従来の波長領域とは異なる 光エネルギーが吸収可能な バクテリオクロロフィル 久留米大学 医学部 医化学講座 講師 原田 二朗 教授 野口 正人 (現帝京大学教授) 立命館大学大学院 生命科学研究科 教授 民秋 均 1 本新技術の着想背景 緑色イオウ細菌がもつ光捕集アンテナ系クロロ ソームは、光合成生物の中で最も光エネルギー 吸収効率が高く、簡便に生物体から抽出するこ とが可能である。 本新技術は、これを利用した ①クリーンなエネルギー獲得技術としての応用 ②光増感剤として医療分野への応用 が期待される。 2 背景1:緑色硫黄細菌が形成する巨大なアンテナ系クロロソーム h BChl: バクテリオクロロフィル O O N N Mg N N Mg N N N O H X クロロソーム O H X N O N N Mg N N X BChl c, d, e の 色素の自己会合体 (色素分子: 1.4~2.1 x O N N O N N Mg N N N O H O H O N X X O H Mg N N Mg X 105) N N O N N Mg N N X O H O H ベースプレートタンパク(CsmA) Cytoplasm 反応中心 n 緑色硫黄細菌の細胞 FMO Periplasm BChl a 緑色硫黄細菌の光合成器官の模式図 ※緑色硫黄細菌はチャンピオン級の光エネルギー吸収システム、クロロソームをもつ!! 3 背景2:クロロソームの応用への期待 クロロソーム内の色素分子種 (1.4~2.1 x 105/クロロソーム) 緑色光合成細菌の細胞 脂質一重膜 クロロソーム N N N Mg O H O H X O N N Mg OH R1 N N BChl c Mg 750 nm 植物(ほうれん草) の 約 10 倍 量 の 色 素が抽出可能 N N Mg N N X N 1 N N R2 O O 最長吸収波長 (Qy帯) 3 O N O N N Mg N N N N Mg N N O H X N O H X O H X O N N 色素の自己会合体 Mg O N N O O farnesyl 3 1 O H O H OH R1 N N Mg N N X X O N 735 nm N BChl d Mg N N R2 再構成 O N Mg N O 分解 O N O farnesyl 3 1 OH O H N O OH X N N N N X Mg R1 N N OH X O Mg N N 720 nm N BChl e Mg N N N OH 細胞から簡便に単離でき、分解 と再構成を繰り返し行える。 R2 O O O farnesyl 4 従来技術とその問題点 応用価値の高いクロロソームの研究において、細菌を用いた分子 生物学的手法は有効である。 しかし、これまでに緑色イオウ細菌において、遺伝子改変法が安 定して行える菌種が乏しく、クロロソームの分子生物学的研究によ る知見が乏しかった。 これまでの緑色イオウ細菌を用いた エネルギーまたは医療分野への応用には限界があった。 問題点 ①クリーンなエネルギー獲得技術としての応用 ⇒従来の緑色イオウ細菌では、光エネルギーの吸収帯に限りがあり、 太陽光利用の最も適した波長の吸収効率が悪い。 ②光増感剤として医療分野への応用 ⇒従来の緑色イオウ細菌由来の色素化合物の利用を検討した場合、 多段階の修飾反応により、水溶性を持たせる必要があり煩雑である。 5 従来の緑色イオウ細菌の利用の問題点 ① BChl cを持つ緑色 イオウ細菌でのみ遺 伝子改変法が可能。 700 nm付近の太陽光 の吸収が理想。 3 1 OH R1 N N 深い BChl c Mg N 水生圏内での 生息深度 N R2 O O O farnesyl 3 1 750 nm OH R1 N N BChl d Mg ② 脂溶性であるため 血中に溶けず、光増 感剤として利用するた めには煩雑な修飾反 応を必要とする。 N N R2 O O 735 nm O farnesyl 3 1 OH O H R1 N N BChl e Mg N N 光エネルギー吸収 効率の高いBChl e を利用したい。 R2 O O O farnesyl 720 nm もっと深い 6 新技術の特徴・従来技術との比較 • 本技術では、緑色イオウ細菌で新たに形質転換が可能となった Chlorobaculum limnaeum RK-j-1株を単離した。 • これまではクロロソーム内色素としてバクテリオクロロフィル(BChl) cをもつ細菌のみ形質転換が可能であったが、本株はそれよりも 効率の高いBChl eをもち、その遺伝子改変による研究が可能と なった。 本技術による緑色イオウ細菌を用いることで エネルギーまたは医療分野への応用が可能である!! ①クリーンなエネルギー獲得技術としての応用 ⇒遺伝子改変によって、太陽光利用の最も適した波長(700 nm)に吸収帯 を持つBChl f (705 nm)を合成する変異体が作製できた。 ②光増感剤として医療分野への応用 ⇒遺伝子欠損体が、水溶性の色素を合成することを見出した。 7 緑色硫黄細菌Chlorobaculum (C.) limnaeum の遺伝子改変法の開発 C. limnaeum 1549株の継代培養 ↓ コロニーの単離 ↓ 遺伝子改変法の検討 ・自然形質転換法 ・大腸菌を用いた接合遺伝子導入法 ※凍結保存ができない ため、液体培養にて菌 株を保持 約8年… 遺伝子改変法の適応が可能なRK-j-1株を単離 ・従来の株よりも生育が早い ・従来の株よりも多くのコロニーを形成する ・凍結保存が可能 → このRK-j-1株を用いて bchU遺伝子欠損株の 作製を試みた。 8 緑色硫黄細菌C. limnaeumのbchU遺伝子欠損株の作製 C. limnaeumのgenome上のbchU遺伝子 PCRによる遺伝子破壊の確認 (アガロースゲル電気泳動) M aacC1 bchU genome (kbp) 500 bp 3.47 2.69 1 2 M: Marker Lane1: wild type Lane2: bchU mutant 1.88 1.49 0.93 → bchU遺伝子の欠損が確認された 9 C. limnaeumのbchU遺伝子欠損株 3 1 OH O H R1 N CH 3 N wild type Mg N N bchU mutant R2 O O O farne syl BChl e BChl f 10 bchU遺伝子欠損株が形成するクロロソーム 抽出色素の可視吸収スペクトル測定 (monomer in EtO2) 449.6 bchU 欠損株の細胞の吸収スペクトル測定 wild type 458.4 bchU mutant 450.2 633.2 508.2 645.8 719.0 523.8 704.8 M. Chen and R. E. Blankenship, Trends Plant Sci., 16: 427-431. ※太陽光でフォトン(光子量)が最も多 e from wild type いのは700BChl nm付近であり、BChl f-ク BChl f from bchU mutant ロロソームの吸収ピークと重なる。 wild type bchU mutant 804.2 11 想定される用途 ① クリーンなエネルギー獲得技術 多様な色素をもつクロロソームを用いた人工アンテ ナ系デバイスの開発など。 ② 光増感剤として医療分野への応用 癌治療における光増感剤としての開発や癌のマー カーとしての利用など。 ③ 新規色素材料の提供 12 ①クリーンなエネルギー獲得技術への応用 Light O O N N Zn N N N N O H O H R N Zn N O NH O N N O HN Bacteriochlorin N O H R O H N O Energy N N N N Zn R migration N N R N N R N O Zn O O O N O N Zn N N Zn N O O H N Zn N N N O H R O H Energy transfer R = CH CH CO Me O 2 2 2 13 クロロソームを用いた色素増感太陽電池の開発 単離クロロソーム O O N N Mg N N N O H O H X N N X Mg N N ベースプレートタンパク: CsmA • クロロソームの基底部を構成 • BChl aを結合 • 自己会合体色素のエネルギー 電子伝達受容体 N N X N O Mg O O N N Mg N N BChl c, d, e, f の 色素の自己会合体 O H X O H X O H N N Mg N N O N N X Mg N N O N N Mg N N X O H O H ベースプレートタンパク (CsmA) BChl a CsmAの構造 HisタグつきCsmA発現型変異体を作製 • クロロソームの単離の簡便化 • 板金上への固定化・組織化 HisHisHisHisHisHis 14 クロロソームを用いた色素増感太陽電池の開発 光 クロロソーム カソード 電流 HH HH HH HH HH HH HH HH HH HH HH HH Ni Ni Ni Hisx6-CsmA Ni Ni-NTA 電子 Au電極 15 ②光増感剤として医療分野への応用 光線力学療法(PDT: Photodynamic Therapy)の光感受性物質の開発 PDTとは、生体内に光感受性物質(増感剤、主にポルフィリン関連化 合物)を投与し、標的となる生体組織(癌細胞)に集積させた後に、特 定の波長のレーザー光を照射することにより、レーザー光と光感受性 物質の光化学反応で生じる活性酸素によって、標的細胞を死に至らし める治療である。肺癌、食道癌、胃癌、子宮頚癌、表在性上皮皮膚悪 性腫瘍の治療に実用化されている。 タラポルフィリンナトリウム (レザフィリン) 合成: 植物から抽出され数段階の反応 過程により水溶性を持たせている。 16 ②光増感剤として医療分野への応用 本新技術により作製し た変異体は、生育過程 において水溶性の色素 を合成し、細胞外(培地 中)に放出する。 遠心 エーテル層 水層 BChl d 17 実用化に向けた課題 ① クリーンなエネルギー獲得技術 多様な色素をもつクロロソームを用いた人工 アンテナ系デバイスの開発。 ☆板金上での固定化等、実用化に向けた実験はこれから。 ② 光増感剤として医療分野への応用 癌治療における光増感剤としての開発および 癌のマーカーとしての利用。 ☆動物実験を今後行っていく必要がある。 18 企業への期待 • 太陽電池などのシステムの確立や電気、光セ ンサーを用いた末端製品化に向けた共同開 発を希望。 • 医療分野において、色素関係のマーカー、バ イオイメージングやライフサイエンス診断キッ ト等を開発している企業との共同研究を希望。 • また、新規色素材料を開発中の企業、生物を 用いたエネルギー分野や医療分野への展開 を考えている企業には、本技術の導入が有効 と思われる。 19 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称:緑色硫黄細菌変異体およびバクテリオクロロ フィル • 出願番号:特願2012-028919, PCT出願2013-53295, 国際公開WO2013/122064 • 出願人:久留米大学、立命館大学 • 発明者:原田二朗、野口正人、民秋 均 • 発明の名称:緑色硫黄細菌変異株及びそれを用いたバクテ リオクロロフィルc同族体の製造方法 • 出願番号:特願2012-260321 • 出願人:久留米大学、立命館大学 • 発明者:原田二朗、野口正人、民秋 均 20 問い合わせ先 久留米大学 産学官連携戦略本部 担当者:井上 薫、松尾 綾、日下 千賀子 TEL 0942 - 31 - 7916 FAX 0942 - 31 - 7918 e-mail chikan@kurume-u.ac.jp 21
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