さ
計で計測し断面曲線を得た.一例として,WC 粒径 0.8 µm ,
Co 含有率 19 wt.%(表 1 の記号で D)の断面曲線を図 2 に
示す.粒子投射量(以下,投射量)の増加に伴い摩耗深さ
は深くなる.そこで,断面曲線をスムージングした曲線の
最大深さを読み取った.投射量に伴う各摩耗深さの変化を
図 3 に示す.摩耗深さは投射量に対し直線的に増加する.
この直線の傾きを最小二乗法で求め,摩耗率とした.
3・
・ 2 摩耗粉解析結果
平均粒径 41 µm の投射粒子を用いた MSE 試験後の摩耗
粉の性状は WC 粒径と Co 含有率によって大きく 2 種類に
分類される.本報ではそれぞれを TypeⅠ,TypeⅡとする.
5 µm
0g
0.8 g
1.6 g
2.4 g
3.2 g
Wear depth, µm
摩耗粉の SE 像を図 4(a),(b)に示す.TypeⅠは,外周形
状が複雑,一方 TypeⅡは外周形状が単調で滑らかな特徴を
有する摩耗粉である.外周形状の複雑さを表すパラメータ
である複雑度(図 5)を用いて定量的な解析を行った.複
雑度は以下の式から求められる.
Roundness=A’/A=L2/4πA
(1)
ここで,A:実面積,A’:円相当面積,L:実周囲長である.WC
粒径と 1/複雑度の関係を図 6 に示す.Co 含有率によらず
1/複雑度は,WC 粒径 0.6 µm(A),0.8 µm(B, C, D),1.5
µm(F, E)と WC 粒径 3.0 µm,Co 含有率 20 wt.%(H)の
場合では 0.4 付近となり,3.0 µm,9 wt.%(G)と 6.0 µm(I,
J)の場合では 0.6 付近となる.1/複雑度が最も近い試料 G
と F で平均値の差の検定を行ったところ有意差がみられた
ため,1/複雑度が 0.4 付近のものを TypeⅠ,0.6 付近のもの
を TypeⅡと定義した.
TypeⅠは表面が押込み変形することで WC 粒界(WC/WC,
WC/Co 相界面)のき裂進展,TypeⅡは WC の粒内破壊が生
じ,WC が脱落する (2) ことで発生したと考えられる.WC
粒径 0.8 µm で TypeⅠ,6.0 µm で TypeⅡの摩耗粉が多くみ
られることは,同一摩耗面の時系列観察結果から得られた
WC の脱落の様子とも一致する (2).
3・
・ 3 摩耗形態が摩耗率に及ぼす影響
WC 粒径及び Co 含有率と摩耗率の関係を図 7 に示す.摩
耗率は WC 粒径及び Co 含有率が大きくなるのに伴い増加
1 mm
Fig.2 Surface profiles of
specimens (No.D)
25 No.D (d=0.8 µm,
Co:19 wt.%)
20 WA#320
15
4. 結言
(1)平均粒径 41 µm の投射粒子を用いた MSE 試験後の摩耗
粉の性状は,WC 粒径が 3.0 µm を境界として外周形状が
複雑なもの(TypeⅠ)と単調で滑らかなもの(TypeⅡ)
に分類される.これは表面破壊と脱落の形態の違いによ
るものと考えられる.
(2)硬さが同程度でも TypeⅠが支配的な摩耗率は TypeⅡに
比べ大きい.
参考文献
α=90°
(1) Y.Iwai et al., Wear, 251(2001), 861.
(2) 山本康博,他,日本設計工学会北陸支部平成 25 年度
10
研究発表講演会論文集,(2013), 5.
5
0
する.これは粒界間の Co 相の厚みが増加する(3)ことで投射
粒子衝突時の押込み変形量が大きくなり,WC が脱落しや
すくなるためと考えられる.ビッカース硬さと摩耗率の関
係を図 8 に示す.大まかに見ると摩耗率は硬さが大きくな
るに伴い減少するが,硬さが同程度(D, F, I)でも摩耗率
が異なる場合がある. TypeⅠ(D, F)ではⅡ(I)に比べ
摩耗率が大きい. WC 粒内は WC 粒界に比べき裂の進展に
必要となるエネルギーが大きい (4)ため,表面の押込み変形
量が同程度の場合,TypeⅠは TypeⅡに比べ摩耗率が大きく
なったものと考えられる.
また,TypeⅠ間において Co 含有率 17~20 wt.%,WC 粒
径 0.8 µm,1.5 µm(D, F)と 3.0 µm(H)の硬さが異なる
にも関わらず,摩耗率は同程度となった. WC 粒径が小さ
くなると,WC 粒界にき裂が進展しやすくなるため,押込
み変形量が大きい Co 含有率 17~20 wt.%では,WC 粒径が
小さい試料でも摩耗率が大きくなると考えられる.
1
2
3
Mass of particles, g
4
Fig.3 Wear curve of WC-Co
(No.D)
(3) 宇佐美初彦,他,トライボロジスト,, Vol. 49 No. 7,
(2004), 547.
(4) 大槻悦夫,他,日本金属学会誌, Vol.44 No.2, (1980),
117.
(a) TypeⅠ
(b) TypeⅡ
Fig.4 SE images of wear debris
Fig.5 Parameter of particle shape
1/Roundness
0.8
WA#320
α=90°
0.6
G
B
0.4
A
C
0.2
0
WA#320
α=90°
D
F
E
I
J
H
Co:9 wt.%
Co:17~22 wt.%
Co:6 wt.%
Co:14 wt.%
2
4
6
8
Grain size of WC, µm
Fig.6 Relationship between grain size and 1/Roundness
Wear rate, µm/g
1
Fig.7 Relationship among grain size of WC, Co content and
wear rate
8
4
D
F
H
6
TypeⅠ
TypeⅡ
I
2
0
500
1000
1500
2000
Hardness HV
Fig.8 Relationship between hardness and wear rate